転生引きこもりは狸娘の夢を見る   作:マーカス・クラン

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第20話 矛盾の決闘その2

 城下街へと着いた。俺たちは、武器屋へ向かう。武器・防具を調達するのもそうだが、滞在する間、馬車を預かってもらうためである。

 そういえば、この馬車も、結構ボロボロになっている。フィーロのスピード故である。補修して使うのも、限界に来ている。この際、思い切って、新調するか。

 武器屋の前で、メルと別れる。メルは、丁寧にお礼を言う。やはり、いいとこの子だけはある。そのままフィーロと連れ立って、行ってしまう。フィーロは、送り届けて、お礼をもらってくる役だ。尚文君からいろいろと指示をもらっていたが、ちゃんと覚えているかな?

 武器屋へ入ると、エルハルトは歓迎してくれた。

 「よお、アンちゃん達。元気か。この前はあわただしかったからな。今日はゆっくり出来るんだろう?」

 「そのつもりだ。装備を買い替えるから、サービスしてくれ。」

と尚文君。

 「分かった。ただ、魔法使いのアンちゃんは、うちよりも魔法屋へ行った方がいいな。」

確かに正論だが、なんか、仲間外れにされた気がする。エルハルトは、リファナを見て言う。

 「そこの嬢ちゃんは、わずかの間に育ったんじゃねえか。これも、伝説の盾のおかげか。」

 しげしげと見られて、リファナは照れ臭そうだ。彼女は、15歳程度の外見に育ってきている。心なしか、ラフタリアの時より、成長速度が遅い気もする。

 「となると、もったいないが、武器や防具も選びなおしだな。」

そう言うエルハルトに、尚文君が言う。

 「いや、リファナは、獣人に変身できるようになった。戦いも、その姿でするようだ。だから、変身種族用の服を調達する。武器は、爪が良いそうだ。親父のところで、用意出来るか。」

 「ふーん。無い事は無いが、種類がな。多分、魔物商の所で調達した方が、いいものが手に入るぞ。」

 魔物商と聞いて、尚文君が苦虫を噛み潰したような顔になる。やっぱり、苦手か。お前は、気に入られているようなんだが。

 「まあ、取り敢えずは、俺とラフタリアの装備を頼む。勝彦、リファナ。馬車から山賊から奪った装備を運んでくれ。下取りに出す。」

山賊から奪ったと聞いて、エルハルトが目を丸くしている。

 装備を運んでいると、尚文君に、

 「今、金はいくらある?」

と聞かれた。

 「金貨70枚とちょいだ。」

と俺は答える。

 「金貨70枚だって!スゲーな、アンちゃん達。」

エルハルトは唸る。

 「だったら、うちのとっておきをお勧めするぜ。」

 ちらちらと見ていたところ、勧められたのが、ラフタリアの剣が、魔法上級銀製で、金貨10枚。鎧が、魔法銀製で金貨10枚。尚文君の鎧が、今までの蛮族の鎧の改造で、素材の不足を鑑みて、やはり、金貨10枚。高いが、払えない額じゃない。

 「ところで尚文、馬車だが、思い切って、新調しないか?」

 装備を運び終え、俺は、気になっていることを言った。

 「そうだな。直して使うのも、つらくなってきているし…。親父、馬車の新造なんか、頼めないか?」

尚文君が言う。

 「専門外だが、つてがないわけじゃ、ないな。他ならぬ、アンちゃん達の頼みだ。一肌脱いでやるよ。」

 「済まない。」

 「だが、前金で、金貨10枚もらうぜ。あの傷み具合だと、金属製にした方がいいだろうしな。」

 あっという間に、金貨40枚が飛んだ。馬車も前金だから、あと幾らかは掛かるだろう。

 「アンちゃんの鎧は、何とか、明日までに仕上げておく。」

とエルハルト。そいつはありがたい。

 フィーロが帰ってきたら、ここで待たせてもらえるよう頼んでから、俺たちは、魔法屋へ向かった。

 

