転生引きこもりは狸娘の夢を見る   作:マーカス・クラン

31 / 76
第30話 メルティ危機一髪

 そのまま、エルハルトの店へ向かう。

 店の横には、新品の立派な馬車が鎮座していた。フィーロが早速取り付き、興奮して馬車を撫でまわす。

 「おい、まだ引き渡しが済んでいないから。俺たちのものじゃないぞ。」

と注意すると、

 「これはフィーロの馬車だもん!」

とあかんべーを返して来た。

 

 店に入ると、エルハルトが苦笑いをしながら話しかけて来た。

 「おう、アンちゃん達。早速城でひと騒動やらかしたらしいな。」

尚文が、少しバツが悪そうに答える。

 「ああ、それで、出来るだけ急いで出発したい。用意を頼めるか。」

 「そう言うと思って、適当なものを見繕って、馬車に積んである。いつでも出られるぜ。」

 気の利くおっちゃんである。

 「それは助かる。」

尚文がお礼を言う。

 

 「それと、もう一つ頼みがあるんだが…。」

こっちは、少し言いにくい頼みだ。

 この際、店の武器をウェポンコピーしてしまおうという事なのだ。

 「そりゃ、万引きじゃねーか。」

仕組みを聞き、エルハルトは当然怒る。それを、今度金が入ったら、装備をここでたんまりと整えると言ってご機嫌を取り、なんとか許してもらった。

 女性陣が面白がって、店に陳列してある盾を、尚文の許に運び、尚文がそれを触ってコピーする。

 一番の収穫は、隕鉄の盾だ。この盾を得ることで、尚文は、スキル‘流星盾’が使えるようになった。

 

 俺は、荷物などの代金を若干色を付けて清算した。ついでに、荷車の処分も頼む。ステータスアップの課金に持ち金を使ったこともあり、残金が心もとない。

 

 「どこへ行くんだ。」

とエルハルトが訊く。

 「取り敢えず、シルトフリーデン辺りへ行って、クラスアップをしようと思う。」

尚文が言う。さすがに、王女様の暗殺云々は答えられない。

 

 「それじゃあ、アンちゃん達、またな。」

エルハルトの別れに、

 「いろいろとありがとうございました。お元気で。」

と、ラフタリアが挨拶を返す。

 

 それから、皆で荷車の荷物を馬車へと移した。

その作業がもう少しで終わるという時に、

 「待ちなさい!」

と言う声と共に、4頭立ての立派な馬車がこちらに近づいて来た。

 

 こちらは構わずに作業を終わらせる。

 馬車が止まると、何人かの兵士にかしづかれて、一人の少女が降りて来た。凛とした顔立ちに、真っ青な髪。第二王女メルティである。表情が険悪だ。何やら、怒っているようである。それでも、感情を押し殺して、冷静な声で彼女は言った。

 「盾の勇者様。王城に戻り、王と再度謁見してください。王への非礼を詫び、仲直りをするのです。」

 

 「断る。」

間髪入れずに尚文が言う。

 「ナオフミ様…。」

たしなめるようにラフタリアが声を掛けるが、尚文は、自分を曲げてまでメルティのご機嫌取りをするつもりは無い様である。

 

 尚文は、俺に確認を取ると、皆を馬車に乗せ、フィーロに魔物姿になるように言った。フィーロは、メルティを気にしつつ馬車を引く準備をする。

 

 暗殺者が、街中で仕掛ける可能性は極めて少ない。余計な目撃者を生むことになるからだ。そうなると、ここでメルティと不毛な言い争いをやるより、逃げてしまう方が手っ取り早い。幸い、こちらには、通常の3倍のスピードとまではいかないが、他の追従を許さないフィーロがいる。

 

 俺は、フィーロの手綱を振った。フィーロが勢い良く駆け出す。

 「こ、こら!待ちなさい!」

メルティーが、慌てて馬車へと戻る。

 

 俺は、念のために、メルティに手出しが出来ないようにするためと、追跡を遅らせるために、周りの兵士をアイスウォールで閉じ込める。

 

 「何をするのよ!」

おつきの兵士がすべて閉じ込められてしまい、どうにも出来ないメルティは怒り狂っている。

 

 その間に、フィーロはぐんぐん加速する。やがて、メルティの馬車は見えなくなった。

 

 「取り敢えず、リユート村に顔を出すぞ。」

尚文が言う。かの村には世話になった人が多い。挨拶をしておくのもいいだろう。

 

 道中、積み荷の確認をする。エルハルトは、抜け目なく必要なものを揃えてくれていた。俺にとっては、魔力水が2本追加されていたのがうれしい。

 

 「これは何だ。」

見ると、尚文が見慣れない袋に首を捻っている。

 「手紙が入っていますよ。」

 ラフタリアが手紙を読み上げる。

 

