お隣さんちのジャンヌ三姉妹   作:Eクラス

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『姉』という隣人

 オレのお母様は偉大である。

 

 偉大というか、鬼ババというか、絶対的な存在というか、般若というか、畏怖そのものというか……つまり、何が言いたいかというと、リリィとの頬っぺたこねくり合戦をして宿題を邪魔したことについて説教され、わたくし藤丸立香は大いに反省しております。えーえー猛省しておりますとも。

 

 もう、それはありがたい説教を頂きましたね。

 

 小4の女の子とじゃれあうのも度が過ぎると犯罪になる?そりゃそうだ。兄の立場を利用して妹を好き放題したら駄目?そりゃごもっとも。お前、リリィが変な性癖に目覚めたら責任取れるのか?そりゃ無理だ……よって、小一時間ほどお尻をシバかれた。高2がお尻丸出しで母親にひたすら叩かれるだなんて、誰が想像できただろうか。「アウッ」とか「オウッ」とかふざけているワケじゃないんだけど「アヒーッ」とか情けない悲鳴を漏らして醜態をさらけ出す男子高校生がどこの世界にいるというのだろうか。

 

 正直、何言っているのかオレもわからないが、これだけはわかる。お尻が腫れて痛い。

 

 久しく忘れていたぜ、あの強烈なビンタを。アレを知っているのはオレとオルタぐらいなものだ……せめてもの救いはオルタがすべてを察してリリィを連れて昼飯時前に家に一度戻ってくれたことだろうか。リリィにはアレはまだ早い。アレは最後の瞬間、白目になって股間を濡らすのだから……

 

 とりあえす、オレは自室で反省中。お尻が痛くてうつ伏せでベッドに寝転がり枕を濡らしていた。もうお嫁にいけないなどと、思ったり思わなかったりで、身動きすることなく、ただただお尻の痛みを少しでも沈静させて和らげなくてはならなかった。

 

 オルタのやつ、オレがこんな状態でも昼から出かけるとか言い出したからな。容赦ないわー、マジで。

 

 などと、このケツの痛みからオルタに八つ当たり気味に悪態をついていると、ドアがノックされた。まさか、母ちゃん!?まだオレのプリティーなケツ叩きが物足りなくやってきたのか!??とも身構えたが、ノックした主はどうやらジャンヌだった。

 

「り、立香くん……入りますよ」

 

「………あ、うん」

 

 最近気まずいから入ってきてほしくないんだけどな。なんか、しおらしいというより弱々しく、自分のあざと可愛さに自信を無くしてしまった聖処女様である。

 

 手には救急箱を持っていた。

 

「あの……お尻、痛いと思って」

 

「テキトーに置いといて」

 

「あ、はい……」

 

 ………。

 

 とりあえず、起き上がろうとしたが、まだ痛くて態勢が崩れてこけた。あと30分、動きたくないや。で、そんな情けない所を見せてしまったがために、自称・姉は変な使命感に燃えることになった。

 

「お、お姉ちゃんが湿布貼るの手伝ってあげましょうか?」

 

「いや、1人で貼れるから、手伝わなくていいって……」

 

「これをこう剥がして……え、えと………こ、こうでしょうか?え、あ、指にくっついて……あれれー??」

 

「人の話聞いてる?遊ぶなら他所でやってくれません?」

 

「あ、遊んでなどしていません!」

 

 しかし、一気にめくってしまった為に粘着部分がよれよれに片手に張り付いたり、粘着部分同士がくっついたり、離れなくなったり、無理に手を振って余計に絡まったりして団子を作っていた。

 

 終いにはオレに助けを求めてきた。

 

「り、立香くん……」

 

「……はいはい」

 

 もうイラっとしかしませんでしたな。

 

 ジャンヌの右手に付着した団子もどきはゴミ箱行きとなった。とても申し訳ない顔がまたオレをイラつかせるだけなんだが……この聖処女様、まだ続けようとしている。とにかく、オレのお尻に是が非でも湿布を貼りたいみたいで、二枚目を救急箱から取り出して、また同じ過ちを繰り返そうと、一気に粘着部分をさらけ出した。

 

 今度は慎重に両手でつまんでいるけど、どうやってオレの尻に貼るつもりなんだか……オレがこいつの目の前でズボンを下ろしてスタンバイするとでも思ったのだろうか。

 

 今の気持ちをコイツに伝えれたらどれだけ気が楽になれただろうか。オレは怒鳴らないように自制して、なるべく心を落ち着かせて、敢えて姉が失敗するところを見届けて次に言う言葉を考えた。なるべく、穏便にだ……

