ちょっとスランプしています。
お船のゲームのイベントが始まったのも、一因です。
朝食を終えると、尚文君が次の目的地を告げた。北の地方で、飢饉があるという。いつかの奇跡の種子-そういえば、名称はバイオプラントだ-の村に寄り、食料を買い付け、北で売るのである。
やや、波までの日程がタイトであるので、俺は異議を唱えたが、こんな儲け話は無いと却下された。
尚文君の思考パターンがつかめて来たぞ。彼はやはり、勇者なのだ。意識的にか無意識なのか、常に銭勘定を絡めているが、結果的には彼の行動は、人助けに集約される。
自分では意識していないのだろうが、困っている人を見ると、行動せずにはいられないのだろう。そこに、後付けとして実利的な理由が入る。
あるいは、商売の本質が、人助けであると、悟っているのだろう。
その辺が分かるからこそ、仲間たちも、彼を慕うのである。
俺たちは、洋裁屋に向かった。女主人が本当に徹夜したならば、今頃は、リファナの服は出来上がっているはずだ。
開店するには、まだ少し早いタイミングだが、押しかけた俺たちを、女主人は歓迎した。
「いやー、私、またまた頑張っちゃいました。」
などと言いながら、リファナの服を披露する。それは、ダークブラウンを基調とした、シックなワンピースだった。目立つ装飾として、赤いスカーフが襟を彩っている。
獣人姿に変身すると、そこが赤い首輪として残った。その辺は、フィーロの服と仕組みは一緒である。
予想外の大人っぽい仕上がりの服に、リファナは満足したようだった。
「似合ってるじゃないか。」
と俺。
「まあ、いいんじゃないか。」
と尚文君。
「すごく素敵よ。」
とラフタリア。
「リファナ、これで着替えなくて済むね。」
とこれはフィーロ。鳥よ、ここは誉め言葉を言うべきところだ。
「いやー、今度は、貴方の普段着なんか、どうです?」
女主人が、涎をたらさん位の勢いで、ラフタリアに服作りを勧誘している。目にクマを作った徹夜明けのテンションは、相変わらず怪しい。
「いいえ、私は興味ないです。」
と断るラフタリアに、女主人が落胆する。
「おとーさんからも言ってくださいよ。女の子は、ファッションに目覚めてこそ輝くんですよ!」
「知るか。それに、俺は、おとーさんじゃない。」
と尚文君。
名残惜しそうな女主人を後に、俺たちは武器屋へ向かった。
「らっしゃい。早いな、アンちゃん達。アンちゃんの鎧は出来てるぜ。」
ほぼ朝一に来店した俺たちを、エルハルトは嫌な顔をせず応対してくれた。相変わらず、出来たおっちゃんだ。
早速尚文君は、出来上がった鎧を着こむ。エルハルトによると、蛮族の鎧+1とでも呼ぶのがふさわしい強化版だ。
腐竜の核を中心に、いろいろな素材を組み合わせて、ほぼ別物に仕上がっている感じだが、盗賊の首領っぽい雰囲気も強化されている。その辺が気になるのか、ラフタリアやリファナから、カッコいいと褒められても、尚文君は浮かない顔だ。
それから、新しい馬車について、フィーロの意見-と言っても、おっきな家のような馬車が欲しいとかいう、とんでもないものだったが-なども聞きながら、打ち合わせをした。
そうして、エルハルトに別れを告げ、馬車に乗って、バイオプラントの村へ向かう。
バイオプラントの村には、日が傾いた頃に到着した。件の植物は、広い畑となって、一斉に赤い実をつけている。きちんと制御に成功しているようだ。訊くと、赤い実は、この辺の名物となっているらしい。
買い付けの交渉はうまくいった。二台の荷車にいっぱいの赤い実が、銀貨10枚である。さすが、尚文君。この地方の救い主である、聖人様の名声が効いているのだろう。
少し休憩をして、北へと出発する。
その夜は、野宿となった。
食事を終え、ラフタリアとリファナは馬車の中で尚文君に治療をしてもらい、今は、二人で何やら語り合っている。尚文君は、火の番をしている。その傍らに、人型のフィーロが眠そうに寄り添っている。
