まずは、俺に掛けられた魔法について、ライヒノットに尋ねた。効果時間は数時間という所らしい。ポーションを飲んだので、それより短くなる可能性は大だ。だが、それまでは、俺はパーティーのお荷物に過ぎなくなる。
次に、イドルの屋敷へ行ったことのあるライヒノットとメイドに、簡単な平面図を書いてもらった。なんでも、中庭に、古の勇者が封印した魔物の碑があるらしい。
俺は、メルティ救出の際、パーティーを二つに分け、陽動を行うことを提案した。即ち、イドルが捕らえているであろう、亜人奴隷たちを解放するのだ。地下牢の場所は、ラフタリアとリファナが覚えている。
俺の案を尚文は承諾してくれた。それには、ラフタリアとリファナの同意を得た事も大きかった。
尚文は、ライヒノットにも助力を頼む。一緒に行って、亜人奴隷を救ってくれないかと。
彼は荒事は慣れていなさそうだったが、ラフタリアとリファナからイドルの奴隷の扱いを聞き、また彼自身もイドルの噂には思う所があったようで、同行を申し出てくれた。
「微力ながら、メルティさま救出のお手伝いをいたします。」
パーティーの分割は、尚文、ラフタリア、フィーロがメルティ救出を、俺、リファナ、ライヒノットが陽動を行うことになった。ただし、俺が魔法を使えるようになったら、すぐに尚文たちと合流することになった。
ライヒノットは、倉庫からスクロールとポーションを幾つか持って来た。スクロールを詠唱する事で、彼も魔法を使えるらしい。
そろそろ夜の帳が落ちる。腹が減っては何とやらという事で、メルティには悪いが、簡単な夕食を取る。
夜陰に乗じて、イドルの屋敷に潜入するのだ。
移動には、ライヒノットの馬車を使った。御者はメイドさんだ。
イドルの屋敷のかなり手前で、気付かれないよう停めてもらう。
そこからは、ラフタリアとリファナの出番だ。
ラフタリアは、尚文と共に魔物姿のフィーロに乗り、隠蔽魔法を掛け、夜陰に乗じて城壁を飛び越える。
リファナは、同じく隠蔽魔法を掛け、二人の門番を、その高速で気付かれずに打ち倒す。
程無く、屋敷の門が開かれた。内側に降り立った尚文達の活躍である。俺、リファナ、ライヒノットの三人が、すかさず中へと入る。
兵士が何人か俺たちに向かって来た。敵の迎撃体制は万全という事らしい。
ライヒノットがスクロールを読んで魔法を放つ。派手に炎が上がり、兵士達が飲まれた。
いきなり戦場に放り込まれた新兵が、慌てて手りゅう弾を放るといった図だが、これでいい。俺たちの役目は陽動だ。派手に暴れて敵の目を引き付ける必要がある。
リファナが、敵の関節を爪で的確に切断しながら、
「こっちよ!」
と俺とライヒノットを誘導する。
その先には、地面にぽっかりと空いた、地下へと続く階段の入り口があった。
ライヒノットが、爆発系のスクロールで牽制するうちに、俺たちは階段を下りる。
刑務所を思わせる中扉には見張りが居たが、リファナが難なく片付けた。彼女は見張りの懐を探り、鍵の束を取り出す。
その時、俺は喉に違和感を感じた。引っかかっていた何かの膜が破れるような感じだ。俺は魔法を唱えてみた。
「アンロック」
鍵を探していたリファナの前で、カチンと音がして、扉の錠前が外れた。
「かつひこさん、声が戻ったのね。」
俺は頷く。
「じゃあ、なおふみ様と合流して…」
言うリファナをさえぎって、
「その前にやる事がある。」
と、俺は魔力を階段の奥に流し込み、地下牢の中を探った。
敵兵が階段を降りて来るが、ライヒノットのスクロールが文字通り火を噴いて迎え撃った。
俺は、地下牢の中に二人の看守と3人の囚われている奴隷と思しき人物を感じ取った。彼らを拘束している手枷と、その牢の錠を、アンロックで解錠する。
俺はリファナにその事を告げた。
「ありがとう。」
その声を背中に、俺は、尚文達と合流すべく階段を駆け上がった。途中、焦げたけが人がごろごろしており、足を取られそうになる。
外へ出ると、向かって来る兵士達をファイアーアローで射貫きながら、中庭へ向かった。
兵士達が集まっていたので、その一角にファイアーブラストIXをぶち込み、吹っ飛ばす。
視界が開けた所を突っ込んでいくと、尚文達が立ちすくんでおり、上を見ると、魔物を封じ込めているとかいう石碑にメルティが、磔のごとく鎖で縛られていた。
その横、館のバルコニーには兵士達が居て、弓でメルティを狙っている。
石碑の根元では、イドルが何やら魔道具を持ち、詠唱をしている。尚文達は、メルティを人質に取られ、動けないのだろう。
俺は状況を把握すると、ジャンプの魔法を唱えて跳躍した。
「ロックウォールVI!」
メルティの体を岩壁で包み防御、さらに、爆発魔法をバルコニーにぶち込んだ。
「ファイアーブラストVII!」
矢は何発か発射されたが、すべて岩壁が防いだ。次いで、バルコニーの兵士達が吹き飛ぶ。その間に、俺はウォールを解除し、メルティの許に取り付いた。
