転生引きこもりは狸娘の夢を見る   作:マーカス・クラン

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第39話 D-レックス

 そんなこんなしているうちに、D-レックスが此方に近づいて来た。

 「させないよ!」

叫び声を上げ、フィーロが突進する。そうして、建物の屋根に跳び上がり、そこから強烈な飛び蹴りをD-レックスの顔面に食らわせる。D-レックスが僅かに怯んだ。

 

 「ライヒノット、すまないが、メルティを頼めるか。」

尚文が言った。ライヒノットは了承する。

 「私を置いていく気?」

メルティは強気だが、声には力がない。

 「お前は戦える状態にない。おとなしく退避しろ。」

 

 その時、いきなりメルティはライヒノットの懐からヒーリングポーションを奪い、それを一気飲みした。

 「げふ。これで大丈夫よ。私も、戦えるわ。」

 「お前なあ。」

尚文が、半ば呆れる。

 

 「ところで、こんな所で戦うの?此処は、町の中心なのよ。」

 「もちろん、あの怪物を、町の外に誘導してからの話だが…。」

メルティの問いに尚文が言葉を濁す。

 

 その時俺は、ある事に気付いた。

 「尚文、フィーロの腹を見ろ。」

D-レックスと戦うフィーロの腹が淡い赤色に光っている。もちろん、怪我で出血している訳ではない。

 「それと、怪物の腹も光っている。」

D-レックスの腹も同様に発光している。まるで、お互いが引かれあっているように見える。

 

 「フィーロ、戻って来い!」

尚文が叫ぶと、命令通り、フィーロが屋根伝いに此方に戻って来る。

 怪物も、フィーロを追うように此方に近づく。

 「どうやら、誘導は出来そうだな。」

尚文が呟く。

 

 ライヒノットに亜人奴隷達を託すと、尚文、ラフタリア、メルティの3人が戻って来たフィーロに乗った。ラフタリア、リファナの二人は、名残惜しげにキールを見る。

 「お任せ下さい。」

3人を抱えながら、ライヒノットが言う。

 

 「行くぞ、フィーロ!」

尚文の掛け声と共に、フィーロが走り出す。

 俺はジャンプの魔法を発動させ、リファナを抱えてフィーロに追従する。

 

 フィーロは、尚文の指示で、館の城壁を飛び越え、町の大通りを走った。少しでも、家屋の被害を少なくするためである。

 D-レックスは、フィーロを追って、城壁を破り、一部の家屋を損壊しながら、大通りを驀進する。

 俺は、出来るだけの速さでフィーロを追った。

 

 やがて、フィーロは町の城壁にたどり着き、それを飛び越えた。俺も遅れて飛び越えると、程無くD-レックスが城壁に突進し、それを粉砕してフィーロを追う。

 

 逃げるフィーロの声が聞こえる。

 「どこまで行くのー?」

尚文が答えた。

 「町が見えなくなるまでだ。」

 

 やがて、俺たちは森へ入った。俺にとっては、足掛かりが増えるので進みやすくなる。フィーロは器用に木々の間をすり抜けて、今までと変わらない速度で驀進した。

 D-レックスは、木々を跳ね飛ばしながら、俺たちを追って来ている。

 

 しばらく行くと、森が終わり、開けた所に出た。そこは、湖のほとりだったが、ある程度の広さがあり、D-レックスを迎え撃つのにふさわしい場所に思えた。

 

 尚文も同じ考えだったらしく、フィーロから3人共降り、戦闘態勢を整えた。俺はリファナを放し、魔力水を飲んで、魔力を補充した。

 

 そこに、森を抜けたD-レックスが突進して来た。尚文はエアストシールドを唱え、さらに盾を構えてその攻撃を受けた。が、エアストシールドは一瞬で砕け、D-レックスの鼻ずらをまともに受けた尚文は吹っ飛ばされた。

 

 「ごしゅじんさま!」

 「ナオフミさま!」

 「なおふみさま!」

 「ナオフミ!」

 「尚文!」

フィーロがD-レックスに突っ込んでいく。ラフタリアとリファナが隠蔽魔法で姿を消す。メルティーが詠唱をし、D-レックスの鼻先に魔法を放つ。

 「ツヴァイト・アクアスラッシュ!」

しかし、相手は固く、ほとんど効果は無い様だ。

 

 俺は、フィーロが一撃を当てて離れるのを待ち、徐に魔法を放った。

 「ウィンドストームIX!」

D-レックスが魔法の上昇気流にあおられ、どうと倒れる。狙い通りだ。

 

 腹を見せたD-レックスに、ラフタリアとリファナが切りかかる。彼女たちの刃は腹の肉を切り裂いたが、あまり出血はない。表層を切っただけで、あまりダメージは無いのだろう。

 

