転生引きこもりは狸娘の夢を見る   作:マーカス・クラン

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第49話 クラスアップと懇親会

 朝食後、皆で教会へ向かった。クズに妨害されて出来なかった、クラスアップをするためだ。

 リファナはまだレベルが足りないので、俺とラフタリアとフィーロが対象だ。

 

 教会へ着くと、何やら工事が行われていた。掲げられていた三勇教の紋章を、四聖教のそれへと挿げ替えるのだ。

 

 教会の中へ入ると、シスターではなく兵士が案内に立った。シスターは、三勇教徒として捕縛されたらしい。

 

 そのまま、龍刻の砂時計の所まで来ると、まず、素材として砂時計の砂をもらった。確か、盾に吸わせることにより、転送スキルが手に入るはずである。

 

 その後、誰からクラスアップするかと言う話になり、フィーロが名乗りを上げた。彼女は上機嫌だ。

 ん?何か、忘れている様な気がするぞ。

 

 俺がそれを思い出したのは、フィーロが龍刻の砂時計に手をつき、クラスアップの儀式を終えようとした時だった。

 

 フィーロの身体がまばゆく輝き、アホ毛が共鳴するようにさらに光った。それが収まると、フィーロはゆらりと立ち上がった。そうして、尚文の許へ駆け寄ると、抱き着いた。

 

 「どうした、フィーロ。」

 「フィーロね、自分のクラスアップ先、選べなかったの。勝手に決まっちゃった。毒を吐けるようになりたかったのに…。」

フィーロは悲しげに言って、尚文にしがみつく。

 さすがに、毒を吐けるようになるのは、無理だろう。それに、彼女は普段から毒舌を吐いている。

 

 俺は、今思い出したと言って、フィーロのアホ毛がクラスアップに干渉する可能性を話した。クラスアップの方向性を捨てる代わりに、アホ毛の加護で、ステータスが大幅にアップする事を。

 

 「そういうことは、早く言え。」

尚文は、言い、フィーロのステータスを調べた。

 「ステータスの値が、概ね倍になっているな。」

 「それはすごいです。普通は、1.5倍ほどにしかなりませんから。」

兵士が驚いて言う。

 

 「フィーロといると、クラスアップの方向を選べない代わりに、普通よりステータスが上がるというわけか。」

尚文は、ラフタリアに向き直る。

 「どうする、ラフタリア。自分でクラスアップ先を選びたいなら、フィーロを一時的に追い出すが。」

 「ナオフミ様、私は、クラスアップで、少しでも強くなりたいです。そのためなら、選択はいりません。」

ラフタリアは答えた。

 

 「勝彦は、どうだ。」

尚文は俺に聞く。

 「俺は、魔力特化が望ましいが、ステータスが倍以上に伸びる保証がない。俺も、フィーロの影響下でクラスアップをしようと思う。」

俺は答えた。

 

 その後、ラフタリア、俺の順番で、クラスアップを行った。二人とも、フィーロと同じくステータスの値が倍ほどに向上した。俺としては、今までの倍の魔法が打てるという事だ。魔力切れの心配を、あまりしないで済む。

 

 フィーロは残念そうだったが、俺とラフタリアは満足して、教会を後にした。

 

 

 城に戻ると、夕食の前に、尚文が女王に呼ばれた。俺たちは、尚文不在のまま、晩餐会に出るらしい。と言っても、貴族たちとの会食ではなく、他の勇者のパーティーメンバーとの懇親会という事である。

 

 俺たちと一緒に会に出てくれるというメルティの説明によると、尚文達勇者が女王の許で会議を行う時間を使って、従者同士の親睦を深めておこうという意図があるらしい。確かに、対教皇戦の様な共闘が、今後無いとは言い切れない。

 

 「しかし、メルティ、それは、あまりうまくいかないかもしれないぞ。」

俺は言った。

 「なあに、それは、貴方のアニメ知識とかいう奴なの?」

 「まあ、そんなところだ。」

俺は答えた。

 

