転生引きこもりは狸娘の夢を見る   作:マーカス・クラン

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第19話 フィーロの不思議な形態

 翌朝。

 俺たちは、村人たちに見送られて、城下街へと出発した。ほぼ、村人イコール尚文君が治療した患者、なので、その歓送具合は著しく良い。もっとも、尚文君は、今度来た時には、代金をもらい受けると、借金取りの捨て台詞のようなことを言っている。

 治療師と助手も、手を振っている。助手が、ラフタリアに、なんか合図を送っている。頑張れ、かな?何を頑張るのだろう。

 俺は、フィーロの手綱を緩める。フィーロが元気よく走りだす。いつの間にか、メルが俺の横に来て、フィーロに声援を送っている。フィーロがスピードを上げる。こらこら、張り切りすぎだぞ。メルは喜んでいるが、馬車が、尋常じゃないスピードで走り、揺れる。

 これじゃあ、尚文君が調合などの作業が出来ない。俺は、フィーロの手綱を引く。

 フィーロが不満そうに言う。

 「かっちゃん。フィーロ、もっと走りたい。」

 「張り切りすぎだぞ。馬車が、壊れちまう。」

フィロリアルにとっての最高の脅し文句を言う。さすがに、フィーロがスピードを落とす。

 「えー。」

メルが不満そうに声を出す。王女様も、結構お転婆だ。

 馬車は、普通のフィロリアルの最高速度程度のスピードで、目的地に向かって駆けてゆく。

 魔物が出て来た。ウサピルだ。フィーロは、ウサピルを斜め前方に蹴り飛ばすと、そのまま落下点に入り、大口を開ける。落ちてきたウサピルを口で捉えると、そのまま丸呑みしてしまう。この食欲怪獣が。

 メルはと見ると、キャッキャッと喜んでいる。結構、衝撃的な場面なんだけどなあ。

 呪いの所為か、ラフタリアが馬車酔いを復活させたので、こまめに休憩をとる。おかげで、一日で戻る予定が、野宿を挟むことになった。

 夕方になり、野宿にふさわしい川辺に馬車を止める。そのあと、皆で手分けして、薪を集めたり、食料を集めたりした。中でもフィーロは、魔物は狩るは、川魚は捕まえるは、八面六臂の活躍だ。よほど、メルに応援されるのがうれしいと見える。

 尚文君が夕食を作っている最中、フィーロとメルは、追いかけっこをして遊んでいた。どこまでも、仲の良い二人だ。

 夕食は、魔物の肉の串焼きを中心に、薬草のサラダ、川魚のカルパッチョもどき、木の実のデザートと、結構な品揃えだ。メルをはじめ、皆美味しいと尚文君を褒めたたえる。当の本人は、無関心だ。食い足りないフィーロが、メルの分まで手を出そうとして、怒られている。

 

 夕食後、リファナが、話があるという。何事かと集まると、リファナは、馬車の陰で、服を脱ぎ出した。

 「へ?」

俺は、思わず、変な声を漏らす。尚文君は、相変わらず平然としている。その神経、少し、分けてほしいぞ。

 服を脱ぎ終えたリファナが、馬車の陰から出てくる。おいおい、と思ったが、リファナの姿が、少し、いや、だいぶ変わっていた。

 背が少し縮んでいる。全体が毛皮に覆われ、まるっきり、イタチの獣人である。

 「なおふみ様。私、変身出来るようになりました。」

リファナが言う。

 「ほう、それは、すごいな。で、どう変わったんだ。」

と尚文君。

 「敏捷性が、かなり上がりました。」

そして、リファナが消えた。そう見えただけで、目にも止まらない速さで突進し、俺に駆け寄り、爪を首筋に突きつける。どや顔のリファナだが、なぜ俺を実験台にする。確かに、このスピードは、フィーロに匹敵するが。

 「リファナちゃん、すごいです。」

とラフタリア。

 俺は、リファナの爪を首から外しながら、

 「こりゃあ、変身用の服を作った方がいいかもな。」

と言った。

 「フィーロのようにか。」

 「ああ、どうせ城下街へ戻るんだから、魔法屋によって、糸を紡ごう。」

リファナが申し訳なさそうに言う。

 「あのー、武器として、爪も欲しいです。この姿だと、短剣は扱いにくくって。」

 「そうか、分かった。」

と尚文君。

 「城下街では、いろいろと、やる事が多そうだな。」

 見ると、女性陣が、リファナを囲んで談笑している。

 

 そして夜。

 フィーロとメルの二人は相変わらずはしゃいでいて、早く寝ろと尚文君に怒られている。ラフタリアは毛布をかぶって横になり、尚文君は魔法書を読んでいた。リファナは、馬車の中だ。尚文君に、一緒に寝ないかと誘って、当然のように断られている。ラフタリアが、なんだか微妙な顔をしていたな。

