城下街へと着いた。俺たちは、武器屋へ向かう。武器・防具を調達するのもそうだが、滞在する間、馬車を預かってもらうためである。
そういえば、この馬車も、結構ボロボロになっている。フィーロのスピード故である。補修して使うのも、限界に来ている。この際、思い切って、新調するか。
武器屋の前で、メルと別れる。メルは、丁寧にお礼を言う。やはり、いいとこの子だけはある。そのままフィーロと連れ立って、行ってしまう。フィーロは、送り届けて、お礼をもらってくる役だ。尚文君からいろいろと指示をもらっていたが、ちゃんと覚えているかな?
武器屋へ入ると、エルハルトは歓迎してくれた。
「よお、アンちゃん達。元気か。この前はあわただしかったからな。今日はゆっくり出来るんだろう?」
「そのつもりだ。装備を買い替えるから、サービスしてくれ。」
と尚文君。
「分かった。ただ、魔法使いのアンちゃんは、うちよりも魔法屋へ行った方がいいな。」
確かに正論だが、なんか、仲間外れにされた気がする。エルハルトは、リファナを見て言う。
「そこの嬢ちゃんは、わずかの間に育ったんじゃねえか。これも、伝説の盾のおかげか。」
しげしげと見られて、リファナは照れ臭そうだ。彼女は、15歳程度の外見に育ってきている。心なしか、ラフタリアの時より、成長速度が遅い気もする。
「となると、もったいないが、武器や防具も選びなおしだな。」
そう言うエルハルトに、尚文君が言う。
「いや、リファナは、獣人に変身できるようになった。戦いも、その姿でするようだ。だから、変身種族用の服を調達する。武器は、爪が良いそうだ。親父のところで、用意出来るか。」
「ふーん。無い事は無いが、種類がな。多分、魔物商の所で調達した方が、いいものが手に入るぞ。」
魔物商と聞いて、尚文君が苦虫を噛み潰したような顔になる。やっぱり、苦手か。お前は、気に入られているようなんだが。
「まあ、取り敢えずは、俺とラフタリアの装備を頼む。勝彦、リファナ。馬車から山賊から奪った装備を運んでくれ。下取りに出す。」
山賊から奪ったと聞いて、エルハルトが目を丸くしている。
装備を運んでいると、尚文君に、
「今、金はいくらある?」
と聞かれた。
「金貨70枚とちょいだ。」
と俺は答える。
「金貨70枚だって!スゲーな、アンちゃん達。」
エルハルトは唸る。
「だったら、うちのとっておきをお勧めするぜ。」
ちらちらと見ていたところ、勧められたのが、ラフタリアの剣が、魔法上級銀製で、金貨10枚。鎧が、魔法銀製で金貨10枚。尚文君の鎧が、今までの蛮族の鎧の改造で、素材の不足を鑑みて、やはり、金貨10枚。高いが、払えない額じゃない。
「ところで尚文、馬車だが、思い切って、新調しないか?」
装備を運び終え、俺は、気になっていることを言った。
「そうだな。直して使うのも、つらくなってきているし…。親父、馬車の新造なんか、頼めないか?」
尚文君が言う。
「専門外だが、つてがないわけじゃ、ないな。他ならぬ、アンちゃん達の頼みだ。一肌脱いでやるよ。」
「済まない。」
「だが、前金で、金貨10枚もらうぜ。あの傷み具合だと、金属製にした方がいいだろうしな。」
あっという間に、金貨40枚が飛んだ。馬車も前金だから、あと幾らかは掛かるだろう。
「アンちゃんの鎧は、何とか、明日までに仕上げておく。」
とエルハルト。そいつはありがたい。
フィーロが帰ってきたら、ここで待たせてもらえるよう頼んでから、俺たちは、魔法屋へ向かった。
魔法屋では、リファナに糸を紡がせる。魔力を糸に変え、変身種族用の服の素材にするのだ。
