転生引きこもりは狸娘の夢を見る   作:マーカス・クラン

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第34話 勇者達との対峙

 「いたぞ!」

 「向こうへ逃げたぞ!」

怒声が飛び交う中、俺たちは、メルティをかばいつつ、逃げる。

 

 夕闇の中、とうとう兵士たちに見つかってしまったのだ。

 

 しかし、奮闘空しく、崖っぷちに追い詰められてしまった。下を見ると、道らしきものが見える。フィーロや、俺のジャンプの魔法ならば、飛び越えられそうだ。

 

 リファナが変身して、獣人姿になる。フィーロも変身して、魔物姿になる。尚文がメルティをかばって盾を構え、ラフタリアが抜剣する。皆戦闘態勢を取りながら、逃げ出す隙を窺った。

 

 追っ手の中から、弓の勇者が進み出る。後ろに、剣の勇者や槍の勇者も居る様だ。厄介である。

 

 弓の勇者こと川澄樹君が言う。

 「尚文さん、貴方は、王女暗殺という大罪を犯し、勇者の名を汚す外道へと成り下がったようですね。もう逃げられませんよ。おとなしく投降し、正義の裁きを受けなさい。」

目が座っている。これは、説得するのには、骨が折れそうだ。こういう輩には、証拠を見せるしかない。

 

 尚文が言う。

 「俺たちは、王女を暗殺などしていない。それはデマだ。この通り、第二王女は無事だ。」

言いながら、メルティをそっと前に出す。メルティも言う。

 「弓の勇者様、どうか怒りを鎮めて下さい。この通り、私は無事です。盾の勇者様が、お守り下さったのです。」

 

 さらに続けてメルティが言う。

 「この事件の裏には、大きな陰謀があります。盾の勇者様が私を暗殺して、何の得があるのでしょう。これは、勇者を仲違いさせようとする罠です。女王様はおしゃっていました。今は、皆一致団結して、災いを退ける時だと。争っている余裕は、この世にはないのです。どうか、武器をお収め下さい。」

 

 「こいつの言う通り、これは陰謀だ。これから、俺たちが知っている事を話す。だから…」

尚文の言を、一番厄介な奴が遮った。

 「耳を傾けてはなりません。盾の悪魔は、洗脳の盾を持っています。」

第一王女マルティだ。そうして、彼女は尚文の後ろのメルティを見やる。

 

 「ああ、可愛いメルティ、貴方が無事で良かったわ。」

その顔は、何処から見ても、妹を心配する姉の慈愛に満ちた笑顔だ。しかし、その内面は違う。

 「でも、どうやら、既に、盾の悪魔に洗脳されてしまったようね!」

そうして、兵士達の方へ向くと、

 「あの忌々しい盾は、話をするだけで、人を洗脳する力を持つのです。」

 

 槍の勇者こと北村元康君が呟く。

 「そうか、それで、フィーロちゃんやラフタリアちゃんも、尚文に洗脳されているのか。」

 

 「そんなバカな話がある訳ないでしょう。私達は、洗脳なんかされていません!」

ラフタリアが言う。

 

 一方、マルティは、俺たちの所業(?)をとうとうと話す。即ち、神鳥の聖人と名乗り、人々を洗脳して回り、盾の悪魔を崇拝する邪教をまとめ上げたと。

 言いがかりも甚だしい。洗脳云々は論外としても、第一、尚文が自ら聖人と名乗ったことは一度もない。民衆が、勝手に呼んだ結果である。

 

 半分呆れた尚文が言う。

 「俺の盾には、洗脳の力なんぞはない。そもそも、そんな力があるなら、こんな事態には陥っていない。その力で、国盗りでもしているぞ。」

 

 「だが、無いとも言い切れない。」

剣の勇者こと天木錬君が言った。

 「俺たちを納得する根拠を示せるか?」

更に続ける。

 「尚文、第二王女を、一旦こっちに引き渡してくれ。絶対に、危害を加えないと保証する。」

 

 「確かに、争わずに済むのなら、それがいいのかもしれない。」

尚文が言う。メルティの顔色が変わる。俺は口を開いた。

 「第二王女を渡すには、条件がある。そこにいる第一王女に触れさせないことだ。」

 

