転生引きこもりは狸娘の夢を見る   作:マーカス・クラン

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第4話 奴隷の育成

 街を出て、草原へ分け入る。ラフタリアはおびえ始めた。魔物が怖いのだろう。そんな彼女に、尚文君は、

 「心配するな、お前は俺が、必ず守ってやる。」

と勇気づける。マントの下のバルーンを見せながら、

 「俺は、雑魚にかまれても、痛くもかゆくもないからな。」

と言う。

 「痛くないの?」

ラフタリアが目を丸くしている。

 早速バルーンが湧く。尚文君が押さえ、ラフタリアに倒させた。複数のバルーンには、俺がウィンドストームで対処する。

 そのまま、森へと向かう。レッドバルーンは尚文君が押さえ、ラフタリアが倒す。ウサピルが出てきたので、サイコボールIIで狂気状態にさせる。

 「ラフタリア、とどめを刺せ。」

俺の指示に、ラフタリアは拒否をする。

 「いや、血が出そう。血、怖い。」

彼女の怯えは、10歳の少女としては当然のものだろう。だが、彼女には、戦ってもらわねばならないのだ。呪いで苦しむラフタリアに、尚文君が言う。

 「いいか、よく聞け。戦えないのなら、俺たちは、お前の面倒を見切れない。もうすぐ、世界を脅かす、波が来る。俺は、それまでに、強くならなくちゃいけないんだ。」

 尚文君は続ける。

 「だが俺は、守る事しか出来ない。誰かに戦ってもらわなくちゃいけないんだ。お前がだめなら、他の奴に…。」

最後の言葉は、苦しげだ。このいたいけな少女を、元の檻に戻すことを考えるのは、忍びないのだろう。

 「災厄と、戦うの?」

ラフタリアが聞く。

 「ああ、それが俺の役目なんだそうな。」

 「ご主人様たちは、何者なんですか?」

とラフタリアは聞いた。尚文君は答える。

 「俺は、盾の勇者だ。」

 「盾の勇者って、四聖勇者の?」

 「ああ、知っているのか?」

ラフタリアは頷く。彼女は、信じられないといった表情をしていたが、そのまま俺に顔を向ける。

 「俺は、魔法使いだ。盾の勇者の従者、ってことになるんだろうな。」

と俺は言った。ラフタリアは、納得した表情をする。

 「わかりました。ご主人様、私、戦います。」

 ラフタリアは、ナイフを握りなおして、呆けているウサピルに突進する。

 「だから、見捨てないで!」

彼女にしても、元の檻の中に戻る事は、考えたくもないのだろう。

 急所を切られたウサピルから血が噴き出し、ラフタリアは返り血を浴びる。その光景は凄惨と言えた。このとてつもなくゲームっぽい世界には、似つかわしくないような。

 ラフタリアは、そのままナイフを構え、ウサピルを解体しようとする。尚文君がそれを止め、代わりに解体を始める。俺は、よくやったと、ラフタリアの頭を撫でてやった。彼女は、不思議そうに俺を見る。

 ウォータークラウドで霧を出し、ラフタリアについた返り血をぬぐってやると、ようやく彼女は落ち着いたようだった。

 この戦闘で、ラフタリアがレベル2に、尚文君がレベル5になった。

 さらに森の奥に分け入り、ピサピルを3匹、ピキュピキュを1匹、レッドバルーンを多数倒したところで、俺のMPが心もとなくなった。ラフタリアのレベルは3に上昇する。

 「いいか、俺が魔物を押さえるから、お前たちは刺すんだ。」

俺が握っていた戦闘のイニシアチブを、今度は尚文君が握る。それから、十数体の魔物を、俺たちは倒した。俺が感じたのは、ラフタリアの戦闘のセンスだ。もちろん、運痴の俺とは段違いだが、呑み込みの早さには舌を巻く。尚文君の指示に的確に答え、自分の状態を把握して、魔物を確実に仕留めていく。

 日が傾くころ、獲物の素材は持ちきれないほどになった。ラフタリアのレベルは4、俺のレベルが10に上昇する。俺たちは、野宿する場所を探すべく、川辺へ移動する。俺は、素材を売って宿屋へ泊らないかと尚文君を誘ったが、金がもったいないと一蹴されてしまった。

