暗闇の中に浮かぶ4つの木箱。注意して見るとそれぞれ4色の模様があった。
(何の箱?)
4つの箱は闇の中を均等な距離感を保ちつつ廻る。
――永きに渡る封印を解く好機が訪れた
不意に虚空から頭の中に響く声。
――封印の鍵を
続く言葉を聞くよりも先に、反射的に自分の胸元にある鍵を強く握る。
直後。
ジリリリリリッ!
けたたましく鳴り響く金属音で、少女の意識は覚醒した。重い目蓋を開けると見慣れた自室、ベットの上だった。
「ゆめ……?」
「なんか夢見たんか?」
呟きの声が聞こえたのだろう、これまた見慣れたオレンジの熊に白い羽のついたマスコット(ぬいぐるみ)が頭上に浮いた状態で問い掛けてきた。
「うん、でも」
「でも?」
「忘れちゃった」
苦笑いと共に少女がはにかむ。数拍後。
「なんじゃそりゃー!」
小さな手を精一杯伸ばし熊もどきのぬいぐるみ――ケルベロスはツッコミ風に叫んだ。
「仕方ないでしょ。ケロちゃんの顔見たら、思い出せなくなったんだもん」
栗色の綺麗な髪に翡翠色の瞳を持つ少女――木之本さくらは、ベットから身を起こして微笑む。
「しかもワイのせいて…まあ確かに朝イチで超イケメンを見れば頭も空になるやろうけど」等と落ち込んだり納得したりと忙しい彼を尻目に、さくらは目覚ましを見る。
うん。どうやら寝坊はしなかったようだ。
「そだ、今朝の朝食当番、私だった!」
忘れかけていたことを思い出し、急ぎ身支度を整え始める。
彼女は“木之本 桜{きのもと さくら}”――友枝小学校に通う、元気いっぱいな女の子。家族構成は高校生の兄と大学教諭の父との父子家庭で、母とは死別している。
あと補足すると“カードキャプター”という魔法少女だったりするが、ケロちゃんの存在同様…説明し始めると長くなるので割愛させてもらおう。
身支度を終えたさくらはカードの入った本に短く「おはようみんな」と声を掛け…小さな鍵のネックレスを首に架けた。準備完了。
「さくらさーん?」
階下から父・藤隆の優しげな声が聞こえる。
さくらは元気な返事と共に部屋を出て下に降り、そこで違和感を覚える。
リビングに入るとトーストの芳ばしい香りが鼻孔をくすぐる。
「あれ? 今日の当番私のはずじゃあ……」
すると先に食べてた兄・桃矢は呆れたように言う。
「何だ? 2日続けて当番してくれるつもりだったのか? それなら俺が起きて作る必要はなかったな」
「えっ? 昨日私やった? でも28日は私が――」
思わず声を上げると桃矢は今度こそ不思議そうな、可笑しそうな目を向ける。
「まだ寝ぼけてるのか? 今日は29日。1日ズレてる」
「ほえ?」
「それよりさくらさん、今朝は早朝練習で早いと言ってませんでした?」
「ほ、ほえぇぇっ!?」
藤隆の言葉に、時計を見ると7時過ぎ。さくらは、やっと歯車が噛み合ったようにトーストを頬張り玄関に急ぐ。
「慌ててこけるなよ? 道路に穴が開くからな、怪獣」
「ふぁふぅは、ふぁいふぅひゃひゃいほん(さくら、怪獣じゃないもん!)」
意地の悪い笑みを浮かべる兄を尻目に、玄関でピンクのローラースケートを履く。
チアリーディングクラブの練習は夏休みでも午前にやる。
いつもは8時からなのだが…今日、7月29日にかぎって7時半だった。
休みボケだろうか? 日付を間違えるなど滅多にないのに……
「行ってきまーす!」
外は夏らしく日差しが強い。朝からこれでは昼過ぎにはもっと暑くなるかも。
そんな風に考えながら、いつもの道を抜けてゆく。
桜並木の遊歩道。時期が春なら満開の桜が咲くだろうが、今は深緑の葉が生い茂っている。
ところが、月峰神社の前に差し掛かった時。その光景に、さくらは思わず足を止めた。
「――桜の、花?」
神社の中にある一本の桜の大樹が花をつけていた。それも満開である。風に乗って舞い散る花弁は、さくらの足下にも届いていた。
「すごく綺麗…だけど何で今頃咲いてるんだろ?」
まるで引き寄せられるように、自然と樹の前へ。
(私と同じで、間違えちゃったのかな?)
直後に。背後から誰かに押された気がした。
「えっ!?」
幹に顔面から倒れ込む形で――そのまま引きずり込まれるように。
「ほええ~~~!?」
声の残響だけを残し、さくらの姿は消えていた。
この先は、今日からマ王の異世界に移ります。
アニメ版とラノベ版で展開が異なりますが、ストーリーはごちゃ混ぜになっているつもりで楽しんでください。(⌒‐⌒)