転生引きこもりは狸娘の夢を見る   作:マーカス・クラン

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第13話 奇跡の種子

 「はーやーい。楽すぃーい。おもーい。楽すぃーい。」

 ご機嫌のフィーロが、全速力で馬車を引いている。景色が目まぐるしく後ろへと流れていく。一度克服した馬車酔いが、なんだか復活しそうな勢いだ。後ろでは、大量の瓶がガチャガチャと音を立てている。今にも割れそうで、少し怖い。

 瓶の中身は除草剤である。俺たちは、今、ある村へ向かっている。これは、アクセサリー商からの依頼だ。彼曰く、神鳥を持つ盾の勇者にしか頼めないという。除草剤を性急に、しかも大量に欲しているというのだ。

 除草剤はアクセサリー商の方で用意しており、また、報酬も悪くなかったので、尚文君は引き受けた。

 城下街で急ぎ装備を整え-主にリファナの装備だ-、荷物を受け取り、半日と少しの行程で、俺たちは、目的の村付近へと到達した。フィーロの健脚ゆえである。他のフィロリアルならば、一昼夜掛かっても着かなかっただろう。

 で、辺りの景色は、依頼内容を納得させるものだった。

 「ごしゅじんさまー。植物が、すごいのー。」

 馬車を引きながら、フィーロが言う。植物の蔓が、街道横の斜面まで、うねるように生えてきている。傾斜があるので見えないが、その奥は蔓だらけだろう。

 「あそこに、砦みたいなのがあるよー。」

 フィーロが何か見つけた。板と丸太で塀というかバリケードを巡らせた、出来損ないの砦のような構造物だ。俺たちは、取り敢えずそこへ向かった。

 

 砦は、村人が急ごしらえで作った避難所のようなものだった。村は蔓でいっぱいになり、難を逃れるために作ったものらしい。しかし、ここのバリケードにも蔓が張り付き、侵食が始まっている。

 「本当に助かりました。ここも蔓で覆われるところでした。」

村の長が感謝を言う。

 「火で焼き払えば、良かったのでは?」

ラフタリアが、まっとうな意見を述べる。

 「取れる手段は、すべて取りました。冒険者も呼び集めました。ですが・・・。」

火が効かないと言う事か。となると、俺の魔法でも、ダメか?少し困ったな。

 「村の中は、蔓でびっしりです。しかも、一部が魔物化して、襲ってくる始末でして…。」

 「魔物化?」

尚文君が驚いている。その時、遠くで悲鳴が聞こえた。長が言う。

 「冒険者が、レベル上げをすると言って、行ってしまったのです。止めたのですが…。」

となると、彼らが、植物の肥やしとなるのは時間の問題か。尚文君は、めんどくさそうに、フィーロに命令する。

 「フィーロ、冒険者を連れて、戻って来い。」

蔓から生えている赤い実を頬張っていたフィーロは、すぐさま駆け出していく。見知らぬ奴らを助けるとは、何のかんの言っても優しい奴だ。

 程なくフィーロは3人の気絶した男たちを抱えて戻ってきた。

 「植物の魔物、ぐねぐね動いてて、毒とか酸とか吐いて来る奴もいたよ。この人たち、弱いのに、あんなとこ行くなんて、馬鹿だねー。」

フィーロが毒を吐く。可愛らしい声で言う分、辛辣に聞こえる。ラフタリアがたしなめる。

 フィーロがしゃべるのを聞いて、人々の口に、神鳥だ、という声が漏れる。

 「ひょっとして、貴方様は、神鳥の馬車を持つという聖人様では?」

長が問う。

 「人違いだ。」

尚文君は答える。長は構わずに続ける。

 「お願いします、聖人様、貴方様のお力で、病人をお救い下さい。」

 「病人が、いるのですか?」

ラフタリアが訊く。長は頷いて、俺たちを大きめのテントに案内する。

 テントの中には、10人ほどの子供が、ベッドに横たわっていた。皆、一様に、体のあちこちから蔓を生やしている。

 「寄生能力まであるのか!」

尚文君が感嘆する。

 「うまく治るかどうか、保証は出来ないぞ。」

と言いながら、除草剤を、子供に1/3ほど飲ませ、残りを植物に寄生されている患部へと振りかけた。すると、みるみる蔓が枯れていった。成功だ。

 「次だ。」

尚文君は次の患者にかかる。俺は、追加の除草剤を取って来て、尚文君に手渡す。10分ほどで、患者は、皆、全快した。

 感謝する村人たちを尻目に、尚文君は馬車へ戻ろうとする。

 「治療費をもらったら帰るぞ。」

 「植物はほったらかしですか、なおふみ様。」

とリファナが言うと、

 「そのための除草剤だ。後は自分たちで何とかするだろう。これ以上の面倒事は御免だ。」

尚文君は答える。

 ラフタリアが、うろたえ気味に言う。

 「ナオフミ様、それは、難しいかと…。」

見ると、長をはじめ、村の重鎮と思われる面々が、皆跪いていた。

 「聖人様、どうか、この村をお救い下さい。」

 