 川辺へ着くと、尚文君はラフタリアにタオルを渡し、水浴びするように命令する。首を振るたび、フケが飛んでいたからな…。

 俺たちは、薪を集め、火を起こすと、交代で水浴びをした。体を拭き、服を着ると、夕食の用意をする。と言っても、ほとんど尚文君頼りだ。俺が肉を切ると、不揃いだと言って怒られてしまう。

 そのうちにラフタリアも川から上がってきて、焚火に当たる。おなかが鳴って、彼女は赤くなった。そういえば、亜人は幼い時にレベルを上げると、急成長する反面、常時空腹になるんだっけ。

 夕食のメニューは、ウサピルの串焼きに、ピキュピキュの煮込みスープだ。やがて、おいしそうな匂いがあたりに漂い始める。尚文君は、焼けた串をいくつかつまみ、ラフタリアに手渡す。彼女はうまそうにかぶりついた。

 俺も、串焼きを取って齧る。うん、うまい。さすが盾のチート料理だ。尚文君は、自分では食べようとせず、しきりに火力を調整している。

 やがて、ピキュピキュのスープも出来上がった。鳥の濃厚な出汁が口いっぱいに広がり、薬草が臭みを打ち消し、脂が深い味わいを醸し出している。これが、味覚を失っている人間が作ったものとは信じられない。当の本人は、おいしくなさそうに、ぼそぼそとスープをすすっている。ラフタリアは、目を輝かせて、すごい勢いでスープを掻っ込んでいる。

 やがて、食事を終えると、尚文君は薬の調合を始めた。平たい石の上で、材料をこすり合わせている。ラフタリアは、少し眠そうに、焚火を見つめている。

 「勝彦、先に寝ておいてくれ。」

尚文君が言う。まだ眠たくはなかったが、俺は了承して横になる。そうして、うつらうつらしかけた頃、ものすごい悲鳴が響き渡った。

 「キャァァァァァァ!」

なんだ、なんだ!見ると、尚文君が、ラフタリアの口を押さえている。悲鳴の元は彼女か。パニック持ちとはこういう事なのか。

 「お父さん、お母さん…。」

悲鳴を上げながら、両親に助けを求めるラフタリアを、尚文君は必死にあやしている。と、叢がざわついた。徐に、マッシュが出てくる。俺は、サンダーアローでマッシュを仕留める。

 それからが大変だった。尚文君がラフタリアから離れようとすると、彼女は悲鳴を上げる。そのたびに、マッシュが湧くのだ。尚文君がラフタリアから離れられないので、火の番は俺がすることになった。かくて、二人とも完徹状態で夜明けを迎えることになった。

 「ヒィ!」

目を覚ましたラフタリアが、尚文君に抱えられていることに驚く。

 「起きたか。」

目の下にクマを作った尚文君が言う。

 「朝ごはんは、昨日の残りでいいか?」

ラフタリアが頷くと、

 「俺たちは少し寝るから、魔物が出てきたら起こせ。」

と二人そろって崩れるように寝落ちした。

 二人とも起きたのは日が高くなった頃で、その時には、ラフタリアがグウグウと腹を鳴らしていた。

 早速城下街へ行き、屋台で適当なものを買って、ラフタリアの腹を満たす。俺たちも、適当に食って遅い朝飯代わりにする。

 ラフタリアが咳をし出したので、尚文君が、調合した常備薬を飲ませる。今度は渋い顔をしながらも、彼女は薬を全部飲んだ。俺は、ラフタリアの頭を撫でてやった。指が耳に触れ、耳がひょこひょこと動く。狸の耳はふかふかだ。ふと、尻尾に目が行く。ラフタリアは何を考えたのか、自分の尻尾を抱きしめ、触らせまいとガードした。

 そのあと、素材屋へ行き、昨日の収穫を売った。銀貨7枚である。尚文君が、そのうち3枚を報酬としてくれた。

 さらに、薬屋へ行く。尚文君が、薬と薬草とどっちが高く売れるかを聞いていた。昨日の調合の成果を確かめているらしい。結局、中古の調合道具を譲ってもらい、収入はほとんどなかったようだ。