 

「あの……」

 

「なにさ」

 

「お、お尻、ズボンとパンツをズラしてくれないと貼れないのですが……」

 

「………」

 

「き、聞こえてますよね?」

 

「聞こえてるよ。聞こえた上で無視してんだよ……そもそも、彼氏持ちの姉のすることじゃないだろ。それでも貼りたきゃご自由に。でも、それ失敗したら次はないからな」

 

「うぅぅぅううぅうううっ……」

 

「………」

 

 ジャンヌは両手に湿布をつまんだまま、オレの部屋を後にした。

 

 うわー、なんだよアレ。ガキかよ、リリィじゃあるまいし、調子狂うわー。あざと可愛くない聖女様なんて嫌だわー……などと、悪態をついていたら般若を連れて戻ってきやがった。

 

「立香~。湿布をお尻に貼るのはジャンヌちゃんよりお母さんの方がいいのかしら~?あらあら~四つん這いにしてヒーヒー言いたいのかしらね~この子ったら」

 

「あわわわわわっ、ジャンヌでいいです!」

 

 お許しをっ。どうかお許しくだされー……

 

 指をボキボキ言わせてやってくる母を追い返しては、オレは渋々ズボンとパンツをズラしてうつ伏せになった。完全にケツをきゅっと閉じて大事なマイサンがはみ出さないように……ほんと最悪だ!!

 

「とても痛そう。だいぶ腫れてますね……湿布する前に氷で冷やした方がいいみたいです」

 

「は?」

 

「ちょっと準備してきますねっ」

 

「は……??」

 

 オレのケツは自分が思っていたより酷く腫れていたみたい。

 

 ジャンヌは濡れタオルを一枚、オレのケツに薄く敷いてはその上から氷が大量に入ったスーパーの袋を当ててくれた。

 

 ま、まあ、悪くはない……ケツも見られないで済むからな。しかし、ジャンヌはスーパーの袋を当てるが故にすぐにオレの部屋から出て行ってくれそうにないんだよな。これが……

 

「悪かったな……さっきは邪険に扱って」

 

「い、いえ……」

 

「……でも、オレ、昼から出掛けるんだけど」

 

「オ、オルタとですよね。じゃあ、それまで、お姉ちゃんが付きっきりで冷やして看病しますから。それで、オルタが来たら湿布を貼りましょう」

 

「……わかったよ」

 

 早く、オルタ来てくれないかなー……逃げ道が完全になく気まずい時間は続くのであった。

 

「きょ、今日はどこに出掛けるのですか?」

 

「え……あ、あぁ。昼飯食べてテキトーにぶらつくんじゃね?ゲーセンとか……」

 

「………………………ずるいですよ、オルタばっかり」

 

「………」

 

 あの、小声でそういう反応やめて欲しいんだけど。返事に困る。下手に言えないし。

 

 ベッドのスプリングがぎしりと軋んだ。居心地悪さに身じろぎしたのはオレだけじゃないと思う。

 

「今日は……早く帰ってきてくださいね。GWの予定、決める日ですから」

 

「あー、おう……たぶん大丈夫だと思う」

 

「お母さんも、今年も立香と一緒に過ごせる日ができたのが嬉しいみたいで、朝からはしゃいでましたよ」

 

「そか……喜んでくれて何よりだよ、オレは」

 

「去年は男1人のハーレム旅行でしたよね。お母さん、立香に凄く積極的でそれを皆で止めに入って。もう大変でしたよね」

 

「あぁ、そうだったな……」

 

 酒豪の母さんはともかく、おばさんは酒に溺れるタイプだ。あの日の出来事は藤丸家・ジャンヌ家で封印された思い出となってしまった。とくにおじさんには言えないハプニングだらけだったからなー……

 

 懐かしい思い出には変わりないが。

 

「今年も沢山想い出作りましょうね」

 

「おう」

 

「で、できれば……お姉ちゃんと2人きりで、どこかお出かけできたら嬉しいのですが……」

 

「……ジャンヌにはジークがいるだろ」

 

「ジ、ジークくんはジークくん。立香は立香ですよ。恋人と弟では思い出の作り方が違いますっ」

 

「あっそ………好きにすればいいさね。もう」

 

 今、これ以上言っても無駄かなと思った。もうオレは何も言わん。一応、時間作れるかは考えておくことだけは伝えたつもりだ。

 

「あ、GWの弟くんとの思い出といえば。小学校の頃にもこんなことありましたよね」

 