 それによると、袋の中身は、エルハルトからの餞別代りのプレゼントらしい。

 まずは、尚文の盾に着けるアクセサリー。

 次に、ラフタリアへ、魔力剣。やけに軽い剣を鞘から抜くと、刀身が無いので、ラフタリアが唖然としている。注釈によると、実体の無い敵に効くと言う事だ。

 更に、万一フィーロが馬車を引けなくなった時のために、怪力を出せるパワーグローブ。

 もう一つは、透明になれる外套。尤も、後で試したところ、少しでも動くと、不自然に背景が揺らいでばれてしまうのが分かった。そこで、これは隠蔽魔法と合わせて使うのが効果的と言う結論になった。

 最後は、遠くの物音を聞くことの出来る魔法の角笛である。隠蔽魔法をかけながら、先の外套をかぶると、こちらの存在を知られずに、敵情を探る事が出来るので、リファナかラフタリアが使うといいかもしれない。

 

 数的に、一人一つずつの餞別を入れておくなんて、律儀なおっさんである。尚文も、感激しているようだ。

 

 程なくリユート村に着いた。宿屋のおかみさんに挨拶がてら、昼食を取る。リファナとラフタリアは、嬉しそうに彼女と話している。何せ、散々お世話になった二人の恩人である。

 

 他の知り合いにも挨拶を済ませ、村の門を出ると、砂埃を上げて馬車が近づいて来た。

 「待てぇ~!」

 メルティーが叫んでいる。

 

 俺と尚文は目配せをした。皆にも注意を促す。俺は手綱を引いて、馬車を止めた。フィーロが人型へと戻る。

 「メルちゃん!おーい。」

嬉しそうにメルティーに向かって手を振るが、当のメルティーは、自分で走ってもいないのに、怒りで息を切らしているようだ。

 

 馬車を止めて、おつきの兵士と一緒に降り、こちらに近づいてくる。兵士は二人だ。メルティーの左右後方に控えるようについて来る。

 

 俺と尚文に緊張が走った。多分、今度はやる気だろう。問題は、タイミングである。こちらが味方であると分からせるようにメルティの暗殺を防ぎ、彼女の信頼を勝ち取らなければならない。

 

 

 皆が馬車から降りる。ラフタリアも、リファナも緊張しているのが分かる。尚文は、いつにも増して眼光が鋭くなっている。俺も、いつでも魔法が唱えられるように、兵士の一挙一動に注視する。唯一、フィーロだけが呑気にメルティへ手を振っている。

 

 「やっと追いついた!」

ぶー垂れながら、メルティが近づいてくる。その歩みがやや止まる。尚文の顔をいぶかしげに見ながら、

 「どうして、まだ怒ってるのよ!」

と言った。

 

 尚文が答える。

 「何度も言うが、王に謝罪するなんぞは御免だ。」

メルティは再び速足でこちらに近づく。

 「波に対抗するためには、勇者の力が絶対に必要。でも、勇者は王の援助を受けなければ、その力を発揮出来ない。その王と勇者がいがみ合っているなんて、ぜーったいおかしいの!」

 

 メルティは尚文の前まで来ると、再び言った。

 「どうか王都へ戻って、王と和解して!」

尚文は即答する。

 「絶対に、イ・ヤ・ダ!」

 

 メルティーは、下を向いて、顔を赤くした。そして、キレた。

 「どうしてあなたも父上も、そうなのよ!二人がいがみ合っていちゃ、波に対抗出来ない!この国はどうなるのよ!それに、母上に顔向け出来ない!父上が母上に怒られちゃう!」

 もはやメルティは半泣き状態だ。

 

 と、尚文がメルティを引き寄せた。絶妙のタイミングだった。メルティがバランスを崩し、上半身を尚文に預けた形になる。その背中に、兵士が抜刀した剣が迫っていた。すかさず、尚文はそれを盾で防ぐ。背中で響いた金属音に、メルティが驚愕の表情を見せる。

 

 俺は魔法を唱えた。

 「アイスウォール!」

 もう一人の兵士は抜刀したまま氷壁に閉じ込められた。その剣を握った手に、俺はファイアーレーザーを浴びせる。兵士の顔が氷の中で歪む。ウォールを解除すると、兵士は剣を取り落とし、手を押さえて転げまわった。

 

 尚文に剣を防がれた兵士が、声を荒げて言う。

 「おのれ!盾の悪魔!メルティ王女を人質に取るとは。」

 

 そのセリフに、一瞬尚文が呆気にとられる。当のメルティは、尚文に寄りかかって、顔面蒼白になっている。

 

 俺は、サンダーアローを放つ。兵士は、アローを剣で受けた。派手に火花が飛ぶ。

 

 「皆の者、盾の悪魔に鉄槌を!正義は我にあり!」

兵士が叫ぶ。

 「とうとう悪魔呼ばわりかよ!」

尚文がぼやいた。

 「ラフタリア、フィーロ、リファナ!」

残りの兵士が動くのと、三人が動くのが同時だった。尚文は、青い顔のメルティを守っている。

 

 三人は、兵士を次々にのしていった。ラフタリアの剣技、リファナの格闘術、フィーロの怪力、どれをとっても、死角は無かった。

 

