「案外早く、魔法石のありかが分かったわね。」
魔法屋が感心して言った。
残念ながら早くはない。既に二週間たっている。その間フィーロは、変身の度に着替えているが、あの性格ゆえ、時と場所に頓着しなかった。早い話が、俺や尚文君の前で、裸の幼女の着替えショーが始まるのだ。尚文君は無関心だったが、俺は十分にそれを堪能した。だが、そのたびにラフタリアに怒られる。欲望に忠実ではいたいが、彼女の信頼がだんだんと無くなっていくのを感じるのもつらい。よって、魔力石を入手するのは、俺にとっても、大命題だった。ちょっぴり、惜しいけど。
俺たちは、馬車で、ある神殿に向かっていた。そこにあるダンジョンの奥に、件の魔力石があるという。
魔法屋も含めた6人のパーティーを組み、ダンジョンへと分け入る。さすがにリファナを置いていくわけにはいかず、俺が背負う。
しばらくは、魔物がほとんど出てこなかった。ネズミがちょろちょろといたぐらいだ。俺たちは、苦も無く最下層へたどり着いた。そこで、開いた宝箱を見つける。
「何か書いてあるわね。」
魔法屋が言う。見てみると…読めない。
「古代語ね…この種子が世に出ないことを切に願う。人々が飢えに困らぬようにという願いは、最悪の形で現れるであろう。」
文面から察するに、結構ヤバいもんじゃないか。これを解放した愚か者がいると言う事か。って、それ、槍の勇者だし。多分、ゲーム知識だけで、飢饉に効く種と信じ、当然古代語は読めずにこの注意書きも読んでいないと言う事なのだろう。困った奴だ。まあ、それでこのダンジョンに魔物がいないのも納得である。攻略済みなわけだからな。
「こっちに横穴があるよー。」
フィーロが言う。本命はそっちらしい。
俺たちは、その横穴を進む。
不意に、尚文君が掲げていたたいまつが消える。と同時に、俺の視界が大きく歪んだ。なんだ、これは。声が聞こえる。ラフタリアの声だ。
『カツヒコ様と同じパーティなんて、もううんざり。デブでキモくておまけにスケベ。その自覚もないから救われない。いっその事、私が引導を渡してやるわ。』
うう、凹むなぁ~。魔物の仕業と分かっていても、精神的打撃は大きい。
魔法屋が言う。
「気をつけて!この魔物は、その人の、一番いやな言葉で挑発するわ。」
はいはい、分かっています。しかし、魔物の気配がとんと掴めない。標的を設定できないので、魔法が使えないのだ。ファイヤークラウドで、空間をあてずっぽうに焼き払うという手もあるが、方向感覚が狂っている今の状態では、味方を巻き込みかねない。こいつは困った。
『てぃっ!』
ラフタリアの声とともに、俺の腕が引っ掻かれる。
「おい、魔法屋、何とかしろ!」
尚文君が、焦って言う。彼も状況は同じなのだろう。
魔法屋が、何やら詠唱を始める。
「ツヴァイト・アンチバインド!」
魔法屋の魔法とともに、視界が元に戻る。すると、
「ふっ飛んじゃえー。」
フィーロが風魔法で、魔物たちを吹き飛ばした。魔物の精神攻撃で、一番ストレスを受けていたのは、こいつかもしれない。
「ごしゅじんさま、フィーロのこと、捨てたりしない?」
なんて聞いている。尚文君は、つれない返事をした。しょげるフィーロをラフタリアが励ましている。彼女こそ、尚文君の幻影に、どんなひどいことを言われたことやら。強い娘だ。リファナもなんか、凹んでいる。尚文君の幻に、振られたか。
尚文君が、魔物を盾に吸わせるのを待って、俺たちは先へ進んだ。
やがて、俺たちは、横穴の終わりに着いた。そこは、若干広い部屋のようになっていて、何やらキラキラと輝いていた。件の魔法石だ。部屋の天井や壁から、まるで鍾乳石のように、魔法石の結晶が生えていた。幻想的な光景だ。いつかの炭鉱の鉱床以上だろう。
「素敵なところ…。」
リファナがつぶやいた。
