クソニート、TSするってよ 作:いたちしゃーく
「いたいたいたいたいたぁぁぁぁぁぁ!!おいおいおい!!おぃ!!聞いてくれぇ、正宗ぇぇぇ!!俺は、俺はぁぁぁ、ようやく俺の天使に出会ったのだぁ!!」
珍しく食堂で飯を食う気になった昼休み。
カツ丼のカツを口に突っ込もうとした絶妙なタイミングでアホが定食を両手にやってきた。高校入学から染めてる茶色の髪を靡かせつつ、性格とは不釣り合いな整った顔に主人に飛び付つ犬みたいな表情を浮かべながら。
こいつは俺の知り合いの中でも間違いなく超ド級のアホ。小学から付き合いのあるダチの一人、西宮夏雄だ。
アホは俺の断りなく目の前の席に座り、みそ汁はおろか米にも手をつけず話をしようと身を乗り出してきた。飯を食うんじゃねぇのか。こいつは。
そのまま無視してカツを口に突っ込もうとすると、箸を持つ手を叩かれ衝撃でカツが丼に戻る。軽く殺意を抱いたが、アホはそんな事関係ないと言わんばかりの笑顔をこっちに向けてくる。
「呑気にカツなんて食ってる場合じゃぁないぞ!聞いてくれ、正宗ぇ!!俺の天使の話を!!あの出会いはつい先日の事だった!」
「おい、話を聞くとはまだ言ってねぇぞ」
「そう、それは俺がバイトしてた時の事だ!!悲しみにくれる俺の前に、突如彼女が、天使が降臨されたのは!!清楚で奥ゆかしい彼女は━━━!!!」
「聞け、こら。本気でぶん殴るぞ」
喧しく話始めたアホの話によると以前から聞いてた商店街の玩具でバイトしてる時、ちょっとした出会いがあったらしい。
「それが天使か、変わった名前だな。また騙されてんじゃねぇのか」
「名前は聞いてないの!天使は仮だ!まぁ、俺の天使である事に変わりはないんだけど・・・つか、騙すってなんだ!マイエンジェルがそんな事するかぁ!ボケ!ぶっ飛ばすぞ!!俺のショコラたんに目をキラキラさせてくれる、心優しい穢れなき乙女だぞ!!ぶっ飛ばすぞ!!」
「喧しい、てめぇこそぶっ飛ばすぞ。つーか、それ心がどうとか関係ねぇだろ。その女がただのオタクだっただけじゃねぇか」
「はぁぁぁぁぁぁん!?あんなに清楚で奥ゆかしくて素朴に美しい、小動物みたいな愛らしさの塊みたいな女の子がオタクの訳ねぇだろ!!殺すぞ!!ピアノとかお琴とかやってるに決まってんだろうが!あれはなぁ、きっと合わせてくれたんだよ。きっと妹とか、親戚に幼い女児がいて、それでたまたま知ってただけに違いない!だって大和撫子だぞ、大和撫子!!絶滅危惧種の!!」
「大和撫子は別に絶滅危惧種でもねぇよ。つーか、支離滅裂過ぎるだろ。お前の中で天使はどうなってんだ」
俺の言葉に夏雄は懐からノートの切れ端を出してきた。
嫌な予感を覚えながら様子を見てると、その紙を突きつけてくる。紙に書かれていたのは天使の輪っかと羽のついた、白いワンピースをきた女だった。
「悪い事は言わねーから、病院に行ってこい」
「大丈夫だ。頭の中身以外は正常だって言われた」
「もう行かされてんのかよ」
「妹がめちゃくちゃうるさいんだもん」
呆れながらもう一度紙を見ると、その女の顔が描かれてない事に気づいた。書き忘れたのかと思ったが、こうまで熱弁する相手の顔を書き忘れるってのは妙だ。アホに聞いてみれば、実は・・・と話出す。
「顔見てないだ?」
「お、おう。俺としたことが、その・・・」
「目がキラキラしてたとか言ったのなんだよ?」
「そ、それはイメージというか・・・いや、顔は見たんだよ。見た筈なんだよ。でも、その、お、女の子だって気がついてから、その記憶が、なんていうか、飛んでるというか、すぐ顔背けちゃったしで確認してないから・・・・」
こいつが彼女にこっぴどくフラレて以来、女性不振気味になってたのは知ってたが、まさかここまで酷いとは。元々女の前だと緊張して上手く話せないやつではあったが、流石に顔も見れない程じゃなかった。女に幻想なんか抱いてるからだ馬鹿が、と思わないでもないが・・・それを言った所でどうにかなる事もない以上、それを言うつもりもないが。
「じゃぁ、何処の誰だかもわかんねぇのか?」
「・・・・・そうだよ。俺はへたれだよ。殺せよ」
「いや、殺さねぇよ。面倒くせぇ」
「あっ、おっぱいは大きかった気がする」
