俺たちは、メルを連れて武器屋へ行った。この街で、唯一信用できる場所だったからだ。エルハルトが困惑顔で言う。
「アンちゃん、説明してくんねえか?」
「いろいろあった、ここで会議させてくれ。」
と尚文君。いくらなんでも、省略しすぎだろう。案の定、エルハルトは納得しない。
「アンちゃん、そりゃあ、無いぜ。」
「すみません、近くに良い場所が、無かったものですから。」
とラフタリア。さすが、盾のパーティーの良心、エルハルトの表情が少しだけ緩む。
尚文君が、メルを見て言う。
「で、お前は何者なんだ。」
メルが答える。
「では、改めまして。私は、メルロマルク王位継承権第一位、第二王女、メルティ=メルロマルクと申します。」
メル、いやメルティがそう言って、頭を下げる。エルハルトが驚いて、声を裏返らせる。
「妹のメルさんの方が、継承権が上なんですか?」
とラフタリアが訊く。もっともな疑問だ。
「ええ、姉上は、あの性格ゆえ、昔から問題を起こして…。」
「だろうな。」
と尚文君。
「まさか、貴方が、盾の勇者様だったなんて…。」
メルティが言う。
「でも、丁度良かったのかも知れません。貴方にお話があります。」
「こっちも、お前に質問がある。」
尚文君が、鋭い目をして言う。
「なぜ、わざわざ、俺たちに近づいた?」
メルティが困惑して答える。
「聖人様…勇者様に出会ったのは、偶然です。別に他意などありません。」
「偶然にしては、不自然だな。護衛とはぐれたのに、呑気にフィロリアルと遊んでいたって言うのがな。俺たちを待っていたと考えるのが、妥当だ。」
「そ、それは、いろいろあったんです。護衛の方とはぐれたのは、私がフィロリアルさんを追いかけて行ったから…。」
「ごしゅじんさまー。メルちゃん、嘘言ってないよー。」
フィーロが言う。
「とにかく、俺はお前を信用できない。出てゆけ。」
と尚文君。完全拒絶である。
メルティが何か言おうとした時、扉が開いて、兵士が声をかけた。
「メルティ様、王がお呼びです。」
それを聞いて、メルティはしばらく逡巡していたが、やがてあきらめたように言った。
「分かりました。では、後日、改めて。」
メルティは、兵士に連れられて、武器屋を出た。
「メルちゃん…。」
フィーロは、名残惜しそうだ。そんなフィーロに、尚文君は言う。
「フィーロ、もう、あの子と遊んではいけません。」
「えっ、なんでー。メルちゃんいい子だよ。」
「ナオフミ様、そんなお父さんみたいな言い方をしても、フィーロには分かりませんよ。」
とラフタリアが、半ば呆れて言う。
「やっぱり、王族はダメか、尚文。」
と俺。
「当たり前だ。俺が、奴らの所為で、どんな目にあったと思っている。」
「それは分かるが、話くらいは聞いた方が…。」
そう俺が言うと、尚文君は顔を背けた。
リファナが、俺をちょいちょいと突く。
「どういうことなの?」
「前にいろいろあったんだ。後で話してやる。ラフタリアも知っているから、彼女に訊いてもいい。」
と言うか、ラフタリアは話していなかったのか。まあ、自分の主人の汚点のようなものだし、リファナの中の盾の勇者神話を壊すことにもなるのだろう。
コンコンと扉がノックされ、開いた。
「盾の勇者様は、いらっしゃいますか?」
見ると、あの追いかけて来た少年兵のようだ。何人か、仲間を連れている。
「お前…。」
尚文君は、顔見知りのようだ。
「知っているのか?」
と訊くと、
「元康のバカが突っかかってきたときに、かばってくれたんだ。」
と答えた。
「一体、何の用だ?」
尚文君が言う。
「た、盾の勇者様、波の間だけでも、ご一緒させて下さい。」
