亜種日本聖杯戦争   作:木々津皆守

7 / 7
2-3 対話

 

 

 

 忍装束を身に纏い、影に潜み、影から影へと移動し気配という気配を完全に遮断し、そこに本当に居るのかすら疑わしく思えてくる存在は偵察任務をこなすためにバーサーカー陣営とキャスター陣営の戦闘を観戦していた。

 

『ちょっと、あれ本当に人間なんでしょうね!?』

 

 彼のマスターより持たされた簡易使い魔から騒がしく怒鳴りつけられる。

 

「マスター、アレが普通の人間だというのならば全人類がサーヴァントレベルの化け物になるんだが」

『だ、だって、キャスター陣営のマスターってキャスターの傀儡じゃないの!? どう見てもアレは自分の意思で戦ってるように見えるし……』

 

 ランサーの目を通して同じく戦況を見ている少女、赤朱(せきしゅ)秋(あき)は理解できない状況に混乱してしまう。

 確かに聖杯戦争の7人が揃う直前までの、キャスターのマスターは傀儡と言って差し支えの無いような男だった。しかし今の戦闘を行っていた人物の顔には見覚えすらなかった。

 故に混乱し、激情のままランサーに怒鳴りつけたことで威勢の良かった彼女の声は尻すぼみに縮んでいった。 

 

「あー、ずっと真面目モードだとおじさん疲れちゃうんだけどマスター?」

『何よ、アンタの場合は既に半分くらいふざけてるでしょ? なんでこんなのが私のサーヴァントなのかしら……。頭が痛いわ』

「おじさんからしても不思議なもんだよ。元々ただの武士だってのに何さ、英霊の座にいたら気が付けば忍者になってるでござる状態だぜ? しかもクラスとスキルが噛み合わないおまけ付きのさ、頭が痛いのはこっちだぜマスター」

『あぁ、ほんと、それは現在の日本人のせいだから何も言えないわ……。ごめんなさいランサー、ちょっと落ち着いたわ。それと同時に腹も立ったけどね』

「はいはい、体罰反対体罰反対っと。それよりどうするよマスター。俺たちは以前のキャスター陣営とは休戦協定を結んでたけどよ、今の状況ってどうなるんだろうな。マスターが変わった以上キャスターの考えとは別に行動する可能性が出てくるってことだ」

 

 キャスターのマスターはサーヴァントよりは弱いだろうが不確定要素はなるべく潰しておくべきだとランサーは考える。

 自分のマスターである赤朱秋はまだまだ甘さを残していると言わざるを得ない。それに魔術師として優秀だとしても硬い頭のままでは戦争において敵以上に厄介な相手となる。しかし決して馬鹿ではない聡い少女なのだ、ある程度まで誘導さえすればきっちりと答えを出してくれるはずだ。

 

「要するにだ、今すぐ手負いのキャスター陣営に追い打ちをかけるか協定を結びなおす必要があると俺は考えている。マスターはどっちにしたいんだ?」

『え、ちょっと待ってね、うん。質問に答えるのなら後者を選びたいわ。相手の目的と状況次第にはなるけど、積極的に戦いなんてしたくないわ』

「そうか、マスターがそう言うのなら俺はそれに従うさ」

『ありがとうねランサー』

 

 素直な礼の言葉を受け取ることが出来る、それだけでランサーとしてはマスターがこの人物でよかったと思えた。

 

「いやいや、お礼を言うくらいならマスターの平たい胸でも撫でさせてくれないでござるかねぇ」

『平たい言うな! わ、私だってこれから大きくなるんだから!』

「はいはい、ござるござる。それで、向かうなら今すぐのほうが良いと思うんだが?」

 

 しかし遊び心は忘れないほうがいい。真面目過ぎるとお互いに疲れすぎてしまう、疲れはそのまま死に繋がることも少なくは無いのだから。

 

『わかった。ランサー、私を回収してからあの二人に追いつける?』

「三騎士の中では最速と自負してる俺にそれを聞いちゃうのマスター?」

『愚問だったわね。じゃあ、行くわよ!』

 

 

 

 

 

 

 田舎の地方都市、そんな場所にでも廃墟はいくらでもあることが救いだった。

 目覚めたときには死体が隣で転がってると思ったら犯人にされかけたり、紆余曲折あってキャスターと契約したり、セイバー陣営と協定を結んだついでにバーサーカー陣営にちょっかいかけられたりとここ最近は散々な日々であった。まあ、そんなことよりも何よりも金がない。そもそも寝床の確保が出来ていなかったのだ。

 

「何だっけ、キャスターのクラスって陣地作成とか言うスキルあんだろ? 家でも作れんのか?」

「たわけ、もともとある施設を工房に替えることは出来ても一から家など作れんわ。ヌシ様はアホの子だったのかのぅ?」

「うるせぇ、少しくらい現実逃避させろっての。あー、ふかふかのベットで寝てぇ、温泉に入りてぇ……はぁ。腹減ったなァ」

 

 廃墟になってしばらく経ってあるであろう校舎の一室で、今までの人物像からはかけ離れた男が汚れなど気にせずに不貞寝している。

 

