人影は女だった。和風の着物を着た、長い黒髪の美少女だ。
「この程度の雑魚に苦戦とは、それでも、世界の命運を預かる勇者ですか。」
女は近づいてきた。
「どうやら、勇者は一人だけのようですね。貴方、名前は?」
女は尚文君に問う。尚文君は答える。
「人に名を尋ねる前に、まず、自分から名乗れ。」
「これは失礼。私の名はグラス。勇者であるあなたとは、敵対関係にある、という認識で結構です。」
グラスはゆっくりと答えた。
「尚文だ。」
尚文君は言った。
「では、始めましょうか。真の波の戦いを。」
グラスは余裕ありげに言う。特に身構えてもいない。
「かかってこないのですか。そこにいる従者でも差し向ければよいでしょうに。」
後ろで唖然としていた三勇者を指して言う。三人が激高する。
「僕たちが、」
「尚文の、」
「従者だと!」
そうして、それぞれがグラスにスキルを放つ。
「流星弓!」
「流星剣!」
「流星槍!」
三つのスキルがグラスを捉えた。だが、彼女は平然としている。
グラスが反撃する。
「輪舞零ノ型、逆式雪月花!」
華麗に舞うグラス。その舞と共に半月状の光の刃が乱舞し、三勇者とその仲間を吹き飛ばした。
俺は前へ出た。尚文君は先の戦いでスキルポイントを使い切っている。ラフタリアやフィーロ、リファナでは荷が重い相手だ。更に相手の正体は魂人、精神エネルギーの塊のような存在だ。精神魔法が良く効くはずである。
「サイコアタックIX!」
精神魔法の直撃に、グラスは悲鳴を上げる。相手に立ち直る暇を与えず、俺は追撃をする。
「サイコアタックIX!」
度重なる攻撃に、グラスはよろめく。
「サイコブラストIX!」
グラスは避けようとするが、爆発範囲からは逃れられず、さらなるダメージを負う。グラスは、出来損ないの
俺は魔力水を飲んで、再度魔法を放つ。
「サイコブラストIX!」
あれほど切れの良い動きだったグラスも、今はよろよろと動くだけだ。そこに精神爆発魔法が炸裂し、グラスがさらに悲鳴を上げる。
「お、お前は…。」
グラスは、俺の方を憎々しげに見る。
「お前のようなものに、敗北する訳にはいきませんね。此度は退きます。」
グラスは、最後の力を振り絞るように、跳躍をする。
「ナオフミ、このような者を使役しているとは、お前は勇者とは言えないかもしれませんね…。」
捨て台詞を吐くと、グラスは空の亀裂へと飛び込んだ。途端にワインレッドに染まっていた空が明るくなり、亀裂は消滅した。波の終焉である。
幽霊船は、最寄りの崖の上へと着底し、傾いて止まった。
「勝彦、今の戦いは、一体どういうことだ。まるで、敵の正体を知っているような戦い方だったぞ。」
尚文君が詰問してきた。少々やりすぎたようだ。