転生引きこもりは狸娘の夢を見る   作:マーカス・クラン

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第22話 魔物の爪

 次は魔物商のテントだ。リファナの爪を調達するのだ。それと、尚文君は、何か思うところがあるらしい。

 テントの前まで来ると、フィーロがおびえて言った。

 「フィーロを売るの?」

 「売らないから、安心しろ。」

尚文君がフィーロを撫でる。

 テントに入ると、馴染みになった肥満紳士が迎えてくれた。が、微妙に雰囲気が変わっている。着ている燕尾服が上等なものになり、アクセサリー、所謂‘光物’をふんだんに着けている。

 「金回りがよさそうだな。」

と尚文君。

 「ハイ、勇者様が、行商に出ているおかげで、儲けさせてもらっています。」

 「どういう意味だ。」

と尚文君は訊く。

 「まず、そこのフィロリアルクィーンの評判です。」

魔物商がフィーロを見ると、フィーロはおびえて尚文君の後ろに隠れた。相当に苦手意識があるな。

 「あの魔物はどうやったら手に入るんだと、問い合わせが殺到しまして。後は口八丁手八丁でいろんな魔物を売りつけるだけです。」

 更に、魔物商、もとい奴隷商はラフタリアを見る。

 「そして、貴方。貴方を見て、私共の奴隷は質がいいと、評判になりまして、儲けさせてもらっているのです。」

確かに、顔もスタイルも性格も良い、ラフタリアのような奴隷が手に入ると噂が立てば、評判にもなるだろう。

 「で、今回は、どのようなご用件で?」

 「ここにいるリファナの獣人形態に合う、武器としての爪が欲しい。」

尚文君はリファナを見る。奴隷商もリファナを見て言う。

 「あの死にかけが、ここまで育つとは。どうです、金貨5枚で引き取らせていただきますが。」

 「だから、査定をするな!リファナは仲間だ。売らんぞ。」

尚文君が怒る。奴隷商、もとい魔物商はポーカーフェイスで言う。

 「では、獣人形態になっていただけますか。サイズを測らせていただきます。」

リファナが、テントの隅へ行き、服を脱いで変身する。そういえば彼女、今日何回服を脱いだことやら。

 魔物商の部下がやってきて、リファナの爪のサイズを測る。魔物商が言う。

 「いかほどの品にしますか?このあたりのサイズなら、品揃えは豊富にありますが。」

 「取り敢えず、いいものを売ってくれ。」

 「であれば、こちらの、魔法鋼鉄の爪などはいかがでしょう。値段は、金貨3枚です。」

 リファナが爪をつけて、両腕を振る。

 「どうだ?」

と尚文君。

 「いい感じです。」

とリファナは答える。

 「じゃあ、これをもらうが、さらに値切って構わないか?」

と尚文君が言う。

 「勇者様の貪欲さに、私、ぞくぞくしてしまいます。よろしい、金貨2枚にいたしましょう。」

 魔物商のテンションが上がっている。

 「処で、お前のところに、レベル75の狼男がいたな。お前のところで、クラスアップの斡旋なんかは、出来ないのか?この国の王が、俺たちのクラスアップを許さないんだ。」

 尚文君が訊く。

 「クラスアップ…でございますか。残念ながら、私どもでは、ご期待に沿えませんです、ハイ。」

奴隷商は続ける。

 「しかし、悩むことはございません。他国にある、龍刻の砂時計で、クラスアップをすればいいだけの話ですから。」

 「他国にもあるのか!?。」

驚く尚文君。

 「ハイ。本来ならば、情報料をいただくのですが、ほかならぬ勇者様ですから、ただでお教えしましょう。」

と奴隷商。

 「盾の勇者様がクラスアップしやすい国と言いますと、傭兵の国ゼルトブル、亜人の国シルトベルト、それから、シルトフリーデンですな。おすすめは、シルトフリーデンです。」

 「なぜだ。」

 「この国は、亜人国家ですが、人間にも寛容です。盾の勇者様のパーティーには、動きやすいでしょう。」

 「そこまで行くのに、どれぐらいかかる?」

 「船なら2週間、馬車なら一ヵ月かかります。」

 「それなら、次の波には間に合わないな。」

尚文君がため息をつく。

 魔物商が言う。

 「それならば、フィロリアル・クィーンに武器を装備させ、急場をしのいではどうでしょう。」

 「フィーロに武器!?」

フィーロがうれしそうに言う。

 「それでは、魔物姿になって下さい。サイズを測ります故。」

 そうして、リファナの時と同じような作業が、再び繰り返された。魔物商が出してきたのは、フィーロの足に装着する爪だった。

 「魔法鉄の、飛竜用の爪です。いかがでしょうか?」

 「いくらだ。」

 「勇者様には、特別に、金貨5枚で提供いたします。」

尚文君は、魔物商の指を折る。

 「金貨4枚だ。手綱もつけろ。」

 「よろしゅうございます。勇者様も、私好みになられて、いやはや、ぞくぞくします。」

値切られて喜ぶとは、ほとんどマゾだろう。

 「なんか、変な感じ。」

フィーロが、爪をつけた足を足踏みしながら言う。

 「そうだ、お前のところで、爪の試し切りなんてできないか?」

と尚文君。

 「私共の魔物は、すべて売り物なので、出来かねますが…。そうだ、勇者様のご要望に、ピッタリの依頼がございます。」

 