 尤も、そんなものがなくとも、この親睦会はうまくいかなそうだという事は、なんとなく解る。

 槍のパーティーとの関係性は最悪だし、他の勇者も、尚文の事を蔑んで見ている傾向が見て取れるので、従者もそうである可能性が高い。特に弓のパーティーは弓の勇者を崇拝していて、他は眼中にない可能性がある。大人しそうな剣のパーティーの動向は読めないが…。

 

 「そんな事で心配しても、仕方ないわよ。それよりも、貴方も、他のパーティーメンバーと仲良くする努力をしてちょうだい。」

とメルティは言う。

 そうは言っても、こちとら、元引きこもりだぞ。コミュニケーションスキルは、最弱と言える。

 

 そんな事を思いつつも、俺たちは会場へ向かった。

 テーブルに着くと、前菜が運ばれてくる。

 「いただきまーす。」

フィーロが早速手を付ける。

 

 会場の隅を見つめていたメルティが、

 「ちょっと、ごめんなさい。」

と言って、席を立ってスタッフルームの方へ歩いて行った。

 

 取り残された形の俺たちは、それぞれ料理を口にした。味は、悪くなかった。

 酒が運ばれてきたので、俺は手酌でグラスに自分の分を注ぐと、ラフタリアとリファナにも勧めてみた。リファナは匂いを嗅いで断り、ラフタリアは、

 「少し、いただきます。」

とのことだった。フィーロは、相変わらず酒には興味がなさそうだ。

 

 メインの料理が終わって、デザートを待っていた頃、鎧を着た弓のパーティーの従者の一人が近づいて来た。確か、マの付く名前だったような気がするが。雰囲気から、かなり酔っているように思える。

 

 そいつはラフタリアに近づくと、酒臭い息を吹きかけて、こう言った。

 「薄汚い亜人がいると、酒がまずくなる。」

そうして、持っていた酒のボトルをテーブルに置くと、

 「いいか、王女と仲がいいか知らんが、図に乗るな、盾の従者。」

そういいつつ、げっぷをした。ラフタリアは、無視を決め込んでいる。

 

 「よく聞け、樹様さえいれば、他の勇者など必要ないのだ。」

鎧はラフタリアに顔を近づける。

 「特に盾の勇者の恥っさらし、お前の腰抜け主に言っておけ、痛い目を見る目に、さっさと消え失せろ、とな。」

それを聞いて、ラフタリアの顔色が変わる。彼女は立ち上がった。

 こいつはいかん、ラフタリアが切れかけている。自分の事なら我慢しても、尚文が馬鹿にされては、抑えが効かないのだろう。

 彼女は立ち上がって、言った。

 「痛い目を見るのは、どっちでしょうね。」

 

 「なんだあ、やる気かぁ。」

鎧は腰の剣に手を掛ける。ラフタリアも剣の柄に手を掛ける。リファナが立ち上がった。

 俺は言った。

 「ちょっと、あんた。酒が過ぎる様だな。」

 「何だぁ、ひょーろくだまの魔法使いがぁ。」

わめく鎧に、俺は小声で魔法を唱える。

 「サイコアタックIV!」

鎧はそのまま昏倒した。派手に倒れる音がする。周りが一瞬しんとなった。

 

 俺は、ラフタリアに鎧の酒を持ってついて来るように言った。そして、鎧を何とか持ち上げる。

 「お、重い。」

そのままジャンプの魔法を発動させ、弓のパーティーのテーブルの傍へ降り立った。床に鎧を横たえる。

 そして、小走りに駆けてきたラフタリアから鎧の酒を受け取り、テーブルに置いた。

 「お宅の仲間は、どうやら、酒の飲み方が下手らしい。自重するよう言ってくれ。」

俺は言うと、踵を返そうとした。

 「待て、マルドに何をした。」

魔法使いが言った。そうか、この鎧はマルドと言うのか。

 「別に、そいつが勝手に酔いつぶれただけだ。いちゃもんを付けるのはやめろ。」

俺は返す。

 「そっちがそう言うつもりなら…。」

魔法使いは詠唱を始める。

 俺は魔法を唱えた。

 「サイコアタックVI!」

途端にそいつは顔が緩み、へらへらと笑い出した。狂気状態への移行だ。

 

