街を出て、草原へ分け入る。ラフタリアはおびえ始めた。魔物が怖いのだろう。そんな彼女に、尚文君は、
「心配するな、お前は俺が、必ず守ってやる。」
と勇気づける。マントの下のバルーンを見せながら、
「俺は、雑魚にかまれても、痛くもかゆくもないからな。」
と言う。
「痛くないの?」
ラフタリアが目を丸くしている。
早速バルーンが湧く。尚文君が押さえ、ラフタリアに倒させた。複数のバルーンには、俺がウィンドストームで対処する。
そのまま、森へと向かう。レッドバルーンは尚文君が押さえ、ラフタリアが倒す。ウサピルが出てきたので、サイコボールIIで狂気状態にさせる。
「ラフタリア、とどめを刺せ。」
俺の指示に、ラフタリアは拒否をする。
「いや、血が出そう。血、怖い。」
彼女の怯えは、10歳の少女としては当然のものだろう。だが、彼女には、戦ってもらわねばならないのだ。呪いで苦しむラフタリアに、尚文君が言う。
「いいか、よく聞け。戦えないのなら、俺たちは、お前の面倒を見切れない。もうすぐ、世界を脅かす、波が来る。俺は、それまでに、強くならなくちゃいけないんだ。」
尚文君は続ける。
「だが俺は、守る事しか出来ない。誰かに戦ってもらわなくちゃいけないんだ。お前がだめなら、他の奴に…。」
最後の言葉は、苦しげだ。このいたいけな少女を、元の檻に戻すことを考えるのは、忍びないのだろう。
「災厄と、戦うの?」
ラフタリアが聞く。
「ああ、それが俺の役目なんだそうな。」
「ご主人様たちは、何者なんですか?」
とラフタリアは聞いた。尚文君は答える。
「俺は、盾の勇者だ。」
「盾の勇者って、四聖勇者の?」
「ああ、知っているのか?」
ラフタリアは頷く。彼女は、信じられないといった表情をしていたが、そのまま俺に顔を向ける。
「俺は、魔法使いだ。盾の勇者の従者、ってことになるんだろうな。」
と俺は言った。ラフタリアは、納得した表情をする。
「わかりました。ご主人様、私、戦います。」
ラフタリアは、ナイフを握りなおして、呆けているウサピルに突進する。
「だから、見捨てないで!」
彼女にしても、元の檻の中に戻る事は、考えたくもないのだろう。
急所を切られたウサピルから血が噴き出し、ラフタリアは返り血を浴びる。その光景は凄惨と言えた。このとてつもなくゲームっぽい世界には、似つかわしくないような。
ラフタリアは、そのままナイフを構え、ウサピルを解体しようとする。尚文君がそれを止め、代わりに解体を始める。俺は、よくやったと、ラフタリアの頭を撫でてやった。彼女は、不思議そうに俺を見る。
ウォータークラウドで霧を出し、ラフタリアについた返り血をぬぐってやると、ようやく彼女は落ち着いたようだった。
この戦闘で、ラフタリアがレベル2に、尚文君がレベル5になった。
さらに森の奥に分け入り、ピサピルを3匹、ピキュピキュを1匹、レッドバルーンを多数倒したところで、俺のMPが心もとなくなった。ラフタリアのレベルは3に上昇する。
「いいか、俺が魔物を押さえるから、お前たちは刺すんだ。」
俺が握っていた戦闘のイニシアチブを、今度は尚文君が握る。それから、十数体の魔物を、俺たちは倒した。俺が感じたのは、ラフタリアの戦闘のセンスだ。もちろん、運痴の俺とは段違いだが、呑み込みの早さには舌を巻く。尚文君の指示に的確に答え、自分の状態を把握して、魔物を確実に仕留めていく。
日が傾くころ、獲物の素材は持ちきれないほどになった。ラフタリアのレベルは4、俺のレベルが10に上昇する。俺たちは、野宿する場所を探すべく、川辺へ移動する。俺は、素材を売って宿屋へ泊らないかと尚文君を誘ったが、金がもったいないと一蹴されてしまった。
川辺へ着くと、尚文君はラフタリアにタオルを渡し、水浴びするように命令する。首を振るたび、フケが飛んでいたからな…。