 俺たちは、城下街の下水道を進んでいた。暗いのはいいが、臭い。時折、足元をネズミが走っている。

 尚文君は、たいまつを持ち、先頭を歩いている。リファナは獣人形態で、爪を装着している。フィーロも魔物姿で、爪をつけている。フィーロの図体では、この下水道は、やや窮屈そうだ。

 依頼と言うのは、下水道に住み着いた、魔物の退治だ。下水道に住み着くとなると、なんか鰐っぽい魔物のような気がする。

 俺は、魔物商に渡された地図を見ながら、道を指示する。今回は、爪や剣の試し切りが主目的だから、俺の出番はほとんどないだろう。

 鼻の曲がるような臭いと戦いながら、下水道を進むこと15分余り、俺たちは、魔物が目撃された地点へと着いた。

 「何かいる。」

フィーロが身構える。尚文君がたいまつを俺に渡し、盾をキメラヴァイパーシールドに変える。

 程なく魔物が出現した。水から鼻の穴だけを出し、俺たちの方へ向かってくる。そして、先頭の尚文君に噛み付こうと、水から躍り出る。尚文君はその攻撃を盾で受け、それから体をひねって躱し、魔物の口を上から押さえた。

 やはり鰐っぽい魔物だ。しかし、色が、カスタードクリームのように、黄色い。

 俺は魔法を放つ。

 「サイコアタックIX!」

 暴れていた魔物が、やや大人しくなる。そこへ、武器持ちの3人が襲い掛かった。

 リファナが、魔物の尻尾を輪切りにする。ラフタリアが剣を腹に突き刺し、背中まで貫通させる。

 「とどめ!」

尚文君が魔物を離すと、フィーロが爪で頭部を思いっきり蹴飛ばした。魔物の頭は、文字通り吹っ飛び、魔物は絶命した。俺たちに経験値が入る。

 「この爪、すっごく使い易いの。」

 「この剣、切れ味抜群です。」

 「フィーロの爪もすごいよー。」

 3人が、それぞれの武器を自慢する中、尚文君のげんなりした声が響く。

 「おい。」

見ると、尚文君は、下水を頭からかぶって、ずぶ濡れになっていた。

 「まあまあ。」

 俺はウォータークラウドを唱え、尚文君を洗ってやる。

 魔物を倒した証として、転がっていた魔物の目玉を、魔物商のテントまで持って帰ると、報酬として、金貨5枚をもらった。これで、フィーロの爪に関しては、黒字である。

 「あっという間に依頼を達成する、盾の勇者様のパーティーの強さに、私脱帽でございます、ハイ。」

 お世辞を言う魔物商は放っておいて、俺たちはテントを出た。

 

 それから俺たちは、早めの夕食を取った。何のかんので、昼飯抜きだったのである。フィーロとリファナは、腹を鳴らしている。リファナは、食欲魔人から脱却しつつあるが、さすがに一食抜きはつらいようだ。