と少年兵は言った。その仲間たちも、熱意ある瞳をもって、その意思を露にしている。
「どういうことだ?」
「以前の波で、僕たちは、勇者様の戦いに、感銘を受けました。ここにいる者たちは、ぜひとも勇者様の力になりたくて、参上したのです。」
「波で戦いたいのなら、他の勇者の元へ行けばいい。その方が、名誉や出世につながるだろう。」
尚文君は、面倒くさそうに言う。
「いいえ、僕たちは、盾の勇者様と戦いたいんです。」
別の、魔法使いと思しき少年兵が言う。
「僕たちは、リユート村出身なんです。だから、あの時家族を助けてもらって…。村の人たちを守ってもらった恩返しがしたいんです。」
更に、隣の魔法使いを指さす。
「こいつなんか、盾の勇者様の大ファンなんです。だから、ぜひとも一緒に戦いたいんです。」
件の少年兵をよく見ると、亜人だ。この人種差別の激しいメルロマルクで、亜人で兵士になるとは、よほど思うところがあってのことだろう。
ラフタリアが、晴れやかな表情で、尻尾を振っている。聖人様ではなく、盾の勇者が、人に認められたことはほとんどなかったから、よほどうれしいのだろう。
尚文君が言った。
「分かった。だが、パーティーに入れる訳にはいかない。」
少年兵たちが明らかに落胆する。
「ごしゅじんさま、ひどーい。」
とフィーロ。
「勘違いするな。波には連れて行ってやる。お前、名前は?」
「エイクです。」
リーダー格の少年兵が答える。尚文君が、ステータス魔法の画面を、何やら操作する。
「お前たちを、俺のパーティーの下の分隊として登録した。波が来た時には、俺たちと一緒に、転送される。せいぜい戦ってもらうが、俺を利用したり、嵌めようとしたならば、容赦しない。覚えておけ。」
「は、はい。」
願いがかなったので、少年兵たちは、感激の面持ちだ。
「波の日に、ここで落ち合おう。それまでに、準備をしておけ。」
「分かりました。」
やがて、少年兵たちは、口々にお礼を言って、出て行った。
「よく承知したな。」
俺は言った。
「前の波で分かっているだろう。防衛戦には、少しでも人手は欲しい。それが向こうからやって来たなら、断る事は無いだろう。下心も無さそうだったしな。」
と尚文君は答えた。
「なんか、仲間が増えて、楽しいね。」
とフィーロ。あくまで能天気である。
その後、洋裁屋へ行った。リファナの服を作ってもらうためである。
用件を話すと、洋裁屋の女主人は、一気にテンションが上がった。リファナを見て、目を輝かせる。
「おとーさんの所の子は、どの子も可愛らしいですね。私、創作意欲を、掻き立てられちゃいました!」
「誰が、おとーさんだ。」
尚文君が抗議するが、聞いちゃいない。
リファナをあらゆる角度から見て、しきりにスケッチをしている。果ては水晶球を取り出し、何やら、操作している。多分、カメラみたいなものなのだろう。
「では、獣人姿になっていただけますか。」
女主人の声に、リファナが更衣室へ行き、変身する。出て来たリファナを見て、女主人がさらに感激をする。
「いやー、可憐な亜人姿に比べ、ずいぶんワイルドですねー。このギャップが、たまりませんわぁー。」
さらに、スケッチをして、水晶球でバシバシと撮る。リファナは彼女のテンションについて行けないのか、困惑している。て言うか、このテンションには、誰もついて行けないだろう。
「で、服はいつまでに出来るんだ。」
と尚文君が訊く。
「私、頑張っちゃいます。興奮して、眠れそうにないので、明日までに仕上げちゃいます!」
「そ、そうか、それは助かる。頑張ってくれ。」
俺は言った。
俺たちは、代金を前払いして、店を出た。なんか、すごく疲れた。