転生引きこもりは狸娘の夢を見る   作:マーカス・クラン

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現在、気力低下&体調不良と戦っています。



第28話 方針

 その時、村を守っていた志願兵が、幽霊船に上がってきた。波が収まったので、様子を見に来たらしい。俺は、慌てて涙を拭いた。

 「勇者様、大丈夫ですか?」

とエイクが言う。

 「ああ、俺のパーティーは無事だ。他の三勇者のパーティーは知らんが。」

尚文が答える。

 エイク達は三勇者のパーティーを介抱し始め、一部を抱えて幽霊船の外へ連れ出した。

 尚文は、手付かずになっていたソウルイーターを盾に吸わせようとした。が、うまくいかないようだったので、俺は志願兵から魔力を帯びたナイフを借り、尚文に渡した。そして、魔力を手にまとわせて、ソウルイーターを扱うように助言する。すると、今度はうまく吸わせる事が出来たようだ。

 俺たちは、幽霊船を下りた。その際、重そうな鎧を着たやつを運ぶのに、エイク達が苦労していたので、俺は手伝った。と言っても、鎧を抱えてジャンプを発動させ、下に降りただけだったが。

 下には、村から連れて来たのかフィロリアルと、荷車が3台置いてあった。

 「あっ!フィーロの荷車!」

フィーロが自分の荷車を見つけ、連結を外し、抱えて自分のものと主張する。村から来たフィロリアルが不満そうだったが、フィーロはフィロリアルクィーンの威光を持って、黙らせる。

 三勇者のパーティーを二つの荷車に載せ、フィーロの荷車には俺たちとエイク達が乗り、村へと出発する。

 「村はどうなった。」

と尚文が訊くと、

 「みんなの奮戦で、村を守り切る事が出来ました。」

とエイクの力強い答えが返ってきた。負傷者こそ出たが、防衛線は維持できたらしい。

 程なく村に到着する。村人たちは、お互いの無事を喜びあい、談笑している者、早速家屋の復旧にかかっている者など、様々だったが、大災厄を乗り越えたことで、その表情はおおむね明るかった。

 臨時の治療院となった教会に、三勇者のパーティーを放り込むと、俺たちは、村の復旧作業を手伝った。

 夕方になり、復旧作業が一段落したところに、城から騎士団の早馬が駆けつけて来た。

 早速尚文が詰問される。エイク達も証言をする。三勇者が波の敵に歯が立たず、あっさりとやられたことに対して、騎士団長は半信半疑だったが、状況証拠は尚文たちの言が正しいと示している。

 騎士団長は、尚文に、城下街へ戻り、王に報告するように言った。尚文は無論断る。が、エイクが騎士団に同行するように頼み込む。

 今回、村を防衛出来たのは、エイク達がいたおかげである。彼らの顔も立てるべきだと思ったのか、渋々、尚文は騎士団に同行することを承知した。

 が、三勇者のパーティーの治療もあり、日も落ちかけていることから、出発は、明朝になった。

 

 その夜。

 俺は皆にこれからのことを話していた。俺の原作知識に沿っての、メルティ王女誘拐騒動の顛末である。

 三勇教がメルティ王女の暗殺をたくらみ、尚文が彼女を助ける事で、王女誘拐の冤罪をかぶることを話すと、尚文は、

 「また、冤罪か。」

と渋い顔をした。

 「それを、避ける方法はないのか?」

と尚文は訊く。

 「難しいな。」

と俺は答えた。

 三勇教とマルティ第一王女にとって、メルティ暗殺は既定事項だろう。彼らにとって、どうやってその罪を盾の勇者に擦り付けるかと言う事のみが問題なのだ。

 強姦罪の時の事を考えると、証拠の捏造など、彼らにとって、容易いことだろう。したがって、メルロマルク国内に盾の勇者がいる時点で、メルティが暗殺されると、その罪を擦り付けられる可能性は、極めて大きい。

 その罪を逃れるには、メルティが暗殺される前に、尚文がメルロマルク国内から出て、そのことを世間に知らしめる必要があるが、こいつは、時間が足りない。

 例えば、シルトベルトへ行くには、フィーロの全速でも2週間はかかるが、それまで三勇教が大人しく待っているとは思えない。

 逆に、こちらが先にメルティに接触し、保護してしまう手があるが、証拠が俺のアニメ知識だけでは、メルティが納得するとは思えない。更に、誘拐の冤罪をかけられる可能性は大きい。

