転生引きこもりは狸娘の夢を見る   作:マーカス・クラン

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年末は、風邪を引いたり、メインPCが壊れたりと、散々でした。おかげで、モチベーションがダダ下がりです。
年始は、そう悪くはなかったので、今年も何とか頑張りたいと思います。



第50話 カルミラ島への出発

 翌日。

 尚文が、カルミラ島へ行く前に、ライヒノットの所へ寄る事を提案して来た。

 確かに、キールを始めとする救出した奴隷たちを預けたままなので、会って来るのは賛成である。

 ただし、時間が問題だ。フィーロの速度なら、午前中にライヒノットの領地までを往復することも可能であるが、カルミラ島行きの船が17時出航なのを考えると、やや心もとない。

 

 そんなことを俺が主張すると、尚文は、カルミラ島は逃げやしないのだから、間に合わなければ港町に一泊して、翌日島に渡ればいいと言った。

 それを聞いて、フィーロが奮起した。今日中に目的地まで行くと、張り切っている。リユート村に置いて来ていた馬車を、女王が回収してくれたというのを聞いていたのも、彼女が発奮した理由だろう。

 

 早めの朝食を済ませると、装備を整えるために、街へ買い物に向かった。軍資金は、たっぷりある。

 まずは、エルハルトの店で、尚文とラフタリアの装備を整える。尚文は、少々くたびれた感のある蛮族の鎧を修理に出し、代わりに、騎士然とした最上級の鎧を購入した。尚文自身は満足げだが、女性陣は微妙な視線だ。やっぱり、ワイルド盗賊然とした尚文が好みと言う事か。

 ラフタリアも、最上級の剣と鎧を新調する。この前のウェポンコピーの一件もあり、金に糸目は付けない。おかげで、エルハルトもほくほく顔だ。

 

 次に、魔物商の所で、フィーロとリファナの爪を新調する。リファナは思うところがあるのか、大小二つの爪を購入した。フィーロは相変わらず魔物商が苦手なようだったが、新しい爪には興味津々だった。

 

 後、薬屋で必要な薬やポーション類を、魔法屋で、俺の新しいローブなどを購入する。スクロールがあったので、ライヒノットへのお土産に、適当なのを何本か購入する。貴重品なのか、結構高価だ。話を聞くと、適性のあるものしか使えないらしいのだが。

 

 それからはフィーロの出番だ。

 「いっくよー!」

気合と共に、彼女の俊足が発揮される。馬車の揺れも甚だしいのだが、それは、俺たちが我慢すれば良い話である。幸いなことに、馬車酔いへの耐性は、ほぼ出来ている。

 

 ところで、俺には一つの懸念があった。これから出会うだろう、ラルクとテリスのことだ。

 彼らのことで、現在思い出せるのは次の4つ。彼らは、異世界の勇者であると言う事。多分、グラスの仲間だろう。尚文達勇者を、殺そうとしている事。矛盾しているようだが、彼らは本質的な敵ではないと言う事。このまま順当に港について乗船すると、彼らと同室になると言う事。

 3番目については、理由は思い出せないのだが、たぶん、波の黒幕にそそのかされているとかそういうのではないかと推測する。

 そもそも、彼らのことを、昨日思い出せなかったのはどういう事だろう。俺の原作知識と言うやつは、一体どうなってしまったのか。

 

 今日思い出せたのは良いのだが、前述したとおり、出発準備でバタバタしていたので、尚文達に話すきっかけを失くしてしまった。

 更に、特に尚文には話しずらい案件でもある。

 本来敵でなくなるはずの彼らと交流を持つのは好ましいはずであるが、疑り深い尚文が、自分の命を狙う相手と接触を持ちたがるとは思えない。俺の原作知識がこうも曖昧では、尚文を説得する材料にはならないだろう。

 内緒にして、なし崩し的に彼らと仲良くなってしまうのが良策とも思えるが、また秘密を抱えてしまうのが、俺自身の罪悪感を刺激して、つらい。

 尤も、今の所、話をする余裕はないのであるが。

 休憩の際も、フィーロ以外はほぼグロッキーで、俺自身も含め、話をする体力を見出せないという感じである。

 

 ともかく、フィーロの頑張りで、ライヒノットの領地にはかなり早く着いた。

 突然の来訪にも関わらず、ライヒノットは歓迎してくれた。と同時に、俺たちの消耗にも驚き、早速お茶の用意をしてくれた。

 俺たちは、御茶菓子をつまんだりして体力回復に努めながら、ライヒノットと歓談したが、給仕を務めたのがイドルの所から助け出した二人の亜人の子だった。メイドとして、教育をしながら面倒を見ているらしい。