 俺は、尚文君に声をかける。

 「尚文、火の番は、俺がしているから、先に寝てくれ。」

尚文君は、名残惜しそうに魔法書を見ていたが、承知して、横になる。

 俺は、眠気と戦いながら、燃えている火を見つめ、時々薪をくべた。

 そういえば、フィーロとメルが、大人しい。と思ったら、フィーロが魔物姿で、うつらうつらしていた。メルはどこだ?すると、彼女、フィーロに上り始めた。そうして、下半身を、フィーロの羽毛に埋没させる。おわっ!体の半分以上が、フィーロに埋まったぞ。すごい。

 そのままメルは、上半身も、フィーロの羽毛の中に沈んで、見えなくなった。一体、この鳥の羽毛は、どうなってるんだ。女の子一人の体が、丸々入ってしまったぞ。

 うーん。フィーロの体はでかいが、見た目ほどのデブ鳥ではなく、スリムな本体に、たくさんの羽毛が生えていると言う事か。一度、この鳥の羽毛をむしってみると、面白いことになるかもしれない。

 フィーロが寝ぼけ眼でつぶやく。

 「うー。かっちゃん、変なこと考えてるー。」

お前はテレパスか。フィーロよ。フィーロはすぐに、舟を漕ぎ出す。

 しばらくして、メルがフィーロの羽毛から、上半身を出した。そのままもぞもぞと、服を脱ぎ出した。フィーロの羽毛の中は、暑いのだろう。うーん。またもや幼女のストリップか。悪くないが、目のやり場に困るのも事実だ。ここは、共犯者を作ってやろう。

 「尚文、面白いものがみられるぞ。」

尚文君をゆする。尚文君は、うめいて、しばらくして起き上がる。

 「なんだ、勝彦。」

いつもの通り、尚文君は不機嫌そうだ。俺は、フィーロを指さす。すると、そこには、フィーロが舟を漕いでいる姿があった。残念ながら、ストリップは終わってしまったみたいだ。そばには、メルの服が脱ぎ散らかしてある。

 「フィーロじゃないか、どうしたんだ。」

 「いや、メルがな…。」

そう言いかけて、尚文君の表情に、唖然とする。彼は、フィーロと、脱ぎ散らかした服とを、交互に見て、愕然としていた。絶対になんか、誤解しているな。

 「勝彦、お前…。」

そう言いかけた時、ラフタリアが起きてきた。

 「どうしたんですか。」

彼女はそう言って、やはり、メルの服を見つける。眠りこけているフィーロを見て、愕然とした表情になる。だから、違うって。

 「ナオフミ様…。」

ラフタリアの声が、震えている。

 「ラフタリア…。」

尚文君も同様だ。お前ら、犯罪に立ち会った、夫婦かっての。そもそも、フィーロは無実だ。

 「勝彦、なぜ止めなかった!」

だから、何を?

 「別に止めるもんじゃないだろ、本人の好きにさせるさ。」

 「フィーロが、メルさんを食べるのを、見ていたっていうんですか!?」

とラフタリア。あーあ。言っちゃった。それは、フィーロに対する最大の侮辱だ。

 「そんな訳、無いだろ。」

と答えると、フィーロが起きた。

 「何、けんかしてるのー?」

 「フィーロ、お前…。」

 「フィーロ、メルさんは、どうしたの?」

 「メルちゃん?フィーロの羽の中で、寝てるよ。」

フィーロが二人の剣幕に、不思議そうに答えた。フィーロが羽毛を逆立てる。

 「メルちゃん、起きて!」

メルが、フィーロの羽毛から、徐に顔を出す。

 尚文君とラフタリアが驚く。

 「どうしたんですか?」

メルが寝ぼけ眼で訊く。

 「な、何してるんだ?」

 「フィーロちゃんの羽毛の中、とっても温かくて、気持ちいいんです。」

とメルが答えた。俺が言う。

 「そんなメルが、羽の中でストリップを始めたんでな。尚文にも見せてやろうと思って、起こしたんだ。」

 「す、ストリップ!?」

ラフタリアの声が、裏返る。

 「暑かったんだろ。」

と俺。

 「そもそもいったいどうやって…。」

尚文君が、フィーロの体をしげしげと見ている。ラフタリアが、片腕を、フィーロの羽毛の中にうずめていく。

 「すごい、どんどん入っていく。」

すぐに、ラフタリアの腕は、フィーロの羽毛に埋まる。

 「なんだか、あったかくて、気持ちいいです。」

ラフタリアが、とろんとした声を出す。

 フィーロとメルは、眠りだした。ラフタリアも夢の中だ。

 「なんか、すごいな。」

 「この羽に、催眠効果でもあるっていうのか?」

尚文君が、フィーロの抜け毛を拾って言う。

 俺たちは、顔を見合わせた。

 

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