転生引きこもりは狸娘の夢を見る   作:マーカス・クラン

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第35話 遭遇戦

 隠蔽魔法をかけ、透明化の外套を羽織り、魔法の角笛を持ったリファナを斥候にして、俺たちは、森の中を早足で移動していた。木々の密度が増し、魔物姿のフィーロに乗っての移動が難しくなって来たからだ。

 

 そうなると、歩調はメルティに合わせることになる。彼女には尚文が支えるように付き添っていた。その左右前方には、人形のフィーロとラフタリアが辺りをうかがう。俺は殿で、万一の追っ手を警戒していた。

 

 「なおふみ様、前方から数人の集団が向かって来ます。」

唐突に、リファナの声がする。見ると、藪の上に、リファナの生首が浮いているように見えた。隠蔽魔法は解除したのだろうが、透明化の外套をかぶっているせいだ。報告に、引き返してきたのだろう。

 

 「追っ手か?」

尚文が言う。

 「第一王女が呼んだ増援だろうな。」

俺は答えた。さらに続ける。

 「数人なら、雇われ冒険者の可能性が高い。迎え撃って、突破する手もあるが。」

 

 尚文は、少し考えると言った。

 「いや、余計な戦闘は避けたい。隠れてやり過ごそう。」

そうして、リファナに問う。

 「奴らは、どれくらいで来る?」

 「5分位だと思います。」

リファナは答える。尚文は、辺りを見回しながら、

 「まだ魔力は持つか?」

 「はい、大丈夫です。」

 「それなら、ラフタリアと協力して、隠蔽魔法でみんなを隠してくれ。あっちの薮に隠れよう。」

と言った。

 

 皆でわらわらと薮へと飛び込む。すかさず、リファナとラフタリアが隠蔽魔法をかけた。じっとして動かなければ、そう見つかることはないだろう。虫が若干気になるのが問題であるが。メルティも渋い顔をしている。

 

 そうして、息を殺すこと数分、彼らがやって来た。

 リーダーは、いかつい大男で、大きな斧を担いでいる。他は、戦士風の女の子、スカウトと思しき女の子、ローブを纏った女の子と、女ばかりだ。尤も、此方も大差ないハーレムパーティーと言えるが。

 

 ローブの娘が何やら魔道具の様な物を掲げ、ぶつぶつと唱えている。そうして、此方を指さし、言った。

 「キイチロウ様、あそこに潜んでいます。」

すると、大男が、腰に差していた手斧をこちらに投げた。

 「隠れてるんじゃねーよ、盾の悪魔さんよ!」

 

 「エアストシールド!」

現れた光の盾が、手斧を弾いた。皆、藪から飛び出す。大男が、斧を振りかぶって突っ込んで来た。俺は魔法を放つ。

 「サンダーアタックIX!」

大男が閃光に包まれる。が、驚いたことに、大男はひるんだ様子も見せず、尚文に向かって斧を振り下ろす。尚文は、斧を、盾と右手でがっちりと受けた。

 

 「なぜ俺たちが隠れていることが分かった?」

尚文は、大男を睨み付けながら言った。大男は答える。

 「お前の盾は目立つんだよ!」

横合いからフィーロが攻撃しているが、大して効いていないようだ。ラフタリアはメルティを守っている。リファナは姿が見えない。

 

 俺は相手に魔法使いが居ることを思い出した。気配を探る。左前方に、誰かと一緒にいる。多分護衛の戦士か。

 「サイコブラストIV!」

俺は魔法を放ったが、相手も詠唱を終えていた。

 「アル・ファスト・スリープ!」

 

 スリープ。眠り、だと!とたんに強烈な眠気が襲って来た。意識が飛び、ぐらりと倒れそうになる。が、俺は何とか踏みとどまった。どうやら、魔法のレジストに成功したようだ。

 

 しかし、ラフタリアとメルティは、折り重なるように倒れた。フィーロも大男の傍で昏倒している。尚文は大男を押さえたままだ。魔法抵抗力が高いのは、さすが勇者様である。

 大男が、左手で腰の斧を引き抜き、フィーロへと振り下ろす。

 「エアストシールド!」

 「ロックウォールIII!」

俺と尚文の魔法が重なった。二つの魔法が大男の攻撃を防ぐ。

 

