ガンダム―ザビ家の落とし子。―   作:大関極

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誰が最新鋭部隊に悪意を持つだろうか。―前編―

オデッサ出発から一週間後。

ファントムクォーツはアスワン基地に到着していた。

途中の中継基地でゴップ閥の軍人から嫌がらせを受け大幅に到着が遅れていた。

 

「グランド艦長どう言うことですか!」

 

バーデンは艦橋でグランドに詰め寄る。

 

「何度も言うが、我々は赤道直下、キスマーヨ基地に移動し、そこで打ち上げを行う。」

 

キスマーヨ基地は東アフリカにありインド洋に面する基地であった。

 

「何故、敵のど真ん中の基地にまでいかなければならいのか!そう言っているんです。」

 

そして、キスマーヨ基地は東アフリカに展開するジオン残党軍に取り囲まれていた。正しくは連邦軍のアフリカ反抗の足掛かりとして占領された基地だった。その為敵に突き刺したナイフのような基地であった。キスマーヨ基地を中心に半径200キロほどの占領地があるが、それは実質的に最前線だといえることだった。

キスマーヨ基地は赤道直下という地理的理由も相まって打ち上げドックが整備されていた。

 

「これは命令なのだ。バーデン少佐!」

 

グランドも決して悔しくない訳ではない。しかし、これは命令であった。

連邦アフリカ方面軍の司令官はゴップ派の人間である。これは明らかな嫌がらせであった。しかし、これ以上の盥回しは嫌がらせ以上の意味をもつ。この辺が潮時であり、キスマーヨ基地まで行けば打ち上げは行われるだろうというのがグランドの予想だった。

 

「次は打ち上げられる。私はそう思っている。次まで我慢してくれ。バーデン少佐。」

「くっ、わかりました。艦長。」

 

そう言うとバーデンはクチイと共に艦橋を出た。

 

「少佐殿。何故今回このような移動が行われることになったのですかね。」

 

クチイはバーデンにそう話しかけた。

 

「少尉。連邦軍には幾つかの派閥があるのは知ってるな?戦時中こそある程度は協調していたその派閥だが、終戦とレビル将軍の戦死でたがが外れたわけだ。ゴップ将軍閥の人間は俺たちに嫌がらせをしないと気がすまんのだろうよ。」

 

「しかし、ジオン残党はどうなるんですか?」

 

「土竜どもからしたら格好の政争の具なんだろうよ。少尉。ヒーローが何故ヒーローでいられるかわかるか?」

 

「いえ。」

 

「悪役がいてくれるからだよ。」

 

クチイ少尉はそう話すバーデン少佐の横顔をじっと見ていた。そこには一抹の悲しさと不甲斐なさがあるように感じられた。

 

 

 

 

一方、艦橋では楽しくはない会話が繰り広げられていた。

 

「グランド君。きみのファントムクォーツ隊だかなんだかは明日には出港してくれよ。」

 

基地司令のシマダイ少将は爪を磨ぎながら目も会わさずに話した。

 

「わかりました。十分な補給を頂けるのですね?」

 

ファントムクォーツは事務上の問題で十分な補給を受けていなかった。勿論、事務上の問題というのは嫌がらせである。

 

「あぁ、その件だがね。私の基地も私の旅団も補給不足でな、それは無理だ。キスマーヨ基地で補給を受けてくれたまえよ。」

 

北アフリカ方面軍の物資供給拠点のひとつであるキスマーヨ基地に物資が不足しているはずがなかった。

 

「我が隊用の物資があるはずです。」

 

そのくらい手は回されている。

 

「大佐。君も頭が悪い。書類上存在しない部隊の補給が書類上存在するわけないだろう?ん?そういうか訳だ。明日の午前1時には出てくれよ?あと、2時間か?これは大変だなグランド君。急いで準備してくれたまえよ。書類上ない部隊だ。実際いなくても問題なかろう?!この意味はわかるなグランド大佐。」

 

シマダイ少将は2時間後に出港しなければ武力行使、この場合は身柄の拘束も辞さないことを暗に伝えてきた。これは明らかなブラフであり、実際行うはずはない。しかし、かといって2時間以上の駐留はリスクが高すぎる。それがグランド大佐の考えだった。

 

「隊員を艦に集めろ。出港準備。」

 

そう考えたグランドはそう命令を出した。

 

