翌日。俺は少々考えた。盾の勇者、尚文君についてである。原作通りなら、今日はビッチ姫と二人で、レベル上げに向かうはずだ。武器屋で張っていれば、確実に接触できる。そこで仲間にしてもらい、夜は尚文君と同室になれば、彼の冤罪は防げるはずだ。
尤も、これにはいろいろと問題がある。まず、俺は見てくれが悪い。仲間になる時点で、ビッチ姫に断られそうだ。それを乗り越えたとしても、彼女の方が上手で、夜は二人に襲われたとか言って、まとめて冤罪を吹っ掛けてくるかもしれない。まあ、金や装備品を奪えない時点で、彼女がそこまでやるか不明であるが…うん、やっぱりやりそう。
また、ラフタリアの問題がある。今の尚文君なら、奴隷を購入することに、決して同意はしないだろう。そうすると、彼女を助ける事が出来ない。また、性格がひねていない尚文君の下で、ラフタリアが美しく成長するかは疑問である。外伝「槍の勇者のやり直し」の中で、樹君と錬君が、フラグっぽいことを言っている。曰く尚文君に恋愛感情を抱くかどうか、と言う事らしい。俺は、その他に、盾の勇者の剣としての覚悟を持つのがフラグなんじゃないかと思っている。
そうなると、可哀そうだが、今は尚文君を放っておくのが得策かもしれない。自分のレベル上げと金稼ぎに注力しよう。
で、そのあとどうするか。ソロプレイは寂しいし、ラフタリアを買っても、前述の通り、美しくは成長しないだろう。槍、剣、弓の三勇者のパーティーへ加入するのは論外だ。となると、やはり、盾の仲間になって、ラフタリアを買わせるというのがベストだろう。やさぐれた尚文君の仲間になるのは大変だろうが、彼は実利的だ。その辺をつつけば、何とかなるだろう。
考えがまとまると、俺は朝食をとり、雑貨屋で地図やタオルなどを購入し、川へと向かった。軽く水浴びをして、エグックをあさる。マッシュとともに、ある程度を倒すと、今度は森へ向かう。
そこで、ウサピルや鳥の魔物ピキュピキュ、巨大なバッタなどを狩る。ドタバッタとかいうふざけた名前らしい。それらの解体に時間を取られたが、バックパックがいっぱいになると素材屋へ持ち込むと言う事を繰り返すうち、俺のレベルは5に上がった。所持金は銀貨10枚ほどに増えた。
そこで、ステータス魔法の画面に変化が現れた。「レベルIIの魔法が解放されました」との表記が出たのだ。どうやら、俺のレベルが5の倍数を超えるたびに、魔法のレベルが上がるらしい。そこで、さっそく現れたウサピルに対し魔法を放ってみた。
「サンダーボールII!」
今までより大きな光の玉がウサピルに向かい、スパークを放って瞬時にウサピルを絶命させる。ありゃ、こりゃだめだ。ウサピルが黒焦げだ。明らかにオーバーキルである。素材としての毛皮が台無しだ。精神属性魔法なら狂気状態の確率が上がって良いのかもしれないが、その他の場合はまだレベルIの魔法で良さそうだ。
そんなこんなで一日を狩りで費やし、夜は酒場へと赴いた。四聖勇者を探すが、見つける事は出来なかった。
翌日、朝食をとっていると、隣のテーブルから噂話が聞こえてきた。曰く、盾の勇者が仲間の女の冒険者を襲ったと。ずいぶん早いこと。あのクズ王が、わざと風聞を広めているのだろう。可哀そうだが、今は何にも出来ない。
この日から、夜は何件か酒場をはしごすることにした。尚文君を見つけるためだ。だが、人に聞いてみても、盾の勇者の消息は知れなかった。
あれから10日間、俺は尚文君を見つける事が出来なかった。きっと、ずっと野宿をしているのだろう。俺は、そろそろ自分でラフタリアを購入するかと腹をくくりかけていた。所持金は、すでに銀貨100枚を超えている。‘盾の勇者専用特価’で銀貨30枚だったラフタリアだが、これなら、いわゆる‘定価’でも買えるだろう。
だが、念のために、もう一度酒場をのぞいてみることにした。すると、いたいた。マント姿の尚文君が、ガラの悪そうな連中に絡まれている。いや、ちょっと違うな。