 「マインドアシスト!」

俺はフィーロを魔法で起こす。

 「マインドアシスト!」

 「マインドアシスト!」

ラフタリアとメルティも同様だ。

 

 俺は、詠唱の気配を察知した。敵の魔法使いは、まだ魔力を残しているらしい。俺は魔法を放つ。

 「ロックブラストIV!」

魔法は狙い違わず炸裂し、破片が飛び散ると共に、血飛沫が舞うのが見えた。おそらく、魔法使いと戦士を仕留めたであろう。

 

 そこに、茂みから、眠っているリファナを抱え、ナイフを突きつけた敵のスカウトが現れるのが見えた。

 「アイスウォールIII!」

俺は反射的に魔法を放ち、両者を氷壁に閉じ込める。

 

 「リファナちゃん!」

ラフタリアが叫び、隠蔽魔法で身を隠しながら突進する。

 「ファイヤーレーザーIII!」

俺は、敵のスカウトの利き腕を狙った。氷の中で、血が噴き出し、相手の腕が切断された。

 

 俺がウォールを解除すると、ラフタリアが倒れるリファナを受け止めた。敵スカウトが傷口を抑えて転げまわる。俺は、マインドアシストでリファナを起こした。

 

 一方、大男との戦いも、此方へ有利になっていた。メルティが加わり、魔法攻撃を加えているからだ。フィーロも、パワーグローブでの攻撃があまり効かないのを悟ると、魔法攻撃に切り替えた。

「ツヴァイト・アクアスラッシュ!」

「ツヴァイト・トルネード!」

尚文に押さえられて、ろくに動けないまま、水刃に体を裂かれ、竜巻による真空に皮膚を切り裂かれて、大男は傷だらけになって行く。

 

 ラフタリアの腕の中で目覚めたリファナが辺りを見回し、角笛を耳に当てた。そして、叫ぶ。

 「なおふみ様、新手が来ます!多分、2パーティー。」

 

 それを聞いた尚文は言う。

 「みんな!逃げるぞ!」

そうして大男を放し、エアストシールドで跳ね飛ばした。フィーロが追撃で蹴りを入れ、大男は吹っ飛ぶ。

 

 俺は、フィーロが戻ってくるのを確認すると、大男の体をウォーターウォールIXで包んだ。さらに魔法を放つ。

 「ファイヤーブラストIX!」

火の爆発を食らった水壁は、大きな音を立ててはじけた。水蒸気爆発だ。辺り一面が霧に覆われる。

 

 魔物姿になったフィーロに、尚文、ラフタリア、メルティが乗る。俺はリファナを抱えた。

 フィーロはその図体に似合わぬ器用さで、木々の間をすり抜けて行く。俺は、ジャンプの魔法でそれを追った。

 

 

 夜の帳が落ちる中、俺たちは、元来た道を引き返す形で逃げた。確かに、後ろから追っ手が迫り来る気配がする。

 しかし、眼前にも脅威が迫る。森が、燃えているのだ。第一王女の放火の仕業である。

 

 「くそっ!」

尚文が毒づく。

 「仕方ない。山を下りて街道へ出るぞ!」

 

 俺は考えた。やれるか?理論上は大丈夫なはずだが、危険は伴う。尤も、街道へ出ても、兵士と冒険者パーティーの挟み撃ちに会うだけである。

 俺は、意を決して言った。

 「尚文、森に入ろう。このまま街道に逃げても、挟み撃ちに会うだけだ。」

 尚文が驚いて言う。

 「しかし、火にまかれるぞ。」

俺は答える。

 「そう見せかけるんだ。実際には、火事の中に空間を作って、そこに潜む。」

 

