転生引きこもりは狸娘の夢を見る   作:マーカス・クラン

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お久しぶりです。
更新遅れました。申し訳ありません。

作者は、お船の化け物と戦っていました。おかげさまで、ゲームイベント完遂です。




第25話 再び波との戦い(前編)

 エルハルトには悪いが、武器屋を会議室代わりにして、エイク達志願兵と波の対処の打ち合わせをする。盾の戦い方、村人の避難誘導のやり方、エイク達の実力と、それらから導き出される効果的な波への対処法。

 会議は1時間ほどで終わった。

 荷車を2台連結して用意する。1台は薬などの物資輸送用、もう1台は兵員輸送用だ。

 薬を載せている荷車に、エルハルトが武器を載せてくれた。

 「うちの売れ残りの武器だ。予備ぐらいにはなるだろう。使ってくれ。」

正直言って、ありがたい。おまけに、

 「よくもまあ、これだけの薬のストックを用意したな。ここまで慎重なら、今回の波も、乗り切れるだろうよ。」

と根拠のある気休めまで言ってくれる。

 「ありがとう、親父さん。」

 「感謝する。」

ラフタリアと尚文君がお礼を言う。

 「後、波までどのぐらいだ。」

と俺が訊くと、

 「おおよそ、10分だ。」

と尚文君は答えた。

 志願兵の中には、緊張してトイレに駆け込む者もいる。リファナも緊張気味だが、獣人体形に変身して、爪を装着している。フィーロは、フィロリアルクィーン姿で、やる気満々である。ラフタリアは、軽く準備運動をしている。

 「あと5分。」

 尚文君が、盾を戦闘用のものに変える。俺も装備を確認する。魔力水が8本に、回復薬が2本。これ以上は持てない。

 「いってきます。」

 「いってきまーす。」

ラフタリアとフィーロが、エルハルトに向かって手を振る。

 やがて、世界が割れるような音と共に、俺たちの視界が白く染まった。

 

 視界が元に戻ると、俺たちは、峠道にいた。丁度、峠の頂上より少し下った辺りだ。

 「村はこっちだ。」

尚文君が誘導する。彼には、心当たりがあるらしい。そう言えば、守るべき村は、彼が薬を飲ませて治療した、老婆が住む村だったはずだ。

 俺は、荷車をフィーロにつないだ。そうして、皆を荷車に乗るように促す。最後に尚文君が乗り込み、俺はフィーロを走らせた。

 フィーロはほぼ最高速で走ったので、村にはすぐに着いた。が、志願兵たちは、青い顔をしている。早速酔ったらしい。

 村に駐留していたわずかな騎士と冒険者と協力して、防衛線を形成する。

 敵は黒いコンドル、黒いオオカミ、あとファンタジーではおなじみのゴブリンとリザードマンなどだ。ただ、ゴブリンとリザードマンは、造詣が一定せず、どこか影みたいに見える。

 前回の波のゾンビどものように、誘導して一か所に集められれば、魔法で一網打尽に出来るのだが、今回の魔物どもはそうはいかないようだ。

 防衛線に、無理してサイコウォールを立ててみたが、やはり味方にも危害が及ぶ。-代わりに、精神魔法が良く効くことが分かった。

 冒険者の中に、ひときわ強い老婆がいる。リザードマンを除き、ほぼ一撃で敵を退けている。尚文君が薬を飲ませて助けた老婆らしいが、強すぎる。彼女のおかげで、防衛線を保つ事が出来ていると言っていい。

 俺は尚文君に合図をすると、前線を離れる。防衛線形成がうまくいき、且、俺の魔法で集団を葬れない時は、俺は志願兵とともに避難誘導を行う事になっていた。はっきり言えば、坊やたちのお守りだ。

 

 志願兵たちの所へ行くと、ようやく酔いから復活して、避難誘導を始めているようだった。そこに黒いコンドルが襲い掛かる。

 「サイコアロー!」

俺が魔法を放つと、コンドルはそのまま地面に激突してもがく。兵士の一人が、それにとどめを刺した。やはり、防衛線からの撃ち漏らしが若干いるようだ。空からであれば、なおさらである。

 それから俺たちは、家を一軒ずつ見回り、逃げ遅れた人たちを、取り敢えず教会へ誘導した。そこを拠点として守りつつ、村全体を見て回る。

 小一時間ほどで確認が取れたので、まだ魔物が来ていない山の方へ、避難民を誘導する。木こりが使っている小屋があるというので、そこへ向かう。

 道中、主に襲ってきたのはコンドルで、あとはオオカミとゴブリンが少々。問題なく撃退出来た。

 小屋に着くと、けが人を小屋に入れ、休ませる。少し様子を見ていると、襲ってきたのはコンドル1羽のみ。これなら何とかなりそうだ。

 弓が達者な兵士を一人、魔法使いを二人、避難民の護衛に残し、残りは俺と一緒に防衛線に戻る。

 

