転生引きこもりは狸娘の夢を見る   作:マーカス・クラン

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しばらくぶりです。
ちょっと油断して生活リズムを乱してしまったところ、体調を崩してしまいました。皆さまもお気を付けて。
それと、区切りの良いところまで下書きを進めようとしたため、時間が掛かってしまいました。
今回は短めです。



第48話 隷属

 「カツヒコ、貴方、私の奴隷になりなさい。」

とメルティは言った。

 「は?」

俺は呆気に取られて、間の抜けた声を出した。

 

 今日は、朝早くからメルティに呼ばれた。

 クズに妨害されていて出来なかったクラスアップをすると、皆で息巻いていたので―リファナだけがレベルが足りずに蚊帳の外だったが―、若干興をそがれた形になった。

 俺だけに用があるらしいが、一体何だろう。あれこれ考えながら迎えに来た兵士について行くと、階段を上っていく。どうやら、城の尖塔の一つへ向かっているらしい。

 

 やがて、やけに重々しい扉の前に着いた。促されて中に入る。塔には似つかわしくない広い部屋の中に、メルティはいた。傍には、神官らしき人物と、両脇に、魔法使いらしき人物が一人ずつ。なんだか、緊張感がある。

 「よく来たわね、カツヒコ。」

メルティが言った。

 

 で、冒頭に至ると言う訳だ。

 

 「何かの冗談か、メルティ。」

俺は言った。

 「残念だけど、冗談じゃないわ。」

メルティは言った。両脇の魔法使いの緊張が伝わってくる。これは、戦闘態勢だ。

 

 俺は、身構える。二人の魔法使いは、かなりの高レベルらしいことが分かる。先制攻撃をかけるのが正しいのだろうが、まずは、メルティの話を聞いてみよう。

 「一体どういうことだ。話してくれ。」

 

 メルティは話した。俺とフィトリアが一騎打ちした時、俺が昏倒した後、俺を奴隷にすると約束することで、俺を殺すのを思いとどまらせたことを。

 

 「でも、それだけじゃないの。」

メルティは続ける。

 「あれから、古文書を調べてみたら、‘転生者は国を滅ぼす’と言う記述があったの。貴方がそうだとは思わない。でも、国を治める立場としては、看過することは出来ないわ。」

 

 「で、俺が何か良からぬことをしないように、奴隷紋で縛りたいってわけか。」

俺は言った。

 「有体に言えば、そうね。本当なら、いつも一緒にいるナオフミの奴隷になって欲しいところだけど、ナオフミには断られたわ。」

 

 「それで、もし俺が、奴隷になるのを断ったら?」

俺は言った。

 「力ずくでも、なってもらう。」

メルティは言った。同時に、魔法使い二人が、身構える。

 

 敵が一人なら、サイコアタックIXの重ね掛けで無力化出来るだろう。だが、この場合、もう一人から攻撃を食らう。

 ブラストで一網打尽を図ろうにも、左右の距離がありすぎる。

 サイコストームIXでは、たぶん威力が足りないだろう。残念ながらストームは、同一カ所への連射が効かない。

 

 攻撃属性のストームで皆殺しにするというのは論外である。メルティも、自らが人質であるというのを分かっているから、先制攻撃をかけてこないのであろう。

 

 俺は、メルティの目を見た。この勇敢で気高く、国を憂う少女に隷属して、俺はどうなるのだろうか。

 「ふっ…。」

俺は息を拭き出して、半ば笑った。己をだ。

 あまり長い付き合いとは言えないが、メルティの内面は、十分に分かっているつもりだ。この少女になら、俺自身を預けてもいいかもしれない。

 

 「オーケー。降参だ。」

俺は、両手を上げた。場の空気が緩んだ。

 「奴隷になるのを承諾するっていうこと?」

メルティが言った。

 「そうだ。」

俺は答えた。

 「ここでお前たちをどうにかするより、おとなしく、奴隷になった方がマシだろう。おまえが、そうひどいことをするとも、思えないしな。」

 

 「そうとも言えないわよ。」

メルティは言う。

 「私が貴方に課すのは、死に至る呪いよ。」

メルティは、俺を見つめて、続ける。

 「あなたが行方をくらましたり、世の為にならない事をしたりしたら、私は呪いを発動させるわ、王女として。」

 「そいつは怖いな。」

俺は、呟いた。

 

 「念を押すわ。本当に、私の奴隷になって、いいのね。」

 「ああ。」

俺は答えたが、正直言って、選択肢はない。メルティの提案を蹴って、ここでひと暴れして、逃げ出しても、どうにもならないだろう。

 

 メルロマルク国の為に利用される存在になるなら、この奴隷の話は願い下げだ。だが、メルティ個人なら、信用出来る。理不尽に呪いを利用される事はないだろう。

 

 「では、儀式を始めるわよ。」

 俺の意思を確認すると、メルティは言った。

 「悪いけど、上半身、裸になって。」

俺は、言われたままに服を脱ぐ。

 

 「随分と、瘦せたわね。」

俺の半裸を見て、メルティが感嘆する。

 「フィトリアに、腹をえぐられてから、体が軽いんだ。」

俺は答えた。

 あれは、強制的な腹の脂肪の切除施術だったと、今になると言える。一気に体型が変わった。とは言え、もちろん人に勧められるものではない。

 

 神官が、盆に載せた儀式用具を持ってくる。

 メルティが、ナイフで指を切り、その血をインクに垂らす。神官が、筆をインクに浸し、そのまま俺の胸にインクを塗りたくった。

 ジュッと染み込む様な音がして、俺の胸に焼けつくような痛みが走った。これが、人に隷属する感覚か。ラフタリアも、このような体験をしたわけなのか。

 

