翌日、目覚めると、尚文君がいなかった。ロクに寝ていないはずなのに、尚文君は朝が早い。
外へ出ると、尚文君がフィーロと遊んでいた。犬と戯れるがごとく、木の枝を投げてはキャッチさせるという遊びをしていたらしい。尚文君の笑顔が爽やかだ。
その日も、フィーロをレベル上げに連れ出した。リファナは宿屋でお留守番である。
フィーロの食欲は相変わらずだった。未だ戦力にはならなかったが、レベルは20に迫る勢いで成長している。解放した魔物使いの盾の補正もあるのだろう。ちなみに、俺たちのレベルは、俺が30、ラフタリアが29、尚文君が26になっている。
フィーロの腹がグウグウ鳴ってすごいので、倒した魔物を解体し、その肉を俺がファイヤークラウドで焼き、フィーロに食べさせた。
その日が終わるころには、フィーロの体形がまた変化した。首が伸び、ダチョウのような姿になる。羽毛の色も、白を基調に桜色を散らしたものに変わる。
尚文君の前で跪き、グワグワ鳴くので、尚文君が乗ってみると、ものすごい勢いで村を一周した。大した健脚だ。
夕食を取り、フィーロを馬小屋につないで部屋に上がろうとすると、寂しいらしく、フィーロが駄々をこねる。仕方がないので、フィーロが寝付くまで、馬小屋で文字と魔法の勉強を行った。
リファナは相変わらず立てなかった。やはり、上位の薬剤がいるのだろうか。
翌日。馬小屋へ行くと、フィーロがさらに成長していた。フィロリアルの平均を超えて、全高270センチほどになっている。ラフタリアが気付いたのだが、馬小屋にあった、次元のキメラの干し肉が、無くなっている。こいつ、食ったな。
さすがにここまでくると、こいつが本当にフィロリアルなのかどうか、怪しくなってくる。
村人たちも、珍しそうにフィーロを眺める。当のフィーロは、村の復興作業に使われている荷車を、物欲しそうに見ていた。なんでもフィロリアルは、荷車を引きたがる習性があるそうな。
作業中の村人と話すと、復興作業を手伝うことを条件に、荷車を一つ分けてくれるという。悪くない話だ。かくて、俺たちは、材木の運搬作業をすることになった。
が、問題が出てきた。フィーロの荷車の乗り心地が、すこぶる悪いのだ。やたらスピードを出すのが原因である。尚文君は不思議となんともないが、俺とラフタリアは、すっかり酔ってしまった。俺は何とか我慢できたが、ラフタリアは、途中で吐いてしまう始末だ。
尚文君は、何か考えがあるらしく、俺たちに、乗り物酔いを克服することを要求した。
荷車で、森で材木を積んでは、村へ運ぶと言う事を繰り返し、俺とラフタリアは、遠い目で乗り物酔いと戦った。
そんな時に、槍の勇者一行と遭遇、元康君がフィーロを馬鹿にして笑い、股を思いっきり蹴り上げられていたのはご愛敬だ。
そのうちにフィーロの体形がまた変化した。全高がフィロリアルの平均、230センチほどに縮み、その代わり、横幅が増した。なんだが、太めのフクロウみたいな体形になってしまった。鳴き声もクエクエと換わっている。それなりに愛嬌のある姿だが、これはもうフィロリアルではない。
ラフタリアが、魔物商へ調べに行くことを提案する。村人に事情を話し、俺たちは、城下街へ向かった。
「魔物商、俺たちに、一体何の魔物を売りつけたんだ。」
尚文君が、奴隷商もとい魔物商に詰問をする。魔物商は汗をかいて書類をめくっている。
「勇者様に提供しましたのは、確かにフィロリアルです、ハイ。」
「だったら、この姿は、なんだ。」
フィーロは、テント内を興味深そうに眺めていた。
「とりあえず調べてみますので、預からせてもらって、かまいませんか。」
「分かった、でも、何かあったら、慰謝料を要求するからな。」
尚文君が言う。
フィーロに首輪をつけ、檻に入れようとすると、クエクエ鳴きながら抵抗した。
「こら、おとなしくしろ。」
半ば力づくで、檻に押し込む。
「明日、迎えに来るからな。それまでに、調べておけよ。」
「…さま。」
ん?今の声は…。ラフタリアが、手を口に当て、檻を指さして、震えている。魔物商の部下たちも同様に驚愕している。俺たちは振り返った。
「ごしゅじんさまー。」
そこには、淡い光が残る中、白い翼をもった幼い裸の少女が、尚文君に向けか細い手を伸ばしていた。
「らっしゃい。」
武器屋へ入ると、エルハルトが陽気に応対する。マントを着せた、人型のフィーロを連れた俺たちを見て、若干眉を顰める。
「いい奴隷が手に入ったからと言って、見せびらかしに来るんじゃねーよ。」
「違う。」