 最善の策は、原作通りにメルティを暗殺から救った後、直ちに女王のいる国へ向かう事だろうか。それでも、冤罪をかぶる事は避けられない。

 メルティを見捨ててしまうのも、選択肢の一つではあるが…。

 「やー。それは絶対に、いや。」

フィーロが全力で、反対した。最初に出来た友達を見捨てることは、この鳥の想像の範囲外なのだろう。

 「逆に、打って出るのは、どうかしら。」

 リファナが提案した。

 教皇を暗殺するチャンスは得られるのかもしれない。頭をつぶすことで、三勇教に多少の動揺は与えうるだろう。その隙に、シルトベルトに亡命してしまう。案外、いけるかもしれない。

 メルロマルクからはテロリスト指定され、戻ってこられない可能性は高いが。また、教皇暗殺に失敗した場合、詰んでしまう危険性は高い。

 尚文は、この案にはあまり乗り気ではないようだった。成功すれば犠牲が最も少なくて済むが、失敗した場合のリスクが大きい。暗殺と言う手段も、意に染まないようだ。また、メルティの安全が完全に確保できる保証がない。

 「やはり、メルティがこちらに接触して来た時に、彼女を暗殺から助けて、そのまま女王に会いに行くというのが最善なのかな。」

 「その場合、お前が知る話との違いは、メルティを助けた後の行き先と言う訳か。」

 「ああ。アニメでは、シルトベルトへ行こうとして、多数の兵士と三勇者に阻まれていた。シルトベルトとは反対の位置にある女王のいる国へ行く時、行く手を阻むのは、冒険者辺りになるだろうか。」

 「幾らか、与しやすいと言う事か。」

 「分からんがね。」

 一応、方針は決まった。原作に近くとも、タイラントドラゴンレックスに暴れられたり、‘裁き’を頭上に落とされたりしなければ、御の字だろう。

 

 寝る前に、早速、俺に対する罰が課せられた。腕立て、腹筋運動をそれぞれ50回、行うのだ。ラフタリアは最低100回と言っていたのだが、腕立て30回でへばった俺を見て、最初のうちはと妥協してくれた。が、へばった状態から20回、滝のように汗をかき、腕をがくがく震わせながら、腕立てを続けるのは、並のつらさじゃなかった。

 やっと終わったと思ったら、次は地獄の腹筋である。やはり、30回程度で限界が来る。その後、腹の痛さをこらえて、唸り声をあげ、痙攣しながらやる腹筋は、腕立ての3倍のつらさだった。

 終わった後、ラフタリアから地獄の宣告がなされた。朝晩はもとより、一日これを最低5セット行なうというのだ。自業自得とはいえ、これはたまらん。

 「がんばって痩せましょーね。」

と天使の微笑みを見せるラフタリアが、悪魔に見えた一瞬だった。

 

 翌朝。

 朝の()()を終え、俺は、筋肉痛になっていた。フィーロとリファナが、面白がって俺をつつく。そのたびに、俺は身をよじらせ、うめき声を上げた。

 食事の際も、食器を持つ手がぶるぶる震える有様だった。

 リファナが、

 「食べさせてあげよっか?」

と言って来たが、さすがにそれは固辞した。格好が悪すぎる。

 

 昨日真夜中に到着した3台の馬車に、三勇者のパーティーが分乗し、城下街へと出発した。こちらはフィーロに曳かせた荷車に、エイク達を便乗させ、ついて行く。ただし、尚文は、まだ訊きたい話があると言う事で、馬車に乗せられてしまっている。

 フィーロは馬車について行けばよいので御者をやる必要はない。

 俺は、比較的潤沢にある薬草を材料に調合を行った。とはいえ、出来上がるのは真っ黒いゴミばかり。あまりの手際の悪さに、ラフタリアやリファナ、エイク達さえもあきれ顔だ。

 見かねたラフタリアが、いったん止めさせ、筋トレに切り替えるように言った。うーん。そっちの方がつらいんだが。まあ、ここまで失敗率が高ければ、仕方ないと言える。

 腕立てと腹筋、おまけの背筋で俺がヘロヘロになった頃、昼休憩になった。

 尚文がようやく解放され、荷車へ戻ってくる。ずいぶんと不機嫌そうだ。理由を聞くと、三勇者が、波の戦闘の事実を自分の都合のいいように解釈していること、中でも、自分たちがグラスに負けたことを、イベント戦闘で必ず負けると思っていて、ゲーム気分が全く抜けていない事、そのことを訂正しようとしても聞く耳を持たないことを挙げた。

