翌朝。
俺たちは、村人たちに見送られて、城下街へと出発した。ほぼ、村人イコール尚文君が治療した患者、なので、その歓送具合は著しく良い。もっとも、尚文君は、今度来た時には、代金をもらい受けると、借金取りの捨て台詞のようなことを言っている。
治療師と助手も、手を振っている。助手が、ラフタリアに、なんか合図を送っている。頑張れ、かな?何を頑張るのだろう。
俺は、フィーロの手綱を緩める。フィーロが元気よく走りだす。いつの間にか、メルが俺の横に来て、フィーロに声援を送っている。フィーロがスピードを上げる。こらこら、張り切りすぎだぞ。メルは喜んでいるが、馬車が、尋常じゃないスピードで走り、揺れる。
これじゃあ、尚文君が調合などの作業が出来ない。俺は、フィーロの手綱を引く。
フィーロが不満そうに言う。
「かっちゃん。フィーロ、もっと走りたい。」
「張り切りすぎだぞ。馬車が、壊れちまう。」
フィロリアルにとっての最高の脅し文句を言う。さすがに、フィーロがスピードを落とす。
「えー。」
メルが不満そうに声を出す。王女様も、結構お転婆だ。
馬車は、普通のフィロリアルの最高速度程度のスピードで、目的地に向かって駆けてゆく。
魔物が出て来た。ウサピルだ。フィーロは、ウサピルを斜め前方に蹴り飛ばすと、そのまま落下点に入り、大口を開ける。落ちてきたウサピルを口で捉えると、そのまま丸呑みしてしまう。この食欲怪獣が。
メルはと見ると、キャッキャッと喜んでいる。結構、衝撃的な場面なんだけどなあ。
呪いの所為か、ラフタリアが馬車酔いを復活させたので、こまめに休憩をとる。おかげで、一日で戻る予定が、野宿を挟むことになった。
夕方になり、野宿にふさわしい川辺に馬車を止める。そのあと、皆で手分けして、薪を集めたり、食料を集めたりした。中でもフィーロは、魔物は狩るは、川魚は捕まえるは、八面六臂の活躍だ。よほど、メルに応援されるのがうれしいと見える。
尚文君が夕食を作っている最中、フィーロとメルは、追いかけっこをして遊んでいた。どこまでも、仲の良い二人だ。
夕食は、魔物の肉の串焼きを中心に、薬草のサラダ、川魚のカルパッチョもどき、木の実のデザートと、結構な品揃えだ。メルをはじめ、皆美味しいと尚文君を褒めたたえる。当の本人は、無関心だ。食い足りないフィーロが、メルの分まで手を出そうとして、怒られている。
夕食後、リファナが、話があるという。何事かと集まると、リファナは、馬車の陰で、服を脱ぎ出した。
「へ?」
俺は、思わず、変な声を漏らす。尚文君は、相変わらず平然としている。その神経、少し、分けてほしいぞ。
服を脱ぎ終えたリファナが、馬車の陰から出てくる。おいおい、と思ったが、リファナの姿が、少し、いや、だいぶ変わっていた。
背が少し縮んでいる。全体が毛皮に覆われ、まるっきり、イタチの獣人である。
「なおふみ様。私、変身出来るようになりました。」
リファナが言う。
「ほう、それは、すごいな。で、どう変わったんだ。」
と尚文君。
「敏捷性が、かなり上がりました。」
そして、リファナが消えた。そう見えただけで、目にも止まらない速さで突進し、俺に駆け寄り、爪を首筋に突きつける。どや顔のリファナだが、なぜ俺を実験台にする。確かに、このスピードは、フィーロに匹敵するが。
「リファナちゃん、すごいです。」
とラフタリア。
俺は、リファナの爪を首から外しながら、
「こりゃあ、変身用の服を作った方がいいかもな。」
と言った。
「フィーロのようにか。」
「ああ、どうせ城下街へ戻るんだから、魔法屋によって、糸を紡ごう。」
リファナが申し訳なさそうに言う。
「あのー、武器として、爪も欲しいです。この姿だと、短剣は扱いにくくって。」
「そうか、分かった。」
と尚文君。
「城下街では、いろいろと、やる事が多そうだな。」
見ると、女性陣が、リファナを囲んで談笑している。
そして夜。
フィーロとメルの二人は相変わらずはしゃいでいて、早く寝ろと尚文君に怒られている。ラフタリアは毛布をかぶって横になり、尚文君は魔法書を読んでいた。リファナは、馬車の中だ。尚文君に、一緒に寝ないかと誘って、当然のように断られている。ラフタリアが、なんだか微妙な顔をしていたな。
