朝食後、皆で教会へ向かった。クズに妨害されて出来なかった、クラスアップをするためだ。
リファナはまだレベルが足りないので、俺とラフタリアとフィーロが対象だ。
教会へ着くと、何やら工事が行われていた。掲げられていた三勇教の紋章を、四聖教のそれへと挿げ替えるのだ。
教会の中へ入ると、シスターではなく兵士が案内に立った。シスターは、三勇教徒として捕縛されたらしい。
そのまま、龍刻の砂時計の所まで来ると、まず、素材として砂時計の砂をもらった。確か、盾に吸わせることにより、転送スキルが手に入るはずである。
その後、誰からクラスアップするかと言う話になり、フィーロが名乗りを上げた。彼女は上機嫌だ。
ん?何か、忘れている様な気がするぞ。
俺がそれを思い出したのは、フィーロが龍刻の砂時計に手をつき、クラスアップの儀式を終えようとした時だった。
フィーロの身体がまばゆく輝き、アホ毛が共鳴するようにさらに光った。それが収まると、フィーロはゆらりと立ち上がった。そうして、尚文の許へ駆け寄ると、抱き着いた。
「どうした、フィーロ。」
「フィーロね、自分のクラスアップ先、選べなかったの。勝手に決まっちゃった。毒を吐けるようになりたかったのに…。」
フィーロは悲しげに言って、尚文にしがみつく。
さすがに、毒を吐けるようになるのは、無理だろう。それに、彼女は普段から毒舌を吐いている。
俺は、今思い出したと言って、フィーロのアホ毛がクラスアップに干渉する可能性を話した。クラスアップの方向性を捨てる代わりに、アホ毛の加護で、ステータスが大幅にアップする事を。
「そういうことは、早く言え。」
尚文は、言い、フィーロのステータスを調べた。
「ステータスの値が、概ね倍になっているな。」
「それはすごいです。普通は、1.5倍ほどにしかなりませんから。」
兵士が驚いて言う。
「フィーロといると、クラスアップの方向を選べない代わりに、普通よりステータスが上がるというわけか。」
尚文は、ラフタリアに向き直る。
「どうする、ラフタリア。自分でクラスアップ先を選びたいなら、フィーロを一時的に追い出すが。」
「ナオフミ様、私は、クラスアップで、少しでも強くなりたいです。そのためなら、選択はいりません。」
ラフタリアは答えた。
「勝彦は、どうだ。」
尚文は俺に聞く。
「俺は、魔力特化が望ましいが、ステータスが倍以上に伸びる保証がない。俺も、フィーロの影響下でクラスアップをしようと思う。」
俺は答えた。
その後、ラフタリア、俺の順番で、クラスアップを行った。二人とも、フィーロと同じくステータスの値が倍ほどに向上した。俺としては、今までの倍の魔法が打てるという事だ。魔力切れの心配を、あまりしないで済む。
フィーロは残念そうだったが、俺とラフタリアは満足して、教会を後にした。
城に戻ると、夕食の前に、尚文が女王に呼ばれた。俺たちは、尚文不在のまま、晩餐会に出るらしい。と言っても、貴族たちとの会食ではなく、他の勇者のパーティーメンバーとの懇親会という事である。
俺たちと一緒に会に出てくれるというメルティの説明によると、尚文達勇者が女王の許で会議を行う時間を使って、従者同士の親睦を深めておこうという意図があるらしい。確かに、対教皇戦の様な共闘が、今後無いとは言い切れない。
「しかし、メルティ、それは、あまりうまくいかないかもしれないぞ。」
俺は言った。
「なあに、それは、貴方のアニメ知識とかいう奴なの?」
「まあ、そんなところだ。」
俺は答えた。
尤も、そんなものがなくとも、この親睦会はうまくいかなそうだという事は、なんとなく解る。
槍のパーティーとの関係性は最悪だし、他の勇者も、尚文の事を蔑んで見ている傾向が見て取れるので、従者もそうである可能性が高い。特に弓のパーティーは弓の勇者を崇拝していて、他は眼中にない可能性がある。大人しそうな剣のパーティーの動向は読めないが…。
「そんな事で心配しても、仕方ないわよ。それよりも、貴方も、他のパーティーメンバーと仲良くする努力をしてちょうだい。」
とメルティは言う。
そうは言っても、こちとら、元引きこもりだぞ。コミュニケーションスキルは、最弱と言える。
そんな事を思いつつも、俺たちは会場へ向かった。
テーブルに着くと、前菜が運ばれてくる。
「いただきまーす。」
フィーロが早速手を付ける。
会場の隅を見つめていたメルティが、
「ちょっと、ごめんなさい。」
と言って、席を立ってスタッフルームの方へ歩いて行った。
取り残された形の俺たちは、それぞれ料理を口にした。味は、悪くなかった。
酒が運ばれてきたので、俺は手酌でグラスに自分の分を注ぐと、ラフタリアとリファナにも勧めてみた。リファナは匂いを嗅いで断り、ラフタリアは、
「少し、いただきます。」
とのことだった。フィーロは、相変わらず酒には興味がなさそうだ。
メインの料理が終わって、デザートを待っていた頃、鎧を着た弓のパーティーの従者の一人が近づいて来た。確か、マの付く名前だったような気がするが。雰囲気から、かなり酔っているように思える。
そいつはラフタリアに近づくと、酒臭い息を吹きかけて、こう言った。
