ちょっと油断して生活リズムを乱してしまったところ、体調を崩してしまいました。皆さまもお気を付けて。
それと、区切りの良いところまで下書きを進めようとしたため、時間が掛かってしまいました。
今回は短めです。
「カツヒコ、貴方、私の奴隷になりなさい。」
とメルティは言った。
「は?」
俺は呆気に取られて、間の抜けた声を出した。
今日は、朝早くからメルティに呼ばれた。
クズに妨害されていて出来なかったクラスアップをすると、皆で息巻いていたので―リファナだけがレベルが足りずに蚊帳の外だったが―、若干興をそがれた形になった。
俺だけに用があるらしいが、一体何だろう。あれこれ考えながら迎えに来た兵士について行くと、階段を上っていく。どうやら、城の尖塔の一つへ向かっているらしい。
やがて、やけに重々しい扉の前に着いた。促されて中に入る。塔には似つかわしくない広い部屋の中に、メルティはいた。傍には、神官らしき人物と、両脇に、魔法使いらしき人物が一人ずつ。なんだか、緊張感がある。
「よく来たわね、カツヒコ。」
メルティが言った。
で、冒頭に至ると言う訳だ。
「何かの冗談か、メルティ。」
俺は言った。
「残念だけど、冗談じゃないわ。」
メルティは言った。両脇の魔法使いの緊張が伝わってくる。これは、戦闘態勢だ。
俺は、身構える。二人の魔法使いは、かなりの高レベルらしいことが分かる。先制攻撃をかけるのが正しいのだろうが、まずは、メルティの話を聞いてみよう。
「一体どういうことだ。話してくれ。」
メルティは話した。俺とフィトリアが一騎打ちした時、俺が昏倒した後、俺を奴隷にすると約束することで、俺を殺すのを思いとどまらせたことを。
「でも、それだけじゃないの。」
メルティは続ける。
「あれから、古文書を調べてみたら、‘転生者は国を滅ぼす’と言う記述があったの。貴方がそうだとは思わない。でも、国を治める立場としては、看過することは出来ないわ。」
「で、俺が何か良からぬことをしないように、奴隷紋で縛りたいってわけか。」
俺は言った。
「有体に言えば、そうね。本当なら、いつも一緒にいるナオフミの奴隷になって欲しいところだけど、ナオフミには断られたわ。」
「それで、もし俺が、奴隷になるのを断ったら?」
俺は言った。
「力ずくでも、なってもらう。」
メルティは言った。同時に、魔法使い二人が、身構える。
敵が一人なら、サイコアタックIXの重ね掛けで無力化出来るだろう。だが、この場合、もう一人から攻撃を食らう。
ブラストで一網打尽を図ろうにも、左右の距離がありすぎる。
サイコストームIXでは、たぶん威力が足りないだろう。残念ながらストームは、同一カ所への連射が効かない。
攻撃属性のストームで皆殺しにするというのは論外である。メルティも、自らが人質であるというのを分かっているから、先制攻撃をかけてこないのであろう。
俺は、メルティの目を見た。この勇敢で気高く、国を憂う少女に隷属して、俺はどうなるのだろうか。
「ふっ…。」
俺は息を拭き出して、半ば笑った。己をだ。
あまり長い付き合いとは言えないが、メルティの内面は、十分に分かっているつもりだ。この少女になら、俺自身を預けてもいいかもしれない。
「オーケー。降参だ。」
俺は、両手を上げた。場の空気が緩んだ。
「奴隷になるのを承諾するっていうこと?」
メルティが言った。
「そうだ。」
俺は答えた。
「ここでお前たちをどうにかするより、おとなしく、奴隷になった方がマシだろう。おまえが、そうひどいことをするとも、思えないしな。」
「そうとも言えないわよ。」
メルティは言う。
「私が貴方に課すのは、死に至る呪いよ。」
メルティは、俺を見つめて、続ける。
「あなたが行方をくらましたり、世の為にならない事をしたりしたら、私は呪いを発動させるわ、王女として。」
「そいつは怖いな。」
俺は、呟いた。
「念を押すわ。本当に、私の奴隷になって、いいのね。」
「ああ。」
俺は答えたが、正直言って、選択肢はない。メルティの提案を蹴って、ここでひと暴れして、逃げ出しても、どうにもならないだろう。
メルロマルク国の為に利用される存在になるなら、この奴隷の話は願い下げだ。だが、メルティ個人なら、信用出来る。理不尽に呪いを利用される事はないだろう。
「では、儀式を始めるわよ。」
俺の意思を確認すると、メルティは言った。
「悪いけど、上半身、裸になって。」
俺は、言われたままに服を脱ぐ。
「随分と、瘦せたわね。」
俺の半裸を見て、メルティが感嘆する。
「フィトリアに、腹をえぐられてから、体が軽いんだ。」
俺は答えた。
あれは、強制的な腹の脂肪の切除施術だったと、今になると言える。一気に体型が変わった。とは言え、もちろん人に勧められるものではない。
神官が、盆に載せた儀式用具を持ってくる。
メルティが、ナイフで指を切り、その血をインクに垂らす。神官が、筆をインクに浸し、そのまま俺の胸にインクを塗りたくった。
ジュッと染み込む様な音がして、俺の胸に焼けつくような痛みが走った。これが、人に隷属する感覚か。ラフタリアも、このような体験をしたわけなのか。
俺は自分の胸を見た。以前と何も変わらなかった。