俺は、星空がきれいなことに気付いた。そういえば、星を見る余裕など、ほとんどなかった。俺は、仰向けに横になった。
「どうしたんです、カツヒコ様。」
ラフタリアが訊いてきた。
「いいや、星空がきれいだなと思ってね。」
俺は答える。
「いつもと同じ、星空じゃない。」
とリファナ。まあ、それはそうかもしれないが。
「俺のいた世界では、星空は、あまり見えないものだったんだ。」
「どうして。」
「街の中が、夜、星も見えないぐらいに、明るかったからさ。電気…雷の力だな。それを使って、夜も光を作り出していたんだ。」
「じゃあ、魔法が発達していたんですね。」
とラフタリア。
「違う。自然の力を誰でも簡単に扱えるようにする技術、科学とか文明とか言うんだが、それがとても発展していたんだ。魔力がない人間でも、明かりを簡単に扱えた。」
「へえ。」
リファナが興味深そうに言う。
「それこそ、ボタン一つを押すと、パッと明かりがついたのさ。代わりに星は見えなくなったけど。」
俺は空を指さす。
「あの天の川なんか、街から遠く離れなきゃ、見えなかったんだ。」
「アマノガワ、ですか。星紡ぎのことですか。」
とラフタリアが言う。
「星紡ぎ、情緒のある名前がついているんだな。ならば、星座なんかはあるのかな?」
「セイザ?」
「星と星を結んで、ある形を作って、そこに神話や物語の登場人物をあてはめたものさ。」
「ああ、星結びのことですね、ありますよ。」
ラフタリアは、天を指さす。
「あそこにあるのが、盾の勇者様の星結びです。」
そこには、4つの明るい星が四角を形成し、その真ん中に、赤い星が光っていた。確かに、盾に見えない事もない。
「それじゃあ、他の勇者の星座もありそうだな。」
と尚文君。
「ええ、道しるべの星を、四聖勇者の星結びが囲んでいます。」
道しるべの星とは、北極星のことだ。この世界にもある事を、俺たちは、夜の移動の際に、ラフタリアから教わっていた。
俺は、改めて、星空を見た。見慣れたようでいて、見知った星座が一つもない、全く別の夜空が、そこにあった。
ここは、地球からはるか離れた、どこかの惑星だろうか。それとも、何千万年、何億年単位で時が流れた、地球なのだろうか。
それを知るのは、俺をここに転移させた、星座の世界の存在だけだろう。
「クシュン!」
不意にくしゃみが出た。尚文君が声をかけてくる。
「勝彦、毛布を掛けて寝ろ。風邪を引く。」
俺は、毛布を取りに、馬車へと入った。
北の町へ入る際に、少々悶着があった。リユート村発行の通行手形が、効かなかったのだ。ラフタリアがおべっかを使ってもダメで、尚文君が直々に交渉しても、門番は首を縦に振らなかった。
尚文君は、根負けして通行税を払った。非はあちらにある。ここでごねて、問題解決を図るのも手だが、問題の根は深そうだ。おそらく、この土地の領主レベルの話ではないだろうか。それに付き合う時間的余裕は、俺たちには無かった。
街の雰囲気は、一言で言って、さびれていた。活気と言うものが、無かった。
町の物価は、軒並み高かった。恐らくは、税の所為だろう。宿屋にチェックインしたが、宿代は銀貨10枚にもなった。勿体ないので、いつものように二部屋ではなく、4人部屋をとった。
情報を集めに行くと、尚文君はすぐに出かけた。が、その際、こともあろうに俺を引っ張り出した。情報集めなら、人当たりの良いラフタリアを連れだせばよいものを。俺は、元引きこもりだぞ。会話は苦手だ。そう言うと、そういうところは直したほうがいいと言われてしまった。
俺たちは、酒場に入った。それぞれ適当に注文し、噂話が好きそうなやつを探す。
一杯奢ると言うと、訊いたことには、結構答えてくれた。
それによると、この街で行商するのはNGらしい。諸場代やら、売上税やらで、碌に利益が出ないとのことだ。行商をするなら、ここよりさらに北の、国境付近の村が良いということを聞いた。
酒場を出て、二人の情報をすり合わせる。尚文君も、ほぼ同じ情報を仕入れていたらしい。ただ、北の村には、隣国からの難民が押し寄せていると言う事だ。なんでも、隣国で、政変があったらしい。
