転生引きこもりは狸娘の夢を見る   作:マーカス・クラン

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第40話 フィトリア

 巨大なフィロリアル・クィーンが、俺たちを見下ろして、話しかける。

 「盾の勇者様で、いいんだよね。」

 「ああ。」

尚文が魂が抜かれたように答える。

 

 「話したい事はあるが、この姿では失礼。、ちょっと待ってて。」

巨大なフィロリアル・クィーンはそう言うと、両方の翼を自分の顔の前に掲げた。彼女の体は光り出し、徐々に縮んでいく。

 やがて、人間サイズになった彼女は、翼を開いた。

 

 そこには、人形のフィーロにも劣らない美貌の幼女が、静かに佇んでいた。背中の翼は、白を基調に空色が散りばめられており、頭の飾り羽は、そこはかとなく威厳を醸し出していた。

 「まずは自己紹介。世界のフィロリアルを統括する女王をしている、フィトリア。」

 

 もちろん、それは分かっている。俺の原作知識で、以前皆に説明している。はるか昔の勇者が育てたという、伝説のフィロリアルだ。

 ただ、その時の紹介の仕方が、かなりのマイナス面を強調した言い方だったので、皆受け止め方が微妙になっている。

 

 「フィトリア、ですって!?」

その時に居なかったメルティが、派手に驚く。

 

 そんな空気を読んだのか、フィトリアが、

 「どうしたの?」

と聞いて来た。

 「いや、何でもない。」

と尚文は答える。

 

 いつの間にか人形に戻ったフィーロが、

 「いつかフィーロも、あんなふうに、おっきくなれるー?」

と聞いて来た。

 「あんなに育ったら、養えないから捨てるぞ。」

と尚文が即座に返す。フィーロはそっけない返答にぶーたれた。

 

 「ここまで大きくなるには、普通のフィロリアルの数十世代分の時間が必要。だから、安心して。」

とフィトリアが言う。つまりは、それだけ生きているという事だ。

 

 「次は、盾の勇者様御一行、自己紹介して。」

フィトリアが言う。

 「岩谷尚文だ。」

 「うん。」

フィトリアが確認するように言う。

 「入江勝彦と言う。」

俺が名乗ると、フィトリアは一瞬怪訝そうな顔をした。気のせいか。

 「ラフタリアと申します。よろしくお願いします。」

 「よろしく。」

 「フィーロはね、フィーロっていうの。」

フィトリアはフィーロをじっと見つめている。反応が薄いので、フィーロは不満げだ。

 「私は、リファナです。」

 「うん。」

 

 フィトリアは、メルティに顔を向けると、言った。

 「前に会ったよね。あの時は助けてくれて、ありがとう。」

 「はい、メルティ=メルロマルクです。よろしくお願いします。」

 「うん、じゃあ、メルたんだね。」

  「メル、たん!?」

突然の綽名呼びに、メルティが目を白黒させる。

 

 「会ったことがあるのか?」

尚文がメルティに聞く。

 「ええ。ドラゴンゾンビの村でナオフミと会ったちょっと前に。」

 「ああ、護衛とはぐれて、フィロリアルと戯れていた時か。」

尚文が納得する。メルティは少しばつが悪そうだ。

 

 「それで、あの魔物を倒してくれた事には礼を言うが、一体、俺たちに何の用だ?」

自己紹介が終わると、尚文が訊いた。

 「いろいろあるけど、ここではゆっくり話せない。あの馬車で案内するから、乗って。」

フィトリアが言うと、数羽のフィロリアルが場所を移動した。そこには、豪華と言っていい馬車が、静かに鎮座していた。

 「すご~い。これ、欲しい!」

フィーロがうらやましげに声を上げる。

 「フィーロちゃん、欲しいって言ったって、くれやしないわよ。」

メルティがたしなめる。

 

 「ちょっと待て。その前に、やる事がある。」

尚文が言う。その意図を察して、フィトリアが言った。

 「ドラゴンの素材を、四聖勇者が武具に入れるのは、イヤ。」

 「盾を強化する、大事な素材だ。」

自分の意を通す尚文に、フィトリアは言う。

 「それに、盾に禍々しい力の痕跡を感じる。呪いの力は強力だけど、代償も大きい。使っては、ダメ。」

 「制御出来ているから、問題はない。」

尚文は返す。

 「けれど、いずれ、抑え切れなくなる。」

フィトリアは、結末を見たかのような、悲しい声で、言う。

 「だが、龍の素材も、憤怒の盾も、生き残るには必要なものだ。」

尚文は譲らない。

 

