転生引きこもりは狸娘の夢を見る   作:マーカス・クラン

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第43話 矛盾の決闘その3

 朝食の後、フィトリアは馬車で俺たちを送ってくれた。宣言通り、勇者の近くなのだろう。

 

 フィトリアは、馬車に繋いでいた荷車を、俺たちにくれた。フィーロがいとおしげに頬ずりする。ラフタリアがフィトリアにお礼を言った。

 

 「ついてこないのか。」

尚文がフィトリアに言う。

 「フィトリアが関わるのはここまで。これから先は、関わる価値があるかどうかを、見せてほしい。」

フィトリアは、フィーロを見つめながら、

 「盾の勇者、あの子をお願い。」

と言った。

 「そして、約束を、守って。」

と言うと、馬車と共に、転移魔法で、消えた。

 

 俺は、皆に、原作知識で、これから起こることを、改めて話した。前回居なかったメルティは、真剣に聞いている。

 槍の勇者と、決闘になる事(槍の勇者がなぜ怒っているのかは、忘れてしまった)。その最中、儀式魔法‘裁き’で狙撃される事、その後、教皇と戦いになる事、教皇が、聖武器の模倣品を所持していること。

 なぜか、前回よりも、思い出せることが減っている気がする。相変わらず、頭痛もひどい。

 

 教皇が裏切り者と聞いて、メルティは非常に驚く。

 リファナが言う。

 「そんなヤバいことになるなら、槍の勇者は避けた方がいいんじゃない。」

確かにそうだが、それだと、槍の勇者は見殺しだ。

 「だが、俺たちが関わらないと、槍の勇者は教皇に殺されてしまうだろう。四聖が一人でも欠けると、波の対処が厳しくなるはずだよな、尚文。」

俺は言う。

 「確かに、フィトリアに、そう言われたが。…そうか、お前のアニメ知識か。」

 尚文が納得したように言う。

 

 「で、どうする。元康と関わると、決闘になり、‘裁き’とやらを食らうんだろう?」

 「決闘には雷檻が使われるはずだ。俺が解除し、‘裁き’の照準が定まった頃に、移動してしまえば、問題ない。」

 「そんな事が可能なのか?」

 「兵士達が、巻き添えにならないよう避難するはずだから、それを合図にする。メルティ王女、‘裁き’の照準は、そう簡単に移動できないのだろう?」

俺は、メルティに訊く。

 「そうね、‘裁き’は、詠唱を始めたら、その対象は、固定されるわ。」

 メルティは答える。

 

 「それにしても、元康の奴を助けなきゃならないなんて、なんとなく、癪だな。」

と尚文。俺は、フィーロに話しかける。

 「フィーロ、これから、槍の人たちと喧嘩になるけど、殺しちゃいけない。何かあったら、彼らを守るんだ。」

 「うん、勇者は死んじゃダメだって、フィトリアも言ってた。」

おお、鳥にしては理解が早いぞ。これも、アホ毛の加護か。

 

 「でも、聖武器の模倣品は、厄介よね。」

メルティが言う。

 「そんなにすごい武器なのか?」

尚文が問う。

 「槍、剣、弓、盾それぞれに変形し、それぞれのスキルを放つ事が出来る、古に作られた究極の武器よ。燃費が悪いけれど、オリジナルの聖武器の、1/4ほどの威力を持つそうよ。」

 「1/4か、大したことは無いな。」

油断する尚文に、俺は言う。

 「その1/4は、武器強化が全部終わった後の話だと思う。武器強化を自分の分しかしていない三勇者の今の武器からすると、3倍以上の威力があると思った方がいい。」

 「3倍だと。そいつはしんどいな。」

尚文がげんなりする。

 

 「教皇の武器は、俺が信者どもをつぶして、何とかする。」

 「信者、だと。」

 「聖武器の模倣品のエネルギーにするための魔力タンクの代わりに、教皇は数千の信者を従えている。そいつらを、精神魔法でつぶすのさ。」

 「出来るのか?」

 「頑張る。」

尚文はため息をついた。

 「お前は、本当に、少し頼りないな。」

 

 ラフタリアが、地図を広げる。

 「この近くに、関所があります。」

 「元康が居るのは、多分そこか…。」

尚文が言う。

 「気が進まないが、フィトリアの頼みもある。せいぜい、あいつらと、()()()()か。」

 

 俺たちは、フィーロの引く荷車に乗って、関所へ向かった。

 

 

 俺たちが関所に近づくと、ほら貝の音が響いた。一種の警報なのだろう。構わずにさらに接近すると、門からわらわらと兵士が湧いてきた。その中心にいるのは、槍の勇者とその一行だ。

 

 俺は、ある程度近づいて荷車を止めた。フィーロが人形に戻る。尚文が、先に一人で歩き出して行く。残りの者が、荷車から降りる。

 