すでに、日が落ちかけていたので、今夜はここへ泊り、明日出発することにした。この辺は治安が悪そうなので、野宿は危険である。
寝る段になって、俺は馬車で寝ることを宣言した。積み荷が心配だったからだ。すると、
「フィーロもかっちゃんと一緒に寝るー。」
と言い出した。
そこまでする事は無いという尚文君に、俺は、食料が盗られたら、元も子もなくなると言い張った。やがて、尚文君は、根負けして許可をしてくれた。
俺は、フィーロを連れて、馬車へと向かった。
「いいか、フィーロ。馬車の中で寝るんだから、魔物姿には、絶対になるなよ。狭いんだから。」
「うん、分かったー。」
と返事をするフィーロだが、こいつは前科持ちだからな。どうだか。宿屋で、尚文君を抱き枕に、魔物姿でクースカ寝ていたことがある。
荷物を適当にどかして、毛布をかぶり、フィーロと並んで寝る。
フィーロの寝姿を眺めていると、
「どうしたの?」
と訊かれた。
「いいや、フィーロはとっても可愛いなーと思ってね。」
と素直に答える。元康君ではないが、フィーロは天使のような美少女だ。俺のロリコン心が刺激される。もっとも、それは外見だけであって、こいつの本性は鳥だ。それを十分承知しているから、抑えられる。
「フィーロをほめても、何も出ないよー。」
これだ。もっと可愛げがあればいいものを。俺は、毛布を引っかぶった。
「かっちゃん。」
フィーロの声で、目が覚めた。深くは寝入らないよう心掛けていたのだが、眠ってしまっていたらしい。
後ろの荷車の方で、何やらごそごそと音がする。食料泥棒だ。俺は魔法を唱える。
「サイコウォールII!」
「サイコウォールII!」
「サイコウォールII!」
三方を精神攻撃の壁で包み、賊を閉じ込める。
「ふぎゃっ!」
早速賊が引っ掛かったようだ。
「フィーロ、行くね!」
フィーロが魔物姿に変身して、飛び出す。
「おい、ちょっと待て!」
俺は、制止しようとしたが、間に合わない。
「ふえ?」
案の定、フィーロ自身がウォールに引っかかっている。まあ、今のフィーロなら、レベルIIのサイコウォールなど、ものともしないだろうが。
ある程度時間をおいて、ウォールを解除し、俺は外に出た。
「どうだ?」
とフィーロに訊く。
「みんな、気絶してる。」
とフィーロが答える。
追い払えばいい、程度の弱い魔法を放ったのだが、気絶しているとは…。見ると、賊は皆、栄養状態が悪かった。痩せこけて骨が浮き、腹だけが膨れているように見える。飢餓の典型的な症状だ。
俺は、馬車からロープを持ってきて、賊を縛り上げた。フィーロも人型に戻って手伝う。
そんな時、宿屋から、尚文君が出て来た。騒ぎを聞きつけたのだろう。例によって、寝ていなかったのかな。
「どうした。」
「案の定、賊が出た。」
俺は、答える。
尚文君は、縛り上げられた、賊を見た。そうして、しばらく考えたのち、言った。
「勝彦、こいつらを、放してやれ。」
「いいのか。」
「ああ、自警団に引き渡しても、碌なことにはならないだろう。ここまで栄養状態が悪いと、哀れだ。」
確かに、それは同感だ。俺は、賊たちを揺り起こした。マインドアシストを使うまでもなく、賊たちは目を覚ました。彼らは、状態異常を起こしていたのではない。弱り切った心身が、魔法の衝撃に耐えきれず、単に卒倒していたのだ。
俺は、彼らのロープをほどいてやった。更に、赤い実を、2、3個ずつ渡す。
「逃がしてやる。ただ、今度やったら承知しない。仲間がいたら、そういっておけ。」
と尚文君が言った。賊たちは、戸惑いながら、礼を言って、夜の闇に消えていく。
俺は言った。
「町でこの状況だと、村はどうなっているか、分からんな。食料を買えるだけの余力があるといいのだが。」
「行ってみるしかないだろう。」
と尚文君。
それから、尚文君は宿へ戻った。俺はフィーロと馬車で寝たが、魔物姿から人型へ戻るように説得するのに、時間が掛かった。