 波が始まって2時間ほどが経っていた。俺は志願兵と共に戻り、避難誘導が終わったことを尚文君に報告した。

 「分かった、あとは防衛戦に徹しろ。」

尚文君が言う。俺は意見をする。

 「尚文、俺たちも波の中心部へ向かおう。ここで防衛戦を張っていても、じり貧になる。」

 「しかし、それは…」

 「勇者様、向かって下さい。一刻も早く波を終わらせることが、この村を救う事にもなるのです。」

 エイクが言った。

 「村の守りなら、このババアとひよっこどもで十分じゃ。」

あのやたらと強い老婆が胸を叩いて言う。

 「分かった、でも無理はするなよ。」

尚文君が承知した。

 「勝彦、ラフタリア、フィーロ、リファナ、波へと向かうぞ。」

 尚文君の呼びかけに、皆が応える。

 フィーロに尚文君、ラフタリア、リファナが乗り、俺は、ジャンプの魔法を発動させる。森の道なき道を疾走するフィーロに、俺はついて行く。尤も、足場になる木には不足しなかったので、そう難しくはなかったが。

 やがて、開けた場所に出ると、波の本体が見えてきた。それは、空に浮かぶ、朽ちかけた幽霊船だった。

 

 「おっきい。」

 フィーロが声を漏らす。

 大昔の快速帆船(フリゲート)のようだが、船体には穴が開き、構成している木材は朽ち、マストの一部は折れ、帆はボロボロで、空中とはいえ、浮いているのが信じがたいような代物だった。おまけに、触手のようなものが船体から生えている。

 舷側の大砲が、そばの崖を砲撃した。そこから、反撃の火線が、船首方向へと飛んだ。が、大半が触手にはじかれている。

 フィーロが崖の上へと飛んだ。俺も続けて崖の上に飛び移る。

 「攻撃の手を休めないでください!」

 そこには、仲間を叱咤し、自らも弓を引き絞る弓の勇者の姿があった。

 「どうなっている。他の連中は?」

尚文君が問いかける。樹君は、一瞥すると、

 「乗り込んでしまいました。船首の彫像を攻撃して、ソウルイーターを出すのが先と言ったのですが…。」

と言った。

 見たところ、攻撃の大半が触手にはじかれ、効果が上がっていないようだ。また、スキルによる雷などの属性攻撃が大半のようだ。ならば、物理攻撃魔法の必中攻撃はどうだろう。

 俺は魔法を放つ。

 「ロックアタックIX!」

空中に大岩が現れ、船首の彫像に衝突する。衝撃で彫像は衝角から外れ、途端に塵となって消えてしまった。取り敢えずは正解だったようだ。

 「ソウルイーターなんぞ出ないな。」

尚文君が言う。

 「何度か倒さないと出ないんですよ。」

と樹君。

 「いい加減、ゲーム知識にとらわれるのは止めろ。これは現実だ。一つのやり方がだめだったら、別の方法を考えろ。」

尚文君は言い捨て、フィーロを促して幽霊船に乗り込む。俺も魔力水をあおって魔力を回復させると、尚文君を追った。

 

 船上では、二つのパーティーが戦っていた。船尾付近では、槍の勇者のパーティーが、タコの化け物のようなクラーケンと戦っていた。船のやや前方、舵輪のある辺りでは、剣の勇者のパーティーが、海賊の骸骨たちと戦っていた。

 二つのパーティの間には、協力は見られない。むしろ、方針の違いで言い争っている。

 「何をしているんだ、元康。先に骸骨を倒さないと。」

 「クラーケンが先だ。そうしないと、ソウルイーターが出ないだろうが。」

 「言い争いをしている場合か。」

尚文君が割って入る。

 「尚文…。」

 「お前は、村でも守ってろ。」

 「そうですわ、戦えない無能は、黙って…。」

 「無能はどっちだろうな。」

俺は、ビッチ姫のセリフを遮って言った。

 まずは、骸骨集団からだ。

 「ホーリーブラストIX!」

聖なる爆発で、骸骨は一つ残らず吹き飛ぶ。

 次は、クラーケン。

 「ファイアーレーザーIX!」

炎の奔流をうまくコントロールして、クラーケンの首を切断する。クラーケンの頭が落ち、触手は動きを止め委縮する。

 「勝彦、お前…。」

戸惑う尚文君に、俺は親指を立てた。槍のパーティーも剣のパーティーも唖然としている。

 弓のパーティーも、船上に上がってきた。

 そんな中、俺は、あるはずのない影が蠢くのに気付いた。一瞬の後、骸骨とクラーケンが再生するが、影は、その前から動いていた!。

 「尚文、怪物の影がおかしい。」

俺は、警告をする。尚文君は、ラフタリアに指示を出す。

 「ラフタリア、光の魔法だ。」

程なく、ラフタリアが放つファスト・ライトが辺りを照らした。膨大な光量に普通の影は消えたが、いくつかの影が不自然に蠢いている。

 「足元の影を攻撃しろ!」

 尚文君の命令に、ラフタリアとリファナが反応する。剣と爪で貫かれた影から、白い蒸気のような、靄のようなものが噴出する。錬君も影を攻撃する。

 やがて、船体のあちこちから、白い蒸気と靄が噴き出し、一か所へと集結する。それは、巨大な魚のような魔物へと変わった。次元のソウルイーターの出現だ。

 

