転生引きこもりは狸娘の夢を見る   作:マーカス・クラン

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第27話 暴露

 俺は考えた。だが、言い訳のしようがなかった。何しろ、尚文君の言っていることは、事実である。

 「お前は前から胡散臭いところがあった。さあ、話せ。」

尚文君が言う。

 俺は冷や汗をかいていた。今まで、隠してきたことを話さねばならない。それは、信用を失うことにつながるかもしれない。自業自得かもしれないが、俺は怖かった。

 しばらく逡巡したのち、俺は口を開いた。

 「俺は、グラスの正体を知っていた。彼女は魂人。言ってみれば、精神エネルギーの塊のような存在だ。精神魔法が効くと思った。」

 「なぜ、知っていた。」

尚文君が問う。

 「俺は、転生する時、この世界を選んで来たんだ。この、‘盾の勇者の成り上がり’の世界に。」

緊張のせいか、頭痛がする。

 「なんだ、それは。」

 「お前さん、岩谷尚文を主人公としたライトノベルだ。アニメにもなった。俺の元居た世界でのお話だ。」

喉がからからに乾く。俺は、咳払いをする。

 「俺は、その話が好きだった。登場人物に、憧れてもいた。だから、この世界に来たいと思った。」

 尚文君は、まっすぐに俺を睨んでいる。やがて、彼は言った。

 「元康たちがゲーム知識で、お前がアニメ知識と言う訳か。なぜ黙っていた。」

頭痛がひどくなる。俺は答えた。

 「気持ち悪がられる、と思った。自分たちのことをあらかじめ知っているような奴を。しかも、俺はそう見えるだけだ。これは現実だ。俺の知るアニメの世界をなぞっているように見えるだけだ。そういう意味で、俺は胡散臭い、出来損ないの預言者になるしかない。そんな奴は、信用されないと思った。」

 「お前の予言とやらが外れていると言う事か?」

 「一部。」

俺はリファナを見る。

 「俺の知る話の中には、リファナは出てこなかった。」

リファナは、いや、フィーロやラフタリアも話について行けずにきょとんとしている。彼女たちにとっては、理解しがたい話だろう。

 「だが、大半は、当たっていると言う事か。…俺の冤罪のことも、最初から知っていたんだな。」

 尚文君は厳しい顔で言う。

 「その通りだ。すまん。だが、そのころは、俺はレベル3ぐらいで、どうしようもなかった。それに、一緒に冤罪を受ける度胸は無かった。許してくれ。」

 「ちょっと待て、お前は俺と一緒の部屋に泊まり、俺の無実を証明するだけでよかったんじゃないのか。」

 「そのぐらいじゃ、金や装備は盗まれなかっただろうが、二人して乱暴しようとしたとして、仲良く強姦罪で捕まっていたさ。あの冤罪は、第一王女の仕業だけじゃないんだ。言ってみれば、国ぐるみ、この国の国教である三勇教の仕業なんだからな。」

 「それはどういうことだ。」

 「三勇教は、槍、剣、弓の三勇者を崇拝する宗教だ。対して盾教と言うものがあり、盾の勇者を崇拝する、メルロマルクの敵国であるシルトベルトの国教だ。敵対する宗教の神様は悪魔と言う訳で、最初っから、盾の勇者はメルロマルクでは忌み嫌われる運命にある存在なのさ。」

 「だったら、俺はなぜ召喚されたんだ。」

 「私見だが、三勇教は勇者を独占したかったんだろうな。言い換えると、敵国に盾の勇者を渡したくなかった。そうして、盾の勇者を自国内で処理しようとした…。」

 「ひどい話だな…。」

尚文君は、己が身に起こった差別を思い出すように言った。

 

 「尚文、他に何を聞きたい。俺が知っていることは、すべて話す。」

 「待て、お前が嘘をついていないという保証は、どこにもないぞ。」

 「そこは、信じてくれと言うしかないな。何なら、俺はお前の奴隷になっても構わない。」

俺は言った。

 「それと、証明できる事実によって示す方法もある。」

 「なんだ、それは。」

 「まずは、魔物のドロップだな。武器に吸わせた魔物は、ドロップ品を落とす事がある。今まで魔物を丸ごと結構吸わせているだろうから、ドロップ品もたくさん登録されているはずだ。」

 「そんなもの、無いぞ。」

 「これは、ドロップが本当にあると、信じていなくては、ステータス画面からは開く事が出来ない。俺が信じられないのは構わん。だが、その盾を信じてみてくれ。そもそも、このゲームじみた世界で、アイテムドロップがないのはおかしいと思わないか。」

 尚文君は、黙った。そして、いぶかしげに俺を見る。

 「取り敢えず、信じてみてくれ。それで、損する事は無いはずだ。」

尚文君は目をつぶり、何やら念じているようだった。そうしてステータス魔法の画面を開く。尚文君は首を振りながら言った。

 「だめだ。そんな項目は出ない。」

 「そうか、残念だ。信じていなくては開かない項目は、他にもあるんだが、仕方ないな。」

 「他にもある、だと。」

 「そうだ、盾の強化法とかだが、信じられないなら、言っても詮無いことだ。俺を嘘つきにしておいてくれ。」

 尚文君は、少し考えているようだった。そうして先ほどと同様に念じると、ステータス魔法の画面を開いた。

 「あった。」

そのまま尚文君は、画面を操作していた。やがて、彼は、一振りの剣を、盾から取り出した。

 「ラフタリア、この剣を、予備として使えるか?」

 「あ、はい。ありがとうございます。でも、この剣は、どうしたのですか?」

 「魔物の落とし物だそうだ。まったく、このことを知っていたら、お前たちの装備をもっとましに出来たんだろうな。」

再び、尚文君は俺を睨む。

 