 マルティが激高する。

 「何を言っているの!私が、メルティに何かするっていうの?!」

俺は答える。

 「その通りだ。第一継承権欲しさに、妹を亡き者にしようとする姉なんぞ、信じられるか。大方、メルティ王女を殺そうとした兵士達も、お前の差し金だろうが。」

 

 「そ、そんなの言いがかりだわ。大事な妹に、そんな事をする訳ないじゃない。」

マルティは否定するが、内面の動揺が言葉にも出ているようだ。尤も、あらぬ事を言われ、激高して言葉に詰まったようにも見えない事もない。

 「そうだ、マインはそんな事はしない。俺には分かる。」

元康君が言う。樹君も同意する。一方、錬君は黙っている。

 

 「尚文、争いたくないのであれば、メルティちゃんをこっちへ渡すんだ。」

元康君が言う。

 「そうよメルティ、こっちへ来なさい。それがこの場を収める、最善の方法よ。」

マルティが誘うように、最上の微笑みを浮かべて手を伸ばす。

 

 しかし、メルティが尚文の手を握り締めて囁いた。

 「ダメ、行けば、殺される。…助けて!」

尚文が、いまにも消え入りそうなその声を聞き、彼女の表情を見やる。そうして、意を決するようにして言った。

 

 「錬、お前の申し出はありがたいが、第二王女は渡せない。どうせ、洗脳を解くとか何とか理由をつけて、その女は第二王女をお前達から遠ざけるだろう。そうして、洗脳を解くのに失敗し、第二王女は死ぬという算段だ。」

尚文は、ラフタリアと俺に目配せをする。ラフタリアは、フィーロに耳打ちをした。そうして、尚文はメルティに囁く。

 「助けるって、約束したからな。」

メルティの表情が明るくなる。

 

 「フィーロ!勝彦!」

尚文の叫びを合図に、俺達は行動を起こした。俺はリファナを抱えた。驚く彼女に、俺は囁く。

 「パーティーの中で、お前が一番軽いからな。」

そのままジャンプの魔法を発動させ、崖から飛び降りる。

 

 一方のフィーロは、尚文、ラフタリア、メルティの3人を背に乗せると、尚文が出したエアストシールドを足場にして、兵士達を翻弄し、ジャンプした。そうして、羽を広げて崖から飛び降りようとした。

 

 「させるかぁ!」

元康君の声に見上げると、彼の投げた何かが、フィーロの足に絡み付くのが見えた。すると、フィーロの変身が解け、彼女は崖の上に落ちた。他の3人は、投げ出されて、崖下へと落ちる。

 

 俺は着地すると、咄嗟にサンドウォールを唱えた。現れた砂壁に3人は落ちる。多分、怪我は無いはずだ。

 

 元康君の有頂天の声が聞こえる。

 「フィーロちゃんがずっと天使の姿でいられるように、城の錬金術師に作ってもらったんだ。」

 「何、これ、取れない!力も出ない!」

 「フィーロちゃーん!」

人形に戻ったフィーロに擦り寄って行く元康君が見える。

 

 と、空に花火のような光の塊が打ち上がり、はじけた。

 「増援を呼んだわ。もう、逃げ場はありませんわ!」

魔法を放ったマルティが言う。錬君と樹君も崖から降りて来た。

 

 崖の上では、元康君にしがみつかれたフィーロがもがいている。

 「来ないでぇ~!放してぇ~!」

 

 フィーロの危機に、メルティがいきり立つ。しばし詠唱すると、魔法を放った。

 「ツヴァイト・アクアスラッシュ!」

 水の刃が元康君をかすめ、延長線上にある立木の枝を切断した。

 「次は当てます!フィーロちゃんを放しなさい!」

荒い息をしながらメルティは言った。

 

 元康君がフィーロから離れたのを見計らって、俺はジャンプの魔法で跳び上がった。そうして、フィーロを見下ろす。

 すると、フィーロの足に足枷の様な物がはまっているのが見えた。俺は、アンロックの魔法を唱えた。結構、魔力が減ったのを感じる。フィーロの変身能力を抑える位なのだから、優秀な魔道具なのだろう。その解錠の代償の魔力消費だ。

