転生引きこもりは狸娘の夢を見る   作:マーカス・クラン

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第45話 決着

 次の瞬間、尚文は雄叫びを上げた。その表情は仁王の様に変わっている。錬君が、驚いて手を放すと、尚文が発火した。どうやら、怒りに飲まれてしまったらしい。

 「ナオフミ様!」

 「なおふみ様!」

 「ごしゅじんさま!」

 「ナオフミ!」

女性陣が、一斉に尚文の許に縋りつく。俺は、自分と彼女たちに魔法を掛けた。

 「ホーリークラウドIV!」

 「ウォータークラウドIV!」

そうして、尚文の許に駆け寄り、その肩を掴む。炎で熱く、呪いで冷たいピリピリした感触がある。俺は心で呼びかけてみたが、応答はなかった。

 

 「本当に、‘盾の悪魔’っていう奴に、成っちまった訳ではないよなあ。」

元康君が言う。錬君も樹君も、他の者も、その変化に息をのんでいるようだ。

 

 尚文が、ゆっくりと歩く。その表情に、意思の兆候はない。ラフタリア達は、呪いの炎に包まれながら、尚文に、必死に呼びかけている。中でもフィーロは、足先に呪いの炎の浸食を受けつつも、尚文に必死に縋り付き、自分の主に呼び掛けている。アホ毛の加護が、呪いによる暴走を抑えているようだ。

 

 突然尚文が跪き、苦しみだす。内面の葛藤が出ているのだろう。意識を取り戻す兆候かもしれない。

 そのまま俺たちは、心の中で、声に出して、尚文へと呼びかけた。

 

 「お前たち…」

尚文が立ち上がった。発火が収まっている。どうやら、戻って来てくれたみたいだ。

 見ると、憤怒の盾が、一層禍々しい形に変わっている。龍の鱗の様な装飾が増していて、それは、鎧の一部を侵食していた。

 

 「ナオフミ様、大丈夫ですか?」

ラフタリアが言う。

 「ああ、大丈夫だ。」

その声に安堵した女性陣が、尚文から離れる。俺も手を放し、尚文に問う。

 「尚文、一体どうなっている。」

尚文は、ステータス画面を確認しながら、答えた。

 「錬に触れたことで、古龍の怒りに触れ、そのまま憤怒の盾が、ラースシールドへとグロウアップしたらしい。新たなスキルも生まれたようだが…。」

言いながら、フィーロを撫でる。

 「今回は、お前に助けられたな、フィーロ。」

 「うん、ごしゅじんさまも、いろいろ大変だったんだね。」

手足に赤黒い呪いの火傷の跡を残したフィーロが答える。

 

 「尚文、大丈夫か。俺のせいって事は、無いのか?」

錬君が問う。

 「まあ、お前のせいではあるんだが、制御を取り戻したから、問題はない。」

尚文は答える。

 「その黒い盾を使うときは、いつもこんな風なのか?」

と元康君。

 「ああ、そうだ。いつも、仲間たちに、引き戻してもらっている。」

 

 その時、クレーターの上から、声が聞こえた。教皇だ。

 「さすが偽勇者と盾の悪魔、仲間割れですか。おかげで、魔力を充填する時間が稼げました。神の御業に、屈服するがいい!」

そうして、教皇は武器を弓の形状に変え、引き絞った。

 

 

 次の瞬間、強大なエネルギーが教皇の構える弓から放たれ、大聖堂の中を満たした。

 樹君が叫ぶ。

 「皆さん、気を付けて!イリュージョンアローです。幻覚を見せるスキルです。」

 

 大聖堂が光り輝いて、そこかしこに教皇の姿が浮かび上がった。それらが、一斉に弓を引き絞り、矢を放つ!