漏れ聞こえる会話から察するに、パーティーの契約について話しているみたいだ。尚文君の出した条件は、完全出来高制、すなわち、リーダーの自分がまず収入のすべてを取り、そこから各々の働きに応じて、報酬を分配する方式だ。最低でも自分が4割って、ややがめつい気もするが、そもそも冷やかしのような連中に対し、まともに話している彼が偉いともいえる。やがて、尚文君とチンピラ達は酒場を出て行ったので、俺は後を追った。
路地裏に入ったところで、尚文君は、ナイフを抜いたチンピラ達に囲まれた。本性を現したといったところだが、いかにも金がなさそうな盾の勇者を襲ってどうするのだろう。黙って見ていると、あるものは尚文君のマントの下に隠されていたバルーンに食いつかれ、ナイフを振るった愚か者は、盾の力でナイフを弾き飛ばされ、結局、みんな捨て台詞を残して這う這うの体で逃げていった。
俺は、拍手をしながら尚文君に近づいた。
「お見事、盾の勇者。」
「なんだ、お前は。」
いぶかしそうに尚文君が言う。
「いや、さっきの完全出来高制の話、俺も混ぜてもらおうと思ってね。」
「どういうことだ?」
「早い話、あんたとパーティーを組みたい。」
尚文君の顔が、一層厳しくなった気がした。さすがに、人間不信がひどいねぇ。この際、嘘も少し混ぜるか。
「パーティーなら他の奴と組んだらどうだ。俺と組んでも、ろくなことにならないぞ。」
「俺もあんまりモテなくてね。それに、どうせなら、勇者様とパーティーを組みたい。」
「だったら、ほかの勇者のところへ行け。」
面倒くさそうに、尚文君が言う。
「残念ながら、すでに振られちゃいました。」
「それで俺のところへ来たと。俺も御免だ。」
「さっき見たが、あんたの強さは本物だ。俺と組んだなら、その強さを活かせるだろう。」
尚文君が少し目を細めた。
「ほかの勇者のお払い箱になった奴が、何を言ってるんだ。一体、何が出来る。」
俺は、徐に魔法を放った。
「ファイヤーアロー!」
尚文君が構えた盾の表面で、炎の矢が砕けて散った。
「魔法使いか!」
「大した防御力だ。俺は攻撃しか出来なくてね。その防御力はぜひとも欲しい。」
俺は尚文君にゆっくりと近づいた。
「何なら、明日いっぱい、俺を試しに使ってみるといい。倒したモンスターの素材は、あんたが全部取って構わない。」
「俺は犯罪者と言う事になっている。あんたはそれで構わないのか?」
尚文君が憎々しげに言う。
「気にならんね。大体、メルロマルクの女性優先主義は、俺には性に合わん!」
俺は吐き捨てるように言った。ちょっと、演技が過ぎるか。
「で、どうする?」
尚文君は、少し考えているようだった。が、やがて、
「いいだろう。だが、だまそうとしたら、ただじゃ置かない。」
と言って、俺の顔を見た。
「俺は、入江勝彦。」
言いながら、手を出す。
尚文君は驚いたように言った。
「日本人か。あんたも召喚されたのか?」
「ちょっと違う。まあ、おいおい話す。」
尚文君が手を握り返しながら言った。
「俺は、岩谷尚文だ。」
こうして、俺は、盾の勇者のパーティーに入った。尚文君にパーティー申請を飛ばしてもらい、俺は受けた。その意味を説明すると、ビッチ姫の時は何も説明がなかったと、尚文君は歯ぎしりをせんばかりに悔しがっていた。
その夜は、俺のおごりで宿屋に泊まった。一部屋でいいという尚文君だったが、俺はシングルを二つ取った。確か、尚文君は、他人の気配がすると眠れなくなっているはずだ。明日、俺の評価をきちんとしてもらうためにも、きちんと寝てもらおう。
翌日、俺たちは朝食を済ますと、街を出た。尚文君が向かったのは草原だった。俺のレベルは既に9になっている。いまさらバルーンかとも思ったが、これは、パーティー加入のための、一種の試験だから仕方ない。
バルーンが集団で湧いてきたので、ウィンドストームで一網打尽にする。
「ほう、すごいな。」
尚文君が感心している。そりゃあ、一体倒すのに、5分かかる人から見ると、そうなるか。俺は、尚文君を川へ誘った。
「エグックという魔物の殻が、高く売れる。」
まあ、よく考えると、尚文君はバルーン程度しか倒せないのだから、他の魔物はすべて盾の素材として有用なはずだ。