 

 俺は思いっきり叫んだ。

 「フィーロ、足枷のロックは外した。落ち着いて、ゆっくりと外すんだ!」

とたんに、俺の左脇を矢が掠め、脇腹が痛んだ。多分、着ている上級ローブが矢を弾いたが、衝撃は吸収し切れ無かったんだろう。攻撃したのは一般の弓兵のようだ。いい腕である。それでも、弓の勇者でなかったのは幸いだった。

 

 俺が着地すると、メルティをマルティが火魔法で攻撃し、尚文がそれを防いでいた。

 樹君が慌てた様子でそれを咎める。

 「止めるんだ、マインさん。」

第一王女は答える。

 「先に攻撃して来たのはあちらです。洗脳が解けないのなら、殺すしかないわ!」

そうして魔力水をあおると、殺意丸出しで再び魔法を放った。もちろん、尚文の盾はそれを防ぐ。

 錬君が叫ぶ。

 「止めろ!妹を殺す気か!」

 

 自分の魔法では盾の防御を突破出来ないと悟ると、マルティは兵士に攻撃するように命令を下した。

 崖の上にずらりと兵士と魔法使いが並ぶと、戦闘態勢を取る。

 その数に、尚文は、盾を憤怒の盾に変えて応戦する。矢と魔法がわらわらと飛んでくるが、尚文の防御を抜く事はない。

 

 俺は、崖の上の兵士たちに重ねて、サイコウォールIIIを立てた。整列しているので、一網打尽である。兵士たちの半分以上は狂気状態に陥り、戦闘どころではなくなる。

 

 その時、元康君の悲鳴が上がった。同時に、彼の姿が上空高く舞い上がった。良く見ると、股間を押さえている。多分、足枷を外したフィーロの仕業だろう。また潰れたな。ご愁傷様。

 

 魔物姿のフィーロは右往左往している兵士を蹴散らすと、崖から飛び降りて来た。

 

 その時、憤怒の盾が爆発した。いや、多分、盾に付けられたままだった、武器屋がくれたアクセサリーだ。憤怒の盾のエネルギーを吸収した結果なのだろうか。

 辺りは砂埃に包まれた。

 

 「皆無事か!」

尚文が叫ぶ。ラフタリア、リファナ、メルティが尚文に駆け寄り、触れる。

 「無事だ。」

 俺は返事をする。

 「はーい。」

 フィーロがいつの間にか傍に寄って来ている。

 

 視界が晴れると、俺達と追っ手の間の道は、きれいさっぱり吹き飛ばされていた。飛び越えるには、フィーロか魔法以外では、多分難しいだろう。

 

 対岸の錬君に、尚文は呼び掛ける。

 「錬、この事件の裏に何があるのか、お前なら理解出来る筈だ。」

そう言って、ロザリオを投げる。いつかメルティを襲った兵士が落としていった、三勇教の印だ。錬君はそれを拾う。

 

 俺達は踵を返した。

 「待て、尚文!」

錬君が叫ぶ。尚文は答えない。

 フィーロは尚文、ラフタリア、メルティを乗せ、駆け出した。俺はリファナを抱えてフィーロを追った。

 

 

 しばらく駆けた後、適当な野原で休憩を取る。ほとんど、俺のためである。魔力も消費しているし、唯一負傷もしている。

 怪我は大した事はなく、尚文のヒール一発で治った。魔力消費も、水を飲んだりして、息を整えているうちに、回復していく。

 

 「誰!」

魔法の角笛で見張りをしていたリファナが反応する。皆が緊張し、ラフタリアが抜剣する。

 と、近くの茂みが揺れ、そこから妙な格好の黒ずくめの女が現れた。覆面で顔を隠している。雰囲気は、忍者のそれに近い。

 

 皆が警戒する中、女が言葉を発する。

 「盾の勇者殿、お初にお目にかかるでごじゃる。」

 「近づくな!お前は何だ。」

尚文の鋭い声が飛ぶ。

 

