転生引きこもりは狸娘の夢を見る   作:マーカス・クラン

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第14話 温泉街

 川沿いの山道を、フィーロが進む。彼女はご機嫌である。馬車には、赤い実が入った荷車が連結されている。さらに、馬車には温泉街に届ける荷物がいっぱいに積まれている。そのせいで、リファナが追い出された形になり、御者台の横にちょこんと座っている。

 大体、荷が重い方がうれしいなんて、どういう生き物だ。ひょっとして、先天的マゾではなかろうか。いつか、幼女姿のフィーロに訊かなくては。などと、馬鹿なことを考えていると、当のフィーロが、

 「なんか、臭~い。」

と言った。なるほど、硫黄の臭いがする。温泉が近いのだろう。

 道行く人が増えてきたので、手綱を引き、フィーロの速度を落とす。途端に彼女の機嫌が悪くなるが、魔物じゃないんだから、通行人を跳ね飛ばすわけにもいかないだろう。

 尚文君とラフタリアも、馬車から顔を出す。温泉街が見えてきた。ここの街は、結構でかい。ざっと見まわして、10以上の宿屋を中心に、屋台、見世物小屋、遊技場などのありがちな店から、治療院や雑貨屋、果ては武器屋まで、いろんな店が軒を連ねている。

 俺は、教わった通り、一番大きな宿屋の裏に回った。話は通っていたらしく、荷物を倉庫に入れるように言われる。それから、5人で荷物運びに精を出した。が、いつの間にやら4人になっている。フィーロはどこだ?荷物を運び終えたのち、フィーロを探すと、彼女は、宿屋の玄関の前にある足湯に浸かっていた。

 「ごしゅじんさまー。これあったかくて、気持ちいいー。」

その無邪気さに、小言を言おうと思っていた一同、毒気を抜かれてしまう。かろうじて、ラフタリアがたしなめる。

 「フィーロ、お仕事の最中に、抜けるんじゃありません。」

 「ぶー。」

フィーロが不満そうに口を鳴らす。

 「でも、あったかそうですね。」

 リファナが靴を脱いで足湯に入る。

 「ごしゅじんさまー。温泉、てゆーのにも入ってみたーい。」

フィーロが言う。

 「ラフタリアはどうだ?」

尚文君が問いかける。

 「私は、そこまで興味はないんですけど、フィーロやリファナちゃんが、入りたいって言うのなら…。」

と言いながら、尻尾をぴょこぴょこと揺らすラフタリア。口で遠慮していても、尻尾が欲求を主張するのは、幼い姿の頃のままだ。

 「勝彦は?」

 「俺は温泉、結構好きだぞ。」

これは本当である。サウナ風呂があれば、言う事なしって、さすがにこの世界では無いか。

 「なら今日は、ここで泊るか。」

尚文君が言うと、

 「ごしゅじんさま、すきー。」

とフィーロが足湯から出て、尚文君に抱き付いた。ラフタリアとリファナが、なんだかむくれている。

 

 荷物を運んでくれたお礼に、割引をしてくれるとのことだったので、宿はその一番大きなところにした。6人部屋があったので、そこに泊まる。

 部屋に入って荷物を置くと、早速湯舟へと向かう。5人連れだってワイワイ廊下を進むさまは、さながら、修学旅行を彷彿とさせる。

 浴場の入り口で、ラフタリアたちと別れる。脱衣所で服を脱ぐと、

 「尚文、ちょっと体が締まってきたんじゃないか。」

 「お前は相変わらずデブだな。」

などと、たわいない会話をしながら、湯舟へと入った。

 ここの風呂は、皿状の風呂が、棚田みたいに重なっている構造になっている。それが、斜面いっぱいに広がっているのだ。大した規模である。見晴らしも良い。元の世界で、似たような温泉を本で見たような気がする。

 しばらく唸って、湯を堪能していると、羽ばたきと共に、でかい鳥が下から上がってきた。フィーロだ。そのままジャボンと湯に入る。波が立ち、俺と尚文君が呑まれそうになる。

