亜種日本聖杯戦争   作:木々津皆守

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序章1-4 終

 運命に導かれるように自らが創りだしたナイフは自分自身の心臓のあった箇所に突き刺さる。

 

「悪かったな、こんな世界に付きあわせちまって。きっと日常には戻れねぇと思うけど、お前等なら大丈夫だ。なんたって俺の所員なんだからよ」

 

漸く永遠とも思えるような邪神が創りだした世界から俺は解放される。目の前に広がるのは親友の悲しそうな顔と、今までこんなくそったれな世界で俺を慕い、信じ、俺が裏切って尚も涙を流して悲しんでくれる後輩(たんさくしゃ)達の姿。

 きっと次に目を覚ますときは今までの記憶を引き継いだ俺ではなく、あの時間軸の何も知らない頃の死にかけの自分なのだろうと考えながら、目を覚ました後に迎える結末はどんなモノなのだろうかと物思いに更ける。

 できることならば親友だけはこんな非日常に足を踏み入れないように助言してから逝きたいモノだと思いながら、ボロ雑巾のようになっているはずの自分の身体に戻る瞬間を心待ちにしているのだが、いつまで経ってもそれは訪れず、ありえない感覚に目を覚ます。

 

「待て、どういう状況だコイツは」

 

 自身の肉体はあの終わった時間軸よりも力に満ち溢れ、失ったはずの心臓は違和感こそ孕んではいるが鼓動を刻んでいる。

 焼けつ付くような痛みと共に、右腕には今まで無かった刺青のようなものが刻まれ、それと同時に役割を教えるかのように脳に直接情報が流れ込んでくる。

 

「聖杯戦争・・・・・・?」

「妙な気配を感じてわざわざ戻ってきたが・・・・・・やりおったな」

 

 背後から聞こえた声に反射的に振り返ると、般若面をつけた人物が何も無かった場所から姿を現す。

 

「はは、そうかよ、俺にまた理不尽で不条理な運命を押し付けようって言うわけか」

「む、貴様は何を言うておる。気でも触れたか?」

 

 その声は女性のもので、その風体から漂う気配は明らかに常人のモノとは違い、しいて言うのならば邪神や旧支配者といった存在のモノに酷似していた。

 経験上、この手の類の存在に良い印象を持っていなかった為に、いつでも行動を取れるように表面上ではわからぬくらいに神経を研ぎ澄ます。

 

「大丈夫だ、まだ残念なことに正気だよ。それで、俺は何かやらかしたみたいだが何をしたんだ?」

「む、それはヌシがやったのではないのか?」

 

 会話が通じる相手のようだと判断し、指を指された方に視線を移す。

 そこには二十台ほどの男性が床の上で倒れている。

 

「生憎と記憶に全くといって良いほど無い。どういう状況だ?」

 

 その返答に女性はくつくつと笑いを堪える様な声で答えてくれた。

 

「全くといって良いほどに嘘は吐いておらぬのだな。そやつはワシのマスターだったものじゃ」

「マスターだったもの?」

「気付いておらぬのか? それは既に事切れておる。もっとも、今のマスターとしての機能もその証である令呪もヌシに移っているわけじゃがな」

 

 流れ込んできた情報と女性の言葉から推測される候補を脳内で整理し、現状で出来ることを判断する。

 

「要するにアンタは俺のサーヴァントって事でいいのか?」

「そうなるのぅ」

 

 不確定な要素が多すぎるために、少しでも情報を増やしたかった。

 それに不思議と令呪(コレ)の使い方も理解していた。

 

「だったら令呪を持って命ずる、俺の問いに答えろ」

「なっ!?」

 

 右腕に刻まれた令呪は一箇所のみ色を失い、正常に機能しているのだろうと推測できた。

 後は本当に効果があったのかだけを確認するのみだ。

 しかし目の前の般若面をつけた女性の反応から察するに、確認をするまでも無く効果はあったのだろうが。

 

「聖杯戦争とはなんだ?」

「ヌシはもしかしなくとも阿呆なのか? わざわざこのような下らぬ事に令呪を使いおってからに。じゃが答えよう。ヌシは頭が良さそうじゃから簡潔に答えるぞ。願望器を手に入れるための戦争じゃ」

「お前は一体なんだ?」

「サーヴァント、キャスター。 ヌシの使い魔のような存在じゃ。ついでに聞かせてもらうがヌシの名は?」

「夜は―――夜月。しがない探偵だよ。続けるぞ、真名は?」

「しがない探偵かの、ふむ。ワシは鬼一法眼、伝承では鞍馬天狗と同一視される存在じゃ」

 

 今までの言葉全てが本当かの真贋を問われれば微妙なところではあるが、今まで空想の存在と笑われるような存在と相対したことのある夜月は考える。

 脳内に流れてきた情報と照らし合わせたところで何処までが正解なのか不明瞭ではあるが、少なくとも聖杯戦争は実在しており、目の前にいる存在は英霊と呼ばれる存在で、自分はその戦争に何らかの形で参戦することになったのだと判断した。