俺たちは、薪を集め、火を起こすと、交代で水浴びをした。体を拭き、服を着ると、夕食の用意をする。と言っても、ほとんど尚文君頼りだ。俺が肉を切ると、不揃いだと言って怒られてしまう。
そのうちにラフタリアも川から上がってきて、焚火に当たる。おなかが鳴って、彼女は赤くなった。そういえば、亜人は幼い時にレベルを上げると、急成長する反面、常時空腹になるんだっけ。
夕食のメニューは、ウサピルの串焼きに、ピキュピキュの煮込みスープだ。やがて、おいしそうな匂いがあたりに漂い始める。尚文君は、焼けた串をいくつかつまみ、ラフタリアに手渡す。彼女はうまそうにかぶりついた。
俺も、串焼きを取って齧る。うん、うまい。さすが盾のチート料理だ。尚文君は、自分では食べようとせず、しきりに火力を調整している。
やがて、ピキュピキュのスープも出来上がった。鳥の濃厚な出汁が口いっぱいに広がり、薬草が臭みを打ち消し、脂が深い味わいを醸し出している。これが、味覚を失っている人間が作ったものとは信じられない。当の本人は、おいしくなさそうに、ぼそぼそとスープをすすっている。ラフタリアは、目を輝かせて、すごい勢いでスープを掻っ込んでいる。
やがて、食事を終えると、尚文君は薬の調合を始めた。平たい石の上で、材料をこすり合わせている。ラフタリアは、少し眠そうに、焚火を見つめている。
「勝彦、先に寝ておいてくれ。」
尚文君が言う。まだ眠たくはなかったが、俺は了承して横になる。そうして、うつらうつらしかけた頃、ものすごい悲鳴が響き渡った。
「キャァァァァァァ!」
なんだ、なんだ!見ると、尚文君が、ラフタリアの口を押さえている。悲鳴の元は彼女か。パニック持ちとはこういう事なのか。
「お父さん、お母さん…。」
悲鳴を上げながら、両親に助けを求めるラフタリアを、尚文君は必死にあやしている。と、叢がざわついた。徐に、マッシュが出てくる。俺は、サンダーアローでマッシュを仕留める。
それからが大変だった。尚文君がラフタリアから離れようとすると、彼女は悲鳴を上げる。そのたびに、マッシュが湧くのだ。尚文君がラフタリアから離れられないので、火の番は俺がすることになった。かくて、二人とも完徹状態で夜明けを迎えることになった。
「ヒィ!」
目を覚ましたラフタリアが、尚文君に抱えられていることに驚く。
「起きたか。」
目の下にクマを作った尚文君が言う。
「朝ごはんは、昨日の残りでいいか?」
ラフタリアが頷くと、
「俺たちは少し寝るから、魔物が出てきたら起こせ。」
と二人そろって崩れるように寝落ちした。
二人とも起きたのは日が高くなった頃で、その時には、ラフタリアがグウグウと腹を鳴らしていた。
早速城下街へ行き、屋台で適当なものを買って、ラフタリアの腹を満たす。俺たちも、適当に食って遅い朝飯代わりにする。
ラフタリアが咳をし出したので、尚文君が、調合した常備薬を飲ませる。今度は渋い顔をしながらも、彼女は薬を全部飲んだ。俺は、ラフタリアの頭を撫でてやった。指が耳に触れ、耳がひょこひょこと動く。狸の耳はふかふかだ。ふと、尻尾に目が行く。ラフタリアは何を考えたのか、自分の尻尾を抱きしめ、触らせまいとガードした。
そのあと、素材屋へ行き、昨日の収穫を売った。銀貨7枚である。尚文君が、そのうち3枚を報酬としてくれた。
さらに、薬屋へ行く。尚文君が、薬と薬草とどっちが高く売れるかを聞いていた。昨日の調合の成果を確かめているらしい。結局、中古の調合道具を譲ってもらい、収入はほとんどなかったようだ。