 それが合図になった。弓使いが弓を引き絞り、放たれた矢を抜刀したラフタリアが払う。その矢が剣のパーティーのテーブルを直撃し、従者たちが激怒する。口論が口論を呼び、大広間はあっという間に乱闘の渦になってしまった。

 俺はジャンプの魔法で取り敢えず上へ逃げ出した。

 

 ラフタリアもリファナも、乱闘に巻き込まれてしまった。物陰でふぇふぇ騒いでいるおさげの子は、弓のパーティーのリーシアと言ったか。フィーロはちょこまかと動いて、乱闘を避け、テーブルの上の食べ物を食い漁っているようだ。

 

 俺は、大広間の真ん中に着地した。既に周りは大乱闘になっている。俺はため息をついた。

 「仕方ない、やるか。」

俺は魔法を唱えた。

 「サイコストームVII!」

俺の周りのすべて、大広間中に精神魔法の奔流が吹き荒れた。一瞬の後、立っているのは盾のパーティーメンバーのみになった。ラフタリアもリファナも、精神ダメージは受けたが、状態異常のレジストには成功している。

 

 「かっちゃん、ひどーい。」

巻き添えになったフィーロが怒って抗議してくる。辺りは昏倒している者と、狂気状態へ移行し、意味なく笑い続ける者達で一杯だ。

 俺は、床に倒れている給仕達に優先的にマインドアシストを掛けた。その後の介抱を、ラフタリアとリファナに任せ、騒ぎ続ける狂気にかられた者達を、マインドアシストで正気に戻した。昏倒している奴らは知らん。じきに気づくだろう。

 

 懇親会は予想通り滅茶苦茶になった。

 戻って来たメルティに、

 「怪我人が出なかったのは良かったけれども、皆まとめてのしてしまうっていうのは、他にやり方がなかったのかしら。」

と半ば嫌味を言われてしまった。

 

 メルティが中座した理由は、ビッチが俺たちの食事に一服盛ろうとしたところを目撃し、女王に報告していたからだそうだ。

 さて、この体たらくを、尚文に、どう言い訳しよう。

 

 「まあ、こっちも似たようなものだった。」

 戻って来た尚文は、こちらの顛末を聞き、笑ってそう言った。

 勇者会議は、武器の強化法の違いから、お互いを嘘つきと罵り、しまいには、みんな怒って出て行ってしまったそうだ。もちろん、どれも正解だという尚文の発言は、顧みられなかった。

 

 「すみません、私があの鎧の挑発にならなければ良かったんですが。」

とラフタリア。

 「いいや、あれを処理したのは俺だ。お前は悪くない。」

俺が言った。

 「鎧を返した時の、俺の言い方が悪かったんだろうな。反省している。」

俺のコミュニケーション能力の低さが、あの乱闘を招いたんだろう。

 

 その後、尚文から、明日からカルミラ島という所へ行くことが告げられた。なんでも、活性化と言う現象が起こっていて、魔物のを倒して得られる経験値が増大しているらしい。格好の、レベリングスポットと言うわけである。

 もちろん、他の三勇者も勇んで出かけるらしい。

 

 今夜は、フィーロはメルティの部屋で、一緒に寝るという事だ。仲の良い事だ。おかげで、俺は自分のベッドでゆっくりと休む事が出来る。女性陣もそれぞれのベッドで就寝し、穏やかな一夜が過ぎた。

 

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