俺は、尚文君に声をかける。
「尚文、火の番は、俺がしているから、先に寝てくれ。」
尚文君は、名残惜しそうに魔法書を見ていたが、承知して、横になる。
俺は、眠気と戦いながら、燃えている火を見つめ、時々薪をくべた。
そういえば、フィーロとメルが、大人しい。と思ったら、フィーロが魔物姿で、うつらうつらしていた。メルはどこだ?すると、彼女、フィーロに上り始めた。そうして、下半身を、フィーロの羽毛に埋没させる。おわっ!体の半分以上が、フィーロに埋まったぞ。すごい。
そのままメルは、上半身も、フィーロの羽毛の中に沈んで、見えなくなった。一体、この鳥の羽毛は、どうなってるんだ。女の子一人の体が、丸々入ってしまったぞ。
うーん。フィーロの体はでかいが、見た目ほどのデブ鳥ではなく、スリムな本体に、たくさんの羽毛が生えていると言う事か。一度、この鳥の羽毛をむしってみると、面白いことになるかもしれない。
フィーロが寝ぼけ眼でつぶやく。
「うー。かっちゃん、変なこと考えてるー。」
お前はテレパスか。フィーロよ。フィーロはすぐに、舟を漕ぎ出す。
しばらくして、メルがフィーロの羽毛から、上半身を出した。そのままもぞもぞと、服を脱ぎ出した。フィーロの羽毛の中は、暑いのだろう。うーん。またもや幼女のストリップか。悪くないが、目のやり場に困るのも事実だ。ここは、共犯者を作ってやろう。
「尚文、面白いものがみられるぞ。」
尚文君をゆする。尚文君は、うめいて、しばらくして起き上がる。
「なんだ、勝彦。」
いつもの通り、尚文君は不機嫌そうだ。俺は、フィーロを指さす。すると、そこには、フィーロが舟を漕いでいる姿があった。残念ながら、ストリップは終わってしまったみたいだ。そばには、メルの服が脱ぎ散らかしてある。
「フィーロじゃないか、どうしたんだ。」
「いや、メルがな…。」
そう言いかけて、尚文君の表情に、唖然とする。彼は、フィーロと、脱ぎ散らかした服とを、交互に見て、愕然としていた。絶対になんか、誤解しているな。
「勝彦、お前…。」
そう言いかけた時、ラフタリアが起きてきた。
「どうしたんですか。」
彼女はそう言って、やはり、メルの服を見つける。眠りこけているフィーロを見て、愕然とした表情になる。だから、違うって。
「ナオフミ様…。」
ラフタリアの声が、震えている。
「ラフタリア…。」
尚文君も同様だ。お前ら、犯罪に立ち会った、夫婦かっての。そもそも、フィーロは無実だ。
「勝彦、なぜ止めなかった!」
だから、何を?
「別に止めるもんじゃないだろ、本人の好きにさせるさ。」
「フィーロが、メルさんを食べるのを、見ていたっていうんですか!?」
とラフタリア。あーあ。言っちゃった。それは、フィーロに対する最大の侮辱だ。
「そんな訳、無いだろ。」
と答えると、フィーロが起きた。
「何、けんかしてるのー?」
「フィーロ、お前…。」
「フィーロ、メルさんは、どうしたの?」
「メルちゃん?フィーロの羽の中で、寝てるよ。」
フィーロが二人の剣幕に、不思議そうに答えた。フィーロが羽毛を逆立てる。
「メルちゃん、起きて!」
メルが、フィーロの羽毛から、徐に顔を出す。
尚文君とラフタリアが驚く。
「どうしたんですか?」
メルが寝ぼけ眼で訊く。
「な、何してるんだ?」
「フィーロちゃんの羽毛の中、とっても温かくて、気持ちいいんです。」
とメルが答えた。俺が言う。
「そんなメルが、羽の中でストリップを始めたんでな。尚文にも見せてやろうと思って、起こしたんだ。」
「す、ストリップ!?」
ラフタリアの声が、裏返る。
「暑かったんだろ。」
と俺。
「そもそもいったいどうやって…。」
尚文君が、フィーロの体をしげしげと見ている。ラフタリアが、片腕を、フィーロの羽毛の中にうずめていく。
「すごい、どんどん入っていく。」
すぐに、ラフタリアの腕は、フィーロの羽毛に埋まる。
「なんだか、あったかくて、気持ちいいです。」
ラフタリアが、とろんとした声を出す。
フィーロとメルは、眠りだした。ラフタリアも夢の中だ。
「なんか、すごいな。」
「この羽に、催眠効果でもあるっていうのか?」
尚文君が、フィーロの抜け毛を拾って言う。
俺たちは、顔を見合わせた。