俺は、尚文に、兵士を始末したことを報告する。尚文は、渋い顔になった。が、少し思案して、皆で話し合いをしようと言った。それぞれ得た情報のすり合わせと、これからの行動を決めるのだ。
「勝彦、万一敵が来たら、その時は頼む。」
尚文の要請に、俺は承諾する。4、5人なら、精神魔法で無力化できるだろう。
各自、聞き込みをして得られた情報は、以下のようなものであった。
各村には、御触れが出され、俺たちの人相書きが張り出されていた。リファナがその一枚を剝がして持って来たが、皆が、禍々しく悪人に描かれている。魔物姿のフィーロなど、牙を剝き出した猛禽類のような感じで描かれている。その中で、尚文だけが妙に本人の雰囲気を再現されていたのは内緒だ。
その罪状は、メルティ第二王女暗殺犯だ。奴らは、メルティが命を取り留めたことを知らないらしい。
これは、後で使える材料だ。勇者や、責任ある立場の者が追撃して来た時に、生きているメルティを示して、冤罪は無実だと説得するのだ。
村人は、半信半疑と言ったところだが、今後村へ立ち寄ったり、村で物資を補給することは、難しくなりそうだ。
もう一つは、兵士のほとんどが北へ配備についていると言う事だ。これは、亜人の国シルトベルトへ俺たちが亡命するのを防ぐ意味合いらしい。奴ら、よほど亜人と盾の繋がりが怖いと見える。まあ、昔は戦争をやっていた敵国だったそうなので、無理もないかもしれない。
情報が出揃ったところで、地図を開いて尚文がメルティに訊く。
「女王がいた国はいったいどこなんだ?」
「今もいるかどうかは分からないけれども…」
そう言いながら、メルティは地図のある国を指さす。
「私がメルロマルクへ向かった時は、母上はこの国に居たわ。」
そこは、シルトベルトの近くの北方の国だった。俺の記憶と違う。
尚文は、少し考えて言った。
「それでは、シルトベルトへ出国し、そこからその国へ向かうとしよう。奴らがあれだけの警備を布くと言う事は、それだけやつらにとって都合が悪く、俺たちにとって好都合なはずだ。」
そうして、俺を見て、言を続ける。
「勝彦の記憶とは違うようだが、ここは、メルティの言葉に従うべきだろう。」
言外に、尚文の声が聞こえたような気がした。『ここは、アニメの世界では無いんだからな。』
「でも、実際に、警備を突破するには、どうするんですか?」
とリファナ。
「うん、だが、その前に、フィーロが目立ちすぎるという問題がある。」
尚文が言う。
確かに、フィーロは目立つ。‘神鳥の聖人’の目印になっている位だ。とはいえ、フィーロの速度は逃亡には必要不可欠だ。フィーロに荷車を曳いてもらわなければ、逃避行自体が成り立たない。
皆が考え込む中、当のフィーロが発言する。
「フィーロが目立つと困るの?だったら、フィーロ、がんばる。」
そうして、荷車を飛び出すと、魔物姿に変身する。いつもの、ずんぐりむっくりの巨大なフクロウのような姿だ。が、それが光に包まれ、変形する。首が伸び、足が伸び、大きさこそ巨大だが、普通のフィロリアルのような姿になった。
「フィーロちゃん、すごーい。」
とメルティ。それに答えるように、
「グワグワ」
とフィーロが鳴く。
尚文が、半ば驚き、感心しながら、
「うん、これなら、何とかごまかせそうだ。それにしても…」
少し面白がるような表情を見せ、
「お前、その姿では、しゃべれないんだな。」
「グワグワ」
フィーロが、抗議するように鳴く。
「そいつはいい。お前、ずっとその姿でいろ。」
「グワグワ」
「ナオフミ様…。少し、フィーロが可哀想です。」
ラフタリアが、たしなめるように言う。
「よし、準備をして、出発しよう。国境付近に着いたら、徒歩で山中を突破する。追手に捕まらないように、小さな街道を、出来るだけ早く駆け抜けるんだ。」
尚文の一言で、目的地は決まった。フィーロは不満げだったが、皆でてきぱきと準備をし、10分程で荷車を街道に出し、月明りの下、出発をした。
それから、朝早くから、夜遅くまで、小さな目立たない街道を、フィーロは駆けに駆けた。
速度には、とても気を使った。フィーロの最高速だと目立つし、体調が本調子ではないメルティには耐えられない。かと言って、あまり遅くする訳にもいかない。
食事は、時折現れる魔物を倒し、その肉と、小休止の時に、薬草と山菜を摘んだ。粗末なものと言えたが、尚文という究極のシェフが居るので、味は極上で、強行軍の割には皆の士気はかなり高い水準を維持していた。
敵の予想速度を上回っているのか、追っ手は影も形もなかった。そうして、数日間は順調に逃避行を続けたが、それにも限界が来る。
街道に検問が張られるようになり、しばしば迂回を余儀なくされるようになって来た。それでも何とか進んだが、しまいには、どの道も検問で塞がれる事になってしまった。
尚文は、変装で誤魔化し、突破しようと言ったのだが、俺は反対した。理由は、尚文の盾だ。ほとんど忘れてしまったが、原作に、魔法で正体がばれる描写があったような気がする。
さらに、その際、女性陣には村娘の格好をさせる事になるが、ばれて逃げる際は、ラフタリアの防具を置いていく事になる。それは避けたい。
結局、俺の意見が通り、少し予定よりは早いが、山中を徒歩で突破する事になった。
当然、荷車は森の中に置いていく。フィーロが文句を言ったが、リユート村に置いて来た馬車の存在を思い出させ、何とか宥める。
山道ーと言うか、けもの道に近いものもあったがーは歩くのに骨が折れたが、毎日の
それよりも、心配はメルティで、皆で気を使ったが、結局はこまめに休息を取らなければならなかった。
当然、逃走速度は落ちる。
何度か、村人と遭遇し、肝を冷やしたが、幸い、皆‘神鳥の聖人’を知っている者ばかりで、兵士の配備状況の情報をくれたり、抜け道を教えてくれたり、宝石と引き換えに食料を分けてくれたりした。
それでも、ちらほらと兵士の気配を感じるようになり、何度も道を変えなければ進めないようになって来た。