 D-レックスの尻尾が、回避中のラフタリアを襲った。彼女に当たる寸前で、尚文が飛び出し、太い尻尾の一撃を受ける。今度は、重い攻撃を受け止めることに成功したようだ。

 

 俺は、D-レックスが倒れているうちに、必殺の攻撃を放つ。

 「サンダーレーザーIX!」

 「ロックレーザーIX!」

雷撃を露払いとして、それをガイドとするドリルのように、岩柱がD-レックスの腹に突き立った。血が噴き出す。

 

 ダメージを与えるのには成功したが、致命傷とはいかなかったようだ。頑丈な奴だ。

 D-レックスは起き上がり、腹から血を流しながら、此方を威嚇するように咆哮する。

 「GYAOOOOOOO!」

 

 もう一度やるか。だが、ウィンドストームとレーザーのコンボを使うと、魔力枯渇を起こしてしまう。魔力水を飲もうか。

 と思った時に、尚文が叫んだ。

 「憤怒の盾を使う!」

 

 こうなったら、それしかないか。

 フィーロがジャンプして、D-レックスの顔面に蹴りを入れる。ラフタリアとリファナが、その足元を薙ぎ払う。メルティが魔法を放つ。

 女性陣は、尚文の言に動揺しつつも、D- レックスに対して牽制攻撃を行っている。憤怒の盾を使うなら今だ。

 

 だが、尚文は動かない。何やら、焦ってステータス画面を操作しているようだ。

 「どうした、尚文。」

俺は言った。と同時に、違和感に気づいた。自分の感覚が制限されるような、ある種不快な感じ。まるで、未知のフィールドが、自分の知覚を妨げている様な、妙な感覚を覚えた。

 

 「何かに妨害されて、盾を変えられない!」

尚文が答えた。

 その時、メルティが言った。

 「ナオフミ、何か変よ。まるで…。」

辺りは霧に覆われて来ている。

 「何かの結界に捕らわれたみたい。」

 「結界だと…。」

 「それも、相当高位なものよ。」

 

 その時、三度目の攻撃をしようとしていたリファナが叫んだ。

 「なおふみ様、何か、来ます!」

それを裏付けるように、何かの足音が聞こえてくる。程なく、それは現れた。

 

 それは、フィロリアルの群れだった。様々な色をした、数百に思えるフィロリアル達が走って来て、俺たちとD-レックスを取り囲むように、整然と並び始めた。

 「フィロリアルさん?!」

メルティが嬉々として叫ぶ。

 

 俺たちは戸惑った。D-レックスも同じだったらしく、周りのフィロリアルたちを見回している。

 「一体、何が始まるんだ。」

尚文が呟いた。

 

 

 その時、一陣の旋風が巻き起こった。それは、湖の水面を巻き上げ、渦潮を作った。

 次の瞬間、渦の中心から、何かが飛び出して来た。それは、巨大なフィロリアル・クィーンだった。体高10メートルはあろうかと思われるそれは、どうという音と共に、俺たちの傍に着地した。地面が揺れる。そうして、それはD-レックスと対峙した。

 

 「危ないから、下がっていて。」

巨大なフィロリアル・クィーンが俺たちに言う。

 「みんな、こっちへ来い!」

尚文が、皆を自分の後ろに下がらせる。

 

 「どうやら、竜帝の欠片が体に合わず、巨大化したようね。今すぐ渡すなら、命までは取らない。立ち去りなさい!」

巨大なフィロリアル・クィーンは、D-レックスに語り掛けるが、D-レックスは戦闘態勢を取った。そして、そのまま突進して来る。

 

 「しょうがない。」

巨大なフィロリアル・クィーンは呟くと、片足を無造作に上げた。そして、突っ込んで来たD-レックスに蹴りを入れる。D-レックスの巨体が吹っ飛び、すんでのところで倒れずに持ちこたえた。

 

 「GYAOOOOOOO!」

D-レックスは咆哮すると、口を開けて喉をえずく様に動かした。ブレスか?次の瞬間、凄まじい炎がD-レックスの口から放出され、俺たちと巨大なフィロリアル・クィーンを包んだ。

 

 尚文が、盾を構えて俺たちを守っている。結構辛そうだ。巨大なフィロリアル・クィーンを見ると、魔法陣を展開し、炎の奔流を防いでいる。

 

 炎が収まると、

 「一瞬で終わらせる。」

と巨大なフィロリアル・クィーンが言うが早いか、彼女は目にもとまらぬ速さで移動し、D-レックスの後方へ現れた。次の瞬間、D-レックスは八つ裂き状態になって、崩れ落ちた。

 

 なんともはや、凄まじい強さである。パーティーの皆が、啞然としている。

 メルティは、その雄姿をうっとりと見つめている。

 フィーロは、

 「かっこいい。」

と呟いている。

 

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