俺は考えた。だが、言い訳のしようがなかった。何しろ、尚文君の言っていることは、事実である。
「お前は前から胡散臭いところがあった。さあ、話せ。」
尚文君が言う。
俺は冷や汗をかいていた。今まで、隠してきたことを話さねばならない。それは、信用を失うことにつながるかもしれない。自業自得かもしれないが、俺は怖かった。
しばらく逡巡したのち、俺は口を開いた。
「俺は、グラスの正体を知っていた。彼女は魂人。言ってみれば、精神エネルギーの塊のような存在だ。精神魔法が効くと思った。」
「なぜ、知っていた。」
尚文君が問う。
「俺は、転生する時、この世界を選んで来たんだ。この、‘盾の勇者の成り上がり’の世界に。」
緊張のせいか、頭痛がする。
「なんだ、それは。」
「お前さん、岩谷尚文を主人公としたライトノベルだ。アニメにもなった。俺の元居た世界でのお話だ。」
喉がからからに乾く。俺は、咳払いをする。
「俺は、その話が好きだった。登場人物に、憧れてもいた。だから、この世界に来たいと思った。」
尚文君は、まっすぐに俺を睨んでいる。やがて、彼は言った。
「元康たちがゲーム知識で、お前がアニメ知識と言う訳か。なぜ黙っていた。」
頭痛がひどくなる。俺は答えた。
「気持ち悪がられる、と思った。自分たちのことをあらかじめ知っているような奴を。しかも、俺はそう見えるだけだ。これは現実だ。俺の知るアニメの世界をなぞっているように見えるだけだ。そういう意味で、俺は胡散臭い、出来損ないの預言者になるしかない。そんな奴は、信用されないと思った。」
「お前の予言とやらが外れていると言う事か?」
「一部。」
俺はリファナを見る。
「俺の知る話の中には、リファナは出てこなかった。」
リファナは、いや、フィーロやラフタリアも話について行けずにきょとんとしている。彼女たちにとっては、理解しがたい話だろう。
「だが、大半は、当たっていると言う事か。…俺の冤罪のことも、最初から知っていたんだな。」
尚文君は厳しい顔で言う。
「その通りだ。すまん。だが、そのころは、俺はレベル3ぐらいで、どうしようもなかった。それに、一緒に冤罪を受ける度胸は無かった。許してくれ。」
「ちょっと待て、お前は俺と一緒の部屋に泊まり、俺の無実を証明するだけでよかったんじゃないのか。」
「そのぐらいじゃ、金や装備は盗まれなかっただろうが、二人して乱暴しようとしたとして、仲良く強姦罪で捕まっていたさ。あの冤罪は、第一王女の仕業だけじゃないんだ。言ってみれば、国ぐるみ、この国の国教である三勇教の仕業なんだからな。」
「それはどういうことだ。」
「三勇教は、槍、剣、弓の三勇者を崇拝する宗教だ。対して盾教と言うものがあり、盾の勇者を崇拝する、メルロマルクの敵国であるシルトベルトの国教だ。敵対する宗教の神様は悪魔と言う訳で、最初っから、盾の勇者はメルロマルクでは忌み嫌われる運命にある存在なのさ。」
「だったら、俺はなぜ召喚されたんだ。」
「私見だが、三勇教は勇者を独占したかったんだろうな。言い換えると、敵国に盾の勇者を渡したくなかった。そうして、盾の勇者を自国内で処理しようとした…。」
「ひどい話だな…。」
尚文君は、己が身に起こった差別を思い出すように言った。
「尚文、他に何を聞きたい。俺が知っていることは、すべて話す。」
「待て、お前が嘘をついていないという保証は、どこにもないぞ。」
「そこは、信じてくれと言うしかないな。何なら、俺はお前の奴隷になっても構わない。」
俺は言った。
「それと、証明できる事実によって示す方法もある。」
「なんだ、それは。」
「まずは、魔物のドロップだな。武器に吸わせた魔物は、ドロップ品を落とす事がある。今まで魔物を丸ごと結構吸わせているだろうから、ドロップ品もたくさん登録されているはずだ。」
「そんなもの、無いぞ。」
「これは、ドロップが本当にあると、信じていなくては、ステータス画面からは開く事が出来ない。俺が信じられないのは構わん。だが、その盾を信じてみてくれ。そもそも、このゲームじみた世界で、アイテムドロップがないのはおかしいと思わないか。」
尚文君は、黙った。そして、いぶかしげに俺を見る。
「取り敢えず、信じてみてくれ。それで、損する事は無いはずだ。」
尚文君は目をつぶり、何やら念じているようだった。そうしてステータス魔法の画面を開く。尚文君は首を振りながら言った。
「だめだ。そんな項目は出ない。」
「そうか、残念だ。信じていなくては開かない項目は、他にもあるんだが、仕方ないな。」
「他にもある、だと。」
「そうだ、盾の強化法とかだが、信じられないなら、言っても詮無いことだ。俺を嘘つきにしておいてくれ。」
尚文君は、少し考えているようだった。そうして先ほどと同様に念じると、ステータス魔法の画面を開いた。
「あった。」
そのまま尚文君は、画面を操作していた。やがて、彼は、一振りの剣を、盾から取り出した。
「ラフタリア、この剣を、予備として使えるか?」
