取り合えずステイタスをねじ込みました。
オラリオの空は真っ暗で吐く息は薄く凍えてしまいます。前の住人の家具がそのままになっている青の薬舗の一室でエイリルは目覚めました。
ベッドから下りて軽く準備運動をします。しゃがんで立ち上がって、しゃがんで立ち上がって、腕を掴んで腰を捻って、慣れた動作で反対の向きに体を捻ります。
それからいくつかの動作で体を温めてから部屋を出ました。
部屋を出て店頭に出ると、ミアハ・ファミリアの主神、ミアハがいました。
「おはようございます。ミアハ様」
「ああ、おはよう。相変わらず早起きだな」
軽い挨拶を互いに交わして、少しばかり会話を弾ませます。
「ああ、そうだ。エイリルに贈り物があるんだが、受け取ってくれないか?」
会話の終わり際、ミアハが袋を取り出しエイリルに渡しました。
エイリルはミアハから袋を受け取り、驚きます。袋は普通の大きめの袋に見えましたが、実は
「それは友神から君に渡すように頼まれた物だ。普通の袋に見えるが中身は外見の三倍は入る、と友神はいっていたよ」
ミアハは魔道具の扱い方をエイリルに教えます。袋は三重になっていて真ん中の袋は酷く脆いため、気をつける必要がありそうだとエイリルは思いました。
「もしかして試作品ですか、これ?」
「うむ、よくわかったな。使用した感想を聞かせてほしいとも言われたぞ」
「やっぱり
ミアハの
「それでは、行ってきますね」
しかたないのでエイリルは魔道具をしっかりと使用して、改善点を沢山見つけて嫌がらせをしてやろうと思いました。
「待ちなさい。昨日はステイタスを更新しなかっただろう」
店の扉に手を掛けたエイリルをミアハが呼び止めます。エイリルは昨日ステータスを更新し忘れていた事を思い出し、ミアハに従いました。
♢
【エイリル】
Lv.1
力 :A 814⇒A 826
耐久:B 719⇒B 721
器用:B 798⇒A 819
敏捷:A 812⇒A 815
魔力:C 699⇒B 718
《スキル》
【転機取得】
・行動の切り替え時それが不可能な程、ステイタスに高補正
・行動の切り替え時それが不可能な程、魔力を消費してステイタスに補正
♢
エイリルがダンジョンに潜り始めて、もう二ヶ月近くが経ちます。ステイタスも順調に伸びていますが、伸びれば伸びるほど少しばかりの不安がエイリルの中に芽生えました。そういう時に限って、エイリルに予想外で印象的な出来事が起きます。
お昼時。エイリルは地上に上がる道中、7階層の最奥に位置する【
【
エイリルは食糧庫にいたモンスターを全て灰と魔石とドロップアイテムに変えた後、食糧庫の樹木から流れる樹液を袋から取り出した保存瓶の中に詰めていきます。
これはミアハから頼まれた事でした。ポーションの研究に使うそうなのです。エイリルは調薬の事は聞いた事しか知りませんが、確かにモンスターの食事の全てを賄うこの樹液は素材にになりそうだと思いました。
「まってよっ、リイル! そっちは食糧庫だよ……!」
樹液のような液体を詰めた瓶に蓋をしたとき、そんな声が聞こえてきて、まっすぐエイリルのいる食糧庫に向かってくる足音が聞こえました。
エイリルはその声と名前に聞き覚えがあります。
「見つけた、エイリル」
あっというまに足音は近づき、食糧庫の入り口に狼人の少女が現れました。
「久しぶりです。リイル、ルガイド、ユフィ」
「よう、久しぶりだなエイリル」
「ああっ!エイリル!」
リイルに遅れてエルフの少女ユフィと小人族の男の子ルガイドが現れました。エイリルと彼女たちは実に二ヶ月ぶりの再会です。三人とも二か月前より少し凛々しくなったように感じました。
久しぶりに再会した四人はそれから、一緒に地上を目指すことにしました。
♢
リイルの扱うナイフがパープル・モスに止めを刺すべく迫ります。
「それで三人ともロキ・ファミリアなんですか」
「だってそうでしょ、レベルを上げるには高いステイタスが必要だし、それなら上級冒険者に鍛えてもらう方が速いじゃない。ってあなたは一体何処に入ったのよ?」
「それは俺も気になるな。正直、全員が最大手ファミリアに入るだろうとは思っていたし、それなら一番最初にロキ・ファミリアに来ると思っていたんだ」
♢
ルガイドの槍がウォーシャドウの頭部を貫き、すぐさま引き抜いて次のウォーシャドウ目掛けて槍を横なぎに振ります。
「いやっ! 今すぐ抜けなさいよ、そのファミリア! そんな借金、零細ファミリアに払い切れるわけないじゃない!」
「ユフィの言う通り、払い切れるわけない。一緒のファミリアに入ろうよ、エイリル」
「いやです。抜けません。それより返済の方法を考えるのを手伝ってください。私ではダンジョンで稼ぐぐらいしか思いつきません」
♢
エイリルの振るった斧がフロッグ・シューターの下顎から上を切り飛ばし、
「まず一括で払い切る方法は考えるだけ無駄よね。月々の支払いを店として払えるようにしないと」
「ああ、それに借金をしている相手は【ディアンケヒト・ファミリア】、そのナァーザって団長の言ってることが正しいのならミアハ様の事を目の敵にしているらしいぞ。しかも【ディアンケヒト・ファミリア】は大手の医療系ファミリアだ。店として繁盛してても利益を度外視して邪魔してくる可能性もあるかもしれない」
「つまり店が唯一性を保てるような商品が必要? 真似できないような性能のポーションとか。考えつかないような素材が必要かも」
♢
ユフィが杖を振るい、コボルトのその首をあらぬ方向に曲げました。
「唯一性ある品が出来たのなら、是非とも利権がほしいな。利権を取れれば唯一性が保たれるだろうし、その品を売る権利を定期的に買わせればそれだけで儲かるだろ」
「問題は作れるか、だと思
「そうですね。【ディアンケヒト・ファミリア】は大手の医療系ファミリア、当然多くの影響力の強いファミリアと関係を持っている筈です。ダンジョンの珍しい素材も、そうじゃない素材も簡単に手に入れられて、研究しているはずです」
♢
四人は無事にダンジョンから出られました。エイリルは思います。今日ユフィたちに会えたのは本当に運が良かったと。
エイリルは早速、今日の事をミアハとナァーザに伝えようと思いました。あんな膨大な量の借金が返せるかもしれないからです。
「ちょっと待てよ、エイリル。せっかくだし一緒に昼飯を食おうぜ。まだまだ案を煮詰めたいしな」
走り出そうとしたエイリルをルガイドが肩を掴んで止めます。たしかにルガイドのいう事は正しいのです。曖昧に事を伝えるより、しっかりとした作戦を練って伝えるべきなのだと、ルガイドがエイリルを説得します。
「確かにそうですね。では昼ご飯にしましょう」
エイリルは説得に応じ、訊ねます。
ユフィ、リイル、ルガイドは豊饒の女主人がいいと言いました。
確かにあそこは良い店です。エイリルは一人納得して、四人の先頭を歩くルガイドに続きました。
今までで一番よくかけた気がする。