ファントムクォーツ隊の隊員は殺意すらも抱きながら準備を進めていた。

 

「ヤコフ、どうだい調子は。」

 

クチイは同期で仲の良いヤコフという少尉に話しかけた。彼もモビルスーツのパイロットである。よくクチイと共にモビルスーツをいじっていた。

 

「そこそこだよ。しかし、いいよなーお前はガンダムで。俺なんてコマンドだぜ?どうだ?やっぱり違うか?」

 

「そりゃもう。出力からなにから全部違うよ。でも、なんか、違和感はあるかなー。」

 

「んー、そんなもんか。」

 

「あぁ、新型だからな。また調整してるよ。」

 

クチイの指差す先で例の技術屋ロックスは他の技術員と話ながら何やらコックピットをいじくり回していた。

 

「あんなジオン野郎にまかせて良いのか?」

 

ヤコフはジオンが嫌いであった。

 

「技術屋はどこでも技術屋だよ。ヤコフ。」

 

クチイはその辺は割りきっていた。

技術屋はモビルスーツさえ弄れれば何処でも構わない用な奴だとおもっている。

 

「クチイ君!いや、丁度良い!地上反応はこれで随分上がったと思うよ!」

 

「ええ、クチイ少尉。私もそう思います。」

 

ロックスの隣にたつ赤髪の美女がそれに同意する。

彼女の名前はナディヤ、ロックスと同じく元ジオンの技術者であった。

 

「わかりました!今行きます!」

 

クチイはそう叫んだ。

ヤコフはクチイに

 

「クチイ!そう言うところが羨ましい!」

 

と小さく言った。

ファントムクォーツの中でナディヤは憧れの的だった。

 

「いやですが、ここは…。」

 

コクピットでロックスとナディヤと顔を付き合わせてモビルスーツのセッティングについてクチイが話しているのをヤコフはさらに増した殺意と微笑ましさを抱きながら遠目に見ていた。

 

 

 

「ダンシ中尉殿。」

 

モビルスーツのコクピットの中でモニターを眺めながら男は上官に話しかける。

男はジオン軍服に身を包んでいる。

 

「あぁ、そろそろだな。セリウス閣下に良いチャンスを頂いた。我ら北アフリカ方面軍所属ダンシ隊の底力見せるときだな。各員準備は良いか?」

 

そうダンシという名の中尉が問いかけると

 

「は!」

 

という声が幾つもコクピットに轟いた。

 

「良し。しかし、コーンの言う通り簡単に近づけたな。」

 

「ええ、中尉殿。この基地の司令に賄賂と秘密休戦の要請を送ったらあっさり承諾しましたよ。警戒の手間が省けて良いそうです。」

 

シマダイ少将はジオン残党から賄賂を受け取り、互いに攻撃し合わないという契約を結んでいた。これは明らかな軍規違反だが警戒の手間が省け私腹を肥やせるため、シマダイは喜んで了承した。

 

「そうか。我らはここまで腐った連中に負けたのか…。いや、まだ負けてはいない!ジオンの恐怖、思い出させてくれよう!午前0時!ダンシ隊、状況を開始せよ!!」

 

「了解!」

 

 

アスワン基地は川沿いにあった。

故に補給の拠点として重宝されていたわけである。

しかし、シマダイ少将の怠慢と内通、そして人員不足も相まってその警戒はザルであった。

 

クチイとナディヤ、ロックスが顔を付き合わせて始めて数分後、基地に警報が鳴り響いた。

そして、放送が流れた。

 

「総員、戦闘準備!繰り返す。総員、戦闘準備!」

 

「何事だ?」

 

ロックスは声を上げだ。

皆、同じ思いだった。

放送は続いた。

 

「アスワン基地はジオン残党の襲撃を受けている。総員。各自、防衛戦を展開せよ!」

 

「どうする!」

 

駆け寄ってきたヤコフがたったガンダムの足下から叫びかけてきた。

 

「わからん!取り敢えず艦橋にいくぞ!」

 

「あぁ。いこう!」

 

そうして、二人は艦橋に向かった。

 

 

「グランド君!敵襲だ!君の所のモビルスーツを早くだしたまえ!早く!」

 

二人が艦橋に着いたとき、艦橋ではシマダイ少将が大声でグランド艦長に命令を出していた。

 

シマダイ少将は焦っていた。

 