そのあと、この日は森と城下町を往復して過ごした。素材が持てなくなったら、売りに行くといった具合である。その間に、尚文君がレベル6になった。また、新しい魔物にも遭遇した。名前はヤマアラ。ヤマアラシのように、棘がいっぱいの魔物である。危険だと判断したので、精神属性魔法ではなく、サンダーボールIIで昇天させた。そんなヤマアラを、尚文君は苦も無く解体していく。棘を吸わせたら、攻撃力のある盾が出たと喜んでいた。
1往復につき銀貨8枚ほど、今日だけで、銀貨31枚ほどが手に入った。新記録である。そのうち、俺の取り分は、銀貨15枚だ。魔法屋へ寄り、魔力水を1本買い足す。
また、ラフタリアのレベルが5に上昇する。しょっちゅう腹を減らしているのは相変わらずだ。街へ戻るたび、何かを買い与える。
日が落ちたので、夕食を取り、宿を探す。尚文君も、野宿は昨日で懲りたらしい。マントの下のバルーンで宿の主人を脅しつけ、ツインの部屋を取る。
ここで、尚文君がラフタリアの散髪をする。手櫛で髪を整えつつ、器用にも髪の毛を整えていく。不器用な俺ではこうはいかない。程なく、伸び放題だったラフタリアの髪は肩より下あたりで整えられ、見た目もだいぶましになった。ラフタリアは、自分の変化が気に入ったのか、鏡の前でくるくると回っている。尚文君は、こっそりと、ラフタリアの髪の毛を盾に吸わせている。ラクーンシールドと、奴隷使いの盾IIが出現するはずだ。
それから、尚文君は調合を始め、ラフタリアは、ボール遊びを始めた。俺は、やる事がないのでベッドに横になる。さほど疲れてはいなかったが、やがて、俺の意識は眠りに吸い込まれていった。
「ごめんなさい。ごめんなさい。」
翌日、せわしなく謝るラフタリアの声で目が覚めた。見ると、ラフタリアが部屋の隅で震えている。尚文君が、困ったように、ラフタリアの頭を撫でる。怒られると思っていたのか、ラフタリアは、不思議そうな表情で尚文君を見た。そう、ラフタリアは、おねしょをしてしまっていたのだ。
尚文君は、宿の主人に事情を説明して謝り、俺は、ラフタリアの着替えを調達しに朝の市場へ走る。ラフタリアはしばらくしょげていたが、尚文君がぶっきらぼうに励ますと、いつもの彼女に戻った。
その日も、次の日も、魔物退治と素材回収にいそしんだ。尚文君とラフタリアのレベルは7に上がり、俺のレベルは11になった。持ち金は、二人合わせて銀貨100枚ほどになった。が、俺のナイフがウサピルを狩っている最中に折れてしまった。まあ、安物だからしょうがない。
城下街へ引き返し、武器屋へ向かう。
ラフタリアのナイフを俺がもらい受け、彼女の武器を新調する。また、防具が合わなくなってきたので、調整してもらう。
「そろそろ嬢ちゃんには剣を使わせてみようか。鉄製のショートソードだ。」
エルハルトがそう言って、短剣をラフタリアに渡す。その重さにたじろぐ彼女の腹がグウと鳴る。
「またか。」
と尚文君が愚痴る。
「嬢ちゃん亜人だろ。亜人で、子供のうちにレベルを上げたら、当然じゃないか。」
とエルハルトが言う。俺は、食料を調達しに屋台へと走る。戻ると、ラフタリアは、剣の使い方をエルハルトに習っていた。
「おぅ、あんちゃんもやるか。」
俺は抱えていた焼き串をラフタリアに渡す。彼女は、早速もぐもぐと食べだす。
ショートソードは、ブラッドクリーンコーティング付きで銀貨40枚だ。俺と尚文君とで半分ずつ出す。
尚文君は、
「俺たちの装備で行ける町や村はないか?」
とエルハルトに聞いた。
「森を抜けて南に行くと、近くにダンジョンのある村があるぜ。」
とエルハルトが答えると、
「却下だ。」
と尚文君が言った。どうやら、ビッチ姫に勧められた場所らしい。
「じゃあ、街道を通って西へ行ったらどうだ。こっちにも村がある。」
「わかった。そこへ行ってみよう。」
明日の目的地は決まった。俺たちは腹ごしらえをして宿を取った。尚文君が添い寝をしている限り、ラフタリアは夜泣きをしなくなって来ていた。いい傾向だ。