早速ファイアーレーザーIVで、メルティを拘束する鎖を切断していく。矢が飛んで来たが、尚文のエアストシールドとセカンドシールドが防いでくれた。
俺は、メルティを抱えて尚文たちの許へと降りる。
「ありがとう。」
とかすれた声でメルティが言った。イドルの野郎、王女様に一体何をしたんだか。そのイドルを見ると、詠唱を終えたようだ。なんだか、石碑が光って歪んで来ている。
「おい、尚文、なんだかヤバいぞ!」
と俺は言った。
「分かってる!」
尚文は返す。
ラフタリアとフィーロが退路を開こうとしているが、兵士達が必死に向かって来るので、ままならずにいる。
その時イドルが叫んだ。
「盾の悪魔よ!我が魔法で再び召喚した、古の魔物に、踏みつぶされるがいい!」
そうして、駆け出そうとするのを認めた俺は、魔法を放つ。
「ロックウォールIX!」
イドルの下半身を岩壁で覆った。
「逃がさねーよ。」
俺は呟いた。イドルは動こうと必死にもがく。
石碑が光り、変形してうねった。それが、実体化する。
「GYAOOOOOOO!」
咆哮とともに、それは現れた。一見T-レックス、すなわち、ティラノサウルスに似た恐竜じみた体躯。だが、上半身はT-レックスよりも逞しい。それに、体表面は鱗のようなごつごつとした構造に覆われており、日本で一番有名な怪獣映画の主人公と見まごうばかりである。
それが、一歩を踏み出す。そこには、もがいているイドルが居た。たちまち彼は肉片となって潰れ、悲鳴と共に血飛沫を散らした。
それが合図のように、一面に電撃が走った。それが地を覆い、檻のように俺たちと、向かって来ていた一部の兵士、および怪物を閉じ込めた。
「これは何だ!」
尚文が驚いて叫ぶ。
「雷檻よ。」
俺に抱えられたメルティが、弱弱しく答える。
「対象者を閉じ込める、設置型の罠よ。賊を逃がさないために使うの。」
怪物が此方へ向かって来た。尚文とラフタリアはフィーロに乗る。フィーロはすかさずジャンプ、俺も、メルティを抱えたままジャンプする。
逃げ遅れた兵士達が踏み潰される。雷檻に掛かった怪物が感電し、叫び声を上げる。
「GYAOOOOOOO!」
「これじゃあ、逃げられません。」
反対方向へ飛んだフィーロの上で、ラフタリアが嘆く。
「雷檻は、どうやったら破れるんだ、メルティ。」
尚文が訊く。
「魔道具を破壊するのが一番だけど、多分、それは檻の外側にあるし…。後は、魔道具の容量以上の魔法をぶつけて、過負荷にするとか…かな。」
とメルティは答える。
俺は、メルティを尚文に預ける。
「どうするんだ。」
訊く尚文に、
「水魔法をぶつけてみる。」
と答えた。電気には水だろう。
目の大きさと被害半径をうまく取れば、ウォーターストームでショートさせる事が出来るだろう。
俺は、雷檻から離れるよう、皆に促すと、魔法を放った。
「ウォータストームIX!」
次の瞬間、雷檻を包むように水の奔流が巻き起こり、次いで盛大なスパークがあちこちで上がった。怪物が何事かと咆哮する。
「GYAOOOOOOO!」
その咆哮が消えると同時に、雷檻も消え去った。成功である。
尤も、危機的状況が過ぎ去ったわけではない。俺たちは、怪物の襲撃に右往左往する兵士達を尻目に、一旦中庭から逃げ出す。
と、片隅に、リファナとライヒノットを見つけた。それぞれ、助け出した亜人奴隷を抱えている。ライヒノットが女の子二人を抱え、リファナが男の子に肩を貸している。
「お前たち、無事だったか。」
駆け寄るフィーロから飛び降りた尚文が、声をかける。同じく飛び降りたラフタリアが、男の子に抱き着いて叫ぶ。
「キール君、無事だったんだね!」
「お姉さん、誰?」
戸惑う男の子に、
「私、ラフタリアだよ!生きていてくれて、うれしい。」
と喜びを顕わにする。どうやら、同郷の子らしい。
「メルティさま、ご無事で何よりです。」
ライヒノットがかしこまって言う。さらに、
「状況はどうなっているんです?」
と尚文に尋ねた。
尚文は、手短に状況を説明する。
「イドルが、タイラント・ドラゴン・レックスの封印を破ったのですか…。」
ライヒノットは、深刻な顔で呟く。そう言えば、あの怪物はそんな名前だったか。なら以降は簡易的に、D-レックスと呼ぼう。
イドルの奴隷の扱いですが、原作より変更しています。
腐乱死体になるまで放っておくのではなく、使えなく(楽しめなく)なったら、奴隷商に引き取ってもらっているのです。
作者は、その方が合理的だと思っています。自分の娯楽施設に、腐乱死体が転がっているなんて、ぞっとしません。
尤もイドルは、死体を眺めて喜びを覚えるような、精神異常者なのかもしれませんが。
これは、本作の、リファナ生存の理由でもあります。
更に、雷檻の扱いも変えています。
術者を共に閉じ込めるだけではなく、近傍に展開出来るようにしています。
この方が、罠としては使い易いと思います。