 そこへ、キールがやって来て、話に加わる。この屋敷で、武芸の鍛錬をしているらしい。久しぶりの再会に、ラフタリアやリファナも楽しそうだ。

 

 亜人の子たちを世話してもらっているお礼として、いくばくかの金をライヒノットに渡そうとしたら、丁重に断られた。自分も、好きで世話しているのだと。

 また、イドルを始めとして、三勇教と関与のあった近隣の貴族が取り潰され、その領地がライヒノットに任された為、金銭的には余裕が出来たのだという。

 それでも、お土産のスクロールは喜んでもらえて、何よりだった。やはり、先祖伝来の貴重品だったらしい。ストックが補充できて、良かったとのことだ。

 

 これから、カルミラ島へ行き、レベルアップを図ると話したら、キールがついて行くと言い張った。はっきり言って、レベル10にも満たない彼では、足手まといである。

 説得しても納得しなかったので、リファナが手合わせをして、実力差を解らせた。まさに瞬殺だったので、キールがずいぶんと落ち込んでいた。

 

 「今度会う時までには、今よりも強くなって、絶対にーちゃん達について行くからな!」

そんなキールの言葉に送られて、俺たちはライヒノットの屋敷を後にした。

 

 それからは、飛ぶような速度のフィーロの馬車に揺られて、城下街へ向かう。

 昼食を無理やり口に流し込むような昼休憩を挟んで、まだ太陽が傾かない内に、城下街へ戻った。

 どうやら、今日中にカルミラ島行きの船に乗れる目途が立った。

 すると、ラフタリアが尚文に言った。

 「ナオフミ様、寄りたい所があるのですが…。」

訊くと、今は廃墟になってしまった故郷のルロロナ村に寄って行きたいと言う。

 そう大きな回り道でもないので、尚文は承諾した。何せ、今日はフィーロが絶好調だ。時間的余裕さえ、生まれて来ている。

 

  そうして、フィーロ以外はぐったりと休む休憩を何度か挟んで、ルロロナ村跡に着いた。

 はっきり言って、廃墟の廃村である。朽ちかけて崩れた家々が並んでいる。教会と思しき建物も、半分崩れている。最初の波で魔物たちに襲われた後、奴隷狩りに遭ったとラフタリアたちには聞いている。聞いた話以上の悲惨さである。尚文も、表情が険しくなっている。

 

 ラフタリアとリファナは、咲いていた花で花輪を作ると、崖の方へ向かった。そこには、墓標のように石が積んであった。ラフタリアの両親が亡くなった場所だ。

 石のたもとに、彼女らは花輪を供えた。そして、祈る。

 リファナの両親は、亡くなった場所が分からないらしい。だから、ラフタリアの両親と一緒に弔うのだと言う。

 

 フィーロが、散歩してくると言い残して、駆け出していく。あまり遠くへ行くなよと言う尚文の声を背に、彼女は朽ちた建物の陰に消えた。

 俺たちは、暫く、祈るラフタリアたちの後姿を遠くに眺めていたが、やがて、どちらともなく村の廃墟の中を歩き出した。

 

 俺は、尚文に話すのは今だと思った。

 「あのな、尚文。」

俺は話しかけた。

 「何だ、勝彦。」

 

 その時、俺たちに話かける声が聞こえた。

 「おーい。もしかして、この村の奴か。」

声を掛けて来たのは、体格の良い、尚文よりやや年上に見える若者だ。ラルクだ。間が悪い。俺は答える。

 「いいや、俺たちは、ちょっと立ち寄っただけだ。」

 「そうか、俺たちもだ。」

後ろの方に、若い女が見える。テリスだ。

 

 「それにしても、ひどいもんだな。どこを見ても、瓦礫の山だ。」

ラルクは辺りを見回す。そうして、俺たちを見る。

 「坊主たちの所も、大変だっただろう。」

 尚文が、ちょっとむっとした顔をする。

 「坊主って、俺はこれでも二十歳なんだが。」

ラルクは少しバツが悪そうに、爽やかに笑う。

 「いやあ、すまん。おれより年下っぽく見える奴には、つい、な。まあ、気にすんな。」

テリスがラルクに近づいて、言う。

 「ラルク、そろそろ行くわよ。」

 「ああ、じゃあな。」

ラルクとテリスは、こちらに手を振って、去っていった。

 