 魔法屋では、リファナに糸を紡がせる。魔力を糸に変え、変身種族用の服の素材にするのだ。

 俺は、上級のローブを買った。金貨3枚である。さらに、魔法水も買う。おまけしてもらって、9本で金貨1枚だ。以前の買い置きも含め、ストックが12本になった。

 杖も買うよう勧められたが、俺の魔法は詠唱なしなので、杖の補助は必要ない。もちろん、武器としても優秀なのだが、俺は、棒術の心得がないし、かさばるので、結局やめた。俺にはラフタリアのナイフがあれば、十分だ。

 尚文君が、リファナに、一人で大丈夫か聞いている。リファナをここに置いて、3人で教会へ行くのだ。寄るところがたくさんあるので、効率的に回る必要がある。

 

 教会では、露骨に敵意のこもった視線で歓迎された。

 「ちょっと訊きたいことがあるのだが…。」

尚文君が言いかけると、上等な法衣をまとった、眼鏡をかけた白髪の男が、二人の護衛を伴って、階段から降りてきた。教皇だ。

 「これは盾の勇者様、わが教会へ、ようこそお越しくださいました。」

したり顔で言う教皇に、俺は殺意を覚えた。こいつは、騒動の元凶の一人だ。今ここで、葬ってしまえば、尚文君たちが、苦労する事は無くなる…。

 俺は、喉まで出かかったファイヤーブラストの言葉を、無理やり飲み込んだ。

 いや、少し冷静になれ。ここで教皇を殺しても、後釜に誰かが座るだけだ。それに、盾のパーティーにはいられなくなるだろう。

 尚文君たちは、事情を知らない。無意味な殺人を犯した犯罪者としか、俺を見ないだろう。後だしじゃんけんのように事情を話しても、信じてくれる可能性は少ない。更には、尚文君たちも犯罪者の仲間として追われることになる。

 「呪いを解く、一番強力な聖水を譲ってくれ。」

尚文君が言う。

 「では、お布施を。」

護衛の一人が言う。

 「いくらだ。」

 「一番強力なものですと、金貨1枚です。」

 「では、それをくれ。」

ラフタリアが遮るように言う。

 「いけません、ナオフミ様。そんな高価なものを…。」

 「構わない。お前に比べれば、金貨1枚など安いものだ。」

尚文君が答える。ラフタリアは、感激して頬を染めた。

 

 聖水を手に入れると、尚文君が聞いた。

 「クラスアップがしたいのだが…。」

 「クラスアップ、ですか。案内させましょう。」

俺たちは、表情の良く分からないシスターについて行った。

 尚文君が、ラフタリアに話しかける。

 「ラフタリア、お前は、どんなふうに、クラスアップしたいんだ?」

 「私は、ナオフミ様の思うままに。」

ラフタリアが答える。

 「それは、ダメだ。自分の可能性は、自分で決めるんだ。」

と尚文君が言う。

 「波が終わって、俺が元の世界に帰った時、俺がいなくても、生きていける道を選べ。」

 「ナオフミ様は、帰ってしまわれるのですか?」

ラフタリアは、戸惑うような、それでいて寂しそうな表情を浮かべる。

 やがて、俺たちは、龍刻の砂時計の前に来た。

 シスターが告げる。

 「クラスアップは、一人当たり、金貨15枚です。」

うぇっ!高い!一人分しかないぞ。尚文君も半ば呆れている。

 「仕方ない、勝彦、お前がクラスアップしろ。」

俺は言う。

 「いいや、ラフタリアが先だ。」

 「なぜだ?」

 「俺は、魔法のレベルが上がらないと、戦闘力が上がらない。だから、クラスアップしても、レベルが45にならないと強くなれないんだ。波までに、そこまでレベルを上げるのは、無理だ。」

俺は、ラフタリアを見る。

 「だから、ラフタリアをクラスアップさせ、ステータスの上昇を図った方がいい。」

 「分かった。それなら、ラフタリアからクラスアップしろ。」

俺はシスターに、金袋を渡す。シスターが、明らかに、うろたえる。別のシスターが、書類を持ってきて、言った。

 「盾の勇者一行のクラスアップは、禁止されています。王直々の命令です。」

 「そんな。」

とラフタリア。

 尚文君は、忌々しげに、シスターに渡した金袋を奪い返すと、

 「行くぞ。」

と言った。

 

