転生引きこもりは狸娘の夢を見る   作:マーカス・クラン

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第32話 メルティの治療

 既に日は落ちたが、まだ空は明るい。相変わらず、フィーロは全速力で走っている。しかし、疲労が激しいようだ。微妙に、走るリズムが変わっている。

 少し前に山道から街道へ出たが、走り易さも疲労回復とはいかないようだ。

 

 かくいう俺も、フィーロの背中で揺られ続けて気息奄々である。何とか気力を保ち続けてはいるが…。

 

 感覚が正しければ、リユート村はもうすぐのはずである。そう思った時に、フィーロの、

 「危ない!」

と言う声と共に、急ブレーキが掛かった。

 

 首を伸ばして前を見ると、見覚えのある人物が、通せんぼをしていた。

リファナだ。

 「フィーロちゃん、大丈夫?」

とリファナは言った。

 「リファナ、危ないよ。」

とフィーロが返す。

 

 リファナの体は、一部が見えなくなっていた。透明化の外套をかぶっているのだ。よく見ると、魔法の角笛も持っている。

 

 「ごめん、ごめん。声を掛けたんだけど、聞こえなかったみたいね。」

とリファナは言った。さらに彼女は言う。

 「リユート村に、なおふみ様は、もういないのよ。」

 「どうしてだ?」

俺は訊く。

 「村に追手が来たのよ。それで、なおふみ様は脱出して、今は、近くの森に潜んでいるわ。」

 

 「それで、私があなた達をこうして待っていたの。」

そうして手招きをして、

 「案内するわ。」

と言って、森へ分け入っていく。フィーロはついて行く。

 

 5分ほどで少しだけ開けた場所に出て、そこには、馬車ではなく荷車があった。多分、逃げる際に荷車を手配し、馬車はリユート村に置いてきたのだろう。

 

 フィーロが俺を解放し、人形に戻る。その天使の羽にも、焼け焦げが付いていて、痛々しい。

 気配を感じたのか、尚文が荷車から出てくる。

 「勝彦、フィーロ。戻ったか。それで、レベルは?」

 

俺は答える。

 「何とかレベル40になった。これで、‘ホーリー’が使える。」

 「良かった。早速、メルティの治療を頼む。」

 俺は、フィーロが何やらぐずっているのを聞きながら-どうやら、「馬車」と騒いでいるようだ-荷車へと入った。

 

 ラフタリアが顔を上げた。傍らで寝ているメルティの顔色は、土気色に近い。

 「カツヒコ様、戻られたのですね、良かった。どうか、メルティさんを助けてあげてください。」

 ラフタリアに促され、俺は魔法を使う。幸い、魔力は満タンである。

 「ホーリーウォールIX!」

 魔力の壁でメルティーを包み、解呪を図る。

 

 淡くて白い光に包まれたメルティの呼吸が穏やかなものへ変わっていく。顔色も、健康的なそれに戻っていく。俺は、精神集中を続ける。

 

 尚文達が、荷車へと入ってくる。

 「メルちゃん、大丈夫?」

馬車が荷車へと代わった事に騒いでいたフィーロも、さすがに、親友の安否の方が気になる様子だ。

 「順調の様だな。」

尚文が言う。

 フィーロは、白く淡く輝くメルティに見とれているように見える。

 

 そのままホーリーウォールを10分程維持すると、メルティから呪いの気配が感じられないようになった。俺はウォールを解除する。

 メルティは穏やかに寝ている。

 

 

 それから、俺達はそれぞれの情報を交換した。

 俺は、フィーロとドラゴンを倒したことを話した。それから、懐へと抱えていたドラゴンの素材を尚文へと渡す。尚文は、それらを盾に吸わせた。

 

 尚文達は、リユート村に追手が来た時、村人の協力で脱出をしたらしい。その際、目立つ馬車を預かってもらい、尚文がパワーグローブで荷車を引いたらしい-なんで俺がフィーロの役目をと、尚文はしきりに愚痴った。

 

 そこでフィーロが再び、

 「フィーロの馬車ー」

と騒ぎ始めたが、事が終わったら、必ず村に回収に行くことを約束して、この場は何とか宥めた。

 

 程なくメルティが意識を取り戻した。さすがに疲労の色が濃いが、彼女は起き上がり、しっかりとした口調で言った。

 「盾の勇者様、皆様。この度は、私の命を助けていただいて、ありがとうございます。」

 

 尚文が言う。

 「病み上がりのところ悪いが、いくつか聞いていいか。」

 「どうぞ。」

 「お前を襲った騎士たちは、どこの所属の者なんだ。」

 「王直属の騎士団です。」

 

 「すると、お前を暗殺する指令を出したのは、王と言う事になるな。お前、実の父親から見捨てられたか。」

尚文が言うと、メルティは激しく動揺した。

 「そんな、そんなことない。そんなことないもん。父上はそんなことしないもん。私を、愛してるから。」

 「じゃあ、あいつらの行動を、どう説明付ける。」

 

 メルティはしばらく黙った。そして、ぽつりと言う。

 「…姉上かもしれない。」

 「じゃあ、王位継承権一位の座欲しさに、実の妹を暗殺しようとしたわけか。あのビッチなら、確かにやりかねないが。」

尚文が言う。

 「確かに姉は、自分の欲しいものを手に入れるためには、手段を選ばない人です。」

メルティはとても悲しそうだ。

 

 「みんな、ちょっとこれを見てくれ。」

俺は、あの時拾ったロザリオを床に置いた。

 「奴らの落とし物だ。」

 ラフタリアがいち早く反応し、手に取って眺めると、

 「三勇教の物ですね。」

と言った。

 