そうして、いつものようにエグックとマッシュをアイスアローとサンダーボールで倒していく。尚文君は、魔物の素材を盾に吸わせている。
「ところで、水浴びでもしたらどうだ、尚文。少し匂うぞ」
俺の方が年上なので、呼び捨てである。まあ、俺の方も、呼び捨てでいいとは言ってある。親切心で言ったのだが、
「余計なお世話だ。」
と、睨まれてしまった。
そのあと、森へ向かう。レッドバルーンを倒すと、尚文君は破片を盾に吸わせている。そういえば、彼の攻撃では倒せないんだっけ。
尚文君が、薬草を摘んでいるのを眺めていると、ウサピルが出てきたので、サンダーボールで昇天させる。徐にナイフで解体しようとすると、尚文君が、
「ちょっと貸せ。」
とナイフを取り上げ、鮮やかな手つきで瞬く間に解体してしまった。すごい。俺の5倍以上のスピードではなかろうか。
そのあと、ウサピルを2匹とピキュピキュを倒したところで、MPの残りが1/4ほどになった。
「尚文、戻ろう。MP切れだ。」
「なんだと。」
「まだ少しは残っているが、森を抜けるには必要だろう。魔法使いの欠点だ。MPが切れると、ただの人以下になる。」
俺は自嘲気味に言った。尚文君は少し考えてから、
「お前は俺と違ってナイフを使えるのだろう。俺が魔物を押さえるから、勝彦、お前は刺せ。それで、何とかなるはずだ。」
と俺を見ながら言う。
「俺はそういうのが苦手でね。出来れば、御免こうむりたい。」
「いいからやってみろ。」
それで、ちょうど出てきたレッドバルーンを尚文君が引っ掴み、俺はナイフを握りしめて突進する。と、ナイフをバルーンが齧って受け止め、見事に防がれてしまった。
「弱い!」
って、俺は、買われたばかりのラフタリアか?再度突撃し、気力を込めてバルーンを割ることに成功した。
そのあとは、現れた魔物を尚文君が押さえ、俺が刺すというスタイルで戦った。もっとも、空を飛ぶピキュピキュだけは、魔法を放って仕留めた。うまく急所を狙えなくて怒られたりはしたが、思ったよりは何とかなった。が、とうとう、手を滑らせてレッドバルーンに噛み付かれてしまった。
「痛って!」
そのバルーンは魔法で割る。
「お前は本当に不器用だな。」
「面目ない。」
俺のバックパックや尚文君が持っているバッグも魔物の素材でいっぱいになったので、とりあえず街に戻ることにする。
俺たちは素材屋へ向かった。店の主人は、いつもの営業スマイルではなく、露骨に嫌な顔で応対したが、素材は全部で銀貨8枚ほどになった。そのあと薬屋へ行き、薬草を売って、銀貨2枚ほど、合わせて銀貨10枚ほどの収入になった。
「ここまで、効率が違うとはな…。」
尚文君が唸る。
「俺の有能さが分かったかな?」
と俺が言うと、少しあきれ顔で見られたが、
「まあ、いいだろう。これからも、よろしく、頼む。」
と、合格判定をもらった。
「これでパーティー成立だが…、出来れば、アタッカーがもう一人、欲しいな。」
ある人物を視界の隅に捉えながら、俺は言った。
「攻撃力はお前ひとりで十分だろう。」
「魔力が切れた時の補助が、やっぱりいる。もう怪我をしたくないしな。もう一人パーティーに入れないか?」
俺はやや声を大きめにして言う。露骨なアピールであるが、本音でもある。それに答えるように、
「人手をお探しですかな?」
妙な燕尾服を着た、肥満体の怪しい紳士といった人物が、俺たちに声をかけた。奴隷商だ。盾の勇者にいつの間にか仲間が出来たので、女王との密約の手前、慌てて接触してきたな。まあ、幸いだ。ラフタリアを売ってもらおう。
案の定、尚文君は警戒している。
「近寄るな!」
とも言っている。その感想は同感なのだが、こいつは見た目ほど悪い奴じゃない。
「私が提供するのは、仲間などという不便なものじゃありません。」
奴隷商のその一言に、尚文君は興味を惹かれたようだ。
「まあ、話を聞いてみようじゃないか。」
と、俺は、尚文君を促す。
結局、俺たちは、不気味な奴隷商の後ろについて、だんだんと、暗くて狭い路地裏へと歩いて行った。
アニメ2話へと合流です。