さくらと不思議な箱の国   作:不協和音

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さくらと王子の決闘劇

 決闘。

 それは映画や演劇、空想書物などでよく見掛ける言葉。物事の正否を決めるため、時には生死を賭けて行なわれる儀式的な行為だ。

 地球上でも、歴史を遡れば世界各地で行なわれていたものらしいが…さくらの暮らす現代日本では廃れた時代錯誤な行為である。

 さくらも知識としては見聞きしたことがあるものの…せいぜい西部劇でピストルを撃ち合ったり…時代劇の中で武士が刀で斬り合ったりという、漠然としたイメージしかなかった。

 まさかそれを自分で経験する日が来ようとは。

(はうう、どうすればいいんだろ……)

「とりあえず、鉄製の胸当てと兵の兜を借りてきました。閣下相手には気休めにしかなりませんけど…頭と胸は守れるでしょう」

 ギーゼラは、そう言って持ってきた銅色の二点を、さくらに見せ「着け方は判りますか?」と問い、さくらが首を振ると甲斐甲斐しく制服の上から着付けてくれ…「重くないですか?」という問いに、ただ頷いた。

 決闘にはヴォルフラムにも準備があるらしく、「逃げるなよ?」と言い放ち、一旦退室して行った。

 なので、現在はさくらとギーゼラのふたりだけだ。

「ヴォルフラム閣下は手練れではありますが、ご兄弟の中では未熟と言えます。けれど素人の勝てる相手ではないので…逃げ回って時間を稼ぐことが賢明です。あなたの靴や身体能力なら可能でしょうから」

「わ、わかりました。あの…ありがとうございます」

 さくらはアドバイスをくれたギーゼラに対し、素直に礼を述べたに過ぎなかった。けれど、それを聞いてギーゼラは自分がいつの間にか囚人であるはずの少女の身を心配している事実を自覚され、内心動転した。

 相手は少女と言えど“眞王廟”に無断侵入した挙げ句、言賜巫女ウルリーケに不敬を働いた罪人だ。

 にも拘らず、自分は何をしているのだろう?

 そんな葛藤にギーゼラがさいなまれているとも知らず、さくらは喉が渇いていたことを思い出したかのようにギーゼラの淹れてくれた紅茶を飲み、「はぁ、やっぱり美味しいですね」と無邪気な笑顔を見せる。

 やはり悪人には見えず、ギーゼラの心の葛藤すら馬鹿馬鹿しく思わせる。

 これが何らかの魔術によるものならば…ギーゼラも不信感を保つことが出来ただろうが、少女から感じられる包み込むような空気は要素や魔法薬などにある擬似的な違和感は一切無い。

 そして、その空気はおそれ多くも魔王陛下のそれとどこか似ていた。

「これから決闘だと言うのに…恐怖や緊張はないのですか?」

「あや、そうでした。でもいまいち実感持てなくて…ギーゼラさんのアドバイス聞いたら…なんとかなる、大丈夫かなって」

 困ったように笑うさくらにギーゼラは返す言葉が見つからず、諦めにも似た息を吐いたのだった。

 

 城内にある中庭。そこがヴォルフラムの指定した決闘の場だった。奇しくも、その場所は過去に魔王陛下と彼が同じように一戦交えた場所である。あの時は、前魔王陛下をはじめとするそうそうたる面々が見物に集まっていたものだが、今回は居合わせたのがギーゼラだけだったこともありギャラリーは居ない。

 強いて言えばヴォルフラムの近衛騎士ぐらいだ。

「閣下、ほどほどにしてくださいよ?」

「わかっている。ユーリの時とは違うんだ。人間の小娘相手に本気にはならない…ちょっと脅かしてやるだけさ。ぼくだって子どもじゃない」

 ギーゼラの申告に、余裕を見せて応じるヴォルフラム。少しは頭が冷えた様子だが、本当に“子どもじゃない”なら決闘など大人げないとは思わないのだろうか。囚人とはいえこんなことで尋問中に怪我をさせたとなれば、叱責を受けるのはギーゼラである。

 ヴォルフラムに小言を言った後、戻ってきたギーゼラはさくらに西洋風の剣を渡した。刀身が細長いためか、さくらが持っても重さは感じなかった。

 しかし剣など扱ったことのないさくらには重量感など関係ない。

(小狼くんなら上手く使えるんだろうけど……)

 しかし彼は彼だ。ならばさくらもさくらなりのやり方で挑むしかない。

(うん。なんとかなる!)

 カードたちとの歴戦で、場数だけは踏んできたのだ…その経験を信じよう。

 そう思い、覚悟を決めたさくらの耳に、少し離れたギーゼラの声が聞こえた。

「良いですか? 決着は先に剣を手放した方の負け、とします! では――始め!」

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