「ベットならヌシ様の能力で創れそうな物じゃけどな。そうボヤいているという事は創れぬという事なのだろうがのぅ」

「………いや、うん。知ってたよ、創れるってさ、創れるぜ? でもさ、そんなくだらないことに使っちゃうか? 一応切り札的な奴をさ」

「ヌシ様よ、一度本気で殴っても良いかの? いいであろう? 先っちょだけでいいからの?」

「止めろ馬鹿、先っちょとかねぇから! グーで殴ったらどのみち全部当たるじゃねーか! そもそも金があったらこんな場所にいねーんだよ!」

 

 ぎゃぎゃあと罵り合い、キャスターが夜月の胸ぐらをつかみ、負けじと夜月が胸ぐらをつかみ返したその際に顔が交差した瞬間だった。

 

「キャスター、こんな茶番でも役に立つもんだな。アホが一匹釣れたぞ」

「あー、あのなヌシ様。あ奴らとも休戦協定をな、結んでいてな……」

「は?」

 

 気まずそうにキャスターが視線を逸らす。

 

「いや、じゃからな、休戦協定を結んでる陣営での、ワシは戦闘など起きても役に立てん…という、ことじゃ」

「なあキャスター、そういう事は事前に伝えるべきことだよな? 他はもういないだろうな……?」

「今のところはランサーの陣営とセイバーの陣営だけじゃ、本当じゃ!」 

 

 面を外してキャスターは涙目で夜月に訴える。

 

「お前、本当に良い性格してるよ。わかったよ、今回はそのウソ泣きに騙されてやるよ」

「かかっ、バレておったか」

 

 にへらとキャスターは笑うと面を付け直し、夜月にアホと言われたであろう人物たちが居るほうに向かって言う。

 

「戦うつもりで来たのではあるまい、こそこそと隠れておらんで出てきたらどうじゃ?」 

 

 シン―――と静まりかえる室内、その静寂は二人の人物の登場によって打ち破られた。

 

「お、オイっ、マスター!? 俺より先に出て歩くんじゃねぇ!」

「煩いわね! クソつまんない茶番で釣られたとか最悪じゃない、ちょっと一発あのバカを殴ってやるのよ!」

「協定に反することを簡単にしようとするんじゃねぇ! 俺たちの目的はあくまで対話のはずだろうマスター、冷静になれって。格好よく登場したいつもりだったってのは黙っておいてやるから、な?」

「な、ななな、何言ってんのよ!!」

 

 そんな二人の姿を見て夜月はキャスターに囁くように話しかける。

 

「なあ、クソつまんない茶番とか言ってる割にアイツらも茶番に興じてねぇか?」

「あー、言ってやるでないマスター。ランサーは多分ワシらと同じ意見だろうが小娘のアレは間違いなく素であると思うぞ」

「なるほどな、つまり面白い奴だと言いたいってわけか」

 

 その会話が聞こえてのであろう少女、赤朱秋は頭が痛いと言った風に額を抑えながらも夜月とキャスターを睨みながら咆える。

 

「ちょっと、聞こえてんのよ! ああもう、本当最悪な気分だわ。協定がなかったなら今すぐ殺してしまいたいそんな気分よっ!」

 

 その言葉にランサーはやれやれと言った風に、手がかかると言いたげな表情をしながらも赤朱秋の前に立つ。

 

「すまないなキャスター、アンタは知ってるだろうがうちのマスターってちょっとアレな娘でな。今までの非礼を俺が詫びさせてもらうよ……」  

「良く言えば人が好いという事じゃろうに、気にせずとも構わぬ。それでじゃ、汝らは一体何を思うてワシ等の元に来たんじゃ?」

「いやなに、至極簡単な事さ。アンタのマスターが変わった以上、先刻に交わした契約はどうなってるのかが気になってって所さ」

「なるほど、汝も難儀な奴よな。あの契約はワシ個人が勝手に結んだものだ、故にマスターが変わったところで契約はそのままは生き続ける。もっとも、協定違反があれば即刻に汝の喉笛を噛みちぎってやることが出来るがのぅ」

「ハハハ、おっかねぇなぁ。まあ別嬪さんに喉笛を噛みちぎってもらえるなら本望ではあるが、生憎とうちの娘っ子(マスター)と戦う以上簡単には殺されてやらんがな」

「ぬかしおるな小童(こわっぱ)が」

「小童ねぇ、見た目的にはアンタの方が小童と言いたいところだが……、まあやめておくとするさ。こちらの些細な質問にお答えいただき感謝致すキャスター殿」

  

 ランサーはそう言ってひとまずこの場を締めることにしたようだ。

 もっとも彼のマスターである少女もこの僅かな時間の間に落ち着きを取り戻していたようではあるが。

 

「ねぇ、キャスターのマスター。アンタは何のために聖杯戦争に挑み命をかけてまで戦うのかしら?」

 

 その質問に夜月は特に考えるまでもないと言ったように答える。

 

「死なないためにだよお嬢ちゃん。それだけさ、聖杯に願う事なんて特にない。そういう嬢ちゃんは何を願い何を望む?」

「万能たる願望機がそこに在るから欲しくなった。そんな単純な事よ、アンタの事をどうこう言えた理由じゃないけどね」

「いいんじゃないか? 大層な夢物語を語るやつよりよっぽど好感が持てるくらいにはな」

「ふぅん、意外ね。それともう一つだけ聞いてもいいかしら?」

「質問次第だ、答えられることなら答えよう」

 

 

 夜月の言葉に赤朱秋は真剣な眼差しを向けて言った。

 

 

 

 

「貴方は漂流者? それとも意図的にこちらに来たの? どっちか答えて貰おうじゃないの―――」

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。