転生引きこもりは狸娘の夢を見る   作:マーカス・クラン

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第44話 対教皇戦

 と、どこからか、場違いな音が聞こえた。これは、拍手だ。

 クレーターの反対側の端に、人影が立った。

 「幾らかすっただけとは言え、高等集団儀式魔法‘裁き’を受けて平然としているとは、さすが、盾の悪魔。」

そうして、人影は拍手をやめる。

 「それにしても、足止めさえ出来ないとは、ふがいないですなあ。まあ、槍の偽勇者では、仕方ありませんか。」

 

 人影を見分けて、マインが叫ぶ。

 「バルマス教皇、一体何を…。」

教皇は答える。

 「分かりませんか、マルティ王女。あなた方槍の偽勇者一行は、既に盾の悪魔によって殺された、いわば生ける屍。そういう筋書きになっております。その屍を、盾の悪魔と共に浄化してあげるのが、我々三勇教の使命なのです。」

 「何を勝手なことを。貴方、この次期女王に一体何をしたのか、わかっているの!?」

 

 「陰謀と策略にしか興味のない、王族の失格者である貴方が、愉快な事をおっしゃる。そもそも、我々があなたと連絡を取っていたのは、役に立たない偽勇者たちを始末するためだったのですよ。」

教皇の言葉に、元康君が反応する。

 「始末って…。」

 「槍の勇者は封印された化け物を解き放ち、剣の勇者は疫病を蔓延させ、弓の勇者は威厳を示さず、影で自己満足の制裁ばかり…。信仰する勇者がこのありさまでは、私たち三勇教の教義が揺らいでしまうのも当然です。その所業は偽勇者と称するに十分に愚かなものです。おまけに、彼らは、いらぬ調査とやらを始めてしまいました。」

教皇は、声を一層大きくした。

 「そんな愚かな彼らには、神の裁きが下ったのです。」

 

 「裁きって、…錬と樹は、尚文が殺したんじゃ…。」

状況を受け止めきれない元康君が戸惑いながら呟く。

 「俺はやってない。何度も言ったはずだ。」

尚文が言う。

 

 教皇が笑う。

 「なかなか愉快な茶番でしたが、ここまでにしましょうか。そろそろ浄化の時です。」

教皇の側近が一振りの剣を、教皇に手渡す。

 「愚かな槍の偽勇者と、いくら踏み潰しても、生に執着する、ゴキブリの様な盾の悪魔に、神の裁きを!そして、この国に正しき秩序を!」

言いながら、教皇は剣を振りかぶる。

 

 「気を付けて!ナオフミ!その剣は、多分、聖武器の模倣品よ!」

メルティが叫ぶ。

 俺は、飛び出すタイミングを待った。今跳んでも、撃墜されるのが落ちだろう。この攻撃の直後、ジャンプして、三勇教の信者たちを無力化するのだ。

 

 尚文が盾を憤怒の盾に変え、皆の前に飛び出す。同時に教皇は、剣を軽く振った。刹那、剣が鋭く光り、そのまま俺たちへ向かって光の奔流が放出された。

 尚文が、雄叫びを上げてその膨大なエネルギーを受け、防御する。彼は片膝をついたが、光の奔流を受け切った。

 

 「試し打ちでしたが、さすが盾の悪魔、受け切りましたか。ん?」

 俺は助走をつけると、ジャンプの魔法を発動した。すると、いるいる、クレーターの向こう、教皇の後ろに、信者たちがひしめき合っている。数は二千から三千と言ったところか。

 残念ながら、ストームでは信者のいる範囲全部をカバー出来ない。魔力切れを起こしてしまう。ウォールかクラウドを使う所だが、俺はクラウドを選択した。威力がウォールより少し落ちる代わりに、魔力消費がやや少ない。

 俺は、範囲を信者がいる全域に指定し、魔法を放った。

 「サイコクラウドIV!」

 

 「かっちゃん!あぶない!」

魔物姿のフィーロがいつの間にか俺の後ろに跳んで来て、俺の襟を咥え、後ろへと引っ張った。

 「ぐえっ!」

俺の首が締まり、足が上へ跳ね上がった。そこに、光線が擦過する。教皇の攻撃だ。俺は、足先に激しい痛みを覚えた。そのまま、斜め後ろへと落下する。

 フィーロがクッションになってくれたが、落下の衝撃で、足先が激しく痛んだ。が、構っちゃいられない。MPがものすごい勢いで減っている。展開したクラウドのせいだ。俺は慌てて魔法水をあおる。1本、2本、3本、4本、最後の5本目を飲んだところで、MPの減少が止まった。