 幻覚の矢が、俺たちに一斉に降り注いだ。

 「やぁ!やぁだ!」

フィーロが頭を抱えて逃げ回る。元康君が、矢を迎撃すべく槍を振り回す。同じく剣を振り回す錬君が、背後から矢に貫かれた。

 どうやら、幻覚だけでなく、実際にダメージを与える矢も交じっているようだ。

 魔法を使えるものは障壁を張り、そうでないものは、矢を武器で迎撃するが、死角から矢に貫かれてしまう。

 

 これでは、教皇への攻撃どころではない。また魔力をチャージされて、別のスキルを‘裁き’あたりと共に落とされたらことである。

 俺は、自分にマインドアシストを掛けてみた。すると、幻覚の矢が消え、実体のある矢のみが見えて、回避が容易になった。早速フィーロに掛けてやる。

 「マインドアシスト!」

 「いやー、いやだ…あれ?」

フィーロが落ち着きを取り戻す。

 

 そのあと、俺はマインドアシストを掛けて回った。勇者たち、盾のパーティ、その他何人かに掛けたところで、俺の魔力が尽きる。俺はへたりこんだ。

 

 「雷鳴槍!」

 「雷鳴剣!」

 「サンダーシュート!」

勇者たちがスキルを教皇に向けて放つ。魔法防御が消失し、教皇にダメージが入る。

 「ぐっ!」

そこに、ラフタリア、リファナ、フィーロが殺到する。リファナが爪を振ると、教皇のメガネが飛んだ。ラフタリアの渾身の突きを、武器を槍に変えた教皇が受ける。

 「スパイラルストライク!」

人形のフィーロが右手に光の爪を宿し、回転して教皇に突っ込んだ。

 「ごふっ!」

教皇は体を引き裂かれ、ぼろ布の様に吹き飛んだ。

 

 しかし、次の瞬間、教皇の体は光り輝き、彼は立ち上がった。信者たちの回復魔法だ。俺は歯ぎしりする。魔力が残っていたなら、止めをさせたものを。

 

 

 その時、大聖堂がゆらりと揺れた、様な気がした。いや、気のせいではなかった。大聖堂が歪んだように見えた刹那、上からの光のシャワーに、大聖堂が解けていった。これは、‘裁き’か?

 光の余波が、俺たちに降り注ぐ。皆、慌てて尚文の許に駆け寄るが、防御出来たのは流星盾の範囲に入れた者だけだった。尤も、ラフタリア達は、エアストシールドなどで防御を受けていたが。俺は、辛くも防御範囲に滑り込めた。

 

 ‘裁き’のエネルギーの大部分は大聖堂の消失と相殺されたようで、周りの()()は大した事はなかった。が、尚文の防御範囲外の者は、戦闘不能に陥った。

 

 突然、大音声の女の声が響いた。おそらく、魔法であろう。

 「私は、女王ミレリア=Q=メルロマルク。三勇教の信者たちよ、あなた方の‘大聖堂’は、我々の魔法により、無効化されました。あなた方に、もう勝ち目はありません。今すぐ投降すれば、寛大な処置を約束します。無駄な抵抗をやめ、おとなしく従いなさい。」

後ろ、クレーターの端に、騎馬に乗った軍勢が見える。錬君達が言っていた、女王の討伐軍なのだろう。

 

 信者達が動揺しているのが雰囲気でわかる。今なら、教皇の魔法防御や回復は鈍いはずだ。そう思っていたら、尚文が詠唱を始める。

 『愚かなる罪人への罰の名は、神の生贄たる絶叫。我が血肉により生み出されし…』

待て、そのスキルはヤバい。俺は尚文の肩に手を掛け、言う。

 「尚文、そのスキルは、確か代償が大きすぎるはずだ。今は、‘アイアンメイデン’でも、奴を十分に倒せる。」

尚文は、詠唱を中断されたことに不満気だ。

 「どうせなら、新しいスキルを試し打ちしようと思ったのだが…。」

それでも、気持ちを切り替えたように言う。

 「お前がそう言うのなら、従おう。」

そうして、スキルを発動する。

 

 「シールドプリズン!」

教皇が、盾の檻に閉じ込められる。今回は、信者たちの邪魔が入らず、シールドプリズンも健在だ。

 「チェンジシールド!」

そして、尚文は詠唱をする。

 『鉄の乙女の中で叫びすら抱擁され、全身を貫かれ苦痛に苦悶するがいい。』

 「アイアンメイデン!」

 