 そのロザリオを受け取って眺めながら、尚文が言う。

 「すると、勝彦が以前言った通り、俺たち盾の勇者パーティーの行動が、三勇教の教義を危うくしたため、奴らが俺たちを始末しにかかり、メルティはそれに利用されたと言う事か。」

 「それと、王と第一王女も、三勇教に踊らされているはずだ。」

俺は答える。

 

 メルティは訊いた。

 「それはどういう事です。カツヒコさん、あなたは何を知っているのですか。」

 俺が答える代わりに、尚文が答えた。出来損ないの預言者と言う言葉を使いながら、俺が原作知識を持ってこの世界に転移して来ている事を。

 

 「勝彦の知識が必ずしもこの世界に当てはまるとは限らないが、今回の件に関しては、ある程度当たっていると言えるだろう。それに、」

尚文は続ける。

 「勝彦の知識があったから、準備が出来、第二王女を暗殺から救う事が出来た。」

 

 「すると、貴方達は、今回の事を、知っていたというんですね。どうして教えてくれなかったんですか?」

 俺は答える。

 「信じたかね。」

 「え・・・」

 「今回の出来事を、事前に伝えて、果たして君は、俺の言う事を信じただろうか。」

 メルティは黙った。

 

 「その意味で、俺は出来損ないの預言者であるのは間違いない。俺の知識が証明されるのは、常に、事が起こった後だ。」

俺は続ける。

 「それに、俺の知識がすべて正しいとは限らない。例えば、俺の知識では、今回、メルティが魔法を受ける事は無かったし、リファナや俺はここにいなかった。この世界では、あやふやなものとしか言えないだろう。」

 

 「そうですか。」

メルティは考えている。

 

 

 それから、夕食の後、尚文とラフタリアとリファナは、近くの村々へ、様子を見に出かけた。逃げるにしろ、潜み続けるにしろ、情報収集は必要だからだ。

 ドラゴン退治で疲れ切った俺とフィーロ、そして、病み上がりのメルティはお留守番である。

 

 人形のフィーロとメルティは、お互いに寄りかかるようにして、水の入った樽にもたれて眠ってしまっている。まるで、仲の良い姉妹の様だ。フィーロの金髪に、メルティの青い髪が映えて美しい。フィーロは少しいびきをかいている。

 

 俺は、荷車の縁にもたれて、目をつむった。と同時に、残った魔力を辺りに漂わせる。これで、何者かが近づいたら、気配を察知できる。尤も、相手が魔力持ちなら、かえって怪しまれる危険性もあるが…。

 

 俺は、自分の魔力に意識の一端を留めながら、休息をとった。疲れているので、眠らないようにするのは、少し骨が折れたが…。

 

 そうして、2、3時間ほど経ったろうか、俺は、気配を感じた。自分で張り巡らした蜘蛛の糸に、獲物が掛かった感覚に近い。反応は二つ。

 俺は、目を開けた。辺りは、もう既に暗くなっている。耳を澄ますと、森に分け入る足音が聞こえる。

 

 俺は、そっと荷車から降りた。荷車は、最低限カモフラージュされているが、近づけば、そうと分かる。俺は、忍び足で、気配の元へと向かう。それは、尚文達のものではない事が、俺には分かった。接近する気配は、尚文達のように魔力を伴ってはいないからである。

 

 俺は立ち止った。気配からは20メートルと言ったところか。このまま通り過ぎてくれれば問題はないのだが、残念ながら、相手は近づいてくる。

 俺は覚悟を決めた。先制攻撃だ。

 

 「サイコウォールIV!」

精神攻撃で、相手の正気を奪う。間髪を入れずに、早口で、二度呪文をまくしたてる。

 「ロックアタック!」

 「ロックアタック!」

 

 一人が、叫び声を上げかけたが、脳天に直撃した石礫によって二人とも気絶してくれた。

 近づいて見てみると、案の定兵士達である。リユート村周辺を、探索していたのだろう。さて、こいつらをどうしよう。

 

 俺は、荷車へ戻ると、フィーロを揺り起こした。不本意だが、ついでにメルティも起きてしまう。

 「フィーロ、まだ眠ーい。」

と、フィーロはぐずったが、事情を話すと、二人の兵士を担いで、少し離れた街道の脇に捨てて来ることに同意してくれた。

 

 フィーロが魔物姿になり、荷車を出る。

 「他の奴らに見つかるなよー。」

 「フィーロちゃん、気を付けて。」

俺とメルティが声を掛ける中、フィーロが闇に紛れて見えなくなる。

 

 「見張りをしてくれていたのね、ありがとう。」

メルティがお礼を言ってくる。そして、少し怪訝な顔をして、

 「この魔力は…」

俺は答える。

 「俺の魔力を放出して、辺りの気配を探っていたんだ。」

 「ふーん。そういう事も出来るのね。」

メルティが感心する。

 

 「それにしても、困った。」

俺が言う。

 「彼らから、ここの場所が漏れるっていう事?」

とメルティ。

 「いや、狂気状態にしておいたから、状態異常が解かれるまでは、彼らの口からここが分かる事は無い。」

俺は腕を組む。

 「問題は、彼らが帰らない事で、新たな捜索隊が派遣される事さ。」

 

 「と言う事は…。」

 「うん、ここにとどまれる時間は、あまりないと言う事だ。」

メルティが不安な顔を見せる。

 「まあ、3、4人なら、魔法で片づけてしまうがね。」

俺は、励ますように言った。

 「尤も、尚文達が帰って来てからの話だが。」

 

 その尚文達が帰って来たのは、フィーロが戻って来てから30分ほど経ってからだった。

 

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