 俺は、水晶を持っている兵士を探した。すると、いたいた。馬車の横で何やら水晶を操作している奴がいる。俺は、逃げられないように、そいつの足をロックウォールで固定した。更に、ロックアローを放つ。アローは水晶に見事に命中し、水晶は粉々に砕け散った。

 

 俺は水晶に気を取られ過ぎていた。だから、気づくのが遅れてしまった。兵士の中に魔法使いがいたことに。あまつさえ、そいつが詠唱をほぼ終えていた事に。そいつは叫んだ。

 「ファスト・カース・オブ・ポイズン!」

 

 黒き光が放たれ、尚文の胸に抱かれたメルティに命中した。メルティの顔が苦痛に歪む。

 

 「サイコアタックIII!」

俺の反撃は遅すぎた。当の魔法使いを狂気状態にしたが、魔法は発動してしまった。名前からすると、‘毒の呪い’の魔法なのだろう。単なる毒の魔法でないのが気にかかる。

 

 「引けー!」

魔法の発動を確認したからか、リーダー格の兵士が引き潮を命ずる。兵士たちは、傷ついた仲間を抱えて、次々に馬車へと乗り込み、何処かへと去っていった。

 

 俺は、道に、何か落ちているのを見つけた。ロザリオだった。槍と剣と弓がデザインされたそれは、三勇教の物だった。俺は、それを懐に入れた。

 

 「大丈夫か、メルティ。」

尚文が、青い顔のメルティを気遣って、声を掛ける。彼女は、切れ切れに答える。

 「呪いの、魔法を、受けました。聖水か、聖魔法で、治療しなければ、体の、中から、無限に、毒が、湧いて来ます。」

 

 「何だって!」

尚文が驚く。彼は、一瞬考えると、

 「確か、ラフタリアの治療に使った聖水が残っているな。ラフタリア、解毒剤と一緒に用意してくれ。それから、勝彦。‘ホーリー’だっけ、聖魔法で治療だ。」

 と的確に指示を出す。

 

 俺は、答えた。

 「すまん、尚文。‘ホーリー’は、使えない。」

 「なぜだ。」

 「あれは、レベル40から使える魔法だ。資質向上でレベルを下げてしまった今では、レベルが足りなくて、使えないんだ。」

 

 尚文は渋い顔になる。

 「お前は、肝心な時に使えないな。」

 「すまん。」

 

 リファナとフィーロがメルティを馬車へと運び、横たえて、青い顔の彼女に尚文が聖水を飲ませる。盾がほのかに輝き、一瞬、メルティの体が光る。だが、彼女の顔色は戻らなかった。恐らく、量が足りないのだ。

 

 今度は、解毒剤を飲ませてみる。彼女の頬に赤みが戻るが、荒い呼吸は変わらない。一時しのぎにしかならないのだろう。

 

 「取り敢えず、リユート村へ戻るぞ。」

尚文の指示に、フィーロが魔物姿になり、馬車を引き出す。

 

 宿屋へ着くと、おかみさんに事情を話し、メルティをベッドに寝かせる。王女様の危急に、彼女は目を丸くしている。解毒剤が入用なことを伝えると、彼女は雑貨屋へ走った。

 

 「いいか、俺はこれから解毒剤を調合する。リファナは森で毒消し草を調達してくれ。ラフタリアはメルティの看病だ。解毒剤を飲ませ続けて、何とかメルティの容態を持たせる。」

指示を出した尚文は、俺とフィーロを見る。

 「フィーロは勝彦を連れて、レベル上げに行ってくれ。何としても、今日中に、レベルを40まで上げるんだ。フィーロ、メルティの命は、お前にかかっているぞ。」

 そうしてステータス画面を操作し、パーティーの設定を変更した。

 

 「うん、分かった。」

とフィーロは言うが早いか、魔物姿になった。そうして俺を蹴り飛ばすと、羽でキャッチして、がんじがらめにからめとる。

 

 「じゃあ、行ってくる!」

フィーロは俺を拘束したまま、脱兎のごとく駆け出して行った。

 




 執筆が遅れた言い訳なぞを…。
1.
 なんといっても、体調不良&気力低下が大きいです。
 一度横になると、いつまでも寝ていられるという感じで、油断すると、日常生活に支障をきたすレベルでした。
 薬とかも調整しているのですが、どうにもうまくいきませんでした。
 よって、出来るだけアウトプットを少なくして、自分の中にエネルギーが溜まるのを待ち、執筆を抑えたという事情があります。

2.
 現在、認知症の親の介護を行っています。
 理不尽な要求に応える度に、メンタルが半分程削られてしまい、夜には精神力がほとんど残っていないという状態です。

 最近は、環境が少し変わり、執筆の時間が少し取れるようになって来ました。
 この駄文小説を続けて何の意味があるんだと悩むことはあったのですが、なんとかゴールへと走り続けていたいとの思いも強く、投稿を再開した次第です。
 筆者の我儘に、お付き合いいただければ、幸いです。
 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。