 「ごっしゅじんさまー」

いつの間にかフィーロが現れて、尚文に抱き付く。

 「ところで、勝彦、何か話があるのか?」

俺は答える。

 「いいや、なんでもない。」

俺は、話すタイミングを失ってしまった。

 「それじゃあ、そろそろ港町へ行くか。」

そのまま、崖の方へ向かうと、ラフタリアとリファナが歩いて来た。

 「もう、いいのか。」

 「ええ、お父さんとお母さんに、行って来ますが言えましたから。」

ラフタリアが答える。リファナも満足した顔をしている。

 

 それから、フィーロの曳く馬車に揺られて、港町まで一気に駆け抜けた。

 

 港町でひと悶着あった。宿屋に馬車を預けるのに、フィーロが反対したのだ。と言っても、狭いと思われるカルミラ島では、馬車は邪魔であろう。そもそも、馬車が通れる道があるのかも怪しいものだ。更に、船に馬車を積み込むのも手間である。

 そんなことをフィーロに説明して説得すると、終いには、彼女は不満げだったが納得してくれた。

 荷物は皆で分担して持ち、船へと向かう。

 

 船着き場には、出航を待つ客がちらほら居て、その中には、3勇者のパーティーも居た。出航時間は決まっているのに、早々と駆け付け、結果として待ちぼうけを食った形になったらしい。

 

 俺たちは、乗船手続きをした。その際、あまり面白くない事実を告げられた。俺たちのために用意されていた部屋が、他の勇者パーティーに占拠されてしまい、用意出来るのが、船底の大部屋だけだと言う事である。しかも、相部屋だ。待ちぼうけを食った八つ当たりの犠牲になったと言う事だろうか。

 

 尚文は、ため息をついて、

 「あいつらにも困ったもんだ。」

と言ったが、相部屋を受け入れた。実質、部屋が無いならしょうがない。

 

 案内された部屋には、先客がいた。案の定、ルロロナ村で会った、ラルクとテリスだ。

 「やあ、坊主、また会ったな。」

ラルクが陽気に声を掛けてくる。尚文は渋い顔をした。坊主扱いには、ペースを乱されるのだろう。

 

 「俺の名は、ラルクベルク。ラルクって呼んでくれ。そして、こっちがテリス。」

ラルク達が自己紹介をする。

 「テリス・アレキサンドライトです。どうか、よろしく。」

自己紹介するテリスに、ラフタリアが怪訝な顔をする。

 

 「あの、そちらの方は、異国からいらっしゃったのですか?言葉が解らなかったもので。」

確かに、テリスの言葉は、メルロマルクの公用語ではない。尚文は、盾の力で翻訳されているだろうし、俺は、異世界の言語理解を神様から与えられているから意味は解るが。

 

 はっとしたテリスが、ラルクの持つアクセサリー-鎌の様に見える-から何かを取り出すしぐさをすると、それを自分の喉に持って行った。

 「失礼しました、これで解りますか?」

 「はい。」

ラフタリアが嬉しそうに答える。

 

 「改めまして、テリス・アレキサンドライトです。」

 「ラフタリアと申します。」

ラフタリアが頭を下げる。

 「リファナです。」

 「フィーロはね、フィーロって言うんだよ。」

フィーロが茶目っ気たっぷりに挨拶をする。

 「入江勝彦だ。勝彦が、名前。」

最後に尚文が自己紹介する。

 「尚文だ。岩谷尚文。」

尚文が言うと、ラルクとテリスは顔を見合わせる。その後、はじけるように笑った。ラルクが言う。

 「おいおい、偽名を名乗るなら、盾の勇者は止めといたほうがいいぞ。」

 

 「俺が、その盾の勇者なんだが。」

尚文がしかめっ面で言う。

 「ぼ、坊主が盾の勇者。」

笑いながらラルクが言う。

 「笑いすぎよ、ラルク。」

テリスがたしなめるように言う。

 「でも、別の偽名を使った方がいいと、私も思うわ。」

ラルクが続ける。

 「いいか、盾の勇者ってのは、とんでもない極悪人で、詐欺、恐喝、誘拐、さらには権力者に取り入って、気に入らない奴を処刑までする、悪魔のような奴なんだ。」

 

 「確かに、そんなに間違っていないな。」

尚文が達観したように言う。

 「ナオフミ様…。」

ラフタリアが半ば呆れて言う。

 

 「会ったばかりでも分かるぜ。 坊主はそんな外道とは全然違うってな。」

ラルクが言う。彼の尚文への評価に、女性陣は嬉しそうだ。

 「それにな、盾の従者には、デブで醜悪な魔法使いがいるんだ。坊主の従者はスリムだろう。」

俺のことだ。多分、グラスからの情報だろう。体形が変わっていて良かったと言うべきか。俺は心の中で苦笑した。

 