 「こら、フィーロ。女湯に戻れ。」

と尚文君が言うと、

 「いやだー、ごしゅじんさまと一緒に入るのー。」

と駄々をこねる。尚文君は、人型に変身して入るように諭した。ナイス、尚文君。

やがて、尚文君は湯船から上がり、体を洗い始めた。フィーロはバチャバチャと泳いでいる。

 俺は、湯に体をゆだねた。額から汗が流れ落ちる。至福の瞬間だ。俺は、フィーロの姿をぼんやりと眺めながら、今までのことを考えていた。

 勘違いで死んで、神様にこの世界に転生させてもらった。戸惑う事もあったが、与えられた魔法の力で、この世界で生きていく事が出来た。盾のパーティーに加わる事が出来た。ラフタリアとも会えた。フィーロもいる。俺の所為かは分からないが、リファナが生きて、一緒にいる。とりあえずは満足と言っていいだろう。

 だが、これでいいのかという思いもある。尚文君には、俺のことは、神様に転生させてもらったぐらいは、ざっくりと話してある。ただ、この世界をわざと選んだことは伝えていない。つまり、原作知識を持っていることは伝えていないのだ。

 正直言って、俺は、それを知られるのが怖い。だって、まるで、出来損ないの預言者のようなものじゃないか。

 この世界は、たぶん、俺の知っている「盾の勇者の成り上がり」に非常に良く似ている世界に過ぎない。これは、現実なのだ。俺の頭の中にある、アニメの世界とは、たまたま同じ筋書きが動いているだけで、違うのだ。それを同一視することは、ゲーム知識に翻弄される三バカ勇者と同じ道をたどることになる。

 つまり、したり顔であやふやな未来を語るペテン師にしか、俺はなる事が出来ない。そんな奴は、気持ち悪がられるだけだろう。

 さらには、そのことを、今まで隠してきた負い目がある。もっとも、バラしていたら事態が好転したとはあまり思えないが。

 俺は、無性に怖かった。自分の秘密を知られるのが。それを隠していた自分を知られるのが。

 そこまで考えて、俺は思い当たった。これは、引きこもりの考え方だ。異世界に転移しても、俺は単なる引きこもりに過ぎないのだろうか。

 「勝彦、先に、上がるぞ。」

 尚文君が、声をかけて出て行った。フィーロも続く。

 俺は汗まみれになっていた。いったん潜って汗を流し、湯舟のふちに腰掛ける。

 いつかは、話さねばならないだろうと思う。あやふやな、通用するかわからない知識でも、役に立つこともあるはずだ。だが、それが何時かと問われると、俺は逃げてしまうのだ。

 俺は、怖い。せっかく得ているかもしれない信頼を壊すのが。何気ない日常を共有している仲間を失うのが。とてつもなく、怖いのだ…。

 

 俺が風呂から出ると、リファナがいた。

 「かつひこさん、結構長湯なのね。」

 わざわざ俺を待っていたのだろうか。ちなみに、彼女は俺を‘さん’付けで呼ぶ。まあ、奴隷でも何でもないので当然である。ラフタリアは、奴隷でなくなっても、‘カツヒコ様’と呼んでくれるが…。

 「まあね。温泉好きだからな。」

リファナを見る。湯上りの少女は爽やかだ。

 「ところで、何か、用かな?」

 リファナは、勿体をつけるように、あるいは、俺を値踏みするように見つめながら、俺の周りをゆっくりと回った。そして言った。

 「かつひこさん、ラフタリアちゃんのこと、好きだよね。」

直球かよ。これだから若い子は。うろたえても仕方ないので、俺は大人の余裕を見せる。

 「ラフタリアのことは、好きだぞ。こんな小さい頃から、見ているからな。」

今のリファナの首当たりの高さに手をかざして言う。

 「そうじゃなくて、女の子として見ているんでしょ。」

おやまあ、誤魔化し失敗。だが、一体どういうつもりなのだろう。

 「なんとかしないと、なおふみ様に取られちゃうよ。」

ハイ、もう取られちゃってます。そういうつもりで、あの子とは接してきたから…。

 俺は、リファナの頭を撫でた。

 「いいんだよ、リファナ。人には、いろんな‘好き’があるんだよ。」

そうして、しゃがんで、リファナと視線を合わせて、言った。

 「ラフタリアは、尚文が好きだ。そんなラフタリアを、俺は好きだ。それで、いいんだよ。」

 「それじゃあ、困る。」

リファナが言った。読めて来たぞ。この娘、親友を出し抜くために、俺とラフタリアを引っ付けようと言う事か。当てが外れて、残念だな。

 「いいか、リファナ。君が尚文を好きなことと、俺がラフタリアを好きなことは、全く別のことだ。それに、他人をけしかけて、自分の恋路を通そうなんてのは、素敵な女の子のする事じゃない。」

