連邦軍オデッサ基地。
それは、ジーンコリニーの縄張りであった。
地球上の殆どを縄張りとするゴップ閥に対してゴップ子飼いの部下であるエルラン中将がジオンに内通していたという負い目があるこのオデッサは数少ないゴップ閥が手を出しづらい拠点であった。
オデッサ基地はあまりにも巨大であった。その広大すぎる範囲に対して防衛部隊は圧倒的に足りていなかった。オデッサ基地は中央の基地本部要塞を中心に各地方基地や防塁郡、トーチカ郡、部隊駐屯地、警戒拠点、鉱山防衛拠点、運送基地、宇宙港、運送港、各工廠等が連携を取り合うという、基地と言うにはあまりにも巨大すぎるいうならば、地域要塞というべき拠点であった。その為、いくらジーンコリニーの縄張りとは言えどもその他の派閥が入り込む余地も十分以上にあった。
オデッサ基地、第19警戒基地。
オデッサの端にある砂塵にまみれた小さな基地には一隻分のドックが建設されていた。
このドックに停泊しているホワイトベース級強襲揚陸艦n番艦「ファントムクォーツ」は一年戦争へ出遅れた艦であった。
建造は戦時中に完了したものの、宇宙に上がる前に終戦を迎えたのだった。その為、ホワイトベース級強襲揚陸艦が持つ単艦独立作戦遂行能力を買われてn番艦つまり、艦籍のない艦として秘密作戦に従事する艦としてジーンコリニーに確保されたのだった。
しかし、中身は決して精鋭部隊とは言えないものだった。
「バーデン少佐殿!」
「甘いな!クチイ少尉!」
第19警戒基地郊外でMSによる模擬戦闘が行われていた。
ファントムクォーツ隊に配属されている黒色に塗装されているジムコマンドG型二機が模擬刀を使って切り合っていた。しかし、バーデン少佐の乗る頭部の一部が金色に塗装され盾に蜷局を巻いた蛇のデカールがある機体がもう一方の機体を押し込んでいるように見える。
「クチイ少尉!甘いな!」
そういうと、バーデン機がクチイ機の持つ模擬刀を叩き落とした。
「まだまだ!」
クチイ機は模擬刀を持っていないもう片方の手でバーデン機の頭を殴り付けた。空には機体の装甲の一部が剥離し飛び散った。
「やった!」
「だから甘いと言うのだ!クチイ!」
ジュン・クチイという新米少尉が喜ぶ間も与えずに歴戦のローデック・バーデン少佐の機体は後ろにややのけ反った機体を背部ブースターで起き上がらせ、そのままタックルをかました。
二機とも乾いた地面に倒れこんだ。
2人の軍人がこれから第二ラウンドだと確信したほんの数秒後に通信が鳴り響く。
「バーデン少佐、クチイ少尉。訓練に励むのもよいが、ほどほどにな。作戦会議がある。ファントムクォーツまで来てくれ。以上だ。」
通信の主は艦長兼ファントムクォーツ隊司令のグランド大佐だった。今年で50を迎える老練な男であった。
「クチイ。残念だが帰投するぞ!」
「はい、少佐殿。」
ファントムクォーツ艦橋。
真っ黒に塗装されたファントムクォーツの艦橋で作戦会議と言う名の通達が始まった。
艦橋には艦の主要な将校が集まっていた。
「我々の長かった待機も今日を持って終わる。」
グランド大佐が話し始める。
ファントムクォーツ隊は結集されてから一週間以上待機を命じられていた。正直、多くの隊員は嫌気が差していた。
「ア・バオア・クー戦で我が軍は勝ったわけだが、その最中、陥落間際にジオンはザビ家の遺伝子を持って脱出した。しかし、未だにジオン残党にこの情報は共有されていない!共有されればジオンと連邦の闘争に終わりは来ない!我々はこの戦いに楔を打ち込む。そのためにもこの、ロゴスと呼ばれる遺伝子を持つジオン残党を叩く!それが、今回の任務だ!」
特務部隊の初陣に相応しい大舞台であることを全員が認識した。
「そこで例の新型機も今日中には配属されることになった!敵は資源惑星018に潜伏中とのことだ!我々は明日から作戦を開始し先ずはアフリカのアスワン基地を目指す。」
将校たちは驚き、目を丸くした。
「艦長。アスワンは最前線です!ジオン残党の目と鼻の先ではないですか!」
戦務参謀のミケーネ大尉は声を上げる。
アスワンはナイル川中部に位置する基地であった。そして、アフリカは未だにジオン残党の勢力下にその大部分が含まれていた。
「オデッサは打ち上げ能力を喪失している。ここからでは無理だよ。大尉。」
マ・クベ大佐は行き掛けの駄賃がてらにオデッサ基地の宇宙への打ち上げ能力を、つまり、打ち上げドックを一切合切破壊していったのだ。
「では、ハリコフやバイコヌールがあるではないですか!」
ミケーネ大尉は納得しなかった、確かにオデッサには打ち上げ能力はないがアスワン基地よりも遥かに安全で近くに他の打ち上げ能力がある基地が存在していたからだ。
「大尉。それゴップ閣下の許可をとったのかね?」
ミケーネ大尉は黙り込んだ。
ハリコフ基地もバイコヌール基地もどちらもゴップ閥の縄張りであったからだ。形上でもジーンコリニー閥に属するファントムクォーツ隊が易々と使える場所ではなかった。
「しかし、それではこの艦が危険にさらされることになります。」