 俺たちは、重鎮たちから話を聞いた。ただ、フィーロは、植物の赤い実に夢中で、聞いちゃいない。リファナも、一緒に赤い実を齧っている。

 始まりは、飢饉で苦しむこの村に、槍の勇者が訪れたことだった。彼は、奇跡の種子だと言って、ある種を与えてくれた。

 「あの種か…。」

尚文君が、いつかのダンジョンの、空の宝箱を思い出して呟く。

 最初は、成長し、たくさんの実をつける植物に、大喜びの村人だったが、次第に雲行きが変わってきた。

 「制御しきれなくなったんだな。」

 「はい、気が付くと、村は成長する植物に飲み込まれ、魔物化した植物に、村人が襲われる始末です。」

重鎮たちはうつむく。対策を調べているうちに、ある伝承に行き当たったという。曰く、この辺りを根城にしていた錬金術師が、昔、ある種を作り、そしてすぐに封印した。辺り一帯は、しばらく植物に支配されていたという。

 「ちょっと待て、そんな伝承があるなら、その種子を、誰もおかしいとは思わなかったのか?」

重鎮たちがうろたえる。

 「勇者様がくれたものだから、安全なものだと思っていたか。」

重鎮たちが跪く。長が金の入った袋を差し出して言う。

 「治療費と、魔物の討伐費は、前金で全額お支払いします。どうか、どうか、この村をお救い下さい。」

 尚文君は、ため息をつきながら言う。 

 「元康のバカの尻拭いは御免だが、もらった金の分の、仕事はする。」

そして、盾を戦闘用のものに変えながら、フィーロとリファナを呼んで、砦の外へと赴く。

 

 村の中は、ひどい有様だった。まあ、植物の蔓が襲ってくるのはいい。それは、今のリファナでも対処できるような攻撃だった。

 リファナは、手ごろな魔物となら戦闘が出来るようになっていた。まだ全快とはいかないが、レベルの成長に上書きされて、身体能力が上がっていた。今の彼女のレベルは6。何と言っても、鵺との戦闘で得た経験値が大きかった。食欲魔人ぶりも、徐々に発揮しつつある。

 問題は、植物から離れ、自由に動いている魔物たちである。それらは、毒や酸を吐く。酸はともかく、毒は、俺やラフタリアやリファナにとって、脅威である。俺は、毒耐性がなく、彼女たちは、呼吸器系が弱い。

 俺は、毒を吐く魔物を見かけるたび、ファイヤーブラストで仕留めていった。レベルはVである。最初、ファイヤーボールで燃やしてみたが、あっという間に再生してしまった。だが、ファイヤーブラストで爆散させると、再生するのは不可能なようだ。

 酸の魔物はフィーロとラフタリアが対抗する。うーん。武器が劣化するな。ただ、尚文君がうまく立ち回って、相手の攻撃を防いでいるのは相変わらずだ。

 俺たちは、魔物や、植物が多い方へ向かった。そこに、この植物たちの大本、この騒動の元凶がいると考えたからだ。

 果たして、それは一本の木だった。幹の中央付近に、禍々しい目がのぞいていた。いかにもボスっぽい外見だ。

 御多分に漏れず、ガーディアンのごとく、動く魔物たちがいたので、ファイヤーブラストで爆散させる。が、俺のMPがほぼ尽きてしまった。そのことを告げると、尚文君は渋い顔になった。俺はリファナのフォローに回る。

 「フィーロ、行くね!」

 フィーロが突っ込んだ。繰り出される蔓の攻撃を華麗に避け、若しくは爪で引き裂きながら、彼女はあっという間に敵本体に迫った。そうして、目玉を爪で突き刺す。目玉はしぼみ、得体のしれない液体が飛び散った。やったか?

 いったん目玉は解け落ちたが、すぐに、何事もなかったように再生した。どうやら、通常攻撃は通用しないようだ。もったいないが、魔力水を飲んで、魔法を使うか。すると、

 「ラフタリア、除草剤を、目玉に直接かけろ。」

尚文君から指示が飛んだ。ラフタリアは除草剤を受け取り、フィーロに乗った。フィーロが再び跳ぶ。

 蔓の攻撃を避けつつ、逆に足場にして、フィーロは突っ込んでいく。ラフタリアも負けじと剣を振るう。だが、この場合は逆効果だったようだ。足場にするはずだった蔓を切断され、フィーロがバランスを崩す。

 「お姉ちゃん、邪魔しないで!」

フィーロから投げ出されそうになったラフタリアが、蔓に捉えられる。胴体と足を蔓にまかれ、逆さにぶら下げられた格好になる。うん、なんだか、凌辱ゲームにありそうなシチュエーションだ。もっとも、蔓が太いから、そういう事にはならないだろう。

