転生引きこもりは狸娘の夢を見る   作:マーカス・クラン

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第41話 フィーロVSフィトリア

 翌朝。

 丁度、朝食を終えた時に、それは起こった。

 食事を終えたフィトリアが、メルティに近づき、いきなり魔法を唱えたのだ。

 「リベレイション・ウィンド・プリズン!」

 

 辺り一面に旋風が巻き起こり、それが収まると、メルティが風の檻に囚われていた。メルティが手を伸ばすと、風の檻が反応し、指先に小さな傷を与えた。

 

 「メルちゃん!メルちゃんに何するの!」

フィーロが叫ぶ。メルティーに飛びつこうとするフィーロを俺は止めた。風には土か。俺は魔法を唱える。

 「サンドストームIX!」

メルティに当たらないよう、目を大きく取る。だが、失敗だ。雷檻のように、消えてはくれない。風の檻は健在だ。

 

 目をつぶっていたフィトリアが、顔を上げる。

 「無駄。フィトリアが魔力供給する限り、この檻は存在し続ける。」

そうして、フィトリアは俺たちに宣言する。

 「メルたんには、人質になってもらう。」

 

 「どういうことだ!何が目的だ、フィトリア!」

尚文が叫ぶ。

 「盾の勇者、約束して。他の勇者たちと、仲良くするって。」

とフィトリアは言った。

 「メルちゃんを、そこから出して!」

フィーロが叫ぶが、フィトリアは意に介さない。

 

 「そうじゃないと、メルティをどうにかするという事か。だが、それは出来ないと、昨日言ったはずだ。」

 「それでもフィトリアは、お願いをする。波から世界を救うために、勇者同士の協力は絶対必要だから。お願い。」

 「何度頼まれようと、俺はあいつらと和解する気はない。」

 

 尚文との不毛なやり取りの後、フィトリアは顔を伏せたまま、何かをこらえるように、言った。

 「それならば、新たな勇者を召喚出来るようにするため、フィトリアは、今の四聖を全員殺す。」

俺たちのパーティ全員に衝撃が走った。

 「昨日言っていたのは、そういう事だったのか。」

尚文は呟く。

 

 「その方が、世界のためになる。どうか、他の勇者と和解して。」

フィトリアは再度お願いをした。が、尚文は拒絶する。

 「何度頼まれようと、それは、出来ない。」

絞り出すような口調に、彼の思いが、表れている。

 「わざわざメルティを人質にする必要なんかない。俺を殺したいなら、殺すがいい。だが、ただでやられはしない!」

言うと、彼は盾を構えた。動揺の中、リファナが獣人姿に変身する。

 

 「ダメ。」

フィトリアが呟く。フィトリアに飛び掛かろうとするリファナを、俺は止めた。彼女が俺をにらむ。

 戦闘態勢の尚文が動揺する。

 「またか。」

どうやら、憤怒の盾への変更を、疎外されているらしい。

 

 「盾の勇者の気持ちは分かった。」

とフィトリアは言った。

 「なら、盾の勇者とその従者だけで、波に対抗出来ると証明して見せて。」

 「どうするんだ。ここで、お前と戦って見せろというのか?」

尚文が言う。

 

 「大体そう。盾の勇者の強さは、概ね理解している。後は従者の強さだけど…。」

フィトリアはフィーロを指さした。

 「まずは、フィーロと一騎打ちしたい。」

 「フィーロと?!」

フィーロが驚く。

 

 「もし、フィーロが勝ったなら、メルたんは開放してあげる。」

フィトリアは言う。

 「分かった。フィーロが勝ったら、ごしゅじんさまは殺されないし、メルちゃんは助かるんだね。」

フィトリアは、黙っている。

 「フィーロ、やるよ。」

 

 「おい、フィーロ。」

動揺する尚文に、フィーロは笑顔を見せる。

 「こっち。」

フィトリアが、フィーロを誘導する。そうして、呪文を唱えた。透き通ったドーム型の結界の様な物が、形成された。

 「だから、待てって。」

尚文の声は、届かない。

 

 「この結界の中では、人形でしかいられない。フィトリアは、人形で戦う。フィーロも人の姿で戦って。」

フィトリアは、言った。

 「分かった。」

フィーロは答える。

フィーロとフィトリアは、結界の中へ入った。

 

 

 「じゃあ、行くよ。」

フィーロが言う。

 「いつでも。」

フィトリアが答える。

 

