さくらと不思議な箱の国   作:不協和音

4 / 9
副題の通り捕まります。
そして後半に主要キャラ登場です!


さくらと巫女の捕物帖

「つまり、要約すると…自分の意思で“地の果て”に入ったのではなく、気づいたら眠っていた…そうゆうことですか?」

「うん。私学校に行こうとしてたんだけど…月峰神社の桜が満開なのに気づいて…はうぅ、そこから先の記憶が曖昧なの」

 申し訳なさそうに俯く。そんなさくらをウルリーケはジト目で見ている。

 それはそうだ。自分で話していても胡散臭げな話をいきなり信じろとは無理な問題である。悪気はなかったとはいえ…誘拐の現行犯を素直に信じることなど、例え幼女でも無理がある。

 しかし、言葉が通じるようになったとはいえ、下手に嘘をつき――彼女を欺こうとする方が何気無く危険な気がしたのだ。

「ところで、あの~、ここはどこなのかな?」

「……ここは我が国の中で最も神聖な眞王廟です」

 ジロジロとさくらの全身を観察しつつも、応える。

「余所者の、それも不埒者が自由に拝謁してよい場ではありません」

「ふ、不埒ものって……」

「黒を身に付けるだけあって相応な魔力を持っているようですが…素足を晒す淫らな装束…娼婦ですか!」

「ほ、ほえぇ!?」

 太ももを晒すような制服のスカートが気に入らないらしい。そう言えば、逃げる最中に遭遇した女性たちの白装束はスリットの無いチャイナドレスのように、くるぶしまでを隠したものだった。神聖な場所というなら当然なのだろう。

「だいたい、あなたの言葉を信じるとするなら、陛下の居らっしゃるあちら側――地球からの召喚者の可能性が高いですが…眞王の御意志なく、ましてやわたくし以外でそんな強力な召喚魔術を行使できる存在など聞いた事がありません」

 地球。少女の口から認識を同じくする単語が聞けたことで、さくらは安堵した…異世界である事実を肯定されたことにもなるが、元の世界に戻れる手段はあると言外に示されたのだからさくらには天啓に等しい。

 しかし同時に不安も募る…世界を往来する術はあるらしいが、誰もが扱えるものではなく…ウルリーケと名乗った少女は稀少な扱える者らしいが、さくらを喚んだ覚えはないと言う。

 異世界モノの物語での、お約束だと…喚んだ者じゃないと還す事は出来ない。

 そんな嫌な想像を、さくらが巡らしていたとき。

 不意に、急激な睡魔と虚脱感を覚え、さくらの体はふらつく。

「あ、あれ…?」

「やっと効いてきたようですね。安心してください…水の要素で催眠魔術を掛けただけ。害はありません」

 ウルリーケの言葉が聞こえるが、意識を手離しかけているさくらに理解する思考力は無く。石壁に背を預けるように眠りに落ちた。

 コンコン、と扉を内側からウルリーケがノックすると槍で武装した女兵士が、三人ほど入ってきた。

「ご無事ですか、ウルリーケ様。申し訳ありません」

「問題ありません。それより彼女の手に錠を…簡単に起きる事はないと思いますが…速やかに血盟城へ運んでください」

 

 

 眞魔国“血盟城”――名の由来を知れば幼子も震え上がるだろう魔王の居城。

 いつもは静寂で荘厳な威厳を崩さない国の中枢は、前例の無いほど動揺を隠せない。思いもよらない“眞王廟”への賊の侵入。更に一時とはいえ最高位の言賜巫女ウルリーケの拉致。

 どちらを見ても建国有史以来の不祥事であった。

 それも我らが主・魔王の不在中に、である。

 いち早く報告を受けた現宰相〈フォンヴォルテール卿グウェンダル〉は、常に険しい眉間の皺を一層険しくしたまま考えていた。

 その様は、見る者が見れば美しいオブジェのよう。

 目鼻立ちは整っており、黒に近い濃灰色の長髪を首の後ろでまとめている。

 知らぬ者が見れば、彼が魔王陛下ではと思わせる威厳を醸し出していた。

 そんな彼――グウェンダルの頭にあるのは、内々に処理すべく動いた結果事後報告となった事件だ。

 結論から言えば既に解決した問題だ。侵入経路は依然として不明だが…“箱”の傍に居た賊は捕らえ、拐われたウルリーケも無傷。

 あとは賊を尋問して正体を暴けばいい。彼の考えている問題は誰に尋問させるか、という点だった。

 武装巫女に担がれるように運ばれてきた娘の存在は箝口令を敷く暇もなく…魔族の貴族間の知るところとなっていた。そして尋問と聞いて真っ先に手を挙げたのは〈フォンカーベルニコフ卿アニシナ〉だった。

 グウェンダルの幼馴染みであり、女性の地位向上を願う野心家。趣味と特技は魔動装置の発明。蒼天を想わせる大きく蒼い瞳は、新しい玩具を見つけた子供のように輝いていた。

「何を迷う事があるのです貴方は。捕虜は女性なのだから下手な男どもより私に任せる。これが最善手!」

 燃えるような紅の長髪をポニーテールに纏められたそれが、彼女の身振りに合わせて揺れ動く。

「貴女に任せては尋問ではなく拷問になり兼ねません…ここは王佐でもある私が請け負いましょう!」

 薄紫の長髪を優雅になびかせ言ったのは〈フォンクライスト卿ギュンター〉。

 確かにアニシナに任せるよりは彼の方がまともな尋問を行なえるだろう。

 しかしと思う。現魔王の教育係を務めている彼には情に流されやすい側面がある。魔王陛下に限っての悪癖かもしれないが、不安があるのは確かだった。

 と、その時。部屋の片隅に控え、話を聞いていた女性が色白な手を挙げた。

「あの、僭越ながらそのお役目…私にさせてもらえませんか?」

「な、何を言っているのですギーゼラ!」

 癒しの一族と呼ばれる種の末裔であり、ギュンターの養女でもある濃緑の髪と瞳を持つ彼女は看護兵だ。

「聞けば、捕虜は魔族ではなく人間との事。魔族に警戒心を抱いている可能性を考えれば私のような者の方が適任かと……」

「……もし意識を取り戻した娘が暴れた場合は?」

「暴れる患者の扱いには手慣れています。ご安心くださいグウェンダル閣下」

 その答えに満足した彼は重々しく頷いた。

「任せてみよう」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。