 「ま、名乗りたくないのなら、いいさ。よろしくな、盾の坊主。」

ラルクは尚文の手を取って、言う。

 

 「皆さんも、活性化したカルミラ島で、レベル上げを?」

テリスが訊いて来た。

 「ええ。」

ラフタリアが答える。

 「じゃあ、一緒に組まないか。人数が多い方が、心強いぞ。」

ラルクが言った。

 「お前たちと?」

思わぬ申し出に、尚文は思案顔だ。

 

 その時、船員がドアを叩き、尚文を呼びに来た。出航に当たって、四聖勇者を迎えてセレモニーでもするのだろう。

 

 尚文が船員に連れられて出て行った後、部屋を見渡す。ベッドが八つあるから八人部屋だ。少し大きめの窓が一つある。水面下なので、窓の外には魚が泳いでいる。フィーロは興味津々だ。ラルクとテリスは、その様子に笑って窓際のベッドを譲ってくれた。

 

 テリスとラフタリアとリファナは打ち解けた様子で談笑している。尚文のことを話しているみたいだ。フィーロは窓の外の魚に見とれている。

 ラルクが話しかけて来た。

 「あそこの廃墟で、何をしていたんだ。」

俺は答える。

 「ラフタリアとリファナの故郷だったんだ。それで、墓参りを。そっちこそ、何を?観光ってわけじゃないだろう。」

 「波の被害ってやつを見たくってな。ひどいもんだな。」

 「あの村は、波の後に、奴隷狩りに襲われたんだ。」

 「奴隷狩りだって?!」

 「この国で、亜人の地位は低いってことさ。それで、あの子達もね。」

俺はラフタリアとリファナに視線をやる。

 「捕まったのか。」

 「ああ。尚文が助け出した。」

 「そうか。見立て通り、盾の坊主はいい奴なんだな。」

ラルクは言う。

 

 そのうちに、船が動き出した。しばらくすると、気分が悪くなって来た。船酔いの兆候だ。俺は、甲板に出る事にした。すると、他の皆もついて来ると言う。

 皆で甲板に出ると、尚文が舷側で海原を見つめていた。見ると、その足元に三勇者が転がっている。早くも船酔いらしい。俺は、フィーロの馬車で鍛えられている分、酔いの回りが遅いっていう事か。

 ラルクは、へばっている三勇者を呆れて見ている。テリスは、何やら尚文と話している。

 

 不意に、大きな水音がした。見ると、魔物姿になったフィーロが泳いでいる。

 「おーい、フィーロ!船に置いて行かれるぞ!早く上がれ!」

俺は叫んだ。

 「フィーロそんなに遅くないもん!かっちゃんもどう?海の上、気持ちいーよ。」

フィーロが返事をする。俺は様子を見ていたラフタリアとリファナに声を掛けた。

 「おい、大丈夫なのか、フィーロは船についてこれるのか?」

リファナが答えた。

 「うーん。フィーロちゃん、泳ぎの筋はいいわよ。あれなら、船に遅れないと思うわ。」

 「大丈夫だと思います。」

とラフタリア。

 漁村出身の二人がそう言うのなら、問題無いだろう。生まれて初めての泳ぎだろうに。全く、規格外の鳥だ。

 

 「ていっ!」

フィーロの掛け声が聞こえた。次の瞬間、人間の背丈ほどもある魚が、甲板に打ち上げられた。更に、もう一匹。魚が、三勇者の側を跳ねる。

 「魚臭い…。」

吐き気を催したらしい錬君が、舷側へ立ち上がる。

 

 「ごしゅじんさまー。今日のご飯は、焼き魚だよー。」

フィーロが尚文に向かって、羽を振る。やはり、尚文が捌いて料理するのだろうか。

 

 そのうちに、天候が怪しくなってきた。船員に訊くと、これから時化って来ると言う。尚文が、フィーロに船に上がるように言う。終いには、雨もぱらついて来たので、皆船室に戻った。

 

 夕食-尚文が厨房を借りて捌いた魚付きである-の後、本格的に時化がやって来て、船は揺れに揺れた。まるでジェットコースターの様だ。

 フィーロはきゃあきゃあと騒いでいたが、俺はそんな元気はもう無く、ベッドに潜り込んで揺れにただただ耐えた。

 しばらくすると、意識が朦朧として来た。船が二、三回、ぐるりと回転した気がするが、たぶん気のせいだろう。その後、俺は、ひどい船酔いで、緩やかに気を失った。

 




書き忘れたことがあったので、加筆しました。
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