 

 「集団高等防御魔法、大聖堂!」

教皇が叫び、教皇と俺たちが、何やら半透明のフィールドに包まれた。確かに、大聖堂に見えなくもない。やられた。信者たちと分断され、俺の魔法が防がれたんだろう。

 

 「大丈夫か、勝彦。」

尚文が気遣ってくれる。

 「ツヴァイト・アクア・ヒール!」

メルティが足先の治療をしてくれた。

 「大丈夫だ。」

俺は答える。

 

 

 「多分、信者の半分は精神魔法でつぶせたはずだ。それに、今の防御魔法で、教皇の魔力は尽きたはず。攻めるなら、今がチャンスだ、尚文。」

俺は言った。

 

 「そうなのか?」

横で話を聞いていたらしい元康君が、勇んで戦闘態勢を取る。

 「錬と樹の仇だ!みんな、頼む。」

槍のパーティーの面々も起き上がり、それぞれ魔法を放つ。

 「ツヴァイト・ファイアー!」

 「「ツヴァイト・エアーショット!」」

マインは自分が裏切られたのが悔しいのか、顔が歪んでいる。

 

 「エアバーストフレアランス!」

元康君は、合成スキルを放つ。

 「ぐわっ!」

炎と風、光の奔流が、魔法防御を抜いて教皇に命中し、ダメージを与えた。教皇は、片膝をつく。

 しかし、次の瞬間、教皇の身体が光り輝く。大聖堂とやらの防御回復効果と、残った信者の魔力を、回復に当てているのだろうか。まるで、ゾンビの様な回復力だ。

 

 俺は、ここが攻め時と判断した。

 「尚文、ここで畳みかけて、教皇を倒そう!」

俺は、必死にクレーターを走り、教皇を見上げる位置にたどり着いた。教皇は、既に立ち上がっている。俺は、必殺のレーザー攻撃を放った。

 「ファイアーレーザーIV!」

 「ロックレーザーIX!」

相次いで放たれた魔力の奔流は、次々に教皇を貫いた。巨大な石柱が、教皇の腹から背中へ突き抜けた。教皇が、口から血を吐くのが見える。

 

 しかし、教皇は倒れなかった。再び、彼の身体は、まばゆく輝き、腹に大きく穿たれた大穴が、少しずつ塞がっていく。信者の魔力を回復魔法に、全振りをしているのだろうか。ゴキブリ以上のしぶとさである。

 

 「尚文!」

俺は、続く攻撃を期待して、叫んだ。が、尚文は逡巡しているようだ。主が迷っているので、ラフタリアやフィーロたちも動かない。

 彼の思いは分かる。元康君との共闘をためらっているのだろう。本気で憎んだ相手だ。そんな奴らを助けるために、動くまいと思っているのだろう。だが、ここで助けるのは、彼らではなく、自分達自身である。

 

 「尚文!元康達の事は、考えるな!ここで教皇を倒さなければ、自分達の身が危ない。俺達自身を守るために、ここで教皇を倒すんだ。」

俺は叫ぶ。尚文もはっとしたようで、ラフタリア達に指示を出し、自らも、クレーター内に侵入した。

 

 元康君が攻撃する。

 「流星槍!」

馬鹿の一つ覚えだが、有効なスキルである。教皇は、どうやら防戦一方だ。そこに、ラフタリア達が殺到する。

 「はぁっ!」

ラフタリアが気合と共に教皇に切り付け、リファナが膝を狙って爪を振る。二人が退くと、フィーロが教皇を連続して蹴り飛ばす。

 「はいくぃっく!」

教皇は吹き飛んだ。普通なら、首が折れているところだが、それでも彼は立ち上がってくる。

 

 尚文が、憤怒の盾を構え、戻って来るラフタリアに言う。

 「ラフタリア、俺を攻撃しろ。その後、すぐに避けろ。」

憤怒の盾の、セルフカースバーニングを利用しようというのだろう。しかし、

 「ですが…」

ラフタリアは、主を攻撃する事にためらっている。であれば…。

 

 俺は尚文の許へ走り、ナイフを抜いた。

 「みんな、避けろよ!」

俺は叫ぶと、ナイフを憤怒の盾にコツンと当て、身を翻して避けた。

 次の瞬間、呪いの炎が憤怒の盾から噴き出し、教皇を襲った。教皇は、悲鳴を上げて焼かれる。

 「今だ、尚文!」

俺は叫ぶ。

 