だが、その光景に、そぐわないものがあった。まるで、美しい音色の中の不協和音だ。それは身じろぎをして、起き上がった。魔物だった。
「鵺ね。」
魔法屋が言った。
「小型だけど、危険な魔物だわ。」
鵺は、既にこちらに身構え、戦闘態勢を取っていた。隙がなかった。こいつは、見た目よりも手強い!すると、
「行きます!」
と、ラフタリアとフィーロが飛び出した。慌てて尚文君も後を追い、魔法屋に援護を頼む。考えもなしに突っ込むなよ!俺は慌てて魔法を放つ。
「サイコアタックVII!」
鵺がひるむ。その鵺に、フィーロの蹴りが命中し、ラフタリアの剣が、肩口を捉える。が、次の瞬間、フィーロがラフタリアを銜えて後ろに飛んだ。刹那、鵺が電撃を放った。その光は、突っ込んでいた尚文君へも届く。が、無事だ。盾の防御力は伊達じゃない。魔法屋が詠唱する。
「ツヴァイト・ファイヤーブラスト!」
鵺が炎に包まれる。どうでもいいが、魔法名が俺のものと同じだ。紛らわしい。
鵺はひるまず、尚文君に襲い掛かった。彼は盾で、その攻撃をがっちり受ける。
「サイコアタックVII!」
俺は再び精神攻撃を行う。さっきの電撃は撃たせちゃいけない。出来るだけ、精神力を削っておくのだ。
ラフタリアが横から剣で突きかかる。が、蛇の形をした尻尾に、弾き飛ばされてしまった。
フィーロが蹴りを入れると、鵺は、後ろに下がって躱した。俺は、魔法を放つ。
「ファイヤーレーザーVII!]
貫通魔法レーザーを射角を変えて放つ。いわゆる、掃射だ。鵺の腹が切れて血が噴き出す。そこへフィーロが蹴りを入れた。鵺は、バランスを崩して倒れた。ラフタリアが腹に剣を突き立てる。鵺が、痛みで体をよじる。
「とどめ!」
フィーロの蹴りが、鵺の頭部に命中した。ぐしゃっと、嫌な音がする。頭蓋骨が潰れたな。そのまま、鵺は動かなくなった。俺たちに経験値が入る。
ラフタリアが、怪我をした。鵺の尻尾に弾き飛ばされたときに、腕に擦過傷を負ったらしい。尚文君が手当てをしながら、
「一生残る傷なんてついたら、たまったもんじゃない。」
とぼやいている。俺も二人に説教をする。
「むやみに突っ込むな。状況をよく見ろ。俺の魔法か、尚文の防御で相手がひるんだときに、攻撃をするんだ。」
「はぁい。」
「分かりました。」
アタッカーの二人は、最近前に出すぎる傾向がある。積極的なのは良いのだが、今まで築いた連携を崩すのはいかがなものかと思う。
「きれい。」
ラフタリアが、辺りを見回して感激している。尚文君は、早速魔法石の採取をしている。結局10個ほど採取し、一つを魔法屋に渡し、残りは後で売り払った。結構な臨時収入だ。
そのあと魔法屋へ戻り、フィーロの魔力を糸に紡ぐ。だるそうなフィーロを飯で釣って、何とか必要量の糸を紡ぎ出す。出来た糸の束を洋裁屋に渡す。フィーロの服が出来上がるのは明日になるらしい。
夕飯は、魔法屋、エルハルトも呼んで、川辺でバーベキューを食べた。焼き手は尚文君である。味覚が復活した彼の料理は、無茶苦茶にうまい。リファナは感激している。もっとも、食い足りないフィーロが狩ってきたウサピルを解体したりして、彼自身はあまり食う暇がないようだったが。
翌日、フィーロの服が出来上がった。白をベースに、青を刺し色として、フリルやリボンをあしらった服は、フィーロの金髪碧眼の天使っぷりによく合っていて、ものすごく可愛らしかった。尚文君もまんざらではないようだ。ラフタリアが、微妙に嫉妬している。
尚文君が言った。
「フィーロ、お前には、卵や魔物紋やその服やら何やらで、銀貨340枚かかった。その分、きっちり働いてもらうからな。」
「はあい。フィーロ、がんばる。」
とフィーロは元気に言って、魔物姿に変身する。どこまでも、人騒がせな鳥である。
例の拡声器の盾を使う予定ではあったんですが…。
アタッカーが一人増えると強いですね。