そういう俺に、リファナは、口の中で、何やらつぶやいている。

 「だって・・。」

 俺は言う。

 「尚文とラフタリアの信頼関係に、負けそうになっているのは分かる。でも、考えてみろ、あいつら、知り合ってから、せいぜい3か月だぞ。君が入り込める余地がないわけじゃない。」

 俺は、リファナの肩に手をかける。

 「アドバイスするほど、俺は、恋愛経験はないけどな。思い続ければ、いつか叶うっていう事を、一途に信じる事が、力になる。…俺は、そう思うよ。」

 リファナは、自分の肩にかけられた、俺の手を見た。そして、

 「かつひこさんって、損な性分ね。」

と言った。

 「コノヤロ。」

俺は、リファナの頭を軽くたたく。

 「痛ったーい。ひどーい。」

リファナは駆け出しかけ、いったん振り返る。

 「ラフタリアちゃんに、言いつけてやる。」

 「こ、こら、ラフタリアには、内緒、な、。」

聞く耳持たずに、リファナは駆けていく。

 「知ーらない。」

言いながら、廊下の曲がり角に消える。彼女が少し笑ったような気がしたのは、俺の空耳だったろうか。

 

 部屋に戻ると、尚文君がフィーロの髪をとかしていた。フィーロはご機嫌だ。ラフタリアは、なんか不満そうにそれを見ている。リファナはいなかった。

 俺は、着替えると、散歩してくると告げ、外へ出た。少し涼みたかったのと、屋台で何か買おうと思ったのである。食欲魔人ぶりを発揮しているリファナへの捧げもの、というか、賄賂だ。ラフタリアに変なことを言わないようにさせるためだ。

 屋台を見ていると、

 「ぶっさいくがいるぞ。なんでこんなん、生きてるんだ。」

という声が聞こえた。当然、俺のこととは思わないので、無視をすると、

 「お前だよ、ぶっさいく。お前みたいなのが、なんでいる?」

 声とともに、いきなり胸ぐらをつかまれた。見ると、顔の整った、若造だ。若造は、俺を殴りつけた。俺は無様に転がる。

 「キャー。テツヤ様。カッコいいー。」

黄色い声が聞こえる。テツヤ?日本人か?見上げると、若造が剣を抜いている。こんな往来で、正気か?それとも新手の通り魔か?

 俺は魔法を唱える。

 「サイコアタックIV!」

若造がひるむ。若造の隣に、二人の女がいるのを確認できた。俺は、脱兎のごとく駆け出す。人をかき分け、階段を下りる。そこは、河原だった。日陰になっていて、人気もなかった。

 丁度いい。ここで奴らをやり過ごそう。俺は、乱れた呼吸を整えながら、思った。

 だが、俺はついていなかったらしい。

 「ぶっさいく、逃げても無駄だぞ。」

階段の途中から声がする。奴か。

 「テツヤ様、今度こそ、コテンパンにやっつけてくださいね?」

女の声もする。奴らだ。俺は、奴らの姿を確認しようと、階段を見上げた。しかし、逆光でよく見えない。すると、ひゅっと音がして、俺の左ももに鋭い痛みが走った。矢だ。

 「ロックウォールIII!」

俺は岩壁を展開する。矢がカンカンと弾かれる音がする。

 「ファスト・ヘルファイア!」

今度は魔法攻撃だ。声からして女らしい。だが、ウォールを貫くほどの力はないようだ。

 「何隠れてるんだよ!」

奴が突っ込んでくる気配がする。ウォールを消して確認する。抜刀した若造が、いかれた目でこちらに向かってくる。こいつは、早く、正気に戻してあげないと。

 「サイコアタックVIII!」

最高威力の精神魔法を放つ。若造は、悲鳴を上げて、止まった。だが、狂気状態には陥らない。意外にこいつ、レベルが高いのか。ならば、しばらくしびれていてもらおう。

 「サンダーボールVIII!」

 光球が若造を捉えた。次の瞬間、爆散する。オーバーキルによる爆発だ。こいつは思ったよりも、レベルが低かったのか。若造は、粉みじんになり、骨も残っていない。いかん、正当防衛とはいえ、人を殺してしまった。いや、過剰防衛か。