 尚文が、槍の勇者元康君と対峙する。

 「元康、俺は、お前と戦うつもりはない。話を聞いてくれ。」

尚文が言う。が、元康君は、話を聞かなかった。

 「戯言を!言いたいことは、それだけか!」

言うが早いが、いきなりスキルをぶっ放す。

 「流星槍!」

槍の穂先が青白く光り、放出されたエネルギーが尚文にぶつかる。尚文は盾を構えて何とか防御した。

 

 「ナオフミ様!」

 「なおふみ様!」

ラフタリアが動揺し、リファナは獣人姿に変身する。

 「ナオフミ!」

 「ごしゅじんさま!」

メルティをかばっていたフィーロがいきり立ち、突進しようとする。

 彼らを尚文は後ろ手で押しとどめた。

 

 「まだ倒れないか!」

元康君の攻撃は続く。

 「乱れ突き!」

再び尚文をスキルが襲う。尚文は避けながら、

 「話を聞け!何を、そんなに怒っているんだ?この前逃げられたのが、そんなにむかついたのか?」

と言った。元康君は返す。

 「…殺したくせに。」

 

 「盾の勇者と話すことはありません!洗脳の盾に、お気を付けを!」

マインが元康君に言う。相変わらず、腹の立つビッチだ。

 元康君は、激高して尚文に言った。

 「錬と樹を殺したくせに!よくもそんな平然としていられるな。所詮、盾の悪魔っていう事か。」

 

 尚文君は驚く。

 「樹と錬が死んだ…?一体どういうことだ。俺は知らないぞ!」

 「しらばっくれるな!」

槍を盾に激しくぶつけながら、元康君が叫ぶ。

 

 マインが言う。

 「盾の勇者は、封印されていた魔物を呼び覚まし、隙を見て、剣の勇者と弓の勇者を殺した。教会側の影が確認した、事実です。」

 そんなの、事実無根だ。三勇教の都合のいいでっち上げなのは分かるが、どうやって石頭の元康君に分からせるか…。

 

 「攻撃手段のない盾の勇者が、どうして勇者を殺す事が出来る?」

俺は言う。

 「貴方がやったんでしょう?でなければ、はべらせている女奴隷にやらせたか。それに、盾の勇者が怪しげな攻撃スキルを持っていることも、確認済みです。」

マインは返す。確かに、俺の貫通魔法や、尚文の‘アイアンメイデン’なら、勇者は殺せるな。

 

 「俺があいつらを殺して、何の得がある。そもそもお前は、あいつらの死体を見たのか?」

 尚文の言に、元康君は怯む。

 「自分で確認していないなら、そんなあやふやな情報で、俺に突っかかるな。」

 「俺は、自分の信じる仲間たちの言うことを、信じる!」

言いながら、元康君は、槍の穂先で盾を叩く。

 「これじゃあ、話にならない。」

尚文は、二人の間にエアストシールドを出し、元康君を吹き飛ばした。そうして、皆の所まで、下がった。

 

 「不本意だが、戦うしかあるまい。ここまでやれば、フィトリアも納得してくれるだろう。」

尚文が言う。

 

 一方、マインが懐から何かを取り出し、操作する。とたんに、半径30メートル程の範囲に、雷が出現し、俺たちと槍のパーティーを閉じ込めた。雷檻だ。奴らも、やる気なんだろう。

 「勝彦!」

尚文の言葉に、俺は頷く。俺は、雷檻の外側にいる兵士を、注視した。彼らが動いたら、速攻で雷檻を解除するのだ。

 

 「ツヴァイト・ファイアースコール!」

 先制攻撃は、マインの魔法攻撃だった。

 「アンチ・ツヴァイト・ファイアースコール」

何とかメルティの詠唱が間に合い、敵の炎の驟雨を無効化する。が、完全には消散出来ず、尚文と、魔物姿になったフィーロに、散発的な炎が降り注ぐ。メルティとマインのレベル差故である。尚文とフィーロに、目立ったダメージは無い様だ。

 

 「みんな、頼む!」

元康君が叫ぶと、マインと女たちが、それぞれ槍に魔法を掛けた。

 「ツヴァイト・ファイアー!」

 「「ツヴァイト・エアーショット!」」

槍の穂先が、炎と空気弾を纏う。

 「食らえ!合成スキル!エアバーストフレアランス!」

元康君がスキルを放つが、尚文がそれを雄叫びを上げて受ける。部分的とはいえ、武器強化を施してある盾には、合成スキルも通じない。

 「まだ、倒れないのか!?」

元康君が、驚く。

 

 フィーロが突進する。その横で、リファナが姿を消す。隠蔽魔法だ。

 「ツヴァイト・ファイアーアロー!」

 「「ツヴァイト・エアーショット!」」

槍のパーティーの女たちが、フィーロを妨害する。フィーロはそれらを避けるが、元康君には近づけないでいた。

 

 その時、元康君の眼前にリファナが現れ、懐に入り込み、鋭い爪で利き腕の関節を断った。

 「ぐわっ!」

 元康君が怯んでいる隙に、リファナは戻る。見事なヒット・アンド・アウェイ攻撃である。

 

