さくらと不思議な箱の国   作:不協和音

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さくらと続く尋問の宴

「はにゃーん♪」

 白い湯気の立つ温かな紅茶を、ゆっくりと飲む。

 喉に染み渡る美味しさに自然とこぼれてしまった言葉に、ギーゼラは不思議そうな表情を浮かべる。

「どうゆう意味でしょう?」

「あっ、ごめんなさい。気にしないで貰えると…その…美味しくて、つい」

 地球のハーブティーに似た味だった。とはいえさくらも紅茶に詳しいわけではないので何とも言えないが…リラックスする香り。

「お口に合ったなら良かったです」

 そう言って柔和な微笑みを浮かべるギーゼラ。

 そんな和み空気に、さくらは“はにゃーん”モードになりそうになるのを堪えるのに必死だった。

 そんなさくらの心情を知る由もなくギーゼラは少し真剣な面持ちで問う。

「さて。単刀直入に申しますと、私は貴女への尋問を任されています。平時なら牢越しに行なうのがセオリーなのですが、状況が異常でしたし…何より私は、貴女を悪人とは思えなかったので、こうしてもてなす呈を採らせて頂きました」

「あ、ありがとうございます…でもあの、牢屋を散らかしちゃったのはごめんなさい。その、慌てていて」

「その事ですが…本当に貴女ひとりでやったのですか? 地の要素と盟約を結んでいるとか……」

「ちのようそ? えっと…魔法は一応使えるけど“地{アーシー}”を使ったわけじゃなくて…自分でもどうして出来たのか不思議なんだけど…」

 はうぅ…と説明が要領を得ず困るさくら。それはギーゼラからしてみても同じようで、互いに知らぬ単語が飛び交っている。

「つまり、地の精霊に力を借りたかと訊いているの」

「えっと…たぶん借りてない、です」

 おずおずと答えるさくらにギーゼラは少し考えた。

 さくらの言葉を鵜呑みにするなら純粋な腕力だけで為したということになる。

 しかし背格好は、眞魔国王女・グレタと同じかやや上くらいにしか見えない。

 ティーカップを持つ手も腕の筋肉なども年相応にしか見えなかった。

 しかし少女が嘘をついているようにも見えなかったので、ギーゼラは紅茶を混ぜるために使う銀食器を、試しにさくらに渡す。

「それを曲げてみて下さい」

 その言葉に、何の疑いもなく言われた通りにさくらは軽く力を込め、曲げる。

 さくらの感覚では銀色の粘土細工を弄ったようだ。

 しかし、ギーゼラは内心驚愕していた。

 本来、銀や鉄などの鉱物を曲げるには大きな力が要る。折るならともかく曲げるとなれば、小さな物ほど加減が難しいはずだ。

 それを目の前の少女は、顔色ひとつ変えずに。

 そして確かに、その瞬間要素の魔力を発動した気配は皆無だった。

(なんて怪力……)

 同じことが素で出来る者と言えば、ギーゼラが知る中で挙げるなら…お庭番の〈グリエ・ヨザック〉や、〈フォングランツ・アーダルベルト〉くらいだったが両者とも見合う屈強な体躯と筋肉を持っている。

 加えて眞王廟の武装巫女たちの話では、彼女たちが四方から包囲したにもかかわらず驚異的な運動能力でウルリーケを連れ去った。

 不可思議な形状をした靴の性能なのか判らないが、小柄とはいえウルリーケを抱えたまま馬並みの速度で移動する脚力も持つ。

 この少女は、本当に“人間”なのだろうか?

 否。魔王陛下の土地に住む人間、つまりは異界人と考えれば、この世界の“人間”と同じ種族としてみること自体が間違っている。

 そんな風にギーゼラが思考の渦に囚われていると、さくらが率直に問うた。

「あの、ここは…しんおうびょうの中ですか?」

「え? あぁ違いますよ。眠ったまま運ばれたから分からないのも当然ですが…今あなたの居るここは魔王陛下の居城“血盟城”です」

「けつめいじょう…え、ここに魔王さんが居るの!?」

「いいえ。残念ながら今はお国の…あちら側に戻られています」

「あちら側って地球のことですよね? お願い! 私も送ってもらえませんか……帰りたいんです」

 すがるように、さくらは請うた。しかしギーゼラは困ったように眉を寄せる。

「それを決定づける権利は私にはありません。それに陛下に危害を加える危険を拭えない現状では、陛下の居らっしゃる場所に送ることも出来ないのです」

 そんな風に言いつつ、自分の言葉に軽い罪悪感を覚える。ギーゼラは述べた内容が実現不可能だと判る。

 そもそも何を以て「陛下に危害を加えない」と証明するのか。万が一証明できたとしてもウルリーケが喚んだ訳ではない以上、送れる保証もないのだ。

 そんなギーゼラの葛藤を知らず、さくらは悲しげに俯く。そんなさくらの姿に思わず同情しそうになったのを、ギーゼラは唇を噛み堪えた。尋問官が囚人に同情するなど愚の骨頂だ。

 しかし、ギーゼラ自身も気づいているか定かではないが、そんな感情が芽生えている時点で…自然とさくらに心を許している。

 ちまたでは“鬼軍曹”と恐れられている彼女は、優しくも厳しい女性だ。

 尋問という任務に私情を挟むなど決してないと自負していた。ところが、この短時間での会話だけで「この子は悪人ではない」と明確な根拠もなく思い込み始めてしまっていた。

 と。そんな時だった。

「ダメです閣下! 尋問中は人払いをと軍曹殿が……」

「うるさい、ぼくに指図するなダカスコス!!」

 ひときわ大きな声が扉越しにも室内に聞こえてきたのを、ギーゼラは溜め息で諦めた。

「尋問官がひとり増えても平気ですか?」

「ほえ?」

 さくらが答えを返す前に扉は蹴破ったような勢いで開かれたのだった。




わがままプーのご乱入です!
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