 そのあと、この日は森と城下町を往復して過ごした。素材が持てなくなったら、売りに行くといった具合である。その間に、尚文君がレベル6になった。また、新しい魔物にも遭遇した。名前はヤマアラ。ヤマアラシのように、棘がいっぱいの魔物である。危険だと判断したので、精神属性魔法ではなく、サンダーボールIIで昇天させた。そんなヤマアラを、尚文君は苦も無く解体していく。棘を吸わせたら、攻撃力のある盾が出たと喜んでいた。

 1往復につき銀貨8枚ほど、今日だけで、銀貨31枚ほどが手に入った。新記録である。そのうち、俺の取り分は、銀貨15枚だ。魔法屋へ寄り、魔力水を1本買い足す。

 また、ラフタリアのレベルが5に上昇する。しょっちゅう腹を減らしているのは相変わらずだ。街へ戻るたび、何かを買い与える。

 日が落ちたので、夕食を取り、宿を探す。尚文君も、野宿は昨日で懲りたらしい。マントの下のバルーンで宿の主人を脅しつけ、ツインの部屋を取る。

 ここで、尚文君がラフタリアの散髪をする。手櫛で髪を整えつつ、器用にも髪の毛を整えていく。不器用な俺ではこうはいかない。程なく、伸び放題だったラフタリアの髪は肩より下あたりで整えられ、見た目もだいぶましになった。ラフタリアは、自分の変化が気に入ったのか、鏡の前でくるくると回っている。尚文君は、こっそりと、ラフタリアの髪の毛を盾に吸わせている。ラクーンシールドと、奴隷使いの盾IIが出現するはずだ。

 それから、尚文君は調合を始め、ラフタリアは、ボール遊びを始めた。俺は、やる事がないのでベッドに横になる。さほど疲れてはいなかったが、やがて、俺の意識は眠りに吸い込まれていった。

 

 「ごめんなさい。ごめんなさい。」

 翌日、せわしなく謝るラフタリアの声で目が覚めた。見ると、ラフタリアが部屋の隅で震えている。尚文君が、困ったように、ラフタリアの頭を撫でる。怒られると思っていたのか、ラフタリアは、不思議そうな表情で尚文君を見た。そう、ラフタリアは、おねしょをしてしまっていたのだ。

 尚文君は、宿の主人に事情を説明して謝り、俺は、ラフタリアの着替えを調達しに朝の市場へ走る。ラフタリアはしばらくしょげていたが、尚文君がぶっきらぼうに励ますと、いつもの彼女に戻った。

 その日も、次の日も、魔物退治と素材回収にいそしんだ。尚文君とラフタリアのレベルは7に上がり、俺のレベルは11になった。持ち金は、二人合わせて銀貨100枚ほどになった。が、俺のナイフがウサピルを狩っている最中に折れてしまった。まあ、安物だからしょうがない。

 城下街へ引き返し、武器屋へ向かう。

 ラフタリアのナイフを俺がもらい受け、彼女の武器を新調する。また、防具が合わなくなってきたので、調整してもらう。

 「そろそろ嬢ちゃんには剣を使わせてみようか。鉄製のショートソードだ。」

エルハルトがそう言って、短剣をラフタリアに渡す。その重さにたじろぐ彼女の腹がグウと鳴る。

 「またか。」

と尚文君が愚痴る。

 「嬢ちゃん亜人だろ。亜人で、子供のうちにレベルを上げたら、当然じゃないか。」

とエルハルトが言う。俺は、食料を調達しに屋台へと走る。戻ると、ラフタリアは、剣の使い方をエルハルトに習っていた。

 「おぅ、あんちゃんもやるか。」

俺は抱えていた焼き串をラフタリアに渡す。彼女は、早速もぐもぐと食べだす。

 ショートソードは、ブラッドクリーンコーティング付きで銀貨40枚だ。俺と尚文君とで半分ずつ出す。

  尚文君は、

 「俺たちの装備で行ける町や村はないか?」

とエルハルトに聞いた。

 「森を抜けて南に行くと、近くにダンジョンのある村があるぜ。」

とエルハルトが答えると、

 「却下だ。」

と尚文君が言った。どうやら、ビッチ姫に勧められた場所らしい。

 「じゃあ、街道を通って西へ行ったらどうだ。こっちにも村がある。」

 「わかった。そこへ行ってみよう。」

 明日の目的地は決まった。俺たちは腹ごしらえをして宿を取った。尚文君が添い寝をしている限り、ラフタリアは夜泣きをしなくなって来ていた。いい傾向だ。

 

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