 宿屋に入ると、いつものように、男女で2部屋を取る。女子部屋には、エキストラベッドを入れる。誰が寝るかは、仲良くじゃんけんで決めているみたいだ。

 女子部屋に入ると、尚文君が聖水を取り出し、ラフタリアが服を脱ぎ始める。呪いの痣の治療を始めるのだ。聖水に浸した包帯を、黒い痣に巻くのである。

 リファナに睨まれたので、俺は、後ろ髪を引かれる思いで部屋を出た。

 そのまま、部屋の外で、10分ほど待つ。

 再び部屋に入ると、なんだか雰囲気がおかしくなっていた。俺は戸惑う。

 「ねえ、かつひこさんも、なおふみ様と同じ世界から来たんだよね。」

とリファナ。

 「同じではないが、同じような世界から来たことは事実だな。」

と俺は答えた。

 「そこには、私たち亜人や、魔物がいないって、本当?」

 「本当だ。お前たちのような存在は、おとぎ話の中にしか、いない。でも、なんでそんなことを訊くんだ?」

 「なおふみ様が、すべての波が終わったら、元の世界に帰るって言うの。連れてってって言ったら、その世界では、私たちは幸せになれないって。」

 「確かに、俺たちの世界では、お前たちはまともに暮らせないだろうなぁ。」

俺は言う。ラフタリアを見ると、なんだか悲しそうな顔をしている。

 「つかまって、見世物にされる、なんてことはないと思うが、どっかの研究所に閉じ込められて、調べられる、なんてのはありそうだな。」

 「そんな…。」

落ち込むリファナに、俺は言う。

 「そもそも、望んでこの世界に来た俺と違って、尚文は、この世界に無理やり召喚されたんだ。用事が終わったら帰るって言うのは、至極当然なことだと思うぞ。」

 不意にラフタリアが言う。

 「それでも、私は、ナオフミ様と離れたくありません…。」

なんだか、泣きそうな表情だ。

 「フィーロも、ごしゅじんさまと離れるなんていやー。」

フィーロはそう言って、尚文君に抱き付く。尚文君は、フィーロを無理やり突き放す。

 「お前たち、いい加減にしろ。いい加減、親離れするんだ。」

尚文君が言う。

 「俺は、お前たちの親代わりだから、この世界でお前たちが生きていけるようになるまでは、面倒を見る。が、その先は、知らん。独りで生きていくすべを持たないと、この先、死ぬことになるぞ。」

尚文君は、フィーロたちを見て言う。いや、尚文君。彼女たちがお前を慕うのは、親としてではなく、異性としてだと思うのだが。

 すると、ラフタリアが言った。表情は、相変わらず悲しそうだ。

 「分かりました、ナオフミ様。わがまま言って、申し訳ありませんでした。私、独りで生きていけるよう、頑張ります。」

そうして、フィーロやリファナを見て、

 「フィーロ、リファナちゃん、ナオフミ様を、困らせないようにしよう。」

と言った。

 「だって…。」

 「でも…。」

フィーロもリファナも悲しそうに、黙る。

 「分かればいい。」

尚文君が言った。そして、リファナに手招きをする。

 「リファナ、背中に薬を塗ってやるから、こっちへ来い。それと、勝彦。ラフタリアの耳の後ろに痣があるみたいだ。頼む。」

俺は、ラフタリアに近づき、耳の後ろの痣を確認すると、魔法を唱えた。

 俺は、ラフタリアの耳に、そっとささやいた。

 「いつかは、分かってくれることも、あるさ。」

ラフタリアは、寂しげに微笑んだ。

 

 その夜。

 部屋に響いていた槌の音が止んだ。狸寝入りしていた俺は、そっと起き上がる。

 「出来たのか?」

俺は、訊いた。

 「ああ。」

と尚文君は答える。

 あの温泉街でプレゼントをもらってから、尚文君は、暇を見つけては、女性陣へ、お返しのアクセサリーを作っていたのだ。

 魔力付与は、俺が行う事になっている。有体に言って、尚文君の方がうまいが、扱える魔力は俺の方が多い。したがって、付与効果も、俺が行った方が、上がるのだ。

 「それじゃあ、魔力付与を行うぞ。」

 「頼む。」

 俺は集中した。一つのアクセサリーに、3分ほどかけて、ゆっくりと、魔力を送り込んでいく。3つで10分ほどかかった。

 俺は一息つくと、訊いた。

 「いつ、渡すんだ。」

 「波の前にでも、渡そうと思っている。」

 「そうか、喜んでもらえると、いいな。」

俺と尚文君は、顔を見合わせた。月の光が、窓から差し込んでいる。

 

 




登場人物の心理がつかみ難かったため、宿屋で勝彦が外に出ていた間を三人称で書きました。せっかくなので、以下に載せます。
 なお、語り部の視線の変更(…Sideとか)は嫌いなので、本編には入れません。

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 尚文が、聖水を浸み込ませた包帯を、痣の付いたラフタリアの肌に巻くと、黒い煙が上がった。ラフタリアが顔をしかめる。
 「痛いか?」
 「いいえ、かゆいような、凝りが取れるような、何とも言えない感じがします。」
ラフタリアが答える。
 「ナオフミ様が巻いてくださったところは、直りが早いんです。」
 「そうか。」
と尚文。
 「いーな。ラフタリアちゃん。」
とリファナが言う。
 「これが終わったら、背中に薬を塗ってやるから、待ってろ。」
と尚文が言う。
 それからしばらく尚文は黙って包帯を巻いた。
 不意に、ラフタリアがつぶやくように言う。
 「すべての波が終わったら…ナオフミ様は、あちらの世界へと、帰ってしまわれるんですね…。」
そうして、尚文を見つめて、言った。
 「私も、一緒に行けないのでしょうか。」
 「ラフタリア…。」
 「帰るって、どういうこと?」
とリファナ。
 「ごしゅじんさま、どっか行っちゃうの?」
フィーロが不安げに言う。
 「すべての波が終わった後だ。ずーっと先の話だ。」
尚文が言う。
 「それでも、元の世界に帰っちゃうって、イヤよ。私も、一緒に行く。」
リファナが言う。
 「じゃあ、フィーロの馬車で、運んでくねー。」
 「まて、お前たち。お前たちは、俺がいた世界に来ても、幸せには、なれない。」
 「どういうこと?」
 「お前たち、亜人や魔物が、俺のいた世界では、いないからだ。」
尚文が言う。
 「だから、お前たちが、俺の世界に来ても、見世物にされるか、研究材料にされるかがオチだ。」
ドアが開いた。
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