クチイ少尉は譲らなかった。
「これは、任務だ!贅沢は言えないよ少尉。」
「しかし…」
「わかりましたグランド隊長。MS隊は私にお任せを。」
バーデン少佐が話に割って入った。
「わかった。バーデン少佐。MSについては君に一任しよう。以上で会議は終了する。詳細については追って連絡する。以上。解散。」
会議はそうしてあっさりと終了した。
ファントムクォーツ左舷格納庫。
深夜になってやっと搬入された新型機をバーデンとクチイは見に行っていた。
その詳細についてはバーデン少佐もクチイ少尉も聞かされていない。
「少佐殿。これが例の新型機ですか。」
「ああ、ようだな。」
バーデンもクチイも少し困惑していた。
両名とも事前の説明で新型機の名前はジムコマンドverα-10と聞いていた。しかし、目の前にある新型機は何処からどう見てもジムには見えなかった。
「しかし、少佐。頭がどう見ても。」
クチイは違和感を口にした。
ジムタイプ独特のゴーグル型の頭部ではないからだ。
2つの目、二本の角。これは噂に聞く「ガンダム」の特徴そのものであった。
違いを言うのであれば色が白ではなく黒であると言う点である。また、全体的に流線的構造を採用しているようである点も噂とは違っていた。
「こんにちは、アナハイムエレクトロニクス社のロックスと申します。どうも。」
スーツ姿の男が話しかけてきた。
男はあの大企業アナハイムエレクトロニクス社の人間だった。
「どうも。MS隊隊長のバーデンだ。こいつはクチイだ。」
バーデンは適当な挨拶をした。
正直、バーデンはスーツと言うものを好きにはなれなかった。
「これはどうも。で、どちらがジムコマンドverα-10に乗るのですかな?」
ロックスは単刀直入に本題に入った。
世間話がないと言うところはバーデンも少しは好きになれる部分だった。
ロックスは正に研究者ぜんとした男であった。
「クチイ詳細についてはのつもりです。」
「え?」
クチイにとっては初耳だった。新型機はてっきりバーデンが乗るものだと思っていたからだ。
「クチイ俺はお前に任せようと思う。やってくれるか?」
バーデンはクチイに了解を取ろうとする。
これまでに幾つも重ねてきた模擬戦闘とクチイの実践記録を元に自身よりクチイの方が新型機に向いていると本気でバーデンは思っていた。自分用にカスタマイズしたジムコマンドと死ぬまで共に戦う気でいた、と言うのも正直なところあったが。
「はい。」
クチイは少しの沈黙の後に了承した。
クチイは自身の技量がバーデンに遠く及んでいないことに当然、気付いていた。
しかし、それを自身よりも知っているバーデンが自分に奨めると言うことはどこか、認められたようで嬉しかった。そして、漢としてやらないという選択肢はないとクチイはおもった。
「そうですか!きみがねー。うむ、頼もしい。こいつは、まぁ、君たちも気付いていると思うけどガンダムだよ。」
ロックスはぶっちゃけた。
ここまで来て隠す気はない。といったところだろう。
「書類上はジムの派生のひとつだよ。しかしね、中身はガンダムそのものだよ。君たちも不思議だろう?なんでジムだと偽るのかってね。」
「ええ、それは。」
「それはね。私がジオンの技術者だからだよ。私はジオン出身なんだ。まぁ、終戦後にアナハイムエレクトロニクスに拾われたわけだよ。そんな私がガンダムをつくれるほどまだ世間は優しくないんだよ。それに、君達の部隊は隠密部隊なわけだ。ガンダムなんて持ち歩いていたら目立って仕方ない。書類上ジムとしておく方が都合が良いと言うのもあるがね。」
ロックスはジオンの技術者だった。
そして、このジムと言う名のガンダムの産みの親であった。
このガンダムは戦中から作られていたガンダムをジオン系の技術を持ってカスタムした機体だった。
終戦からたった数週間でこの機体をカスタマイズできたのはジーンコリニーの助力があってこそだった。ジーンコリニーそしてジャミトフはジオン系技術者を手にいれようとしていた。その第一歩としてロックスを配下に入れようとした。その中で信用の証拠としてガンダム開発にロックスを顧問として参加させたのだった。もとから、型式番号なしで秘匿兵器として使う予定であったと言うことも好都合であったわけだ。
しかし、実質そのほとんどは連邦系の技術者が作っていたものにロックスが少し手を加えただけで、ジオン色が出ているかと問われれば、全く無しと言わざる負えなかった。
「私もこの艦に同乗させてもらう。特別メカニックだと思ってくれ。」
ロックスはガンダムのデータ面を任されたのだった。
外見上のジオン色はないが、ロックスは数週間でガンダムのデータを基礎データを元にしたとはいえ、組んで見せたのであった。
しかし、所詮は数週間の代物。前線で戦えば無理が出るに決まっていたのだった。
正直、クチイの身からしたら迷惑な話でしかなかった。
「わかりました。よろしくお願いします。」
クチイは口だけの感謝を述べた。
翌日、他派閥の嫌がらせを受けながらもファントムクォーツは無事にオデッサを出発した。