転生引きこもりは狸娘の夢を見る   作:マーカス・クラン

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サブタイトルを旧題「レベル上げ」より変更しました。


第31話 走れ!フィーロ

 揺れる、揺れる。俺は体勢を立て直す暇もなく、フィーロの高い体温に包まれて、シェイカーのように揺さぶられた。

 『このままでは、吐いてしまう。』

 俺は手足に力を入れ、もがいて、ようやく頭をフィーロの羽の外に出す事に成功した。

 

 フィーロは山道に入っていた。時折出現する魔物を蹴り飛ばし、そのうち一部を飲み込みながら、脱兎のごとく走っている。

 

 遠くをピキュピキュが飛んでいるのが見えた。早速、ファイアーアローで撃墜する。低級の魔物だと、遠くからの狙撃でも躱される事がない。

 

 フィーロは、林の中に分け入っていた。視界が悪くなり、状況の判別が難しくなる。と、フィーロが止まった。

 

 首を伸ばして目を凝らすと、前方にスライムの群れが見える。大半のRPGでは雑魚モンスターのスライムだが、実際には、物理攻撃が通りにくい、面倒臭い敵である。奴らは、魔法で処理してしまうに限る。

 

 「フィーロ、俺に任せろ。」

俺は叫ぶと、サンダーストームIIIを放った。ファイアーストームだと、山火事を起こしてしまう。

 

 ストームの目にいて無事だったスライムに、フィーロが突進する。しばらく攻撃を続けると、終いには引き裂いて、口の中で咀嚼を始める。物理攻撃で倒してしまうなんて、やっぱり、この鳥は規格外だ。

 

 「この弾力がたまらないのー」

満足げにつぶやきながら、フィーロは再び走り始める。

 

 こんな具合で、沢に湧いたポイズンフロッグなど、フィーロが蹴り飛ばすのを躊躇する敵を俺が魔法で片づけながら、魔物を求めて野山を駆け回った。

 

 

 日が傾き出している。俺もフィーロも焦り始めていた。

 

 レベルはまだ37を超えたあたりである。塵も積もればなんとやらであるが、雑魚敵ばかりでは、それも限度がある。

 

 フィーロは、休みなく、ほぼ全速で、魔物を求めて一心不乱に走っている。この鳥の体力には、驚くばかりである。

 恐らく、メルティを思うが故なのだろう。

 

 俺の方はと言うと、若干まいって来ている。魔法は断続的に使っているので、回復が間に合い、魔力の余裕はあるが、体力が怪しい。何せ、長時間、フィーロの全速で揺られているのだ。

 

 ふと、フィーロが立ち止まり、臭いを嗅ぎ始めた。そうして、ぼそりと言った。

 「ドラゴンの臭いがするよ。」

 

 そういえば、いつかのドラゴンゾンビの村は、この方角だったような気がする。距離的には遠いが、ドラゴンの尺度で見るなら、お隣さんであろう。空白となった縄張りに、新たなドラゴンが入り込んでも、おかしくはない。

 

 また、経験値的にも、ドラゴンなら申し分ない獲物だ。問題は、俺とフィーロの戦力で、やれるかどうかだが…。

 俺は、ドラゴンゾンビとの戦いを思い返した。フィーロとの連携には難があるが、落ち着いて、ドラゴンの反撃手段を奪っていけば、倒せない事は無いだろう。

 

 俺が、そう結論付けるのと、

 「フィーロ、行くね。」

と呟いて、フィーロが駆け出すのとが、ほぼ同時だった。

 

 フィーロは、森の深部へと分け入っていく。

 俺は、ある臭いを感じ取っていた。酸っぱい…酸だ。

 俺はフィーロに言った。

 「ドラゴンは、アシッドドラゴンだ!」

 

 「アシッド?なーに?」

フィーロが理解出来ずに聞き返す。

 「酸のブレスを吐くドラゴンだ。」

 「さん?」

 「物を焼いて溶かす液体だ。浴びると体が焼け焦げてしまう。」

 

 フィーロは、少し考えているようだったが、

 「分かった、気を付ける。」

と返事をした。本当に分かっているんだろうか。

 

 どっちにしても、やるしかあるまい。俺は、気を引き締めた。

 酸の臭いはより濃くなって来ている。ドラゴンに近づいている証拠だ。

 

 やがて、臭いの主が視界に現れてきた。いつかのドラゴンゾンビよりは小柄だが、まごうかたなきドラゴンである。奴は、こちらを認識すると、辺りを振るわせる咆哮を上げた。

 

 それが合図であるかのように、フィーロが俺を解放する。そして、ドラゴン目掛けて突っ込んでいく。相変わらず無鉄砲な鳥だ。

 