 「あいつら、勇者様は負けイベントでは必ず生き返ると思っていやがる。」

尚文は苦々しく吐き捨てる。そんな尚文に、

 「ごしゅじんさまー。フィーロ、思いっきり走れなくて退屈ー。」

とフィーロが人型になって擦り寄る。尚文は苦笑いしてフィーロを撫でた。

 

 昼食の後、揺れる荷車の中で、尚文に直接教えを請い、調合を行った。今度は、3回に1回位、成功するようになった。しばらくすると、コツをつかんできたのか、失敗しないようになった。品質は、悪いかやや悪いだったが。

 一段落すると、ラフタリアの指導の下、筋トレが始まる。もう、自分の体が自分のものじゃない感覚になっていたが、俺は何とかメニューをこなした。

 道中、魔物が出てくることもあったが、主に騎士団が対処して、残りはフィーロが蹴り飛ばした。

 

 そんなこんなで日が傾き、野営をすることになる。フィーロだけなら、もうそろそろ着いている頃だ。彼女の鬱憤が溜まるのもわかる。

 そんな彼女のご機嫌を取るためか、尚文が夕食のメニューに一品加えた。夕食は、騎士団が作ってくれたのだが、手持ちの食材で、ウサピルの塩漬け肉のスープを作ったのである。

 フィーロが喜んだのはもちろんだが、俺やラフタリア、リファナやエイク達とともに、匂いにつられたのか、三勇者のパーティーや騎士団もやってきて、尚文のスープに舌鼓を打った。

 騎士団の料理担当者は、尚文に、しきりとレシピを聞いていたが、尚文は、面倒くさいと無視を決め込んだ。

 

 俺の夜の()()が終わった後、俺は、パーティーの皆に、再び原作知識によるこの先のことを話した。フィトリアと対教皇戦のくだりである。

 他人に聞かれては困るので、ラフタリアとリファナに隠蔽魔法をかけてもらった上での話し合いである。

 フィトリアは、計画通りにいけば起こりえない、三勇者との戦いからライヒノットとの出会いの後、タイラントドラゴンレックスの戦いの最中に出会うことを話した。

 尤も、それがなくとも、次期クィーン候補のフィーロに必ず接触してくることを告げると、フィーロが、

 「なんか、めんどくさーい。」

と文句を言った。また、場合によっては、四聖の処分も考えている危険な奴だと言う事を告げると、尚文の表情が曇る。

 「会わないで、済ます方法はないのか。」

と聞いて来る尚文に、俺は、

 「無理だな。彼女は、世界中のフィロリアルを統括している。その情報網から逃れる事は不可能だ。また、俺たちよりもずっと強い。それに、彼女が与えてくれる恩恵もある。」

と答えた。

 さらに厄介なのは、フィトリアと邂逅した後、彼女が俺たちを解放するのが、槍の勇者の側であり、そこが、教皇を長とする三勇教が罠を張っている場所だと言う事である。

 「逃げちまうのも手だが、いっその事、三勇教と対峙して、白黒つけてしまうのもありだと思う。」

と俺は言った。

 「勝算はあるのか。」

と言う尚文の問いに、

 「相手の魔力をそいでしまえば、こちらに勝算があると思う。多分、信者の6割ぐらいは、精神魔法でつぶせるはずだ。」

と答えた。

 尚文は唸りながら、

 「お前の大丈夫は、当てにならないからな。あの決闘の時もそうだった。」

と疑いの目で見てくる。確かに、その通りだったが…。

 「槍の勇者と話し合いをせずに、逃げてしまうと、フィトリアからの評価は下がるが…まあ、女王と接触してから、三勇教と対峙した方が、安心とは言えるか。」

と俺は言った。

 「まあ、どちらにしても、先の話だ。それに、あくまでお前のアニメ知識の中でのお話だからな。実際には、出たとこ勝負にはなるだろう。」

 尚文は、あくまで、話半分と言うスタンスで受け止めているようだ。まあ、それが丁度いいかもしれない。

 一応話も一段落し、ラフタリアとリファナの魔力も心もとなくなり、俺も頭痛がひどくなって来たので、この夜はこの辺でお開きとなった。

 エイクがどうしたのか聞いてきたが、適当に胡麻化した。話し合っている風なのに、姿も良く見えず、話し声も聞こえないので、不思議がったのだろう。

 


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