「あ、はい。ありがとうございます。でも、この剣は、どうしたのですか?」
「魔物の落とし物だそうだ。まったく、このことを知っていたら、お前たちの装備をもっとましに出来たんだろうな。」
再び、尚文君は俺を睨む。
その後、俺は尚文君にウェポンコピーを教えた。項目はすぐ現れたが、実践が出来ない。少し考えたのち、ドロップ品にあった盾をウェポンコピーしてみる事で、実証する事が出来た。
また、システムによるアイテム合成も教えた。薬草を盾に突っ込んで、数分後にヒール丸薬が出て来た時には、またもや尚文君に睨まれた。
難航したのは、盾の強化法、正確に言うと、他の勇者の武器強化法の共有についてだ。これは、尚文君側に問題があったのではなく、ひとえに俺の所為である。
ぶっちゃけて言うと、俺は、武器強化法を思い出せなかったのだ。思い出せたのは、剣、弓、槍、投擲具、鞭の5つのみ。
剣、弓、槍は最初に出て来た強化法だし、投擲具は課金と言う大変に印象的な強化法だった。鞭のステータスエンチャントは便利だなと思ったし。だからこそ覚えていたのだろう。
正直言って、武器強化法は斜め読みの部分が多かったが、それにしても、ここまできれいさっぱりと忘れているのはおかしい。そう思って、記憶を探るも、頭痛に邪魔されて、記憶を求めれば求めるほど、それは遠くなっていくという、イヤな連鎖に陥ってしまう。
それでも、剣、弓、槍の強化法を実践するだけで-鉱石やアイテムの不足で出来ないものも多かったが-、常用しているキメラヴァイパーシールドの能力が、ほぼ倍に上がったらしかった。
尚文君が、鞭の強化法であるステータスエンチャント-レベルを下げる事と引き換えに、ステータスを上昇させる事が出来る-を自らに施し、効果を確認した後、ラフタリアやフィーロに施すかどうか迷っているようだったので、まず俺にかけるように進言した。
「だが、お前の場合、ステータスが上がっても、魔法の能力には差がないんじゃなかったか?」
「それはそうだが、ステータス上昇による、最大魔力値の上昇はとても魅力的だ。」
そうして、レベルを35まで下げてもらう。ステータスは、軒並み1割ほど上昇した。半面、この強化には、銀貨50枚ほどが掛かる事が分かった。仲間の強化であるため、課金が必要なのだ。
これらを踏まえ、尚文君は、本人たちの了解を取ってから、ラフタリアとフィーロのレベルをやはり35まで下げ、ステータスの向上を図った。これで、成長限界で無駄になっていた経験値が生かされる。
「どうやら、お前が嘘を言っていないのは分かった。」
尚文君が言う。
「だが、お前をこのままにはできない。お前には、罰を受けてもらう。」
と尚文君は言った。
俺は、震えながら、尚文君の裁きを待った。パーティーから追い出されてしまうのだろうか。いまさら一人でこの異世界に放り出されることは、俺には、もう考えられなかった。
「済まなかった。」
俺が言うのと、尚文君が言うのが同時だった。
「取り敢えずは、その醜い体形を何とかしてもらおうか。」
「へっ?」
全く予期していなかった罰に、俺は戸惑う。
「はっきり言う。痩せろ。」
「そんなもんで、いいのか?」
「お前が痩せるのは、そう簡単でないと思うが。」
まあ、それは事実である。
「それと、薬の調合も覚えてもらう。不器用と言うのは言い訳にさせない。」
「それでいいのか。俺をこれからも、パーティーの一員として認めてくれるのか?」
俺は、心の動揺を抑えきれずに、訊いた。
「悔しいが、もう、お前は仲間だ。いまさら、追い出すことなど、出来ない。」
俺は、泣いた。はっきり、仲間と言ってくれたことに。引きこもりになってからこっち、友人はいなくなり、家族からも疎まれてきた。異世界に来て、仲間と言える存在になれたことは、俺にとってかけがえのないことだった。
俺は、嗚咽した。周りが戸惑っていることは分かったが、止まらなかった。後悔と、申し訳なさと、うれしさと喜びが、一緒くたになって、俺の心をかき回した。
気が付くと、ラフタリアが、俺の後頭部に手を当て、赤ん坊をあやすように軽くたたいていた。俺は気恥ずかしくなって、涙を拭いた。
「おい、大丈夫か。」
と
「何とか。」
ぐしょぐしょの情けない顔で、俺は答える。俺の仲間たちに。
「本当に済まなかった。俺は、お前たちに、隠し事をした。でも、これからは、それは無しだ。知っていることは、すべて話そう。その代わり、これからも、よろしく頼む。」
俺は、皆に頭を下げた。
「カツヒコ様、顔を上げてください。隠し事をしていたのは悪いと思いますが、あなたはあなたです。」
ラフタリアが言った。
「そうね、今回は、許してあげる。今度なおふみ様を裏切ったら、承知しないけど。」
とリファナが言う。
「かっちゃん悪いことしたのなら、しばらくご飯抜きかなー。やせるよー。」
とフィーロ。飯抜きは困る。
「それは名案かも知れないな。」
と尚文が言う。マジで勘弁してくれー。