さくらと不思議な箱の国   作:不協和音

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さくらと囚人の出逢い

 さくらは夢を見た。

 内容は朧気でよく覚えていない。だけど最後に兄の桃矢が意地の悪い笑みで、いつものように言った。

『やっぱりお前は怪獣だ』

 反射的にさくらは叫ぶ。

 

「――さくら、怪獣じゃないもん!!」

 

 直後、ガシャンという金属音が聞こえて、さくらは目覚めた。

「……あれ?」

 まだ少し寝ぼけている意識を覚醒させるため、さくらは目を擦った。

 と。そこで自分の手首に黒いリングのような物があることに気づく。鎖のようなものがついているので、おそらく手錠――だったものだろう。なぜ過去形なのか。それはさくらの両手に輪はついているものの鎖は半ばで千切れ、役割を果していなかったからだ。

 さくらは横になっていた身体を起こす。するとローラースケートを履いたままの足下にも鎖だったものの残骸があることに気づく。

 定年劣化で壊れた物か。

 そんな風に思いながら、周囲を見回す。牢屋。

 そこは時代劇に出てくるような、絵に描いたような牢屋のイメージそのまま。

 壁は石造りで薄暗く、正面の木か鉄か判らない格子戸の奥には、対面する形で同じ牢屋があり…横隣にも同様らしい。そしてそんな牢屋の構造からか、少し空気が肌寒く感じられた。

「私、どうして……」

 朧気な記憶を辿る。確かウルリーケと二人で話していたはずだ。しかし、そこまでしか思い出せない。

 とにかく自分の現状を把握しないといけない。

 牢屋に入れられた囚人。

 客観的な現状把握完了。

「うぅ~…結局こうなるなら逃げずに最初から捕まっていれば良かったかも…」

 自分の判断を悔やむさくら。囲まれた時点で捕まっていれば不審者、不法侵入者で済んだのに…咄嗟の行動で幼女誘拐、拉致軟禁と罪状が増えてしまった。

 しかしウルリーケのおかげで言葉が通じるようになり、多少なりとも情報を得られた事は大きい。

 異世界。世界を移動する魔法など“さくらカード”にも無いものだったが、考えてみれば魔法ジャンルのアニメにはよくある流れ。

「はうう。まさか実体験することになるなんて思わなかったよぉー」

 まさかとは思うが、これも未だ見ぬカードがらみ…などと思ってみるも、その可能性は低い。“クロウカード”は残らず集め終えているはずだし…“さくらカード”への変換も、いろんな人に助けてもらいながらやり遂げたはずだ。

 ケロちゃんやユエさんが見過ごすとも思えない。

「そう言えば、私、どれくらい寝てたのかな……」

 地下牢らしい。この牢屋には窓がないので昼か夜かも判らない。しかし灯りも満足に無いわりには周囲の様子が見えるから不思議。

 ふと改めて周囲を観察した時、さくらは向かいの牢に人影がある事に気づく。

「ほ、ほえ? 誰か居るの」

「――ようやく他者の存在に気づいたか。まあ気配を隠していたから気づかなくともよかったのだが」

 声は低い。薄暗いため人相などは分からなかったが男性のようだ。

「それにしても、ずいぶん様変わりな囚人だな。若い娘のようだが何をした?」

「…………」

 改めて問われると答えに困る。幼女を誘拐した。

 簡潔に答えれば、一言に尽きるが…周りの女衆たちの慌てようを思い返せば、それなりに地位の高い子だったのかもしれない。

「答えたくなければいい。どのみち私以上に愚かな罪状など有り得ないからな」

「……あなたは何したの?」

 何気なく訊いたさくらは後悔した。自分が答えづらかった質問を相手に返してどうする。当然自分の過ちなど口にしたくないはず。

 ところが予想に反して、男は普通に答えた。

「我らが親愛なる魔王陛下に、おそれ多くも刃を向けた…知らなかったとはいえ魔族としてこれ以上の罪はない…」

 その言葉に、さくらは考える。魔王に刃を向ける存在――つまり勇者だろうか…魔王の居城まで辿り着いたはいいが…勝てずに幽閉されてしまったという話?

 しかしそれなら“親愛”という表現は使わない。

 それに彼は“魔族として”と言った。つまり魔王の配下だ。それなのに刃を…ということは反逆?

 アニメなどでよくある、“元々は敵だったけど勇者の心に接するうち仲間に”という王道パターン?

 そこまで悶々と考えて、さくらは軽い自己嫌悪に見舞われた。思考回路がケロちゃんの漫画やゲーム設定の影響を多大に受けている気がする。あうぅ…と頭を抱えるさくら。

 いくら異世界と言ってもさすがに非現実的過ぎる。

 それよりも、彼は答えてくれたのだから、一方的に訊ねてばかりは失礼だ。

「私はね。えっと…原始巫女って呼ばれてた人を…軟禁? 誘拐かな? それをしちゃった感じ……」

「なっ!? ウルリーケ様に害を為したと…考えられん」

 ひどく驚愕し動揺しているのが感じられた。

 やはり、あの子は偉い人だったのだろう。

「私達、どうなるのかな?」

「……お互いの罪深さを考えれば死刑。運がよくても国外追放だろう」

 異世界という未開の地でいきなり放浪生活。

 さくらは思わず逃げようと牢の戸を蹴りあげた。

「無駄なことは寄せ。血盟城の牢獄は地の要素で頑丈に固められている。同じ地の使い手でも軟化させるには半日以上――」

 ガシャン。男の言葉を待たず、さくらの蹴りつけた錠前が鉄格子ごと外れた。

 あっけなく鍵は壊れた。

「なっ!? ? ? ?」

 さくらも驚いたが、それ以上に愕然とした気配が、男から伝わってきた。

 試しに、さくらは牢の鉄棒を力を込めて握った。

 すると鉄棒は握力だけで粘土のように凹んだ。

 まるで“力のカード”を行使する時のような自然な感覚。もちろんカードの魔法を使っている訳ではないので、なぜこんな事が出来るのかさくらにも解らないが…考えるのは後回しにして、男の幽閉されていた牢屋も同じように開け、石壁に繋がれていた男の手錠も鎖を引き千切った。

「か、怪獣なのか?」

「怪獣じゃないもんっ!」

 だが、さくらの逃走劇はそこまでだった。

 ガチャッという重い音と共に上下白衣の碧眼で緑の長髪をなびかせた美女〈フォンクライスト卿ギーゼラ〉が入ってきたのだ。

 三人は、いろんな意味で思考が停止し、その場で固まってしまったのだった。




勘の良い方はお気づきかもしれませんが、さくらちゃんの世界とこちらの世界ではアレに差があるのです。(笑)
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