 「雷鳴剣!」

 「サンダーアロー!」

 「ライトニング・スピア!」

三勇者がそれぞれスキルを放つ。ソウルイーターに命中するが、有効打になっているとは言えない。それに、見事に雷系統ばかりだ。

 そう思ったのか、尚文君が、フィーロに風魔法を使うように命令する。

 「ファスト・トルネイド!」

真空の竜巻が、ソウルイーターに襲い掛かる。しかし、効果は今一つだ。

 俺は火魔法を使ってみる。

 「ファイアブラストIX!」

ソウルイーター近傍で、炎が爆発する。効果はあるが、大ダメージとはいかない。

 俺は魔力水を2本飲んで、魔力を回復させる。

 ソウルイーターが、攻撃態勢に入った。させじと三勇者がスキルを放つが、ソウルイーターはものともしない。俺たちは、尚文君の後ろに下がった。ソウルイーターは、黒い球を吐く。それは爆発し、辺りに衝撃波を放った。三勇者とその仲間が吹き飛ばされる。

 戦況は悪い。精神魔法を試してみるべきだろうか。だが、()()()が見ている。ここで手の内をさらすのは、得策ではない。

 「ハイクイック!」

フィーロが魔法を唱えた。フィーロの姿が一瞬ぶれて見え、空気が振動する。まるで瞬間移動したように、フィーロがソウルイーターの背後に回り、蹴りを入れた。ソウルイーターがひるむ。だが、ダメージはあまり入らない。通常の物理攻撃も、余り受け付けないようだ。

 しばらくフィーロがソウルイーターを翻弄する。

 

 熟慮していた尚文君が、決心して言う。

 「憤怒の盾を使う。」

ラフタリアもリファナも動揺する。前回の発動を考えると当然である。が、ラフタリアは静かに微笑んで、言った。

 「私は尚文様の剣です。どんな地獄だって、ついて行きます。」

尚文君は頷き、盾を憤怒の盾に変える。盾の姿は、以前のものより禍々しい。しばらく彼は、自分の内なる怒りと戦っているようだった。

 また、ソウルイーターと戦っていたフィーロにも異変が起こった。彼女の足は憤怒の炎に包まれ、目は血走り、さながら狂戦士(バーサーカー)のように、ソウルイーターを甲板に蹴飛ばした。目標を失ったフィーロは、そばにあったマストをめちゃめちゃに破壊している。

 尚文君が、ソウルイーターに突っ込んだ。ソウルイーターが彼を攻撃したらしく、反撃の呪いの炎が、ソウルイーターを包む。彼は雄たけびを上げた。それに引き寄せられるように、フィーロが攻撃目標をソウルイーターに変更する。

 しばらく尚文君とフィーロはソウルイーターを挟撃した。

 その背後をクラーケンが狙う。ラフタリアが反応し、尚文君への攻撃を防いだ。骸骨にはリファナが対応する。素早い動きで骸骨を翻弄し、関節を爪で断ち切って擱座させる。

 ソウルイーターが、尚文君を跳ね飛ばす。甲板に跪く尚文君は、己の憤怒に苛まれているように見えた。ラフタリアとリファナが駆け寄る。彼女たちと俺自身にホーリークラウドとウォータークラウドを発動しながら、俺も尚文君に駆け寄る。彼の肩は炎で熱く、呪いで冷たかった。

 程なく尚文君は正気に返ったようだった。そうして、彼の必殺のスキルを唱える。

 「シールドプリズン!」

ソウルイーターが盾の檻に閉じ込められる。

 「チェンジシールド!」

 尚文君が詠唱をする。

 『鉄の乙女の中で叫びすら抱擁され、全身を貫かれ苦痛に苦悶するがいい。』

 「アイアンメイデン!」

空中に、鉄の乙女を模した処刑機具が現れ、その扉を開く。その中には太い鉄の棘がびっしりと生えていた。抱いたものの血をすべて吸い取るために…。

 アイアンメイデンはソウルイーターをシールドプリズンごと己が内部に抱え込むと、ゆっくりとその扉を閉じた。ソウルイーターの断末魔の叫びが響き渡る。

 やがて、効果時間が過ぎたのか、アイアンメイデンは虚空に消えた。後には穴だらけになったソウルイーターが残り、甲板へと落ちて息絶えた。

 回復した三勇者が起き上がり、その光景を唖然として見ていた。

 「盾の力が、あんなものだなんて…。」

と樹君。

 「まるで、チートだな。」

と錬君が言う。

 尚文君が、盾をキメラヴァイパーシールドに戻す。フィーロが元に戻り、力尽きたように甲板にうずくまる。

 その時、甲板後方から、影がゆっくりと起き上がった。二匹目のソウルイーターだ。

 「二匹目なんて、ゲームにはないぞ!?」

元康君が驚く。

 その時真上から、二十本余りの光の刃が降って来て、ソウルイーターを串刺しにした。ソウルイーターは動きを止める。

 と同時に、人影が舞い降りて、甲板へと立った。

 「期待外れもいいところです。」

 

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