尚文君が答える。美少女然としたフィーロを見て、エルハルトがからかうように言う。
「やっぱり、あんちゃん、ロリコンだったんだな。」
「違う。」
フィーロが能天気に言う。
「ごしゅじんさま、おなかすいたー。」
そうして、カウンターの隅に置いてあった、大きなサンドイッチを物欲しげに見る。エルハルトの晩飯なのだろう。
「嬢ちゃん、一口、食うか?」
「こら、フィーロ…。」
手を伸ばそうとするフィーロに、ラフタリアが、遠慮するよう声をかける。
「いいって事よ、嬢ちゃんの一口なんざ、たかが知れてる。」
フィーロが徐に魔物の姿に戻る。マントは引き裂かれてボロボロだ。フィーロがサンドイッチを一飲みにする。
「う~ん。味はいまいちかな~。」
驚愕するエルハルトに、俺たちは黙って頭を下げた。
「あいつは一体何なんだ。」
フィーロは魔物姿のまま、物珍し気に展示されている武器を突っついている。
「良く、分からん。いま、魔物商に調べてもらっている。」
エルハルトの問いに、尚文君が答える。
「で、何しに来たんだ。」
「服を売ってくれ。」
「確か、変身する種族のための、服がありましたよね。」
ラフタリアが言う。
「変身するたびに服を破かれたんじゃ、あっという間に破産だ。」
「そいつは特別製だ、うちには、ない。洋裁屋に行ってくれ。」
洋裁屋へ向かおうとする俺たちに、エルハルトが服をくれた。ピンク色のワンピースだ。早速、フィーロに着せる。翼の部分に難儀したが、肩口に切り込みを入れ、何とかごまかした。
洋裁屋では、フィーロの美少女ぶりに感動した女主人が、興奮気味に応対した。
「いや~本っ当に可愛いですねー。天使みたい。いや、羽があるから本物の天使かも。」
「ごしゅじんさまー。フィーロ、かわいい?」
「知らん。」
尚文君がそっけなく答えると、洋裁屋は、
「だめですよ、おとーさん。女の子は、可愛いって言われると、どんどん可愛くなって行くんですから。」
と言った。
「ごしゅじんさまは、フィーロのおとーさん?」
「違う、飼い主だ。」
ラフタリアが頷いている。
「じゃあ、ラフタリアおねーちゃんは?」
「娘みたいなもんだ。」
と答える尚文君に、
「違います!」
と抗議するが、尚文君は聞いちゃいない。
来店の趣旨を説明すると、魔法の糸を持っているかと聞かれた。変身しても破れない服は、本人の魔力を紡いだ糸で、作る必要があるらしい。
早速、魔法屋へと行く。
だが、俺たちは失望することになった。糸を紡ぐために必要な魔力石が壊れていて、希望には添えないという。希少なもので、なかなか市場にも出回らないらしい。
仕方ないので、奴隷商のテントに戻る。魔物商は、フィーロの正体らしきものを調べ上げていた。
フィロリアルには、王や女王と言った、上位個体がいるらしい。彼らは、高度な変身能力を持ち、普通のフィロリアルに紛れているという。だから、一般には、余り存在が知られていない。
フィーロは、雌だから、フィロリアル・クィーンだ。
ここで、とんでもない事実が伝えられる。フィロリアル・クィーンには、普通の魔物紋は効かないという。より高度な魔物紋を刻むには、おおまけにまけて、銀貨200枚が必要という。出納係としては、痛い出費だ。それでも、この無邪気な食欲怪獣を野放しにするわけにはいかない。
魔物紋の儀式は、なんと、12人がかりで行われた。それでもフィーロは、抵抗しようともがく。
「あの魔法拘束の中で動けるとは、末恐ろしいです、ハイ。」
魔物商が驚いている。
フィーロには、尚文君の命令を無視すると、呪いが掛かるようになった。これで、フィーロが所かまわず変身をするという問題には対処できるようになる。呪いに苦しむフィーロを見るのは忍びないが、背に腹は代えられない。
尚文君は、俺とラフタリアに、行商を始める事を告げた。フィーロを手に入れた頃から、考えていたらしい。ちゃっかりと、通行手形を、リユート村の領主からもらっていた。
リファナのため、イグドラシル薬剤を手に入れるためにも、金を稼ぐことは必要だ。
ドラゴンレースはカットします。
理由は、作者が、あのシーンを今一つ理解できなかったからです。
影が持ってきた巻物は何だったのでしょう(女王の親書だとは思うが)。
相手にスピードアップ、自らはスピードダウンの魔法をかけられたフィーロが勝てた理由は?
また、勝彦君が干渉すると、妨害者を駆逐してしまうため、フィーロが圧勝してしまうと言う事もあります。
競争は、実力が伯仲しているからこそ面白いと思います。