 

「じゃあ最後に質問だ」 

「なんなりと聞くが良い。どうせワシは答えざる得ないのだからな」

「アンタの願いはなんだ?」

「復讐じゃ、聖杯に願うまでも無くこの戦いで満たされるほど小さな願いじゃ。故に邪魔はせんで貰いたい」

 

 非現実には慣れたものだと思っていたが、どうやらまだまだのようだと実感しながら夜月は不確定要素の多い情報を整理した結果一つの結論に至る。

 

「要するにまだまだ楽はさせてくれねぇってことか」

「ふむ、勝手に結論付けているようじゃがワシも少し問いたいのじゃがいいかの?」

「ん、かまわねぇよ。一方的に聞くのはフェアじゃねぇ」

 

 どんなことを聞かれたところで知らないことは知らないし、答えられることなら答えるつもりだ。

 

「かかかっ、ふむ、これでは面を見せぬというのは失礼であるな」

 

 先ほどの言葉に気を良くしたのか、女性は般若面を外し、その素顔を見せる。

 

「ほぅ中々の美人じゃねーか」

「ほほう、中々の美人とな? そう言われると悪い気はせんな。では本題と行こうではないか。ヌシの心臓に聖杯があると見るが、いや、ヌシの心臓こそが聖杯と見るがそれはどういうことなのじゃ?」

 

 キャスターの言葉に夜月は動揺こそするが、一番初めに感じた違和感の原因と、失ったはずの心臓が鼓動を刻んでいることに関しての答えを得ることになる。

 

「正直に答えるが詳しくは知らねぇ。ただ強いて言えるとすればだ、俺の能力で補われていた心臓がそのまま聖杯とそっくり入れ替わった。それくらいだな」

「ほほう、能力とな? して、それはどのようなモノなのじゃ」

 

 今までは失った心臓を補うために能力のリソースをほぼ全て割いていたため今までは肉体の再生程度にしか使用できなかったが今は違う。悪夢の対価として与えられた忌々しい能力ではあるが、使えることに越した事はないと考え、適当なイメージを脳内で細部まで固め、掌の中に創造する。

 探索者として箱庭の世界で数度使った程度のものであったが、掌の中にはイメージと寸分違わぬモノが納まっていた。

 

「簡単に言えばイメージを具現化する能力だ。イメージさえできれば精密機器でも何でも創れる」

 

 そう言って創りだしたモノをキャスターに手渡す。

 

「ほほぅ、興味深いな。投影と違い中身もしっかりしておる。なにより一つのモノとして世界からの修正力を受けておらぬとはな」

「修正力ってのがなんだかは知らねぇが、なんとなく理解した。俺の創ったものは現実のものとして存在する、俺の意思で破棄するまでは壊れるでもしない限りはなくならねぇ」

「聞けば聞くほどに出鱈目な力じゃの。ふむ、話を戻すとするかの。ヌシ様よ、どうかワシの願望の邪魔だけはせんで欲しい。答えを聞かせてはくれぬか?」

 

 あらかた聞きたいことは聞けたのか、キャスターは夜月に対してその頭を下げ、予てからの望みを懇願する。

 どのみち聖杯戦争に参加することは決定事項であり、どうすることが正解なのかはわからぬが、唯一つわかっていることはこの戦争に勝ち残らねばならない。

 たったそれだけのことだ。

 

「別にかまわねぇよ。ただ、負けることは無しだ。俺が困る」

「そうあっさりと承諾を貰えるとはおもわなんだ。しかし、感謝する。ワシは負けぬ、義理には恩で返そう」

「やめろやめろ、仮にも日本史を支えてきたような英霊が俺ごときに頭を下げんな。ギブアンドテイク、それが俺とお前の関係だキャスター」

 

 今まで散々に探偵事務所の所員を困らせてきたが、それでも夜月はギブアンドテイクの精神は貫いてきた。成果には報酬、信頼には身体を張ってでも応える。

 

「ふむ、ぎぶあんどていく。しかとヌシ様の答え承った、ではよろしく頼むヌシ様よ」

 

 差し出された手を夜月は握り、応える。

 

「ああ、こちらこそ頼むよキャスター」

 

 こうして全ての役者(キャスト)は揃った。

 前座に過ぎないような序章は幕を退き、聖杯戦争の始まりは人知れずに訪れる。

 

 これは小さな嘘を本当にするための物語。

 

 これは大切な者を失わないための物語。

  

 これは孤独から開放されるための物語。

 

 これは失ったものを取り戻すための物語。

 

 これは忠誠を示すための物語。

 

 これは願望器を求める物語。 

 

 これは全てに終止符を打つ為の物語。

 

 それぞれの願い、想い、その全てを乗せて今、日本亜種聖杯戦争は幕を開く。

 カーテンコールは鳴り止まない。

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