時系列が幕間の前です。
ヤモリをそのまま大きくしたようなモンスター。【ダンジョン・リザード】。
エイリルはそのモンスターに
まずは一太刀。
一撃で決めきれなかったと判断し、エイリルは直ぐに飛び退きます。
ダンジョン・リザードはすぐさま噛みつきますが回避の方が速く、ガチンと歯と歯がぶつかる音が鳴りました。
二太刀目は反省して首を狙います。
勢いよく踏み込んで刺突を繰り出して、右目を貫きました。
すぐに
右目を貫かれたダンジョン・リザードは痛みで最大限の鳴き声を出しました。
エイリルは別に狙いを外したわけではありません。首を貫くはずだった
その理由は単純。ただ、限界を感じ始めたのです。
ダンジョンに潜り始めて一週間が経ちました。現在の階層は4層で、潜りたての新人冒険者としては順調すぎるペースです。
五つあるステイタスの【基本アビリティ】の値も魔力を除いて【評価H】、100以上200未満にまで上がりましたが、これ以上潜るのには一つ上の【評価G】に上がる必要性を感じ始めたのです。
エイリルは現在、友人たちと勝負をしています。誰が一番早く【ランクアップ】を果たせるか。単純ですが難しい勝負です。
【ランクアップ】とはつまり、レベルを上げる事です。レベルはステイタスを上げるだけでは上がりません。先人曰く、なにか偉業を成し遂げ、自分の殻を破った時に訪れる。
簡単に言ってしまえば強いモンスターを倒せばいいのですが、そんなモンスターは文字どうり強いモンスターです。レベル1の冒険者では絶対に死ぬと言われるぐらいには。
エイリルはランクアップできそうなモンスターに目星をつけています。
その中で上層に出現するモンスターでは【インファントドラゴン】、
危険ですが中層には【ミノタウロス】と呼ばれるレベル1が遭遇したらほぼ死亡確定と言われているモンスターもいます。
それらのモンスターを相手するには高いステイタスが必要でしょう。低いステイタスでは確実に死んでしまいます。
本当はじっくりと基本アビリティを上げたいのですが、そうも言ってられません。
レベルを上げる理由はもう一つあります。エイリルの所属するミアハ・ファミリアは現在、膨大な借金があります。その理由をエイリルは知りませんし、知ろうとも思いませんが、無理を言って入団した時、いじらしくなって無茶な約束した事をエイリルは憶えています。
"半年でレベルアップします。絶対にします"
"その意気込みは嬉しいが、無茶はしないでくれ"
"分かったから……入団したからには死なないでよね"
"これは約束ですよ。絶対にやり通しますから"
ただの口約束ですが、それはエイリルの原動力でもありました。
そして計画を立て、三ヶ月前後でステータスを仕上げ、ランクアップを図る気でしたが、初めて一週間でこの計画は明らかに無理だとエイリルは思い始めていました。。
ステータスを上げるには効率よく無理をしないと目指す【評価S】、900以上1000未満を三ヶ月で達成できそうにありません。どんどんステータスの上がり方が緩くなっていくのです。一日全力で潜って最初は合計で200以上上がったのが、今では合計で80上がればいいほうです。
だから少し、無理をすることにしました。
エイリルはゆっくりと後退りしながら
そして素手でダンジョン・リザードに飛び掛かりました。
オラリオを目指す隊商の中で、とあるドワーフが言った言葉が思考占拠します。
"無理も押し通せば、道理となる"
旅の初め、そう言ってドワーフは道を塞ぐ大岩を半日かけて砕いたのです。
今でも言葉の意味はよく分かりませんが、それは真実だとエイリルは思いました。
♢♢
【豊饒の女主人】は西のメインストリートに面する、冒険者が多く利用する人気の高い店です。元冒険者のミア・グランドが経営するこの店は先ほど営業を開始したばかりで、まだ人は少ない時間帯です。
エイリルはダンジョン・リザードとの激闘を制し、豊饒の女主人で少し早いお昼ご飯を食べていました。
ダンジョン・リザードは最初は不意を打てたおかげでペースを握れていたのですが、途中から何かに憑かれたかのように動きが変わり、苦戦を強いられてしまいました。
