俺たちは、山道の途中で、魔物の群れと対峙していた。その数およそ100。ポイズンフロッグやポイズンフライと言った毒系の魔物から、ウサピル類やヤマアラ類といったおなじみの魔物たち、はたまた、巨大昆虫に至るまで、多種多様の魔物が群れとなって移動していた。
これは、たぶん、俺たちの所為だ。ドラゴンの毒に汚された大地に集まった魔物たちが、俺たちが、毒を浄化してしまったため、住処を追い出された形になっている。言ってみれば、彼らも、行き場を失くした避難民ならぬ避難魔物なのだが、村人から討伐の依頼があったので、仕方ない。悪いが成仏してもらおう。
俺は、他のパーティーメンバーが戦闘準備を終えていることを確認すると、敵のど真ん中に魔法を放った。
「ファイヤーストームVI!」
魔物たちが散開するが、大半は炎の渦に呑まれた。7割ほどは殺ったか。それでも、正面から突っ込んでくる馬鹿な魔物は多い。俺は、ファイヤーレーザーを掃射する。レベルはVだ。炎の光線が、魔物たちを薙ぎ払う。
俺は後退する。接近戦は、尚文君たちの出番である。
まずフィーロが飛び出し、リファナが続く。この二人は敏捷が高いため、尚文君が追い付けずにいる。フィーロがポイズンフロッグを蹴り飛ばし、引き裂く。リファナは短剣で、ウサピルの首筋を斬り、絶命させている。彼女には、もう、病の気配はない。戦い方こそ違うが、同じくらいのレベルだった頃のラフタリアと比べても、戦闘力は劣らないだろう。
そのラフタリアは、まだ少し動きが鈍い。呪いの影響だろう。その分、尚文君が押さえた敵を攻撃するという、盾のパ-ティーの連携の基本に則って、着実に敵を仕留めている。
俺は、彼らの死角から攻撃しようとする魔物を、魔法で葬った。
10分ほどで、生きている魔物はいなくなった。尚文君が、死骸の山に分け入り、何やら盾に吸わせている。まだ吸わせていない魔物がいたのだろう。
フィーロは、何かをついばんで、咀嚼している。雑食なのはいいが、変なものを食って、腹を壊さねば良いのだが…。
リファナは、興奮冷めやらぬといった感じで、まだ獲物はいないかと、しきりに辺りを探っている。少しは、吹っ切れたのだろうか。
ラフタリアは、息を切らしている。やはり、呪いは持続力にも影響するのだろう。尚文君が、気遣って声をかける。
「ラフタリア、大丈夫か。」
「大丈夫です、ナオフミ様。まだまだ戦えます。」
ラフタリアは笑顔で答える。が、少し心配だ。この娘、頑張りすぎるところがあるからな…。
そんな風に、皆を観察していると、ステータス魔法から通知が来た。画面を見ると、レベルが40になっていた。成長限界である。これ以上は、クラスアップしないと、レベルが上がらない。
と同時に、俺は、新しい魔法を覚えられる。候補を見てみると、ライト、フライト、ホーリーとある。ライトは光、フライトは飛行、ホーリーは聖なるもの、たぶん、呪いに対抗する力だ。アンデッドを退散させることも出来るだろう。
対ドラゴンゾンビ戦に間に合っていればとも思うが、ラフタリアの呪いにも効くはずだ。
さて、どれを習得するか。便利そうなのは、フライトだ。自分だけでなく、他者にも作用させられるならば、いろんな使い方が出来る。重いものを持ち上げたりも出来るだろう。
が、痛々しいラフタリアの痣を消す事が出来るのなら、ぜひともホーリーを習得したい。
しばし悩んだ後、俺は、ホーリーを選択した。やはり、ラフタリアの役に立てるという誘惑には勝てなかった。
俺は、成長限界が来たことと、新しい魔法を覚えたことを、尚文君に報告した。
「成長限界?」
尚文君が、いぶかしげに訊く。
「ああ、クラスアップするまで、レベルが上がらない。」
「クラスアップ?いつかの山賊の用心棒が、言っていたやつか。」
そうして、尚文君は、しばらくステータス魔法の画面に没頭する。該当するヘルプの項目を見つけたのだろう。
「龍刻の砂時計で、出来るのか。城下街に戻る必要があるな。」
「ラフタリアとフィーロは、レベル39だから、すぐだな。」
と俺が言う。
「なーに、なんの話ー。」
とフィーロが割り込んでくる。うーん。この鳥には、話しても解るかどうか…。
「いや、なんでもない。」
と尚文君。思いは同じか。
「ぶー。」
話に入れなくて、フィーロがぶーたれる。
「ラフタリアの治療のために、強力な聖水を手に入れる必要があるし、明日にでも、城下街に戻るか。」
尚文君が言う。
「そのラフタリアの治療だが、俺の新しい魔法が使えそうだ。」
俺は言う。
「ホーリーと言うんだが、たぶん、リムーブ・カース的な使い方が出来ると思う。呪いを除去できるはずだ。」
「あの、お父さんが、おんなじ名前の魔法を使って、骸骨兵を倒してました。」
とラフタリアが言う。
「俺の魔法は、この世界の魔法とは違うが、用途は同じと言う認識で、いいと思う。」
「それじゃあ、早速、試してみたら、どう?」
とリファナが言った。
「そうだな。」
と俺。
「行くぞ、ラフタリア。」
「は、はい。」
ラフタリアが、若干緊張した声を出す。
「ホーリーアタックIX!」
ラフタリアの体が淡く光る。
「アタックって、お前、攻撃じゃないんだから…。」
尚文君があきれて言う。いや、これは、新しい属性魔法の扱いみたいだから、形態をつけなくてはならない。
「ラフタリア、どうだ。」
俺は訊く。
「うーん、体があったかい気もしますが…。」
ラフタリアの顔を見ても、顎のあたりの痣の濃さは変わっていない。威力が足りないのか。ならば、と、範囲魔法を集中して使ってみる。
「ホ-リークラウドIX!」
ラフタリアの顎のあたりが、淡く光る。そのまま30秒ほど持続させる。今度は成功だ。痣がかなり薄くなっている。
「おねーちゃん、少し、白くなった。」
とフィーロ。
成功だが、魔力消費が思ったより大きいな。
「使えるみたいだが、少し効き目が薄そうだな。」
尚文君が言う。
「ああ、思ったより、魔力を使う。包帯を巻きづらい部位に魔法を使って、聖水の治療も併用した方がいいだろうな。」
言いながら、もう一度、ラフタリアの顎に、魔法を施す。一分ほど持続させると、顎の痣は完全に消えた。が、魔力の残りも心もとなくなった。
「ラフタリアちゃん、顎の痣が、消えたよ。」
とリファナが言う。
「ありがとうございます、カツヒコ様。」
ラフタリアがお礼を言ってくれる。フライトを蹴った価値があった。
少し休んだ後、俺たちは撤収した。取り敢えず、村へと向かう。