「薄汚い亜人がいると、酒がまずくなる。」
そうして、持っていた酒のボトルをテーブルに置くと、
「いいか、王女と仲がいいか知らんが、図に乗るな、盾の従者。」
そういいつつ、げっぷをした。ラフタリアは、無視を決め込んでいる。
「よく聞け、樹様さえいれば、他の勇者など必要ないのだ。」
鎧はラフタリアに顔を近づける。
「特に盾の勇者の恥っさらし、お前の腰抜け主に言っておけ、痛い目を見る目に、さっさと消え失せろ、とな。」
それを聞いて、ラフタリアの顔色が変わる。彼女は立ち上がった。
こいつはいかん、ラフタリアが切れかけている。自分の事なら我慢しても、尚文が馬鹿にされては、抑えが効かないのだろう。
彼女は立ち上がって、言った。
「痛い目を見るのは、どっちでしょうね。」
「なんだあ、やる気かぁ。」
鎧は腰の剣に手を掛ける。ラフタリアも剣の柄に手を掛ける。リファナが立ち上がった。
俺は言った。
「ちょっと、あんた。酒が過ぎる様だな。」
「何だぁ、ひょーろくだまの魔法使いがぁ。」
わめく鎧に、俺は小声で魔法を唱える。
「サイコアタックIV!」
鎧はそのまま昏倒した。派手に倒れる音がする。周りが一瞬しんとなった。
俺は、ラフタリアに鎧の酒を持ってついて来るように言った。そして、鎧を何とか持ち上げる。
「お、重い。」
そのままジャンプの魔法を発動させ、弓のパーティーのテーブルの傍へ降り立った。床に鎧を横たえる。
そして、小走りに駆けてきたラフタリアから鎧の酒を受け取り、テーブルに置いた。
「お宅の仲間は、どうやら、酒の飲み方が下手らしい。自重するよう言ってくれ。」
俺は言うと、踵を返そうとした。
「待て、マルドに何をした。」
魔法使いが言った。そうか、この鎧はマルドと言うのか。
「別に、そいつが勝手に酔いつぶれただけだ。いちゃもんを付けるのはやめろ。」
俺は返す。
「そっちがそう言うつもりなら…。」
魔法使いは詠唱を始める。
俺は魔法を唱えた。
「サイコアタックVI!」
途端にそいつは顔が緩み、へらへらと笑い出した。狂気状態への移行だ。
それが合図になった。弓使いが弓を引き絞り、放たれた矢を抜刀したラフタリアが払う。その矢が剣のパーティーのテーブルを直撃し、従者たちが激怒する。口論が口論を呼び、大広間はあっという間に乱闘の渦になってしまった。
俺はジャンプの魔法で取り敢えず上へ逃げ出した。
ラフタリアもリファナも、乱闘に巻き込まれてしまった。物陰でふぇふぇ騒いでいるおさげの子は、弓のパーティーのリーシアと言ったか。フィーロはちょこまかと動いて、乱闘を避け、テーブルの上の食べ物を食い漁っているようだ。
俺は、大広間の真ん中に着地した。既に周りは大乱闘になっている。俺はため息をついた。
「仕方ない、やるか。」
俺は魔法を唱えた。
「サイコストームVII!」
俺の周りのすべて、大広間中に精神魔法の奔流が吹き荒れた。一瞬の後、立っているのは盾のパーティーメンバーのみになった。ラフタリアもリファナも、精神ダメージは受けたが、状態異常のレジストには成功している。
「かっちゃん、ひどーい。」
巻き添えになったフィーロが怒って抗議してくる。辺りは昏倒している者と、狂気状態へ移行し、意味なく笑い続ける者達で一杯だ。
俺は、床に倒れている給仕達に優先的にマインドアシストを掛けた。その後の介抱を、ラフタリアとリファナに任せ、騒ぎ続ける狂気にかられた者達を、マインドアシストで正気に戻した。昏倒している奴らは知らん。じきに気づくだろう。
懇親会は予想通り滅茶苦茶になった。
戻って来たメルティに、
「怪我人が出なかったのは良かったけれども、皆まとめてのしてしまうっていうのは、他にやり方がなかったのかしら。」
と半ば嫌味を言われてしまった。
メルティが中座した理由は、ビッチが俺たちの食事に一服盛ろうとしたところを目撃し、女王に報告していたからだそうだ。
さて、この体たらくを、尚文に、どう言い訳しよう。
「まあ、こっちも似たようなものだった。」
戻って来た尚文は、こちらの顛末を聞き、笑ってそう言った。
勇者会議は、武器の強化法の違いから、お互いを嘘つきと罵り、しまいには、みんな怒って出て行ってしまったそうだ。もちろん、どれも正解だという尚文の発言は、顧みられなかった。
「すみません、私があの鎧の挑発にならなければ良かったんですが。」
とラフタリア。
「いいや、あれを処理したのは俺だ。お前は悪くない。」
俺が言った。
「鎧を返した時の、俺の言い方が悪かったんだろうな。反省している。」
俺のコミュニケーション能力の低さが、あの乱闘を招いたんだろう。
その後、尚文から、明日からカルミラ島という所へ行くことが告げられた。なんでも、活性化と言う現象が起こっていて、魔物のを倒して得られる経験値が増大しているらしい。格好の、レベリングスポットと言うわけである。
もちろん、他の三勇者も勇んで出かけるらしい。
今夜は、フィーロはメルティの部屋で、一緒に寝るという事だ。仲の良い事だ。おかげで、俺は自分のベッドでゆっくりと休む事が出来る。女性陣もそれぞれのベッドで就寝し、穏やかな一夜が過ぎた。