医務室の扉を蹴破って、現れたのは絶世の美少女…否、美少年だった。
さくらの中で辛うじて認識を修正できたのは、彼が青と金を基調とした軍服を着ていたからだ。いや、男装の令嬢という可能性もゼロではない。そう思えるほど小さく整った顔立ちに、些細な挙動でなびくプラチナブロンドの短髪。白馬に乗せれば間違いなく童話に登場する王子様である。
ただ、さくらが見惚れることが出来たのは一瞬で、その美しい翡翠の双眸はつり上がり敵意の視線を込めさくらの視線と交わった。
(ほえぇっ、すごい怒ってるよぅー)
原因に心当たりがありすぎて、頭が迷走している。
「ギーゼラ! ぼくの許しもなく囚人を牢から出すとはどうゆう了見だ!?」
「許可ならグウェンダル閣下から頂いております」
少し落ち着いてくださいと紅茶を差し出す。
一瞬ぐっと言葉に詰まる美少年だが、すぐに問う。
「だとしてもだ! 尋問はどうしたッ!!」
「それも今やっていたところだったのですが」
「どう見ても茶会じゃないか! 囚人と親睦を深めてどうするんだ!!」
「少し落ち着いてくださいヴォルフラム閣下」
そこでようやく紅茶のカップを取り一息に呷る。
「こういった形の尋問にしたのは私の判断ですが…尋問方法もグウェンダル閣下より一任されてますので」
ギーゼラは努めて笑顔で説明しているが、言外に「私のやり方に口出しするな」という雰囲気を醸し出していた。そしてその台詞は彼には効果抜群だったらしく今度こそ言葉に詰まる。
しかし乗り込んできた手前、退室するつもりはないらしく、簡素な寝台に腰を下ろした。
「とにかく、話はぼくも聞かせてもらうぞ。おかしな言動を見せれば即刻斬り捨ててやるから覚悟しておけ人間め!」
そう宣言した美少年は、腰に下げた刀を鳴らす。
ギーゼラはため息を吐いて続ける。
「私の邪魔だけはしないでくださいね」
そう言ってから共に来た兵士を手振りで退室させ、再びさくらに向き直った。
「ごめんなさいね、騒々しくて…とにかくあなたの言い分は判りました。異世界からの放浪者であり、自らの意志で“禁忌の箱”に入った訳じゃない。そして可能なら向こう側に戻りたい――要約すると、こんな感じで合ってますか?」
「は、はい……」
「ふん、どこまで本当なのか怪しいものだな。だいたいユーリと同じ世界の人間だと、何を以て証明する」
ギーゼラが静かに話をまとめようとすると、聞いたヴォルフラムが口を挟む。
彼の疑念はもっともだ。ギーゼラもさくらの剛力を見てなければ信じない。
と、そこで彼女は盲点に気づく。魔王陛下ユーリにそんな怪力はなかった。
信じられない剛力を見たことで異世界人ということは納得しかけているものの…それは魔王との共通点とは言えないのだ。
他に類似する点があるとすれば名の珍しい響き。
そして黒を基調とした着衣を纏っていることだけ。
「衣服を似せれば誤魔化せるとでも考えたのかもしれないが、所詮は人間の浅知恵だ。せめて髪や瞳の色も合わせるべきだったな」
出来るものならな、とでも言いたげな視線でヴォルフラムはさくらを睨む。
さくらの栗色の髪は父譲りだ。母に似れば兄のように黒髪だったかもしれないが…それを特に気にしたことはなかった。それでも、彼の台詞は大好きな父を侮辱されたように感じた。
魔が差した、というのかもしれないが…さくらは、らしくもなく唇を尖らせて呟いていた。
「あなただって黒髪じゃなくて金髪じゃない」
「なんだと!?」
そして投げ掛けられた侮辱を笑顔で流せるほど、この王子様は大人ではなかった。
「いい度胸だ! 魔族の力を教えてやる!! ――決闘だ」
「ほえっ!?」
激昂するヴォルフラムと急展開についていけず困惑するさくら。そんな二人に挟まれる形になったギーゼラは何かを諦めたように、ため息を吐いた。
お待たせしました。
何とか年末に間に合いまして、安堵しております。(⌒‐⌒)
もっとも物語としてはあまり進んでませんけど、こんな感じのペースでやらせていただきます。p(^-^)q 次回は年明け、なるべく月1で更新出来るようにします。
気長にお待ち頂ければ幸いです。