俺たちは、林の中に隠れて、辺りを窺っていた。
向こうには畑があって、早朝から、亜人の農夫が農作業を行っていた。その様子を見ながら、ラフタリアが口を開く。
「この辺は、亜人の皆さんが多いようですね。」
「それはともかく、勝彦を休ませなきゃならないな。」
俺を半分抱えて、尚文が言う。
確かに俺はバテバテだ。魔力は回復しかけているが、長時間の精神集中で、気力が枯渇している。おまけに、完徹ですごく眠い。
「そうだわ、ここって…」
メルティが何やらつぶやく。そうして、尚文に向き直ると、続けて言う。
「この近くで、知り合いの貴族が領主をしているの。かくまってもらえると思うわ。」
「貴族だと…」
「そう。今は亜人が奴隷のように扱われているけど、昔、人間と亜人の懸け橋になろうとした、貴族たちが居たの。その貴族のリーダーが立派な方で、セーアエット領の領主だったんだけど。」
ラフタリアとリファナが反応する。メルティは続ける。
「その方が最初の波で亡くなってしまってから、同じ志を持つ貴族は、父上によって辺境に追いやられてしまったの。」
「あいつの亜人嫌いも、相当なもんだな。どうした、ラフタリア?」
ラフタリアとリファナが沈んでいるので、尚文は問う。
「私たちが住んでいた村は、セーアエットの保護区にありました。」
ラフタリアの答えに、メルティは驚く。
「波の後、セーアエットは暴徒に襲撃を受けたって…。」
「そうですね…。私たちの村を襲ったのは、暴徒と化したこの国の兵士達でした。」
「それで、私たちは奴隷狩りに会い、捕まってしまったんです。」
とリファナ。
「この国の奴らは、碌なことをしないな。」
と尚文が言う。メルティが沈んだ顔で言った。
「ごめんなさい。」
「なにも、メルティちゃんが悪いわけではないですよ。」
とラフタリア。
「いいえ、私たちは王族として、きっと何かできたはずなのに、何もしなかった。ラフタリアさん、リファナさん、その時の兵士の特徴を教えて。事が済んだら、私がその兵士たちを罰します。」
ラフタリアは少し考えて、
「はい。」
と含めるように返事をした。そんな事は難しい事は、彼女にも分かっているのだろう。ラフタリアの返事は、メルティの厚意への感謝である。
「で、お前の知り合いの貴族が、この辺に居るのだろう。問題は、そいつが信用出来る奴かどうかだが…」
「まさにその通りですね。」
尚文の言に重なって、すぐ後ろで声がした。見ると、眼鏡を掛けた優男が、いつの間に立っていた。皆が警戒する中、メルティが前に出て言う。
「お久しぶりです、ライヒノット。」
「ようこそお越し下さりました、メルティ様。」
そして、皆に視線を向けると、
「初めまして、私はこの地の領主、ヴァン・ライヒノットと申します。」
と言った。
「立ち話もなんですので、私の屋敷で話しませんか。」
結局、俺たちはライヒノットの申し出を受けた。
メルティが、彼が味方である事を保証した事、俺の記憶からも彼が味方である事も大きかったが、何より俺が休息を必要としていたことが決め手となった。
この際、ライヒノットの屋敷が襲撃される可能性は置いといて、それまででも休息が取れるならそれでいいという考えである。
俺たちは、ライヒノットの馬車で彼の屋敷へ向かった。馬車の中で、これまでの事についてライヒノットは質問したようだが、疲れていた俺は半ば夢うつつで、聞いていなかった。
屋敷に着くと、応接間に通され、歓待を受けた。尚文は未だ警戒モードだったが、用意された食事を、ライヒノット自らが毒見をして見せることで、尚文の警戒心も空回りすることになった。
それでも、明日には屋敷を出ていくことを尚文が言うと、メルティはあからさまに失望の声を上げた。
その素直な物言いに、ライヒノットはメルティの変化を喜ばしい成長と表現した。彼曰く、メルティは年に似合わず背伸びした態度を取ってきたが、盾の勇者と同行する事で、年相応の快活な態度を見せているという。
尚文が、
「悪い影響の間違いじゃないか。」
と茶化すと、メルティはうろたえたようにむくれた。
その後、客間に通され、俺は、尚文の勧めもあり、すぐにベッドに入った。メルティとフィーロが騒いでいたような気もしたが、間もなく、俺は深い眠りへと落ち込んだ。