 尚文と何やら打ち合わせをしていたラフタリアが、尻尾を膨らませつつ、元康君へと切り込んだ。

 「パラライズ・ランス!」

元康君は、槍を左手に持ち替え、スキルで迎撃しようとした。

 尚文が叫ぶ。

 「ハイディング・シールド!」

すると、元康君の眼前にいたラフタリアの姿が消え、代わりに、大きな盾が出現する。さっきのお返しとばかりの合成スキルだ。さらに、尚文が叫ぶ。

 「チェンジシールド!」

元康君の眼前の盾が、ソウルイーターシールドに代わり、彼のスキルポイントを、軒並み吸い取って、消えた。

 「くそっ!」

 

 戻って来たフィーロが、メルティと並び立ち、一緒に詠唱を始める。

 「これは、合唱魔法?!」

マインが驚く。

 息の合った詠唱を終えると、二人は叫んだ。

 「「暴風雨で薙ぎ払え!タイフーン!」」

まさに台風と言いうる勢いの、水気をたっぷりと含んだ竜巻が、二人の手から紡ぎ出され、元康君と、槍のパーティーの女三人が押し流され、吹き飛ばされた。

 魔法の成功に、メルティとフィーロはハイタッチをして、喜ぶ。

 

 ようやく立ち上がった元康君が、切れ切れに呟く。

 「まだ、クラスアップも、していないというのに、なぜ、そんなに、強いんだ…。」

尚文が答える。

 「教えてやろう。お前たちが、ゲーム知識で、俺TUEEEごっこをしている最中に、俺たちは、地道に経験を積み、スキルを習得し、戦い方を覚えて強くなったんだ。肝心の所を省略して、レベルだけを上げたお前たちに、負けるはずはない。」

 

 「それでも、俺たちは、負けるわけには、いかない…。錬と樹に、顔向けが、出来ない。それに、ラフタリアやフィーロちゃんも、このままでは、盾の悪魔のモノになってしまう…。」

ここまで実力差を見せつけられて、闘志を失わないのは、さすが勇者と言えるが…。

 槍のパーティーの女の一人が起き上がり、元康君にヒールを掛ける。マインも這いずりながら、

 「そうよ、元康様。私に、盾の悪魔の首と、妹メルティを…。」

なんて世迷言を言っている。

 

 その時、俺は、兵士達が逃げ始めたのを認めた。早速、雷檻を壊しにかかる。

 「ウォーターウォールIX!」

水の奔流が沸き起こり、雷檻に干渉して、スパークがあちこちで起こる。だが、雷檻は消えない。もう一度!

 「ウォーターウォールIX!」

再び盛大なスパークがあちこちで起こり、雷檻は消えた。俺は叫ぶ。

 「尚文、逃げるぞ!そして、フィーロ!」

 「はーい!」

フィーロは魔物姿になると、槍のパーティーの面々をサッカーボールのごとく、こちらに蹴り飛ばした。俺たちは、荷車を避けて走った。フィーロは槍のパーティーを蹴り飛ばしながら、付いてくる。彼らは、もう、気息奄々だ。

 

 

 50メートル程走ったところで、フィーロが叫んだ。

 「ごしゅじんさま!盾をいっぱい出して!後ろに!」

そうして、尚文の許に、ほぼ気絶している槍のパーティを、次々に蹴り飛ばす。

 

 尚文は立ち止って振り向き、スキルを唱えた。

 「シールドプリズン!」

 「流星盾!」

 「エアストシールド!セカンドシールド!」

皆が尚文の許に駆け寄った。フィーロが羽で、上から覆いかぶさる。

 俺も、微力ながら、魔法を唱えた。

 「ロックウォールIX!」

 

 それから数秒経ち、ごうと言う音と共に、地面が揺れた。何かとてつもない衝撃が、前方に落ちている。そう感じると同時に、俺の立てたウォールが消失した。

 尚文が汗をかいている。流星盾が消失したか。そうして、次の瞬間、シールドプリズンが割れた。尚文が前に出る。

 

 「うおぉぉぉ!」

尚文が雄叫びを上げ、盾を構えている。眼前には、コロニーレーザーと見まごう極太の光芒が降り注いでいた。それは、一秒程で消えた。

 

 後には、直径数十メートルの、半分溶岩と化した、岩肌のクレーターが残された。尚文が居る一角が、半島のように、クレーターの端に正常な地面を残していた。どうやら、‘裁き’の直撃は避けたが、端っこに当たったという事らしい。

 

 「みんな、無事か?」

尚文が、荒い呼吸で言う。

 「みんな無事だよー」

フィーロが立ち上がって言う。俺たちも恐る恐る立ち上がる。そして、‘裁き’の威力に呆然となった。

 

 「この威力は…。」

衝撃で目が覚めたらしいマインが、絶句している。さらに、わなわなと震える。多分、ようやく、自分も命を狙われたことに、思い当たったんだろう。

 

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