「わかりました。」

 

「早くしたまえよ!」

 

そう言うとシマダイ少将は通信を切った。

 

「艦長!やる必要がありますか!」

 

バーデンは不服だった。あそこまで嫌がらせをされ、いざ敵襲となると防衛戦に駆り出される。そんなことは腹立たしかった。

 

「ガンダムを出せ。あと、陸戦隊も出動。」

 

「艦長!」

 

バーデンはあからさまに怒りを出した。

 

「少佐。こうは思わんかね?敵襲だぞ?最も守るべきはなんだ?少将閣下は先程、物資不足を嘆いておられた。つまり、我々が守って差し上げなければならない。つまりだ、陸戦隊はすぐさま倉庫に直行!物資を確保し本艦に持ち帰る。そして、本艦は残念ながら命令通り午前一時には戦闘を離脱しキスマーヨ基地に向かう。」

 

「艦長!」

 

バーデンは感動していた。

 

「少尉、ガンダムは訓練がてらだ。適当に弾を試射して帰ってきたまえ。残りは一時間だ。総員行動開始!」

 

「は!」

 

こうして、ファントムクォーツ隊も密かに行動を開始した。

 

「ガンダム、出ます。」

 

ファントムクォーツの左舷格納庫のハッチが開きガンダムがカタパルトで射出された。射出といっても低出力で行ったため、殆ど飛んではいなかった。

続いてヤコフとバーデンのジムコマンドも出た。

 

三機はバーデンのジムコマンドを中心に隊列を組み、遠くで赤く燃える戦場に向かった。

 

一方その頃、戦場ではジオン残党による虐殺ショーが繰り広げられていた。

 

最初に攻撃を開始したのはドム2機、ザク4機の計六機のダンシ隊、本隊だった。

それに対してアスワン基地にはシマダイ少将指揮下の独立混成第44旅団所属のモビルスーツが30機以上配属されていた。

しかし、その殆どは素人、新兵のMSであった。

戦後にMS隊所属になった連邦兵と戦前からMSに乗るジオン兵のどちらがMS戦闘に慣れているかは言うまでもない。

停止射撃を行うジム後期生産型の弾が流動回避運動を行うドムや的確な防御と回避を行うザクを撃破できるわけもなく、ドムとザクの攻撃でジムは次々と撃破されていった。

 

「この程度とは、生ぬるい。コーン!このまま進む。」

 

指揮官専用ザクにのるダンシ中尉はドム隊を指揮するコーン曹長に指示を出す。

 

「はっ、ドム隊は左から突くぞ!にしても当たらん弾だな。こいつら素人ですな?」

 

「のようだなコーン。まぁ、丁度良い!程度よくあしらってやれ。」

 

一方、基地守備隊は

 

「あっ、あたんねーよ。どうなってる。くそ、セン少尉がやられた!くそ!くそ!」

 

「全員落ち着くんだ!弾幕を張るんだ!敵を近づけさせるな!」

 

大混乱の中であった。

 

「モビルスーツ隊を前面に出すんだ!戦車もだせ!司令部を守れ!敵は少数だ数で叩き潰せ!」

 

シマダイ少将の指揮も同じく混乱していた。

 

その見当違いの指揮も相まって基地までの長い荒地を抜け、ダンシ隊は基地施設にたどり着いた。

 

「被害は0です。中尉。」

 

「のようだな。弾切れか。」

 

ダンシのザクは持っていたバズーカを捨てるとヒートホークを腰から取り、左手にはシュツルムフォーストを握った。

 

その他のジオンMSたちも堂々と基地施設の連なる市街地のような場所に侵入した。MSより高い建物は一つもなかった。

 

「よし、司令部を落とすぞ!前進!」

 

そうダンシが叫んだ時、遠くからのビームがダンシの隣のザクを吹き飛ばした。

 

「ん?ビーム兵器?スナイパーか?全機散れ。」

 

ダンシは動きを止めることなくビームの発射元を見た。

遠くにうっすらとモビルスーツが見えた。

すると、カーンが

 

「細身2。二本角1!」

 

と叫んだ。細身とはジムコマンドのあだ名だった。

二本角とはガンダムのあだ名だった。しかしそのガンダムとは陸戦型ガンダムであった。

 

「カーン。二本角はビームなんぞ使えたか?」

 