 だが、終わっていない、女どもが残っている。女どもは、若造がやられたのを確認すると、俺に走り寄ってきた。接近戦か?一人は魔法使いのようだったが。

 しかし、なんかおかしい。殺気がないのだ。おまけに、話しかけてくる。

 「勇者様ー。」

俺は、勇者じゃないって。

 「勇者様ー。お名前は?」

 「私たち、あの男に、無理やり従者にされていたんです。」

って、嘘だろ。さっきは、やる気満々で魔法を叩き込んできたぞ。おまけに、一人が、俺に回復魔法を唱えてきた。矢を抜いた傷がふさがっていく。さすがに気持ち悪いぞ。

 パーティーのリーダーがやられたばかりだというのに、敵(俺のことだ)に当然のように投降、協力する女ども、不気味にしか思えない。

 「アイスウォールIV!」

氷壁に閉じ込め、俺は退散した。さっきの回復魔法のおかげで、何とか走れる。

 俺は治療院によって回復魔法をかけてもらい。予定通り屋台で食べ物を買って戻った。量が少なかったので、フィーロとリファナは不満そうだった。

 

 夕食の後、フィーロが尚文君にじゃれつき、ラフタリアとリファナが、負けじとちょっかいを出そうとしている。なんとなく、居場所を失った俺は、再び風呂へ向かった。月見風呂としゃれこもうと言う訳である。

 早速肩まで浸かる。夜風が頬に心地よい。月明かりが斜めに差し込み、湯面で複雑に反射している。

 左足の傷はもう痛くなかった。さすが、治癒魔法である。

 それにしても、昼間のいかれたパーティーは、一体何だったのだろう。魔法を使ったせいか、人を殺したという実感がない。

 そういえば、あんな感じの登場人物が、原作にもいたような気がするのだが…思い出せない。なぜだろう。頭の中を探るほど、靄のかかったように、記憶が遠くに去ってしまう感じがする。

 俺は、詮索をやめて、再び湯に体をゆだねる。疲れが解けていくような感じだ。

 俺は、今後のことを思った。

 次の目的地は、おそらく、疫病の村である。ドラゴンゾンビと遭遇する場所だ。そこで、尚文君が、憤怒の盾を発現させるわけであるが…。出来れば、それは避けたい。あれは呪われた力だし、ラフタリアの負担も大きい。

 そもそも、この次の波も、対教皇戦も、俺には対抗する手段がある。問題は、憤怒の盾がないと防御力が低下することと、その先は、やはり呪われた力が必要になってくることだろうか。どうせ必要悪ならば、早いうちに発現させるという考え方も、ないわけではない。

 俺は、考えたが、憤怒の盾の覚醒に対する有効な対処法を思いつかなかった。仕方ない、出たとこ勝負で行くしかない。俺は覚悟を決め、風呂を出た。月が満天に輝いている。

 部屋に戻ると、珍しく、尚文君が熟睡していた。積もり積もった疲れが出たのだろう。

 女性陣のベッドは空だった。例の、ガゴッコの巣を探しに行ったか。

 俺は、ベッドに入って、横になった。なかなか寝付けなかった。

 俺は目をつぶって、羊を数えてみた。俺の頭の中で、柵を飛び越える羊は、7000を超えたあたりで、分からなくなった。

 

 翌日は、鳥が鳴く声で目が覚めた。尚文君はまだ寝ており、女性陣は外出中だ。

 俺は、朝風呂へ入りに行った。湯船から下を眺めていると、大きな獲物を背負った、魔物姿のフィーロが遠くに見えた。そうか、大イノシシを倒したか。頑張ったんだな。

 俺は、のぼせる寸前まで浸かり、風呂を出た。

 部屋へ戻ると、尚文君が、ラフタリアたちがいないと慌てていた。俺は、散歩でもしているんだろうと、宥めた。

 そうこうしているうちに、ラフタリアたちが戻ってきた。小言を言おうとする尚文君に、3人は、感謝の気持ちだと言って、彫金の道具をプレゼントした。

 「お前たち…。」

尚文君は、感激している。

 俺も、ついでにプレゼントをもらった。ネックレスだ。よくわからない翼のような飾りがついていた。多分、フィーロのチョイスだろう。ありがたくもらっておこう。

 尚文君が、泥だらけの3人に、風呂に入って来いと言っている。3人は顔を合わせて笑った。

 俺たちは、昼過ぎに出発した。目的地は、東の疫病の村だ。時間が中途半端なのと、薬草を薬に調合する必要があるため、野宿を挟むことになるだろう。

 




訳あって、勝彦君の原作知識は、アニメ知識+アルファ程度に落ち込んでいます。
したがって、彼は誰に襲われたのか、分かっていません。
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