メルティが言う。
「これは、高度な奴隷紋で、普段は見えないわ。呪いを受けた時だけ、浮き出てくるの。お姉さまが、裁判の時に刻まれたものと同じよ。」
ビッチとお揃いとは、あまりいい気分はしないが、これなら、尚文達に余計に気を使わせることはなさそうだ。
そう、これは、メルティと俺との契約だ。他の者に言うつもりはない。
「ところでご主人様、ご主人様を、これからなんとお呼びすれば良いでしょうか?」
俺は、メルティを半ばからかって、言った。
「い、いきなり何よ、メルティでいいわよ。」
メルティは戸惑って答える。俺は続けた。
「それでは、そのように致します。メルティお嬢様。」
「だから、その言い方は、止めなさい。呪いを掛けるわよ!」
メルティは、ようやくからかわれているのに気付いたようだ。
「分かった、メルティ。これでいいか。」
「ええ。」
俺は、メルティの青い瞳を見つめて言った。
「メルティ、これから、俺を預けるぞ。」
「分かったわ。」
メルティは答えた。
こうして、俺は、メルティに隷属した。
皆の所へ戻った時、メルティから何の用だったか聞かれたが、俺の魔法を研究出来ないか調べたと胡麻化した。だが、尚文には感づかれたかもしれない。
ネタバレ案件が終わったので、42話の、勝彦君が気絶している間の話を、以下に公開します。
第42.5話 瀕死
盾のパーティが勝彦の許に駆け付けたのと、フィトリアがとどめを刺そうと突っ込んで来たのが、ほぼ同時だった。
フィーロが両手を広げて、フィトリアを押しとどめる。
「かっちゃんを殺しちゃ、ダメ!」
尚文が、ウォールの切れた勝彦の身体を調べ、そのままヒールを掛ける。
「勝彦、死ぬな!」
ラフタリアが勝彦の頭を膝枕して抱え、リファナが、血で汚れた口元を拭いた。
「ツヴァイト・アクア・ヒール!」
メルティが、魔法を重ね掛けした。
「待ちなさい!彼は転生者よ。多分波の尖兵。私たちの敵になる。今ここで殺すべきよ!」
フィトリアが叫ぶ。
「昨夜もお前はそんな事を言ったな。でも関係ない。勝彦は、俺たちの仲間だ。仲間が瀕死なら、助けるのは当然だろう。」
尚文は言った。
「それに、勝彦が俺たちに敵対することはない。こいつは確かに胡散臭いが、臆病で、優しい奴だ。お前も、こいつがお前をあまり傷付けない様に、手加減していたのは、分かっていただろう。」
「それは、確かに…。」
それは、フィトリアも感じていた。眷属から聞いていた勝彦の必殺技である貫通魔法。それを食らっていたら、自分も無事では済まなかったであろう事を。
「でも、転生者が危険なのは、本当。今は味方でも、将来、裏切られる可能性がある。それならば、本性を現さないうちに、始末した方がいい。」
フィトリアは重ねて言った。ラフタリアが反論する。
「フィトリアさんは知らないんです。カツヒコ様が、どれだけ私たちの事を思ってくださっているのかを。本性って何なんです。確かに、カツヒコ様は、私たちに隠し事をしていました。でも、それも、最後には打ち明けてくださいました。私の小さい頃のお世話から、魔物との戦闘まで、カツヒコ様は、いつも私たちのために一生懸命でいたのです。」
「そうね、私たちのパーティの欠かせない一員だわ。私の命の恩人でもあるし。」
リファナが言う。
「かっちゃん、よく分からないところもあるけど、いい人だよー。」
とフィーロ。
「俺たちを殺すんなら、殺せばいい。だが、その時も、こいつは一緒だ。」
尚文が言った。
「盾の勇者の処遇は、フィーロとの勝負で、既に決まっている。」
とフィトリア。
「いわば、執行猶予。四聖を殺す事も、しばらく様子を見る。これからの、盾の勇者の働き次第。」
「じゃあ…。」
尚文が、いぶかしげに問う。
「入江勝彦との勝負は、従者の試験にかこつけた、転生者の処刑のつもりだった。」
フィトリアは答える。
じっと考え込んでいたメルティが、口を開く。
「じゃあ、カツヒコが、私たちの敵にならなければいいんですよね。」
「そうだけど、そんな事出来るの。」
フィトリアの問いに、メルティが、尚文の方を見て、言った。
「ナオフミ、貴方、カツヒコを奴隷にしなさいよ。そうすれば、貴方に逆らえなくなるわ。」
「何だって!嫌だぞ!」
尚文が答える。
「ラフタリアさんやリファナさんだって奴隷なんだし、もう一人ぐらい増えたって、問題ないはずよ。」
メルティの言に、尚文が断固拒否する。
「勝彦は、いわば友人だ。今更、奴隷になど、出来るか。」
メルティは、少し考えて、言った。
「じゃあ、カツヒコは、私の奴隷にするわ。ナオフミも、フィトリアさんも、これで文句はないでしょう。」
尚文が絶句する。ラフタリアやリファナは、微妙な表情をしている。フィーロはぽかんとしている。
フィトリアは、半ばあきらめたように言った。
「分かった。それで手を打つ。でも忠告はする。その転生者に、油断しないで。今は大丈夫でも、将来的に、覚醒する事がないとは言えない。早く奴隷紋で縛るのをお勧めする。」
「なんか、引っかかる言い方だな。でも、分かってくれたなら、それでいい。」
尚文が言った。
「カツヒコ様が、起きます。」
ラフタリアが、言った。