 フィトリアは、悲しい未来を見るように、愁いを瞳に湛えていたが、やがて、あきらめたように、

 「そう、好きにして。」

と言った。

 

 尚文は、D-レックスを解体して、素材を盾に吸わせた。

 「残りは…。」

 「眷属に持ってくるよう、言いつけておく。心配しないで。」

と言うと、皆を馬車へと招いた。

 

 皆が馬車へ乗ると、フィトリアが、

 「ポータル。」

と呟く。

 それを合図に、馬車の窓から見える風景が変わった。 

 

 

 馬車から降りると、辺りの風景が一変していた。湖のほとりにいたはずだが、今は、森に囲まれた廃墟のような建物群が眼前にあった。皆、転移スキルに驚き、辺りをきょろきょろと見まわしている。

 

 「歴史を感じますね。」

と、ラフタリア。

 「ボロ~い。」

とフィーロ。

 それぞれの感じ方は同じなのだろうが、表現の仕方で、相手に与える印象が変わるいい例だ。

 

 「最初の勇者が守った国の跡地と言われている場所らしい。」

フィトリアが解説する。

 「ここは、フィロリアルの聖域なの?」

メルティが訊く。

 「そう。本当は、あまり人を連れてきちゃダメ。」

フィトリアが答えた。

 

 その時、フィーロのお腹が盛大に鳴った。そういえば、簡単な夕食しか取っていない。フィーロには、全然足りなかったはずだ。メルティに至っては、おそらく飯抜きだろう。

 「取り敢えず、ゆっくり休むといいと思う。」

フィーロをやさしげに見ながら、フィトリアは言う。

 「じゃあ、休憩するか。」

尚文が言う。

 

 「みんな、腹減っただろう。まずは、飯にしよう。」

 尚文の言で、皆で夕飯の支度をした。材料は、フィロリアル達が運んで来た、D-レックスの肉だ。尚文は、それを極上のスープに仕立てた。

 

 早速皆でスープを味わう。盾のチート料理は相変わらずうまい。フィトリアは、フィーロと並んで、スープをかっ込んでいる。

 メルティが、

 「まるで、姉妹みたい。」

と感想を述べると、

 「ああ、雑な食べ方まで、そっくりだ。」

と、尚文が、とげのある言い方で同意した。

 

 そのまま楽しく、夕食と夜食の中間の食事が終わると思いきや、リファナが、

 「なんか、食べ辛いです。」

と言った。

 「私もです。」

とラフタリア。

 「偶然だな、俺もだ。」

スープを食べながら、尚文も言う。

 実は、俺もすごく食べ辛かった。と言うのも、フィトリアの眷属のフィロリアル達が、首を伸ばし、涎を垂らさんばかりに、此方を見つめているのだ。

 

 「これはちょっと…。」

フィロリアル達が、鳴き声を上げ、実際に涎を垂らし始めると、さすがにメルティが音を上げる。

 尚文が、堪忍袋の緒を切ったかのように、叫んだ。

 「分かった、作ってやるよ!でかい鍋と、食材、持って来い!」

 

 一時間後、空になった大鍋の周りに、数十羽のフィロリアル達が、満足げに寝ころんでいた。その傍で、やや疲れた様子の尚文が佇んでいる。

 ラフタリア、フィーロ、リファナ、メルティの4人は、フィロリアルの体を枕に、眠りこけていた。

 俺はと言うと、尚文の料理を手伝いーと言っても、鍋をかき混ぜる位だったがー、結構疲労していた。そのため、寝るタイミングを逸してしまった。

 

 そんな時、フィトリアが尚文に近づいて来た。

 「なんだ、御代わりは、無いぞ。」

尚文が言う。

 「分かってる、ちょうどいいから、話がしたい。」

フィトリアは言う。

 「なら、そいつも一緒で、いいか。この世界の事をいろいろ知っているから、役に立つはずだ。」

俺の事を指さして、尚文が言う。

 

 フィトリアは、俺を見た。俺は、ぞくっとした。フィトリアの美貌に、ではなく、その冷たい眼差しに。それは、まるで…。

 「この話は、盾の勇者だけにしたい。他の者に聞かれるのは、嫌。」

フィトリアは、尚文の申し出を、つまりは俺を、拒絶した。

 

 尚文はしばし黙った。そして、

 「勝彦、俺は、こいつと話してくる。その間、皆を頼む。」

と言った。

 「分かった。」

俺は、答えると、月明かりの下、遺跡の間の通路を歩いていく二人を見送った。

 

 俺は、フィトリアの眼差しの奥にあったものについて考えた。そうして、その答えはすぐに見つかった。あれは、多分、殺気だ。

 

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