「最低な所だけバッチリ覚えてんじゃねぇよ」
女の方に非があったのは間違いないが、こいつがフラレたのは必然な気がする。悪いやつじゃないんだが、時折死ぬほどアホな事言うからな。今みたいに。黙っとけば、それなりに見れた顔してんだが・・・・まぁ、それを帳消しにするレベルでアホなんだけどな。
少し話して落ち着いたのかアホは最初の元気を銀河の果てにかっ飛ばして、肩を落としながら飯を食べ始めた。俺もようやくカツを口にする事が出来た訳だが・・・まぁ、すっかり冷めていた。不味くはねえが、出来れば温かいうちに食べたかった。
「・・・正宗、何とか探せないだろうか。付き合うというのは相手の気持ちもある事だしな、その話だけでもしたいというか・・・」
「はぁ?何もわかんねぇやつ、どうやって探すんだよ」
「それは、そうなんだけどな・・・姫ねえさんに声を掛けて貰うのは━━━━」
その言葉で頭に過るのは高笑いしながら俺にプロレス技を掛けてくる糞姉貴の姿。このご時世、時代錯誤ともいえるレディース総長を務めてた姉貴は、学生時代暴れに暴れまくった。当然そんな糞姉貴に恨みを抱く者も少なくなく、とばっちりは俺にまで回ってきていた。夏休みの間なんか、補習帰り何度襲撃されたか記憶にないレベルだ。
「ふざけろ。姉貴に頼み事するくらいなら死ぬわ。あの糞姉貴のせいで、俺がどんだけ迷惑被ってっと思ってんだ?ああん?」
「そうだよなぁ・・・悪かったって。姫ねえさん今何してんだ?大学いかなかったんだよな?」
「知らね。日本の何処かにはいんだろ」
卒業と同時にバイクに股がって颯爽と地平線の彼方に消えてったやつが何処にいるとか分かる訳ねぇだろ。一応電話番号は知ってても連絡するつもりはねぇしな。親父は連絡とってるみたいだが・・・どこにいるんだか。
アホと飯を食ってると購買のビニール袋を下げた同じクラスの奴等がやってきた。その内の一人、ピアスをチャラチャラさせる岡本が軽く手をあげる。
「うーす、独眼竜。今日は西宮と一緒かよ。より戻したん?」
「面白い冗談だな、岡本。ちょっと面貸せ、二回殴り飛ばしてやる」
「たははは、怖い怖い。冗談なの分かってんならスルーしろよな。辰上はカルシウム足りてねぇなぁー、まったく。ほら、牛乳に相談でもしとけよ」
放り投げられたそれを手に取って見れば、言葉通り紙パックの牛乳だった。ただ貰う理由がない。
「何のだよ?」
「この間教科書貸して貰ったべ?俺は借りはきっちり返す派だかんよ!」
「やっすいな、レンタル料が牛乳一本か」
「おまっ、あんなにボロボロな教科書で、どんだけゴーツクバリなの!?お返し貰えるだけ感謝しろよな!?」
憤慨しながら岡本達は近くのテーブルへと座り、購買で買ってきただろうパンだのおにぎりだのをテーブルの上へ広げていく。
「で、なんの話してん?女?」
「このアホがな」
そう言ってアホを指差せば、岡本は怪訝そうな顔をした。それから俺の言った内容を理解して満面の笑みを浮かべる。
「おっ?そうなん?西宮、女嫌い治ったんか!よっしゃー!おい、お前ら賭けは俺の勝ちな!ほらな!だから言ったろ、その内正気に戻るってよ!ホモにもなってねーし、二次元嫁と結婚宣言もしてねーかんな!ほら出せ出せ!一人二百円だぞ!」
こいつら賭けしてたんか。
まったく、どうしよーもねぇな。
西宮が怒るかと様子を見れば、何故か不思議そうな顔をしていた。
「ミルフィーとショコラは俺の嫁だが?」
アホの声が周囲に響いた瞬間、空気が冷えた。
一瞬にして静寂が訪れる。
だが、その静寂もそう長く続かず、賭けの勝敗が変わった事を理解した連中によって岡本との仁義なき争いが始まった。
騒ぐ馬鹿共からきょとんとしてるアホへ視線を送り、俺は思ったそれを投げ掛けた。
「・・・・・お前、甲斐性ねぇんだから、せめてどれかにしろよ」
「えっ、え、いや、三次元と二次元は両立出来るし!?」
「そんなに器用だったらフラレてねぇだろ」
「ぬっ、ぬぐぅぅぅぅぅぅ!」
放課後、アホに付き合い商店街へと足を運んだ。
目的は言わずもがな、例の女を探す為だ。正直付き合うつもりはなかったんだが、一応友人である夏雄に本気で泣きつかれてどうしても見捨てられなかった。