そのおかげで身体中がボロボロです。
エイリルは少し反省しました。
まさか素手で戦うだけでモンスターにあそこまで苦戦するとは思わなかったからです。
たしかに良い方法かもしれませんが、一戦一戦に命を賭けた戦闘をするほどエイリルは狂人ではありません。
なにか別の方法を探した方がいいのか知れません
「どうしたんだい、難しい顔して」
そんなふうに悩んでいるエイリルにいきなり、豊饒の女主人の女主人のミア・グランドが話しかけてきました。。
「別に遠慮なんてしなくていいんだよ。あんた悩んでんだろう、例えばそう――ステイタスの事とかで」
エイリルは驚きました。悩みを的中されたからです。
正直、ミア・グランドとエイリルに接点はありません。ただ店を利用するお客様と店主の関係なのです。多くの客が集まる豊饒の女主人の店主にとってエイリルは大勢の一人にしか過ぎないの筈なのです。
「なんで、分かったんですか?」
「別に特別な事じゃないよ。あんたみたいな冒険者は沢山いる。それだけさ」
何気なくミア・グランドは言います。
「そんな甘い冒険者の悩みを解決するのは、先輩として当たり前だろう」
なるほどと思いました。確かにエイリルと同じような悩みを冒険者は普通なのでしょう。エイリルは相談するのも悪くないと思いました。
「なら少しだけ」
「はいよ、どんと聞いてやるよ」
エイリルはステイタスの伸びが悪くなった事と、それが打開すべくモンスターに素手で挑んだ事を話しました。
「なるほど、それでそんなにボロボロなのかい」
「にゃはははっ!バカにゃ!本物のバカがいるにゃ!」
いつのまにかエイリルの隣には
エイリルは驚きましたが、バカと言われた事にむっとしてしまいます。エイリルは自分の選択は間違ってないと思っていたからです。
「アーニャ! そんなサボってないで仕事しな!」
「サボってはないにゃ! 仕事が終わったんだにゃ!」
「そうかい! ならリューを手伝ってきな! 減給するよ!」
「分かった、分かったにゃ! だから減給しないでぇ!」
嵐のようなやりとりをしてアーニャは店の奥に引っ込んでしまいました。
呆気に取られてしましましたがエイリルはすぐに気を切り替えてミア・グランドに質問しました。
「それで、ステータスを上げるにはどうしたらいいんですか?」
ミア・グランドは少し考えて答えます。
「やっぱり、月並みの言葉になるけどモンスターを沢山倒すしかないわね」
エイリルは予想通りだと思いました。実際、モンスターを倒すことが最も効率よく上げられると思っていたからです。でなければ冒険者はダンジョンで鍛えようなんて思いません。
「それでは、モンスターを効率よく倒せる武器ってなんですか?」
「斧だね。間違いない」
ミア・グランドは即答しました。
エイリルにはなぜ斧なのか想像できません。斧は一撃の威力は確かですが、振りが遅く小回りが利かないからです。
それなら剣を扱った方が連続で攻撃できます。
「いいかい.
斧はね、叩き潰す武器なんだ」
「叩き潰す...?」
「そう、叩き潰すんだ。硬い鱗も皮膚も肉も骨も関係なく確かな一撃を入れられて、場合によっては一撃で事足りるからね」
「けど、斧は振りが遅いです」
「そんなもの早く振りな。ステイタスが上がれば軽々と扱えるさ」
少しだけ、納得しました。
しかし自分で試してみなければ分かりません。
「どうだい、悩みは解決したかい?」
「いいえまったく」
「そこはお世辞でも解決したって言うべきだろう!?」
エイリルは席を立ちました。悩みは解決していませんが解決策は見えた気がしたのです。
「なんだい、もう行くのかい」
「はい、ちょっと試したいことがありますので」
そういって少し多めに食事の代金を置いて振り返ります。エイリルはこれからの事を考えました。まずはギルドでお試しとして斧を借りて、使い心地を試します。上手くいけば新しく斧を買うかもしれません。
そんな事を考えて歩き出しました。
「所で今、ちょうどデザートが一品半額だけど食べるかい?」
「ちょうど今、小腹が空きました」
すこしゆっくりしても罰はあたらないでしょう。
次は時系列が幕間の後に出来そう。
・・・。