「は?あったっけ?」

 

「立香がおば様に怒られてお尻腫らしたということではありませんが。キャンプ場で転んで尻もちついて怪我したじゃないですか。その時、手持ちの絆創膏で貼ってあげましたよね。覚えてますか?」

 

「あぁ……ははっ、そんなこともあったな」

 

「ふふっ、もう立香ったら2人きっりだっていうのに恥ずかしがって、中々お尻向けてくれなくて血もドバーって出るところでした」

 

「いやいや、誰もいないと言っても外だぜ?しかも、5年の時だろ?流石に女子にケツ見せるの恥ずいだろ」

 

「でも、結局あの日、ロッジでオルタもリリィも私もまとめて一緒にお風呂入って、あなたのお尻ぶりぶり変な踊りまでしてたじゃないですか」

 

「あ、あれはもうやけくそっつーか、オルタが無茶ブリするからだって」

 

「あの時、初めてオルタが私達家族の前で笑ってくれた日でした」

 

「ツボってたよなー、アイツ」

 

「うふふ、そうですね」

 

 うん、割とシャレになってないハプニングなんかもあの後に起きていたよな。

 

 昔話をしていく中でいつの間にかオレ達は変に意識することなく、これが『家族』やら『姉弟』かというように1つの思い出を共有し語り合った。気まずい空気がどこかへ飛んで行った。

 

 ほんと、バカらしい。

 

「昔はあんなに可愛らしかったゾウさんだったのに、今では凶暴なエレファントマンモスさんですもんね、立香は。お姉ちゃんもドキドキしているんですよ。な、なんちゃって……///」

 

「………」

 

 あー前言撤回。

 

 やっぱり『姉』という生き物とは一生分かり合えないかもしれない。

 

「あー、そ、そういえば……立香のお部屋にお邪魔するのは随分久しぶりな気がします」

 

 急な話題転換は常套手段だ。特に普通だ。ジャンヌの調子がいつもに戻っただけでおも、今は目を瞑っておこう。

 

「弟くんの部屋……スーハ―スーハ―///」

 

「……深呼吸するなよ」

 

「むっ、いいじゃないですか。減るものなんてないんですし」

 

「酸素は確実に減ったけどな」

 

「お、お姉ちゃん、やっと立香と久しぶりにこうしてお喋り出来て分かり合えたと思ったに……まだ弟くんに注ぐ愛情が足りませんか!!」

 

「い、いえ……」

 

 め、めんどくさい聖処女様だこと……

 

「やはり落ち着きます。オルタがここを独占するのもよく分かりますよ」

 

「そ、そか……」

 

 できれば、自重してほしいのだが。

 

 聖処女様はクンカクンカ、こっそりしているつもりだろうがオレにはバレバレの行為をしては……

 

「クンクン……ん?あれ?」

 

「………」

 

「スンスン……弟くんのベッドから知らない女の人の匂いがするんですけど…………」

 

「………」

 

 ………。

 

 嘘だろ……気のせいでは?というか、気づかれた?昨日の話だろ、まだ残り香が……っ!?

 

「オルタでもリリィでもおば様でもあるいはうちの母という線も考慮しましたがその誰でもない匂いがするのですが嘘ですよね嘘だと言ってくださいよ立香お姉ちゃんショックです」

 

「………」

 

 に、ニオイするか?そんなにBBちゃんのニオイってキツいのか??

 

 などと、考えている場合じゃなかった。ジャンヌの目のハイライトが消えかかっているんだけど……まためんどくさい展開になりそうなんだけどもっ。

 

「ま、まさか、立香……誰かとシたんですか?お姉ちゃんに黙ってナニしちゃったんですか!?」

 

「………も、もし、後輩の子と(ポッキーゲーム)したって言ったら?」

 

 なーんちゃって。

 

「お、おおおおおおおお姉ちゃん、赤飯炊いてきますねっ。ふぇ~ん」

 

「あ、ちょっと、嘘……なんだけど…………っ」

 

 オレの制しの手も空を掴み……

 

「せ、せめて、湿布貼っていって欲しかった」

 

 うわー、やっちまった。

 

 この嘘がのちにあんな波紋を呼ぶことになるとは今は知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、時刻は13時。

 

「で、アンタはケツ丸出しにしてナニしてんのよ?」

 

「違うんだ、オルタ。これには宇宙誕生の秘密よりも深い理由があってだな……」

 

 このあと、尻丸出しで放置されたオレを次女オルタに発見されるのでした。

 

 ちゃんちゃん。




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