 「ラフタリアちゃん!」

リファナが心配して叫ぶ。そう、彼女が正しい。ラフタリアが、絞殺される危険もある。

 ラフタリアは、逆さまになりながら、除草剤を撒いた。太い根にかかったそれは、表皮を溶かし、内部組織を侵したが、再生力の方が上回り、元に戻ってしまった。

 ここで、尚文君が動いた。敵本体へと歩いていく。蔓が攻撃するが、盾の力か、皆はじかれてしまった。

 「なおふみ様。カッコいい。」

リファナがうっとりと見つめている。

 尚文君が木の根元までたどり着き、除草剤を撒く。除草剤は、表皮を引き裂き、内部組織を破壊して、敵を枯れさせる。目玉が、驚愕したように蠢き、ボトリと落ちる。

 「危ない!崩れるぞ!」

尚文君が叫びながら走る。

 ラフタリアが抜刀し、自分に巻き付いている蔓を切断し、落ちる。落下点に素早くフィーロが入り、彼女をキャッチ、そのまま後退する。

 敵本体の木は、地響きを立てて、倒壊した。枝にはたくさんの種が鈴なりに生っている。ほかの植物も枯れ始めている。こいつが敵本体で、正解だったようだ。

 俺は、尚文君に近づいて、言う。

 「あと5分もすれば、ファイヤーボール程度なら使えるようになるから、種ごと焼き払ってしまうか?残すと厄介そうだし。」

尚文君は、少し考えてから、答えた。

 「いいや、集めよう。売れたら儲けものだ。」

って、封印された種子だぞ。ちょっと危険すぎないか。まあ、商魂たくましいのが尚文君である。あるいは、新しく出て来た盾に、植物改造のスキルを見つけたか。

 それから俺たちは、倒壊した木から種を集めた。なんだか、フィーロとラフタリアが言い争っている。リファナは、案外器用だ。俺の倍ほどのペースで、種をせっせと集めている。

 一時間ほどで、俺たちは種を集め終えた。日はすっかり傾いている。

 尚文君が種を地面に撒いている。種はすぐに芽を出し、急成長をして枯れてしまった。植物改造のスキルの実験らしい。ラフタリアから、危険なことをしないでと怒られている。

 それから、俺たちは、収穫した種を抱えて、砦へと戻った。

 「魔物は倒した。枯れた蔓の掃除は、自分たちでしろ。」

尚文君が言い放つ。

 「ありがとうございます、聖人様、いえ、盾の勇者様。」

村人たちがお礼を言う。正体がばれたせいか、尚文君は不機嫌そうだ。

 俺たちは、砦で一夜を過ごした。

 

 翌朝。

 起きると、尚文君が何やらやっていた。例の種をつまんでいじってから、徐に地面に撒く。種は芽吹いてみるみる成長し、赤い実をたくさんつけた。木の大きさは、人間の背丈よりも小さいぐらい。それ以上成長する気配はない。

 「よし、成功だ。」

尚文君が満足げに言う。

 「何やってるんですか?」

リファナも起きてきた。興味深げに訊く。

 「植物改造のスキルで、種を変質させてみた。魔物化せず、食べられる実をたくさんつけるはずだ。」

 「すごいですね。いただきます。」

リファナが、実をもいで口に運ぶ。

 「おいしいです。」

朝一から、食欲全開らしい。

 ラフタリアも起きてくる。

 「ナオフミ様、だから、危ないことは止めてくれと、あれほど…。」

小言を言うラフタリアに、俺は、

 「いいんじゃないか。この村の飢饉を救わなければ、問題の解決にはならない。この種は、答えになるだろう。」

と言った。

 フィーロも起きてきて、せっかく生やした木は、リファナとフィーロで丸裸にされてしまった。

 朝食の後、村の連中の前で、実演する。瞬く間に成長して実をつける灌木に、村人たちはどよめいた。毒見役はフィーロとリファナである。おいしそうに食べる二人に、村人たちも手を伸ばす。

 村の長がお礼を述べる。

 「ありがとうございます。村を救っていただいただけでなく、こんな恵みまでいただけるとは…。」

 「誰がやると言った。」

尚文君は厳しい顔で言う。

 「取引だ。この種を売ってやろう。」

長が情けない声を出す。

 「と言われましても、村にはもう、何も…。」

 

 二台の荷車が連結された馬車を、フィーロが陽気に引いている。

 「あいつら、結構したたかだぞ。」

 尚文君がぼやく。

 種の代金として支払われたのは、魔物化した植物がつけていた、大量の赤い実だった。荷車には、それらが満載されている。

 「あんなにあるんじゃ、食べきる前に腐ってしまいそうですね。」

と、ラフタリア。

 「まあ、売るあてはあるさ。」

と尚文君は言う。

 売るあてとは、アクセサリー商のことだった。報告がてら、顔を出し、種子を見せると、興奮して高値で買い取ってくれた。赤い実は、荷車一台分は残した。フィーロとリファナの分である。

 そのあと、アクセサリー商から、仕事の依頼があった。と言っても、単なる荷物の配達である。目的地は、温泉らしかった。

 

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