さくらと不思議な箱の国   作:不協和音

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さくらと尋問という名の茶会

 数刻。同じ空間で、三者三様に絶句し固まった。

 さくらは脱獄未遂の罪が増えると憂い……

 男は何を考えているのか判然としない目でふたりを観察し……

 ギーゼラは牢に閉じ込めていたはずの人間の娘が、どう見ても力ずくで破壊された牢の惨状に、何が起きているのか理解が追いつかず困惑して……

 三様に身動き取れず、静寂が場を支配していた。

 

 しかし数刻後、最初に口火を切ったのはギーゼラだった。

「一体貴方は何をしているのですか?」

 然も呆れ顔で問われ、さくらは何を答えていいか判らず目を白黒させる。

 だが、ギーゼラの問いはさくらではなく未だ中途半端に牢に囚われたままの男に対するものだった。

「見ての通り、囚人同士の密会をな」

「ふざけないで下さい。少なくとも自分の意思でそこに居続けている者を“囚人”とは言いません」

「ほ、え? 自分の意思?」

「それとも、ようやく牢から出て閣下や陛下に許しを乞う腹積もりになりましたか? それで鎖を破壊してまで“脱獄ごっこ”を?」

 そこまで言われると男は初めて俯いていた顔をあげた。顔の左目――左側面を覆うような黒い眼帯をしているが、鼻筋の通る整った顔立ちをしていた。

「待て。それは誤解だ。この惨状の原因は娘の方だ」

「あなたの地術ではないのですか? グリーゼラ卿」

 男――〈グリーゼラ卿ゲーゲンヒューバー〉は、さくらの手元を指差した。

「見ての通りだ」

「あ、あわわっ」

 示された両手が、切れた鎖を掴んだままだったことに気づき、慌てて放す。

 ガジャンと重い音を鳴らし石壁に当たる鎖。

「魔族でもない、ましてや人間の娘がひとりで出来ることとは思えませんけど」

「同感だ。しかし事実だ」

 そもそもギーゼラの聞いていた通りなら、娘は向かいの牢に……それも手足を拘束された状態で寝かされていたはずだ。

 それが本当なら驚異的な剛力の持ち主と言えるはずだが、着衣の上から視たかぎりでは筋肉質とは真逆の華奢な体つきに思えた。

 しかしこればかりは、いくら考えてもギーゼラには解らない。故に今は敢えて考えるのをやめた。

「まあ、拘束と牢の施錠を解く手間が省けたと思っておきます。こちらに付いてきてください。お話をしましょう」

 そう言って敵意の無い微笑みを浮かべると、ギーゼラは自然に背を向け外へ。

「フォンクライスト卿には逆らわない方がいいぞ。怒らせると恐い女性だ」

「で、でも……」

 さくらはもう片方の繋がれたままの鎖を気にしていたが、男は薄く笑う。

「問題ない。行け」

 

***

 

 城の回廊は天井が高く、とにかく広い。そして細かな装飾などに彩られており美しかった。深紅のカーペットなど土足(ローラースケートのまま)で歩いていいのか躊躇ってしまう。

 しかし前を行く白制服の女性も革靴を履いているので構わないのだろう。

 そういえば外国では室内でも靴を履いたまま生活する文化があると聞いた覚えがある。異世界と言えど、そういうところは共通するのかもしれない。

 さくらがそんな風に考えていると、女性は目的の部屋まで来たようで大きな両開きの扉を片側だけ開けて入るよう促した。

「さぁどうぞ。狭いところだけど私が自由に扱える場所となると限られますから我慢して下さい」

 笑顔でそう言われ、さくらは「お邪魔します」と呟きながら大人しく入る。

 鼻をつく独特の匂い。

(消毒液とかの――保健室みたいな匂いだ)

 その感想は間違いでもないようで、室内には複数の寝台と薬品棚が並ぶ。

 さくらが興味深げに見回していると背後で入ってきた女性が後ろ手で扉を閉め施錠する音が聞こえた。

「それでは、まず自己紹介でもしましょうか。私は、フォンクライスト卿ギーゼラ…ギーゼラと呼んで?」

「あ、えっと…木之本さくらです。さくらで大丈夫です」

 するとギーゼラは何かおかしそうに苦笑する。

「ほえ?」

「あ、ごめんなさい…ウルリーケ様から聞いてはいたんだけど…本当に魔王陛下と似た響きの名なものだから、つい」

 魔王陛下。ウルリーケを始めとして、さくらと話す者は揃って引き合いに出してくる。ここは地球とは違う異世界で“魔族”の暮らす国。それなのに“魔王”はさくらの世界の地球人なのだろうか。不思議な話。

「あの、魔王さんのお名前を聞いてもいいですか?」

「ユーリ陛下ですよ」

「ゆうり…女の人?」

「いいえ。殿方です。まあ可愛らしい顔立ちではありますが…紅茶でいい?」

 ギーゼラは話しながら、室内を行き来し、洒落たカップを見せてくる。

 言われてみれば喉が渇いていた。と、礼を言おうとしたさくらは既視感を覚える。確か捕まった時も水に何か細工をされていた。

 そんな不信感が表情に出たのだろう。ギーゼラは苦笑して言葉を続ける。

「心配しなくても、自分から招いた客人に毒を盛ったりしませんよ。まあ眞魔国の紅茶が口に合うかは判りませんけど」

 信用ならないなら、私も同じ物を飲みますよ? と笑顔で言われ…さくらは、疑ったことを恥じた。

「ご、ごめんなさい」

「いいえ。むしろ知らない土地で口にする物を警戒するのは当然です。陛下にも見習ってほしいくらい」

 最後の一言だけ、悪戯っぽい笑みで言うギーゼラ。

 ――どうゆう意味だろ?

 さくらには聞き返す勇気はなかった。

 

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