 俺は、ドラゴンとの距離を詰めるべく走り出す。フィーロは、ドラゴンの頭部に蹴りを入れようと奮闘しているが、尚文による足場の補助がない分、やり難そうである。

 

 フィーロが叫んだ。

 「かっちゃん、足場!」

俺はロックウォールを唱え、適当な空中に立てた。尚文のエアストシールドほど強固ではないが、フィーロの足掛かりぐらいにはなるだろう。

 フィーロの攻撃が、ドラゴンの頭に命中する。

 

 その時、ドラゴンの喉がえずく様に動いた。ブレスだ。俺は咄嗟に叫ぶ。

 「フィーロ、ブレスが来る。戻れ!」

 「えー、せっかく調子が出て来たのにー。」

フィーロが、不満をあらわにしながら、それでもこちらへと戻ってくる。俺は魔法を唱える。

 「ロックウォールVIII!」

 

 ドラゴンに背を向けているフィーロをかばうように、岩壁がそそり立つ。間髪入れずに、ドラゴンがブレスを吐いた。じゅうじゅうと、岩肌が溶かされる音がして、フィーロが思わず立ち止まる。嫌な臭いをたてながらも、岩壁はブレスに耐えた。

 

 頃合いを見て、俺がウォールを解除すると、散らばっている酸をものともせず、フィーロがドラゴンへと再び突進する。

 

 やはり、ブレスは厄介だ。封じておく必要がある。たがしかし、爆発系の魔法では、酸が飛び散り、至近で戦っているフィーロが危険だ。ここは・・・。

 

 俺は、フィーロが着地したのを見計らって、ロックボールVIIIを放った。うまくいけば、首をへし折って、ドラゴンを絶命させる事が出来る。

 

 しかし、手ごたえは無かった。微妙に躱された様だ。だが、よく見ると、ドラゴンの口から酸が滴り落ちている。どうやら、ドラゴンの顎を外すことに成功したようだ。これで、ブレスは脅威にならない。

 

 尤も、未だに頭部へ攻撃することに固執しているフィーロに、酸がかかる危険性は高い。俺は、フィーロの足場を作りながら、考えていた奥の手を使う事にした。

 

 絶え間なく命中するフィーロのキックに翻弄されて、ドラゴンは棒立ち状態だ。俺は、その無防備な腹部に魔法を放つ。

 「ファイアーレーザIV!」

 

 ドラゴンの腹が裂け、血が噴き出る。だが、こいつは露払いの役目でしかない。俺は、本命を放つ。

 「ロックレーザーVIII!」

 

 巨大な石柱がドラゴンの腹から背中へと突き抜けた。おびただしい血が噴き出す。ドラゴンは断末魔の咆哮を上げ、やがてゆっくりと倒れた。

 

 「やったね!かっちゃん!」

 勝どきを上げるように、フィーロが戻って来て、声を掛ける。

 

 俺は、ドラゴンに近づいて、その腹部を探った。しかし、竜帝の欠片は見当たらなかった。まだ若いドラゴンだったせいなのだろうか。

 

 自分のステータスを見ると、何とかレベル40に達したようだ。

 目的は達した。一刻も早く戻るべきだが、まだ少しやる事がある。

 

 俺は、ドラゴンの寝床らしき辺りを探った。フィーロが何事かとついて来る。狙い通り、量はわずかたが、宝石や金貨、アクセサリーなどのドラゴンの財宝を見つける事が出来た。俺は、その中から、出来るだけ大粒の宝石を数個ポケットにねじ込む。

 

 「かっちゃん、ドロボー」

 フィーロが咎めるように言う。

えーい、うるさい。これから逃亡生活になるのに、路銀は乏しい。決して無駄にはならないはずである。

 

 フィーロが訊いて来た。

 「そろそろ戻る?」

俺はかぶりを振った。

 「まだやる事がある。」

そう、ドラゴンの死体の始末だ。錬君の二の舞をやるつもりはない。

 

 俺はフィーロにドラゴンから少し離れるように言ってから、ファイアーウォールIXを唱えた。ドラゴン全体を包んで、燃やしてしまうのである。

 

 途中、魔力水で魔力を補充し、15分ほどで、骨や牙を除いて、ドラゴンは大体炭になった。これで、腐る事は無い。

 

 俺は、焦げた牙と鱗をウォータークラウドで包み、粗熱を取ってから、懐に抱えた。尚文への、素材のお土産である。

 

 「そろそろ戻ろう。」

そういって、半分居眠りをしていたフィーロに乗ると、彼女をは目を覚まし、羽を俺に絡めてきた。その白い羽毛には、ところどころ焼け焦げが出来ていて、痛々しい。

 

 「いっくよー!」

フィーロは自分に気合を入れるように叫ぶと、再び脱兎のごとく駆け出した。

 

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