 すると、メルティが表情を和らげて言う。

 「盾の勇者、彼女は味方よ。女王直轄の特殊部隊、‘影’の一員よ。私の護衛をしているの。」

尚文が白けた顔で言う。

 「護衛?大した護衛だな。今まで、第二王女が危なかった時も、出てくる気配さえ無かったくせに。」

 

 「それは、盾の勇者を信頼していたからでごじゃる。」

感情を見せない言葉で影が答える。

 リファナが言う。

 「ひょっとして、リユート村近くの森で、毒消し草を集めてくれていたのは貴方?」

 「そうでごじゃる。」

 

 「そんなことがあったのか。」

と尚文。

 「毒消し草がまとまっていたから、おかしいなと思ったけれど、急いでいたから言わなかったの。」

リファナが答える。

 

 「ふうん、一応仕事はしていたようだな。で、俺たちに何の用だ。」

尚文の言に、影はゆっくりと近づいて言う。

 「盾の勇者には、女王様に拝謁して欲しいでごじゃる。」

 「俺たちは、もとよりそのつもりだが。」

尚文は答える。

 「それにしては、盾の勇者一行は逆方向に行っているようでごじゃる。」

 影はそう言って、地図を出すように促す。

 

 「女王様は、いまこの国に居るでごじゃる。」

彼女が示したのは、南、シルトベルトとは反対方向の国だった。俺の記憶とも合う。

 「メルティが出国してから移動したって事か。それにしても、あちこち飛び回っているんだな。」

尚文が言う。

 「女王様は、世界の問題を解決すべく、外交に、諸国を駆け回っているのでごじゃる。それで、盾の勇者にも、助力を頼みたいのでごじゃる。」

 「助力はこっちも欲しいんだがな。」

影の言に、尚文が言う。

 

 「とにかく、女王に会うのは異論はない。こちらも、助けてほしいからな。」

 「それは、喜ばしいことでごじゃる。それと…」

何かが入った袋を差し出す。

 「食料などの補給でごじゃる。」

 「それはありがたい。」

尚文は受け取る。

 

 「影は女王側だけでなく、教会側の影もいるでごじゃる。十分気を付けるように…。」

不穏な言葉を残して、影は去って行った。

 

 早速地図を広げ、行き先を検討する。尚文が目的地を指さし、メルティに聞く。

 「第二王女、この国を知っているか?」

メルティは黙って首を振る。その顔色は優れない。

 

 「それにしても、第二王女、お前、魔法が使えるんだな。」

尚文の問いに、メルティは絞り出すように言う。

 「…って言わないで。」

 「なんだ?」

尚文が聞き返すと、感情を爆発させるようにメルティが言った。

 「第二王女って呼ばないで!私にはメルティって名前があるの。私だけ、仲間外れは嫌!」

 

 突然の、駄々っ子のようなセリフに、尚文は半ば呆れて返す。

 「お前だって、俺の事を盾の勇者と呼ぶじゃないか。」

 「だったら、これから、貴方をナオフミって呼ぶわ。いいわね。」

 

 「呼び捨て…。」

ラフタリアが反応する。

 

 「わかった、第二王女。」

尚文が返すと、メルティが睨み付ける。

 「メルティ、これでいいか。」

 「もう一回。」

メルティが突き放すように言う。が、その言葉の裏にあるのは、幼子の様な甘えだ。

 「もう一回呼んで。」

 「わかったよ、メルティ。」

 「分かればいいのよ、ナオフミ。」

ようやくメルティの機嫌が直る。

 

 と、ラフタリアが何かに反応する。

 「リファナちゃん、これ…。」

 「ラフタリアちゃん、向こう。」

リファナが俺たちが逃げてきた方を指さす。彼女たちは鼻が利く。

 「ごしゅじんさまー、森が燃えているよ。」

フィーロが言った。

 

 大方、あの第一王女の仕業だろう。俺達をいぶりだすのが目的か、それとも、放火を俺たちの悪行に加えるのか…。

 いずれにせよ、ここに留まるのは得策じゃない。俺たちは出発をした。

 

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