 その後、俺は尚文君にウェポンコピーを教えた。項目はすぐ現れたが、実践が出来ない。少し考えたのち、ドロップ品にあった盾をウェポンコピーしてみる事で、実証する事が出来た。

 また、システムによるアイテム合成も教えた。薬草を盾に突っ込んで、数分後にヒール丸薬が出て来た時には、またもや尚文君に睨まれた。

 難航したのは、盾の強化法、正確に言うと、他の勇者の武器強化法の共有についてだ。これは、尚文君側に問題があったのではなく、ひとえに俺の所為である。

 ぶっちゃけて言うと、俺は、武器強化法を思い出せなかったのだ。思い出せたのは、剣、弓、槍、投擲具、鞭の5つのみ。

 剣、弓、槍は最初に出て来た強化法だし、投擲具は課金と言う大変に印象的な強化法だった。鞭のステータスエンチャントは便利だなと思ったし。だからこそ覚えていたのだろう。

 正直言って、武器強化法は斜め読みの部分が多かったが、それにしても、ここまできれいさっぱりと忘れているのはおかしい。そう思って、記憶を探るも、頭痛に邪魔されて、記憶を求めれば求めるほど、それは遠くなっていくという、イヤな連鎖に陥ってしまう。

 それでも、剣、弓、槍の強化法を実践するだけで-鉱石やアイテムの不足で出来ないものも多かったが-、常用しているキメラヴァイパーシールドの能力が、ほぼ倍に上がったらしかった。

 尚文君が、鞭の強化法であるステータスエンチャント-レベルを下げる事と引き換えに、ステータスを上昇させる事が出来る-を自らに施し、効果を確認した後、ラフタリアやフィーロに施すかどうか迷っているようだったので、まず俺にかけるように進言した。

 「だが、お前の場合、ステータスが上がっても、魔法の能力には差がないんじゃなかったか?」

 「それはそうだが、ステータス上昇による、最大魔力値の上昇はとても魅力的だ。」

 そうして、レベルを35まで下げてもらう。ステータスは、軒並み1割ほど上昇した。半面、この強化には、銀貨50枚ほどが掛かる事が分かった。仲間の強化であるため、課金が必要なのだ。

 これらを踏まえ、尚文君は、本人たちの了解を取ってから、ラフタリアとフィーロのレベルをやはり35まで下げ、ステータスの向上を図った。これで、成長限界で無駄になっていた経験値が生かされる。

 

 「どうやら、お前が嘘を言っていないのは分かった。」

尚文君が言う。

 「だが、お前をこのままにはできない。お前には、罰を受けてもらう。」

と尚文君は言った。

 俺は、震えながら、尚文君の裁きを待った。パーティーから追い出されてしまうのだろうか。いまさら一人でこの異世界に放り出されることは、俺には、もう考えられなかった。

 「済まなかった。」

俺が言うのと、尚文君が言うのが同時だった。

 「取り敢えずは、その醜い体形を何とかしてもらおうか。」

 「へっ?」

 全く予期していなかった罰に、俺は戸惑う。

 「はっきり言う。痩せろ。」

 「そんなもんで、いいのか?」

 「お前が痩せるのは、そう簡単でないと思うが。」

まあ、それは事実である。

 「それと、薬の調合も覚えてもらう。不器用と言うのは言い訳にさせない。」

 「それでいいのか。俺をこれからも、パーティーの一員として認めてくれるのか?」

俺は、心の動揺を抑えきれずに、訊いた。

 「悔しいが、もう、お前は仲間だ。いまさら、追い出すことなど、出来ない。」

 俺は、泣いた。はっきり、仲間と言ってくれたことに。引きこもりになってからこっち、友人はいなくなり、家族からも疎まれてきた。異世界に来て、仲間と言える存在になれたことは、俺にとってかけがえのないことだった。

 俺は、嗚咽した。周りが戸惑っていることは分かったが、止まらなかった。後悔と、申し訳なさと、うれしさと喜びが、一緒くたになって、俺の心をかき回した。

 気が付くと、ラフタリアが、俺の後頭部に手を当て、赤ん坊をあやすように軽くたたいていた。俺は気恥ずかしくなって、涙を拭いた。

 「おい、大丈夫か。」

()()が言った。

 「何とか。」

ぐしょぐしょの情けない顔で、俺は答える。俺の仲間たちに。

 「本当に済まなかった。俺は、お前たちに、隠し事をした。でも、これからは、それは無しだ。知っていることは、すべて話そう。その代わり、これからも、よろしく頼む。」

 俺は、皆に頭を下げた。

 「カツヒコ様、顔を上げてください。隠し事をしていたのは悪いと思いますが、あなたはあなたです。」

 ラフタリアが言った。

 「そうね、今回は、許してあげる。今度なおふみ様を裏切ったら、承知しないけど。」

とリファナが言う。

 「かっちゃん悪いことしたのなら、しばらくご飯抜きかなー。やせるよー。」

とフィーロ。飯抜きは困る。

 「それは名案かも知れないな。」

と尚文が言う。マジで勘弁してくれー。

 

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