 空中に鉄の処女を模した不気味な処刑器具が現れ、その腹をぱっくりと開く。その中身は、びっしりと鉄の鋭いとげが生えていた。己の抱いた獲物の、その生き血を吸い取るために…。

 アイアンメイデンは、シールドプリズンごと教皇を己が内部に抱え込むと、ゆっくりとその扉を閉じた。教皇の叫びが、辺りに響き渡る。

 やがて、効果時間が過ぎ、アイアンメイデンが消失した。後には、ズタボロの盾を構え、穴だらけになった教皇が残された。彼はその場に倒れた。

 

 そこへ、討伐軍の兵士が殺到し、盾を教皇から引き剝がし、そのまま拘束する。どうやら、信者たちも拘束されているようだ。

 

 騎馬に乗った背の高い女性が、御供と共に、こちらに近づいてくる。多分、女王であろう。彼女は、尚文の前まで来ると、兜を取り、馬から降りた。

 「盾の勇者、ナオフミ・イワタニ様とお見受けします。私は、メルロマルク国女王、ミレリア=Q=メルロマルクです。遅くなって、申し訳ありませんでした。」

 女王は軽く頭を下げる。それを見て、マインが言う。

 「ママ、なんでこんな奴に頭を下げているのよ!」

 「お黙りなさい!今回の騒動の半分は、貴方に原因があります、マルティ。貴方には、言いたいことが山ほどあります。覚悟しておきなさい!」

 女王の剣幕に、マインが黙る。

 

 「お前が女王か。岩谷尚文だ。」

尚文は女王に近づいて、続ける。

 「助かったのは事実だが、さっきの‘裁き’の攻撃は何だ?危うく、同士討ちになるところだったぞ。」

女王は答える。

 「大聖堂を中和すべく、計算して‘裁き’を放ったのですが…。想定より大聖堂が脆弱で、威力が過剰になってしまいました。申し訳ありません。」

 「それならばいい。たぶん、こいつのせいだ。」

尚文は、俺を指さす。

 「こいつが精神魔法で、信者の半分を無力化した。そのせいで、まともな大聖堂が築けなかったんだろう。」

 「そうですか。お名前は。」

女王は俺を見て言った。

 「入江勝彦と言います。」

俺は跪いて言った。敬意を払ったのもあるが、マインドダウン寸前で、しんどかったのが大きかった。

 

 女王は言う。

 「それにしても、此度はメルティをお守り下さり、ありがとうございます。」

 「お前の娘だから守った、と言うわけではない。すべては成り行きだ。冤罪をかぶったりして大変だったのは、事実だが。」

尚文は答える。

 「そうですか、その事も含めて、貴方とは、話したいことが色々とあります。この後、どうぞ王城へ一緒にお越しください。」

そうして、女王は三勇者の方へ向き直る。

 「勇者様方も、ご苦労でした。褒賞などの話もあるので、王城へお越しください。」

そうして、元康君と盾のパーティーの火傷を見て、

 「まずは、治療ですね。」

と言うと、部下に伝言を伝えた。部下は馬を飛ばして去っていく。多分、治療部隊を呼びに行ったんだろう。

 

 そこへ、拘束された教皇が、何人かに引きずられて運ばれていった。それを見て、女王は言う。

 「あの者も、最後は命が惜しかったのでしょうね。武器を、教義違いの盾に変えてまで、生き延びようとしたのですから。」

そして、尚文の方へ向き直ると、

 「ナオフミ様のおかげで、聖武器の模倣品を回収する事が出来ました。ありがとうございます。」

と言った。

 「かなり破損していたようだが、大丈夫なのか。」

 「修理は可能だと思います。そもそも、失われたと思われていた武器なので、その存在を確かめ、入手できたのは、大変に喜ばしい事です。」

 

 その時、治療部隊が到着した。早速元康君へ治療を施す。俺達へは、魔法使い達が解呪の呪文を唱えた。

 

 拘束された三勇教の信者たちが、次々と運ばれていく。担架で運ばれて行く重篤な容態の者も居る様だ。最後まで、信教に殉じた証であるが、それが無駄に終わったことを知ったら、どう思うだろう。

 

 ともあれ、決着はついた。

 

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