とはいえ流石にタダでっつーのは癪に障ったので、借り一つにはしたが。
商店街をぶらつきながら目当てを探させるが、やはりお目当てのやつは見つけられないようだ。そもそも顔もまともに覚えてないで分かる訳もないんだが、アホは諦め切れないようで辺りをキョロキョロと動きが喧しい。
「はぁ・・・おい、俺ちっと行くぞ」
「どこ行くんだよぅー!お前、手伝うって言ったろ!」
「帰る訳じゃねぇよ。ちっとアサギリのおっさんとこ行くだけだ。お前もなんかいるか?」
「じゃぁ、スルメを」
「ジジイか」
アホを商店街において近くのアサギリ雑貨店へ入る。
相変わらず何屋か分からない店内を進んでくと、アサギリのおっさんとその娘の南さんの姿を見つけた。二人は俺を見つけると「いらっしゃい」と声を掛けてきた。
「おう、悪ガキ。元気そうだな」
「こら、アホ親父。こんなチンチクリンでも私の客だぞ。もっと丁寧に物言え、こら」
「何だとっ、親に向かって何だその口の聞き方は!」
「あーうっさいなぁ。そんなんだからお母さんに逃げられるのよ。そんなに元気なら倒れないでよね。誰の為に私が帰ってきてやったと思ってんの?」
「くっ、お、俺は別に頼んでないわ・・・」
「あーはいはい。分かったからさっさとお帰り。病人のくせして直ぐ表出てくんじゃないの。治るもんも治らないでしょ」
しっしっと追い払われアサギリのおっさんは、納得いってなさそうな顔をしながらもスゴスゴと店の奥に帰っていった。おっさんが倒れたのは聞いてたが、みた感じは全然元気そうに見える。なんの病気で倒れたんだか。
「ごめんね、うちのアホ親父が。それで今日は何買いにきた?姫ちゃんのおつかい?」
「・・・いや、姉貴は春から行方不明なんで」
「あーまだ帰って来てないの?普通なら心配する所なんだろうけど、あの姫ちゃんじゃぁ心配するだけ馬鹿らしいか。あははは」
寧ろ誰かに迷惑掛けてないかの心配しか出来ねぇ。
取り敢えず姉貴の事は忘れ頼まれてた小袋に入ったスルメと炭酸ジュースを二本、それと菓子パンを一つ会計してもらう。南さんは買ったそれを袋に詰めながら「んー?」と唸る。
「スルメなんてジジ臭いもん好きだったっけ?」
「いや、スルメは夏雄のやつっすよ」
「あー夏雄くんか。黙ってればカッコいいのにねぇー。なんか色々残念だよねーあの子は」
「そうなんすけど、あいつには言わないで下さいよ。今ちっと色々あって落ち込んでんで」
「そうなの?まぁ、何かあったんだろうとは思ってたけど・・・」
そんな話をしながら袋を渡された時、ふとそれが頭を過った。あのアホの言葉だ。
「南さん、いきなりであれなんすけど、天使っぽい女子知らないっすかね?」
「???天使っぽい女子???」
南さんは俺の言葉を聞いて顎を擦る。
目を瞑ってうんうんと少し考えた後、スッと目を見開いた。
「正宗くん、辛い事があったなら私幾らでも聞いてあげるから。ねっ、話してごらん?」
「結構傷つくんで、その優しい目は勘弁して下さい。俺も大概頭の悪い聞き方したとは思ってるんで」
その後もアホと一緒に商店街を探したものの、それらしい人物は見つけられなかった。手がかりが無いのも同然なのだから、元より見つけられる道理もないんだが。
帰り際アホと一緒に帰ってるとその妹である遥と会った。跳び蹴りされるアホを眺めた後、小学校とは別方向から来た遥になんとなしにその理由を聞くと「野暮用よ」らしい。小学生の野暮用ってなんだ。
付かず離れず帰ってく夏雄達を見送り、俺も家に向かって歩き出す。そんな時、夏雄の天使という言葉がまた頭を過った。
別に夏雄みたいに天使にあったと言いたい訳じゃない。
ただ天使って訳じゃないが、夏休みに随分とトロそうなお人好しにはあった覚えがあったのだ。
「・・・・ま、天使って程じゃねぇしな」
容姿は取り立てて可愛かった訳じゃない。どっちかと言えば地味。安心する顔とか言うんだろうか?どのみち美人かと聞かれれば首を捻るレベルだった。胸はでかかった気はするが、夏雄の話ぶりを考えると合いそうもない。
「夏雄のやつ、夢でも見てたんじゃねぇーだろうな」
明日からも付き合うであろうアホの事を考えると、俺はどうしようもなく頭が痛くなっていった。