 教会へ出ると、リファナを回収しに魔法屋へと向かう。すると、遠くに、

 「盾の勇者様ー。」

と呼ぶ声が聞こえた。

 「あ、あれ。」

ラフタリアが指をさす。見ると、一人の少年兵が、こちらへ向かって走ってくる。

 「おい、逃げるぞ。」

尚文君が、ラフタリアの手を取って、走り出す。

 「な、尚文、別に逃げなくても、いいんじゃないか。」

俺も走りながら、言う。

 「追ってくるんだ、逃げるしかないじゃないか。」

 ほとんど、被害妄想じゃないかとも思う。

 尚文君がさらにスピードを上げる。俺はついて行くのが精一杯になった。路地へ入り、階段を降りると、呼ぶ声は遠くなった。物陰で俺たちは息を整える。

 「多分、あいつの狙いは、俺だ。ラフタリアはフィーロを、勝彦はリファナを連れて来てくれ。武器屋で落ち合おう。」

尚文君はそう言うと、脱兎のごとく駆け出してしまった。うーん。口をはさむ余地がない。仕方がないので、ラフタリアと別れて、魔法屋へ向かう。

 魔法屋では、リファナが、ちょうど糸を紡ぎ終えたところだった。お礼を言って、糸をもらう。お代は前払い済みだ。

 リファナが訊く。

 「他のみんなは、どうしたんですか?」

 「ちょっと訳あって、別行動中だ。武器屋で落ち合う事になっている。」

リファナは、釈然としない表情だったが、取り敢えず、俺と一緒に武器屋へ向かった。

 すると、さほど遠くないところで、爆発音が聞こえた。尚文君か?確か、槍の勇者といざこざがあるはずのような…。

 「見て来ます。」

リファナが言うと、一気に駆け出した。速い。俺も後を追うが、どんどん離されていく。

 

 ぜーぜーはーはーと俺が息を切らし、たどり着いた先には、人の輪が出来ていた。見物人をかき分け、輪の内側に入る。そこでは、槍の勇者、元康君と、獣人姿のリファナが戦っていた。見ると、リファナの服が落ちている。俺は、それを拾った。

 リファナは、スピードを生かして元康君の内懐に入り、シャーシャーと威嚇しながら攻撃している。生爪での攻撃なので、ダメージはほとんど入っていないが、元康君は、戸惑い、イヤそうにしている。あの位置では、槍もうまく振るえまい。

 尤も、元の亜人少女姿で攻撃した方が、元康君にはダメージになったはずだ。精神的に。

 元康君が、槍を構える。スキルか。リファナを吹き飛ばされても困るので、俺は魔法を放つ。

 「サイコアタックIX!」

 「ふみぎゃっ!」

元康君が、踏んずけられた猫のような声を上げる。勇者様は、魔法耐性が高いからな。もう一発。

 「サイコアタックIX!」

 「おうっくっ!」

元康君が跪く。多分これでスキルは撃てまい。

 「おっさんか?」

と元康君。あくまでおっさん呼ばわりなんだな。許さん。リファナは少し離れて身構えている。

 「勝彦!」

尚文君が声をかける。盾はキメラヴァイパーシールド。街中なのに、戦闘態勢だ。

 石畳の道には大きな亀裂が走り、周りの店には、かなりの被害が出ている。また決闘でもしたってことか。現場にたどり着いたリファナは、後先考えずに変身し、尚文君をかばって戦った…ありうる話だ。