 「シールドプリズン!」

尚文が叫び、教皇は盾の檻に捕らわれた。

 「チェンジシールド!」

そうして、尚文は詠唱を始める。

 『鉄の乙女の中で叫びすら抱擁され、全身を貫かれ…』

詠唱の途中で声が聞こえた。

 「集団高等回復魔法‘聖域’!」

まだ教皇の信者は魔力を隠していたのか。シールドプリズンが強い光に包まれ、破壊される。そのまま教皇が光に包まれる。せっかく付けた呪いの痣が、瞬く間に治っていく。

 

 あと一歩で、止めを刺せない。攻撃こそ食っていないが、こちらはスキルポイント、魔力を軒並み消費している。このままでは、じり貧だ。

 

 

 その時、俺たちの後ろ側、大聖堂の端に、何かがぶつかる大音声が聞こえた。一回、二回、三回。そうして、大聖堂の壁が破られる。そこから、数人の男たちが、こちらへ向かって来る。先頭にいるのは、剣の勇者錬君と、弓の勇者樹君だ。その後に、彼らの仲間がわらわらと続く。

 

 「錬!樹!」

元康君が、驚きと歓喜が入り混じった声で、叫ぶ。

 「お前たち、生きていたのか!」

 「勝手に、殺すな。」

錬君が、クール口調で言う。

 「確かに、三勇教に罠に嵌められ、殺されそうになったが、それは失敗した。」

 「おびき出されて、頭上から‘裁き’を落とされた時は、もうだめかと思いましたが、‘影’と名乗る人たちに、助けられたんです。」

と樹君。

 

 女王側の影たちは、他の勇者の動向も探っていたんだろう。

 どうせなら、残りの信者たちも()()()()()くれたらいいものを。そうは思ったが、待望の増援ではある。

 「あれが教皇ですか、さっさと倒してしまいましょう。」

樹君が、弓を構える。

 「俺たちを狙った報いだ。死んでもらおうか。」

錬君が、剣を地に突き刺し、スキルを繰り出す。

 「ハンドレッドソード!」

 「流星弓!」

二つのスキルが魔法防御を貫き、教皇を襲う。だが、‘聖域’の余波だろうか、教皇のダメージは、瞬く間に回復してしまう。

 

 「俺たちだけではだめか。」

 「ならば、四聖勇者が揃っているのです。僕ら4人、共闘と行きましょう。」

樹君が言う。

 「じきに、女王の三勇教討伐軍も到着するそうですし。」

 「本当か。」

と元康君。

 しかし、尚文はそっぽを向いて、仲間たちに指示を出している。俺に魔力の残りを聞いて来たので、大技3発が限界だと答えた。

 

 「尚文、何をしている。」

錬君が問う。

 「お前たちと、仲良しこよしをやるつもりはない。」

尚文は答える。

 「この状況で、自分達だけで動くのは、身勝手です。ここは皆協力して…。」

 「お前たちに頼らなくても、生き残る。」

樹君の言葉に、尚文は返す。

 

 「大体、三勇教をのさばらせたのは、お前たちのせいだ。」

尚文は、槍のパーティーの方を向いて言う。

 「三勇教の思惑に乗っかって、自分勝手に動いたマインが一番悪いが、それに騙されて盲信した元康、お前も同罪だ。」

 「私が悪いっていうの!」

マインは無視して、尚文は続ける。

 「錬、前にも言ったが、お前が倒したドラゴンのせいで疫病が広まり、村一つが死にかけた。樹、お前がやった正義のヒーローごっこのせいで、住民は困窮し難民となった。勇者が犯した不始末のせいで、三勇教の教義が怪しくなり、今回の教皇の暴挙へと繋がったんだ。」

 「そ、それは…」

 「…。」

尚文は続ける。

 「お前ら勇者三人、確かに偽勇者と呼ばれても仕方ない。俺にとっては、俺の大切なものを奪う、あの教皇と大差ない存在だ。しかし…。」

尚文は向き直る。

 「今、お前たちに協力だけはしてやる。勘違いするな、許したわけじゃない。フィトリアと、約束したからな。」

 

 「尚文…。」

錬君が近づいて、尚文の肩に手を掛ける。すると、尚文の顔が苦悶に歪んだ。

 しまった!尚文の盾は憤怒の盾のままだ。古龍の怒りが尚文に影響し、呪いに引きずり込もうとしている。

 




大聖堂ですが、アニメ版よりも、かなり弱体化しています。
と言うのも、勝彦君の信者への攻撃に慌てた教皇側が、武器にチャージされた魔力を使って、急ごしらえで作ったためです。
また、その後の維持のための信者の魔力が足りないという事情もあります。
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