 フィーロは高く跳び上がると、いわゆるドロップキックを放った。派手に砂埃が上がる。

 「遅い。」

フィトリアは紙一重で躱すと、フィーロを片手で空中高く放り投げた。

 

 「わあぁぁぁ。」

フィーロが自分の位置を見失う。フィトリアを捉えようと、きょろきょろと周りを見回す。

 「フィーロ、上です!」

ラフタリアが叫ぶ。

 

 いつの間にか、上空に舞い上がっていたフィトリアは、上からフィーロに強烈な一撃をお見舞いする。突き飛ばされたフィーロは、土煙を上げて地面にめり込んだ。

 「つったぁ~。」

 フィーロの服の、袖の辺りが衝撃で破れてしまっている。

 

 尚文が叫ぶ。

 「フィーロ、闇雲に突っ込むな。もっと頭を使え。隙を見て、服も再生させろ。魔力を込めて、防御力を上げるんだ!」

 

 「分かった。」

フィーロが魔法を放つ。

 「力の根源たる、フィーロが命ずる。理を読み解き、彼の者を真空の竜巻で吹き飛ばせ。」

 「ツヴァイト・トルネード!」

 

 「力の根源たる、フィトリアが命ずる。理を読み解き、真空の竜巻を無効化せよ。」

 「アンチ・ツヴァイト・トルネード!」

フィトリアの方が、魔法詠唱が早い。フィーロが放った竜巻は、フィトリアの手前で消散してしまった。

 

 「妨害魔法よ、気を付けて!」

メルティが叫ぶ。

 

 竜巻が消散した名残の砂塵の中、フィトリアがフィーロの前に飛び出し、呟く。

 「隙だらけ。」

言うが早いか、フィトリアは鉄拳を繰り出す。フィーロは吹き飛び、岩に叩き付けられた。

 

 「これじゃ、服を再生させる暇なんか…」

リファナが言う。と、尚文が、メルティを閉じ込めている、風の檻に、近づいた。

 「尚文、何を…。」

俺が止める間もなく、尚文はメルティに囁く。

 「盾の力で、檻を散らせないか、やってみる。このままじゃ、フィーロが危ない。成功したら、さっさと、逃げるぞ。」

 

 その時、フィトリアが魔法を放った。それは、盾の防御力をやすやすと貫き、尚文を石の壁に串刺しにした。

 「ナオフミ!」

 「ナオフミ様!」

 「なおふみ様!」

 「尚文!」

メルティが叫び、ラフタリアとリファナと俺の三人が、尚文に駆け寄る。尚文の傷は深そうだ。

 

 「ごしゅじんさま!」

此方を見てフィーロが叫ぶ。が、フィトリアは、

 「よそ見をしない。」

と言うと、フィーロを張り倒した。

 

 「ずるをして、メルたんを助けようとした、その報い。」

フィトリアは、静かに言った。

 「でも、盾の勇者がそうしたのは、フィーロが弱いから。」

フィーロの心情を逆なでするように、フィトリアは言う。

 「フィーロは何のために、戦っているの?」

 「そんなの決まっている。ごしゅじんさまの、ためー!」

フィーロは言いながら、フィトリアを殴ろうとする。が、それは躱され、フィーロは地面に転がった。

 

 「昨日のドラゴンにも、フィトリアにも勝てないくせに、盾の勇者の力になれるはずがない。」

フィトリアの言に、

 「フィーロ、負けないもん。ごしゅじんさまのために、強くなるもん!」

フィーロは泣き声交じりで返す。

 「気持ちだけでは、無理!」

フィトリアは、フィーロを再び張り倒す。

 

 再び転がったフィーロは、よろよろと立ち上がる。

 「もう、ごしゅじんさまに、怪我をさせない。フィーロがもっともっと、強く、なるから!」

 もうフィーロはボロボロだ。

 

 そんなフィーロを尻目に、フィトリアは決めに入る。深呼吸をする様に、空中から何かを取り入れている。多分、魔力だ。

 たじろぐフィーロに、尚文が声をかける。

 「フィーロ、俺は、大丈夫だ。落ち着いて、相手の攻撃を、よく見るんだ。お前なら、出来る!」

 

 フィーロは身構えて、深呼吸をしたように見えた。多分、フィトリアの真似だ。だが、空気中から、魔力を集めるのには、成功しているようだ。

 