俺は、上級のローブを買った。金貨3枚である。さらに、魔法水も買う。おまけしてもらって、9本で金貨1枚だ。以前の買い置きも含め、ストックが12本になった。
杖も買うよう勧められたが、俺の魔法は詠唱なしなので、杖の補助は必要ない。もちろん、武器としても優秀なのだが、俺は、棒術の心得がないし、かさばるので、結局やめた。俺にはラフタリアのナイフがあれば、十分だ。
尚文君が、リファナに、一人で大丈夫か聞いている。リファナをここに置いて、3人で教会へ行くのだ。寄るところがたくさんあるので、効率的に回る必要がある。
教会では、露骨に敵意のこもった視線で歓迎された。
「ちょっと訊きたいことがあるのだが…。」
尚文君が言いかけると、上等な法衣をまとった、眼鏡をかけた白髪の男が、二人の護衛を伴って、階段から降りてきた。教皇だ。
「これは盾の勇者様、わが教会へ、ようこそお越しくださいました。」
したり顔で言う教皇に、俺は殺意を覚えた。こいつは、騒動の元凶の一人だ。今ここで、葬ってしまえば、尚文君たちが、苦労する事は無くなる…。
俺は、喉まで出かかったファイヤーブラストの言葉を、無理やり飲み込んだ。
いや、少し冷静になれ。ここで教皇を殺しても、後釜に誰かが座るだけだ。それに、盾のパーティーにはいられなくなるだろう。
尚文君たちは、事情を知らない。無意味な殺人を犯した犯罪者としか、俺を見ないだろう。後だしじゃんけんのように事情を話しても、信じてくれる可能性は少ない。更には、尚文君たちも犯罪者の仲間として追われることになる。
「呪いを解く、一番強力な聖水を譲ってくれ。」
尚文君が言う。
「では、お布施を。」
護衛の一人が言う。
「いくらだ。」
「一番強力なものですと、金貨1枚です。」
「では、それをくれ。」
ラフタリアが遮るように言う。
「いけません、ナオフミ様。そんな高価なものを…。」
「構わない。お前に比べれば、金貨1枚など安いものだ。」
尚文君が答える。ラフタリアは、感激して頬を染めた。
聖水を手に入れると、尚文君が聞いた。
「クラスアップがしたいのだが…。」
「クラスアップ、ですか。案内させましょう。」
俺たちは、表情の良く分からないシスターについて行った。
尚文君が、ラフタリアに話しかける。
「ラフタリア、お前は、どんなふうに、クラスアップしたいんだ?」
「私は、ナオフミ様の思うままに。」
ラフタリアが答える。
「それは、ダメだ。自分の可能性は、自分で決めるんだ。」
と尚文君が言う。
「波が終わって、俺が元の世界に帰った時、俺がいなくても、生きていける道を選べ。」
「ナオフミ様は、帰ってしまわれるのですか?」
ラフタリアは、戸惑うような、それでいて寂しそうな表情を浮かべる。
やがて、俺たちは、龍刻の砂時計の前に来た。
シスターが告げる。
「クラスアップは、一人当たり、金貨15枚です。」
うぇっ!高い!一人分しかないぞ。尚文君も半ば呆れている。
「仕方ない、勝彦、お前がクラスアップしろ。」
俺は言う。
「いいや、ラフタリアが先だ。」
「なぜだ?」
「俺は、魔法のレベルが上がらないと、戦闘力が上がらない。だから、クラスアップしても、レベルが45にならないと強くなれないんだ。波までに、そこまでレベルを上げるのは、無理だ。」
俺は、ラフタリアを見る。
「だから、ラフタリアをクラスアップさせ、ステータスの上昇を図った方がいい。」
「分かった。それなら、ラフタリアからクラスアップしろ。」
俺はシスターに、金袋を渡す。シスターが、明らかに、うろたえる。別のシスターが、書類を持ってきて、言った。
