オラリオを探索する話はそのうち幕間で書くかもしれません。
豊饒の女主人にてエイリルと食事をしたルガイド、リイル、ユフィの三人は上機嫌なエイリルに明日の約束を取りつけ、ロキ・ファミリアの
「それにしても二ヶ月くらい会ってないだけで、凄い変わってたわね」
ユフィが嬉しそうに言います。彼女は約二か月間、音沙汰のなかった自分の友人がしっかりとやれていると知れて嬉しかったのです。
「ああ、変わってたな―――悪い方に」
ルガイドがそう言います。ユフィには一瞬、ルガイドが何を言っているのか分かりませんでした。だってエイリルはあんなにも元気だったのですから。
「これは予測だが、確実に当たるぞ」
神妙な面持ちで、それでいて苦々しくルガイドが言いました。これにはユフィも黙ってしまします。いつも陽気なルガイドがその雰囲気をがらりと変えるときは、取り返しがつかない事が起きる前触れだと仲間内の共通の認識だからです。
「あいつは確かに元気だった。だが体の方は疲労を限界まで溜めている。いいか、普通なら体に異常が有れば心に現れる。体が傷を負えば、心も痛いと思うだろ? だがあいつは元気だ。体は悲鳴をあげているが、心は普通に元気なんだ」
"この差が解るか? ユフィ"そう問いかけられてユフィは悩んでしまいます。ユフィが答えを出す前にルガイドは元の陽気な雰囲気に戻ってしまいました。
「まあ、つまりは心が麻痺していて肉体の限界に気づいていないだけなんだが。簡単に言ってしまえばそのうち疲労で倒れるぞって事だ」
ユフィはそう言われて納得しました。しかし次は疑問が浮かび上がります。それはオラリオに来て二ヶ月間でそこまで肉体を追い込めるか、という事です。
「エイリルは何をしたのよ……?」
「それについては単純にダンジョンに潜ってたんだろ。ただし、活動の限界までな。根拠もあるぞ、"ダンジョンには血に飢えた羊がいる"」
「"ダンジョンには血に飢えた羊がいる"……それってあれよね? 真偽が確かなお話。血まみれの冒険者を揶揄した話でしょ」
「そうだが、元は話でも何でもなくただの噂なんだ。"ダンジョンの中、カンカン金属が響く音がする。音の方向に出向けば、血を飲むように浴びる羊の獣人がいた"」
「羊の獣人、それがエイリルなの?」
「見間違えたんだろ。初見じゃ山羊の獣人なんて誰もきづかねぇよ」
確かに、とユフィは同意しました。ユフィも始めは、エイリルのことをずっと羊の獣人だと思っていたからです。
「エイリルの武器、凄い血のニオイがした。数千以上の血のニオイ」
今まで黙っていたリイルが補足するように言います。数千以上、そう考えてユフィはぞっとしました。そんな数、たった二ヶ月で倒すようなものではありません。
「まあ、エイリルがこのままだと間違いなく倒れるという事は分かったわ。それで何をすればいいのよ、ルガイド」
ユフィは思考を切り替えます。どうしようもない事を考えるのは、ユフィの主義ではありません。そんな事をするくらいなら、嫌いな編み物をしたほうがずっと有意義です。
「分かった、それじゃ作戦を告げる。リイルも協力してくれるな?」
「……うん。協力……する」
「どうした眠いのか?」
「…少しだけ。でも我慢できる」
少しの不安も有るもののルガイドは作戦の内容を告げました。まず明日の約束でエイリルは何時もより遅くですが、朝早くバベルの前に集合する事が予測されました。そこでリイルとユフィに夜更かしをしてもらい、寝ぼけた状態から目覚める為という口実でオラリオを散歩します。そして午後からダンジョンに潜る。
ルガイドは、この作戦がエイリルを精神的に疲れさせる為の作戦だと言いました。疲れさせて、心の麻痺を解すのです。心の麻痺が解ければ、自ずと肉体の疲れを感じとるでしょう。
「いいか二人とも、明日の作戦は恐らくだが完全に成功しない。だから切っ掛けを作るだけでい」
「ルガイド。それは分かったけどダンジョンに潜る必要はある?」
「それは私も思ったわ、そもそも休めとエイリルに直接言えばいいじゃない」
ルガイドは二人の疑問に丁寧に答えます。
「まずはリイル。ダンジョンに潜る必要だが、あいつは今まで一人で潜っていたんだ。他の人間と潜った事はまずないだろう。作戦の本題は精神的に疲れさることで、その方法は慣れない事をさせればいい、簡単だろ? それにさっき約束をしたからな。あと、その約束を足掛かりに週に何日か一緒に潜る約束を取りつける。一緒に潜れば負担も減るし無茶も出来んだろ。
で次にユフィ。あいつが頑固な事ぐらい知ってるだろ。自分を曲げるような事は決して自分からしない。そんなあいつは今、レベルを上げることに執着している。俺らが休めと言っても、出し抜こうとしているぐらいにしか感じないだろうな」
ルガイドの言葉を聞いて、ユフィは少し後悔してしまいました。自分が安易に約束しなければエイリルが無茶しなかっただろうと思い、胸に蟠りができたように感じます。
「んじゃ、さっさと帰るぞ。門限を過ぎたら主神さまに怒られちまうぞ」
三人はそれから、話題を明るいものに変え帰路を歩く足を少しばかり速めました。
もう少しスマートに書きたいな。