ダンシの知る限り、二本角は実弾兵器を使っていた。

陸戦型ガンダムにはビームライフル装備が確かにあったが、生産数不足により、アフリカ方面の陸戦型には配備が殆どされていなかった。

 

「私の記憶の限りではないですね。」

 

「そうか、私は新手を小突く!カーンは残りで敵司令部を叩け!」

 

「は!御武運を!」

 

ダンシは一機で新手三機を相手するといった。

しかし、ダンシ隊の誰も彼を止めなかった。

それは、新手を嘗めていたわけでもダンシに呆れていたわけでもない。どれ程の強者であろうとダンシに勝てるはずがないと確信していたからだ。

 

クチイはザクを一機破壊した。

 

「どうですか、ナディヤさん。」

 

「ええ。良いデータがとれたわ。」

 

「それはよかった。ロックスさんは?」

 

「格納庫よ。今、システムを組んでるわ。」

 

クチイ達は実戦実験のつもりでいた。

数発ビームを撃てば退くつもりでいたわけだ。

しかし、燃え上がる基地をバックに一機の指揮官用ザクが向かってきた。

 

「角付き一機。あいつ、一機でやる気か?」

 

ヤコフがそういった。

1対3である。

 

「バーデン少佐。この際です。ビームサーベルも試験します。」

 

クチイにとっては飛んで火に入る夏の虫であった。いくら角付きであってもガンダムを手にし、バーデンにも認められた実力をもつ自分が負けるはずがないとクチイは思っていた。

 

「クチイ、気を付けろ。」

 

「大丈夫です。少佐殿。」

 

角付きはシュツルムフォーストを発射した。

クチイは咄嗟に盾で防御した。盾は焦げ跡こそ付いたものの形の変形はなかった。

しかし、視線を盾で遮った一瞬はあまりにも大きな隙であった。

 

「カーン!あれは新型だ!」

 

ダンシは叫んだ。

 

「本当ですか!今、援護に、」

 

「無用だ!お前は司令部を落とせ!一機で十分だ。」

 

そう言うとダンシはシュツルムファーストを発射した。

それを新形は盾で防いだため大きな隙ができていた。

 

「素人が!」

 

そう言うとダンシはヒートホークを頭に突き刺した。

間髪いれずに蹴りを脇腹に入れ、新型を倒した。

そして、新型の手から離れた盾を奪い取り身を守るように構えた。

 

 

「クチイ少尉!」

 

やや離れた場所にいたバーデンは叫んだ。

ガンダムの頭部にザクのヒートホークが突き刺さり、その上蹴りを入れられたわけだ。驚きを隠せなかった。

 

「くそ!」

 

クチイはそう叫んでまだ生きていた頭部バルカンを発射したが角付きはひらりとその弾を避け、持ち上がろうとした腕を踏みつけた。

そして、腰についていた最後の飛び道具シュツルムファーストを発射しようとした。

 

「くそー!!!」

 

クチイは叫んだ無念で仕方がなかった。

どこの誰とも知らぬジオンの指揮官に宇宙にすら上る前にやられるなど嫌で仕方がなった。

 

 

「随分頑丈な錻だな。しかし、この距離なら」

 

ダンシはそう言うとシュツルムファーストを撃とうとした。

その瞬間、通信が入った。

 

「わかりました。さらばだ新型。」

 

ダンシはそう言うと、シュツルムファーストをジムコマンド側に撃ちゆっくりと距離を取った。そして、射程外へと退いた。

 

 

 

「どう言うことだ?」

 

バーデンは疑問を口にした。

ガンダムにトドメを差すことなく引いていったザクの行動はバーデンには理解できなかった。

 

「追いますか。」

 

ヤコフは聞いた。

 

「いや、ガンダムを回収して帰投する。クチイ、大丈夫か?」

 

「ええ。」

 

クチイはバーデンの問に淡白に答えた。

流石のバーデンもこれをさらに問い詰める気にはならなかった。クチイは明らかに悲壮に暮れていた。

 

 

「中尉殿。新型はどうでしたか。」

 

「外見は良いが中身はただの素人だったよ。」

 

「そうでしたか。」

 

「あとは司令部を落とすのみだな。」

 

「はい!」

 

こうしてダンシは司令部攻略に加わった。

そして、クチイたちはファントムクォーツに帰投した。

 

 

 

 

 

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