「盾の勇者一行のクラスアップは、禁止されています。王直々の命令です。」
「そんな。」
とラフタリア。
尚文君は、忌々しげに、シスターに渡した金袋を奪い返すと、
「行くぞ。」
と言った。
教会へ出ると、リファナを回収しに魔法屋へと向かう。すると、遠くに、
「盾の勇者様ー。」
と呼ぶ声が聞こえた。
「あ、あれ。」
ラフタリアが指をさす。見ると、一人の少年兵が、こちらへ向かって走ってくる。
「おい、逃げるぞ。」
尚文君が、ラフタリアの手を取って、走り出す。
「な、尚文、別に逃げなくても、いいんじゃないか。」
俺も走りながら、言う。
「追ってくるんだ、逃げるしかないじゃないか。」
ほとんど、被害妄想じゃないかとも思う。
尚文君がさらにスピードを上げる。俺はついて行くのが精一杯になった。路地へ入り、階段を降りると、呼ぶ声は遠くなった。物陰で俺たちは息を整える。
「多分、あいつの狙いは、俺だ。ラフタリアはフィーロを、勝彦はリファナを連れて来てくれ。武器屋で落ち合おう。」
尚文君はそう言うと、脱兎のごとく駆け出してしまった。うーん。口をはさむ余地がない。仕方がないので、ラフタリアと別れて、魔法屋へ向かう。
魔法屋では、リファナが、ちょうど糸を紡ぎ終えたところだった。お礼を言って、糸をもらう。お代は前払い済みだ。
リファナが訊く。
「他のみんなは、どうしたんですか?」
「ちょっと訳あって、別行動中だ。武器屋で落ち合う事になっている。」
リファナは、釈然としない表情だったが、取り敢えず、俺と一緒に武器屋へ向かった。
すると、さほど遠くないところで、爆発音が聞こえた。尚文君か?確か、槍の勇者といざこざがあるはずのような…。
「見て来ます。」
リファナが言うと、一気に駆け出した。速い。俺も後を追うが、どんどん離されていく。
ぜーぜーはーはーと俺が息を切らし、たどり着いた先には、人の輪が出来ていた。見物人をかき分け、輪の内側に入る。そこでは、槍の勇者、元康君と、獣人姿のリファナが戦っていた。見ると、リファナの服が落ちている。俺は、それを拾った。
リファナは、スピードを生かして元康君の内懐に入り、シャーシャーと威嚇しながら攻撃している。生爪での攻撃なので、ダメージはほとんど入っていないが、元康君は、戸惑い、イヤそうにしている。あの位置では、槍もうまく振るえまい。
尤も、元の亜人少女姿で攻撃した方が、元康君にはダメージになったはずだ。精神的に。
元康君が、槍を構える。スキルか。リファナを吹き飛ばされても困るので、俺は魔法を放つ。
「サイコアタックIX!」
「ふみぎゃっ!」
元康君が、踏んずけられた猫のような声を上げる。勇者様は、魔法耐性が高いからな。もう一発。
「サイコアタックIX!」
「おうっくっ!」
元康君が跪く。多分これでスキルは撃てまい。
「おっさんか?」
と元康君。あくまでおっさん呼ばわりなんだな。許さん。リファナは少し離れて身構えている。
「勝彦!」
尚文君が声をかける。盾はキメラヴァイパーシールド。街中なのに、戦闘態勢だ。
石畳の道には大きな亀裂が走り、周りの店には、かなりの被害が出ている。また決闘でもしたってことか。現場にたどり着いたリファナは、後先考えずに変身し、尚文君をかばって戦った…ありうる話だ。
すると、
「横やりは困りますね。」
と赤毛の女が言った。冒険者マイン、いや、やはりビッチ姫と呼ぶのがふさわしいだろう。彼女は、何やら巻物を広げて言う。
「これは、槍の勇者様と、盾の勇者の正当な決闘…。」
「アイスウォールV!」
俺は、皆まで言わせず、地雷女を氷壁に閉じ込めた。程なく炎が上がり、彼女はウォールから脱出する。