 俺は自分の胸を見た。以前と何も変わらなかった。

 メルティが言う。

 「これは、高度な奴隷紋で、普段は見えないわ。呪いを受けた時だけ、浮き出てくるの。お姉さまが、裁判の時に刻まれたものと同じよ。」

ビッチとお揃いとは、あまりいい気分はしないが、これなら、尚文達に余計に気を使わせることはなさそうだ。

 そう、これは、メルティと俺との契約だ。他の者に言うつもりはない。

 

 「ところでご主人様、ご主人様を、これからなんとお呼びすれば良いでしょうか?」

俺は、メルティを半ばからかって、言った。

 「い、いきなり何よ、メルティでいいわよ。」

メルティは戸惑って答える。俺は続けた。

 「それでは、そのように致します。メルティお嬢様。」

 「だから、その言い方は、止めなさい。呪いを掛けるわよ!」

メルティは、ようやくからかわれているのに気付いたようだ。

 「分かった、メルティ。これでいいか。」

 「ええ。」

 

 俺は、メルティの青い瞳を見つめて言った。

 「メルティ、これから、俺を預けるぞ。」

 「分かったわ。」

メルティは答えた。

 

 こうして、俺は、メルティに隷属した。

 

 皆の所へ戻った時、メルティから何の用だったか聞かれたが、俺の魔法を研究出来ないか調べたと胡麻化した。だが、尚文には感づかれたかもしれない。

 




ネタバレ案件が終わったので、42話の、勝彦君が気絶している間の話を、以下に公開します。

第42.5話 瀕死

 盾のパーティが勝彦の許に駆け付けたのと、フィトリアがとどめを刺そうと突っ込んで来たのが、ほぼ同時だった。

 フィーロが両手を広げて、フィトリアを押しとどめる。
 「かっちゃんを殺しちゃ、ダメ!」

 尚文が、ウォールの切れた勝彦の身体を調べ、そのままヒールを掛ける。
 「勝彦、死ぬな!」
ラフタリアが勝彦の頭を膝枕して抱え、リファナが、血で汚れた口元を拭いた。
 「ツヴァイト・アクア・ヒール!」
メルティが、魔法を重ね掛けした。

 「待ちなさい!彼は転生者よ。多分波の尖兵。私たちの敵になる。今ここで殺すべきよ!」
フィトリアが叫ぶ。

 「昨夜もお前はそんな事を言ったな。でも関係ない。勝彦は、俺たちの仲間だ。仲間が瀕死なら、助けるのは当然だろう。」
尚文は言った。
 「それに、勝彦が俺たちに敵対することはない。こいつは確かに胡散臭いが、臆病で、優しい奴だ。お前も、こいつがお前をあまり傷付けない様に、手加減していたのは、分かっていただろう。」

 「それは、確かに…。」
それは、フィトリアも感じていた。眷属から聞いていた勝彦の必殺技である貫通魔法。それを食らっていたら、自分も無事では済まなかったであろう事を。

 「でも、転生者が危険なのは、本当。今は味方でも、将来、裏切られる可能性がある。それならば、本性を現さないうちに、始末した方がいい。」
フィトリアは重ねて言った。ラフタリアが反論する。
 「フィトリアさんは知らないんです。カツヒコ様が、どれだけ私たちの事を思ってくださっているのかを。本性って何なんです。確かに、カツヒコ様は、私たちに隠し事をしていました。でも、それも、最後には打ち明けてくださいました。私の小さい頃のお世話から、魔物との戦闘まで、カツヒコ様は、いつも私たちのために一生懸命でいたのです。」

 「そうね、私たちのパーティの欠かせない一員だわ。私の命の恩人でもあるし。」
リファナが言う。
 「かっちゃん、よく分からないところもあるけど、いい人だよー。」
とフィーロ。

 「俺たちを殺すんなら、殺せばいい。だが、その時も、こいつは一緒だ。」
尚文が言った。
 「盾の勇者の処遇は、フィーロとの勝負で、既に決まっている。」
とフィトリア。
 「いわば、執行猶予。四聖を殺す事も、しばらく様子を見る。これからの、盾の勇者の働き次第。」

 「じゃあ…。」
尚文が、いぶかしげに問う。
 「入江勝彦との勝負は、従者の試験にかこつけた、転生者の処刑のつもりだった。」
フィトリアは答える。

 じっと考え込んでいたメルティが、口を開く。
 「じゃあ、カツヒコが、私たちの敵にならなければいいんですよね。」
 「そうだけど、そんな事出来るの。」
フィトリアの問いに、メルティが、尚文の方を見て、言った。
 「ナオフミ、貴方、カツヒコを奴隷にしなさいよ。そうすれば、貴方に逆らえなくなるわ。」
 「何だって!嫌だぞ!」
尚文が答える。

 「ラフタリアさんやリファナさんだって奴隷なんだし、もう一人ぐらい増えたって、問題ないはずよ。」
メルティの言に、尚文が断固拒否する。
 「勝彦は、いわば友人だ。今更、奴隷になど、出来るか。」

 メルティは、少し考えて、言った。
 「じゃあ、カツヒコは、私の奴隷にするわ。ナオフミも、フィトリアさんも、これで文句はないでしょう。」
尚文が絶句する。ラフタリアやリファナは、微妙な表情をしている。フィーロはぽかんとしている。

 フィトリアは、半ばあきらめたように言った。
 「分かった。それで手を打つ。でも忠告はする。その転生者に、油断しないで。今は大丈夫でも、将来的に、覚醒する事がないとは言えない。早く奴隷紋で縛るのをお勧めする。」
 「なんか、引っかかる言い方だな。でも、分かってくれたなら、それでいい。」
尚文が言った。

 「カツヒコ様が、起きます。」
ラフタリアが、言った。
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