 すると、

 「横やりは困りますね。」

と赤毛の女が言った。冒険者マイン、いや、やはりビッチ姫と呼ぶのがふさわしいだろう。彼女は、何やら巻物を広げて言う。

 「これは、槍の勇者様と、盾の勇者の正当な決闘…。」

 「アイスウォールV!」

俺は、皆まで言わせず、地雷女を氷壁に閉じ込めた。程なく炎が上がり、彼女はウォールから脱出する。

 「何をするのよ!」

怒るビッチ姫に、俺は、

 「で、何だって?」

と言ってやった。

 「だから、一対一の決闘で、横やりは…。」

そこまで言って、ようやく彼女は気づいた。巻物は、彼女自身の魔法で、黒焦げになっている。

 「決闘のリベンジなら受けるぜ。俺も一枚かましてもらうがな。」

と俺。

すると、

 「往来での決闘は、認められません!」

と、鋭い声が響いた。

 

 「双方とも、剣をおさめなさい!」

 見ると、メルが、兵士にかしずかれて、歩いてくる。

 「なぜ、お前が、ここに…。」

驚愕の表情で、マインがメルを見る。

 「お久しぶりです、姉上。」

あくまで丁寧に、メルが挨拶をする。だが、声は氷のように、冷たい。

 「此度の騒動、姉上や、勇者の権力で、どうにかできると思わぬように、お願いします。」

 そうして、元康君の方を見る。

 「槍の勇者様。周りをご覧ください。民を巻き込んで戦う者を、誰が勇者と思いますか。」

 元康君が二の句を継げずにいる。

 「姉上、相変わらず、お戯れが過ぎるようで。」

 メルが言う。

 「私は、勇者様の補佐という責務を、まっとうしているだけですわ。」

マインが答える。

 「民の往来で決闘させるのが、補佐ですか。」

 「妹の分際で、私に刃向かうつもり?」

 「事と場合によっては、母上に報告します。」

マインが舌打ちをする。女王の存在は、やはり大きいようだ。

 尚文君が、盾をブックシールドに変える。戦闘態勢の解除だ。メルを見て、いぶかしげな表情をしている。やはり、王族というのは引っかかるか。

 メルは、被害を受けた民に、頭を下げている。

 ちょいちょいと、俺をつつくものがいる。見ると、リファナだ。

 「服、なんでかつひこさんが持っているのよ、エッチ。」

言われて服を彼女に渡す。ついでにローブを脱ぎ、彼女の頭からかぶせてやる。

 「さっさと服を着ろ。」

リファナがローブの中でもぞもぞと動く。

 

 「ナオフミ様、一体、何があったのですか?」

ラフタリアが、フィーロを連れて戻って来た。

 「いや、元康のバカがな…。」

答える尚文君の前をすり抜けて、元康君がフィーロの手を取って跪く。

 「フィーロちゃん、君の名前はフィーロちゃんっていうんだろ?」

 「うん、フィーロはね、フィーロ。」

フィーロは能天気に答える。

 「可哀そうに、尚文の奴に、馬車馬のように働かされているんだね。」

と元康君が言う。

 「馬車を引くのは、好きだよ。」

フィーロが答える。元康君は、怒りの表情を露にし、槍を構える。

 「尚文!あの不細工な鳥みたいに、フィーロちゃんにまで…。許さん!」

ラフタリアが応戦する構えを見せる中、フィーロがつぶやく。

 「フィーロのこと、不細工って言った。前に会った時も、フィーロのこと笑ったし…。」

 「いつ、俺が、君のことを笑ったって…。」

 「槍の人、嫌ーい!」

フィーロが叫んで、魔物姿に変わる。呆然とする元康君の股間を強靭な脚で蹴り上げ、10メートルばかり吹っ飛ばす。やっぱり、潰れたかな。回復魔法がある世界は、便利だ。

 「フィーロの勝ち!」

人型に戻ったフィーロが、ガッツボーズをする。そんなフィーロを、尚文君が爽やかな笑みを浮かべて撫でている。ラフタリアはあきれ顔だ。

 

 「神鳥の聖人様、いえ、盾の勇者様。」

メルが近づいてきて、言った。

 「貴方に、お話があります。」

尚文君も言う。

 「こっちも訊きたいことがある。」

 




龍刻の砂時計ですが、アニメ3話で教会にあると言っているのに、10話ではWEB版、書籍版の通りに、時計台にある表現になっているのに気が付きました。
本作では、教会にあると言う事で、押し通します。
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