「何をするのよ!」
怒るビッチ姫に、俺は、
「で、何だって?」
と言ってやった。
「だから、一対一の決闘で、横やりは…。」
そこまで言って、ようやく彼女は気づいた。巻物は、彼女自身の魔法で、黒焦げになっている。
「決闘のリベンジなら受けるぜ。俺も一枚かましてもらうがな。」
と俺。
すると、
「往来での決闘は、認められません!」
と、鋭い声が響いた。
「双方とも、剣をおさめなさい!」
見ると、メルが、兵士にかしずかれて、歩いてくる。
「なぜ、お前が、ここに…。」
驚愕の表情で、マインがメルを見る。
「お久しぶりです、姉上。」
あくまで丁寧に、メルが挨拶をする。だが、声は氷のように、冷たい。
「此度の騒動、姉上や、勇者の権力で、どうにかできると思わぬように、お願いします。」
そうして、元康君の方を見る。
「槍の勇者様。周りをご覧ください。民を巻き込んで戦う者を、誰が勇者と思いますか。」
元康君が二の句を継げずにいる。
「姉上、相変わらず、お戯れが過ぎるようで。」
メルが言う。
「私は、勇者様の補佐という責務を、まっとうしているだけですわ。」
マインが答える。
「民の往来で決闘させるのが、補佐ですか。」
「妹の分際で、私に刃向かうつもり?」
「事と場合によっては、母上に報告します。」
マインが舌打ちをする。女王の存在は、やはり大きいようだ。
尚文君が、盾をブックシールドに変える。戦闘態勢の解除だ。メルを見て、いぶかしげな表情をしている。やはり、王族というのは引っかかるか。
メルは、被害を受けた民に、頭を下げている。
ちょいちょいと、俺をつつくものがいる。見ると、リファナだ。
「服、なんでかつひこさんが持っているのよ、エッチ。」
言われて服を彼女に渡す。ついでにローブを脱ぎ、彼女の頭からかぶせてやる。
「さっさと服を着ろ。」
リファナがローブの中でもぞもぞと動く。
「ナオフミ様、一体、何があったのですか?」
ラフタリアが、フィーロを連れて戻って来た。
「いや、元康のバカがな…。」
答える尚文君の前をすり抜けて、元康君がフィーロの手を取って跪く。
「フィーロちゃん、君の名前はフィーロちゃんっていうんだろ?」
「うん、フィーロはね、フィーロ。」
フィーロは能天気に答える。
「可哀そうに、尚文の奴に、馬車馬のように働かされているんだね。」
と元康君が言う。
「馬車を引くのは、好きだよ。」
フィーロが答える。元康君は、怒りの表情を露にし、槍を構える。
「尚文!あの不細工な鳥みたいに、フィーロちゃんにまで…。許さん!」
ラフタリアが応戦する構えを見せる中、フィーロがつぶやく。
「フィーロのこと、不細工って言った。前に会った時も、フィーロのこと笑ったし…。」
「いつ、俺が、君のことを笑ったって…。」
「槍の人、嫌ーい!」
フィーロが叫んで、魔物姿に変わる。呆然とする元康君の股間を強靭な脚で蹴り上げ、10メートルばかり吹っ飛ばす。やっぱり、潰れたかな。回復魔法がある世界は、便利だ。
「フィーロの勝ち!」
人型に戻ったフィーロが、ガッツボーズをする。そんなフィーロを、尚文君が爽やかな笑みを浮かべて撫でている。ラフタリアはあきれ顔だ。
「神鳥の聖人様、いえ、盾の勇者様。」
メルが近づいてきて、言った。
「貴方に、お話があります。」
尚文君も言う。
「こっちも訊きたいことがある。」
龍刻の砂時計ですが、アニメ3話で教会にあると言っているのに、10話ではWEB版、書籍版の通りに、時計台にある表現になっているのに気が付きました。
本作では、教会にあると言う事で、押し通します。