 「少し、危険だと思うわ。」

リファナが難色を示す。

 「でも、このまま逃げても、敵に囲まれてしまいます。」

とラフタリア。

 「フィーロ、焼き鳥になりたくない。」

 「うまく行けば、敵をやり過ごす事が出来ると思うわ。」

フィーロに寄り添いながら、メルティが言う。

 

 尚文は、少し考えて、俺の目を見た。そして言った。

 「やれるんだな、勝彦。」

 「ああ、勝算はある。少し、しんどいと思うが。」

俺も尚文の目を見て答える。

 「分かった。火の中で、敵をやり過ごそう。」

尚文は言った。

 

 それから、俺とメルティの魔法で皆の体を濡らした。そうして、鼻と口を布で覆い、姿勢を低くしながら、俺たちは、山火事の中へと分け入った。

 

 まだ、森の上の方、梢近くの枝が燃えている段階だが、それでも熱気は伝わってくる。パチパチという音と共に、焦げ臭いニオイと薄い煙が辺りを漂う。

 

 俺たちは、奥へと向かった。それにつれ、火が下に降り、煙が濃くなって、目や鼻の粘膜を刺激した。熱気を伴う空気が、喉を焼くような錯覚を起こさせる。

 上を見ると、炎が渦を巻いて天に昇っていた。その美しい光景と反対に、俺たちは、地獄の中心へと向かっていた。

 

 火の粉が上から落ちてきて、俺たちに降り注ぐ。フィーロが熱がって飛び跳ねる。俺は、ウォータークラウドを唱えて、パーティーの水分を補給した。が、それもすぐ乾いていく。

 

 ゴーゴーと音を立て渦巻きながら、森が炎を纏って燃えている。

 進むのが、困難になって来ていた。上からは、火の粉だけでなく、火のついた木片が降って来ている。

 

 ラフタリアとリファナは、しきりと咳をしていた。他の者も、少ない酸素を取り入れようと、あえぐような、咳交じりの呼吸をしていた。もう、限界が近い。

 

 「みんな!出来るだけ固まってくれ!」

俺は叫んだ。

 皆が、尚文に抱き着く形で纏まった。俺は、魔法を放つ。

 「ロックストームIX!」

目を大きめに取り、被害半径は20メートルほどに設定する。大き目の石礫が木をなぎ倒し、払い、火の海の中に円形の空間を作った。

 

 「ウィンドストーム!」

更に竜巻を起こし、換気を行う。上昇気流が、地面付近の新鮮な空気を吸い上げる。

 

 「アイスウォール!」

 「アイスウォール!」

 「アイスウォール!」

 「アイスウォール!」

四方に氷壁を配置し、輻射熱を防ぐ。

 

 俺たちは、ようやく人心地付いた。後は、周りの火勢が衰えるのを待つだけである。

 

 「これで何とかなるだろう。」

俺は、氷壁維持のため、精神を集中しながら言った。

 「後は、敵があきらめてくれるのを祈るのみ…か。」

と尚文。

 「でも、空からだと丸見えですね。」

とリファナが言う。」

 「大丈夫よ、飛行魔法なんて稀有な魔法の持ち主、メルロマルクにはそうはいないわ。」

メルティが安心させるように言う。

 

 それから、火勢が衰えるまでの数時間、俺は氷壁維持に専念した。換気は、フィーロのトルネードの魔法で行ってもらった。

 皆は交代で休んだが、無論俺は一睡も出来なかった。

 

 移動出来る位まで、火事が収まった頃には、白々と夜が明けていた。

 さすがに俺はヘロヘロになっていた。尚文に支えられるようにして、移動する。

 

 山を下りて行くと、数人の兵士と遭遇した。俺たちの死体でも捜索に来たのだろう。

 

 俺は、力を振り絞るようにして、魔法を放つ。

 「サイコストームIV!」

同時に、フィーロ、リファナ、ラフタリアが飛び出し、兵士達を気絶させる。

 兵士たちは、うまく狂気状態になっていたので、目を覚ましても、俺たちの事は証言出来ないはずだ。尤も、彼らの状態で、俺たちの存在は気付かれてしまうだろうが。

 

 こうして俺たちは、なんとか無事に山を下りた。

 

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