 やがて、フィーロは目を見開くと、ジャンプした。

 「負けない!!」

フィーロは叫ぶと、右手を前に出す。

 「スパイラル・ストライク!」

右手に魔力による光の爪が現れる。フィーロはそのままフィトリアに突っ込んだ。

 

 フィトリアは、集めた魔力で、防御の結界を張る。そこに、フィーロの爪が食い込んで行く。

 力のぶつかり合いは、しばし拮抗し、攻撃側が勝った。結界が破られる。フィーロは、フィトリアの傍の地面に、派手に突っ込む。フィトリアの頬が、切れた。

 

 フィーロはよろよろと立ち上がると、フィトリアに近づいて行った。

 「フィーロは、負けない。フィーロ、もっと強くなるから。ごしゅじんさまも、メルちゃんも、ラフタリアおねーちゃんも、みんなも、フィーロが守れるようになるから…。」

呟きながら、フィーロはヘロヘロのパンチをフィトリアに放った。フィトリアは、それを受け止めて、微笑んだ。フィーロは、精根尽き果てたように、へたりこんだ。

 

 「もういいよ、フィーロ。貴方の勝ち。メルたんも、開放する。よく頑張った。」

フィトリアは晴れやかな顔でそう言うと、風の檻を解除した。

 「フィーロちゃん!」

メルティがフィーロの傍に走り寄って、抱きかかえた。

 

 俺は、尚文を抱えて、フィーロの許へ向かった。ラフタリアとリファナも、尚文を支えている。フィーロは近づいてくる尚文に向かって、

 「フィーロ、勝ったよ。」

と言った。

 「ああ、すごいぞ、フィーロ。」

尚文が褒めたたえる。フィーロは笑顔になった。

 

 

 フィトリアがフィーロの傷を治す。

 「よく試練を乗り越えた、フィーロ。」

 「試練?」

フィーロが首をかしげる。

 「フィーロ、お前は、試されたんだ。」

尚文が言う。

 

 「そう、試練を乗り越えられなかったら、フィーロは死んでいた。そして、盾の勇者も死んでいた。」

フィトリアは、真顔で言う。そうして、何処からか、ティアラを取り出した。

 「何、それ。」

フィーロが不思議そうに、それを見つめる。

 「これは、フィトリアの試練を乗り越えた、証。」

フィトリアは、フィーロに頭を下げるように言った。

 

 フィーロが頭を下げると、フィトリアは、ティアラをフィーロの頭にのせた。

 フィトリアは言う。

 「フィーロ、貴方に、フィトリアの第一継承権を、与える。」

 「けいしょう?」

フィーロが首を傾げる。

 「フィーロが、フィロリアルの次期女王になるって事か。」

尚文が言う。

 「フィーロちゃん、すごーい。」

メルティが喜ぶ。フィーロはあまりうれしくはなさそうだ。

 

 ティアラがキラキラと輝く。それは変形すると、フィーロの頭の一筋の毛となって、立ち上がった。それはまるで…。

 「アホ毛じゃねーか。」

尚文が呟いた。

 「可愛い!」

メルティがはしゃぐ。

 当のフィーロは、

 「わ。なんか、変なの生えた!」

と無理やりアホ毛を引っこ抜く。とすぐにまたアホ毛が立ち上がる。その動作を2、3回繰り返し、うんざりしたフィーロに、フィトリアが声をかける。

 「いくら引き抜いても、また生えてくるから、あきらめて。」

 

 尚文によると、フィーロのステータスが大幅に上がったらしい。そういう加護のある毛と言うわけだ。

 

 フィトリアが言う。

 「盾の勇者にも、あげるものがある。」

 「アホ毛はいらないぞ。」

 「もっといいものだから。それと、傷も治す。」

フィトリアは、回復魔法を唱えて、尚文を治療した。

 

 「盾を出して。」

フィトリアは言うと、徐に自分の頭の飾り羽を抜き、盾に吸わせた。

 『結局、アホ毛じゃねーか。』

俺は頭の中で突っ込んだ。

 尚文に問うと、フィロリアルシリーズの盾が、強制解放されたらしい。

 「一応、礼を言う。」

尚文が言った。

 「どういたしまして。だけど、…。」

 

 フィトリアの表情が変わった。

 「ここから、第2ラウンド。入江勝彦。私と勝負して。」

フィトリアは、俺に向かって言った。

 

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