転生引きこもりは狸娘の夢を見る   作:マーカス・クラン

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第52話 ラフタリアといっしょ その2

 「カツヒコ様!」

ラフタリアが毛布を放り出し、駆け寄ってくる。

 なんだか全身がしびれている。しびれ薬でも矢じりに塗ってあったのか?痛みを感じないのは幸いであるが。

 

 その時、後ろの茂みから音がした。何者かが現れる。気配は4つだ。

 俺を抱き起そうとするラフタリアに叫ぶ。

 「ラフタリア、俺に構わず逃げろ!」

良かった、声は出る。取り敢えず魔法で対処出来るだろう。それより、剣も持たずに来た、半裸のラフタリアを逃がす方が先決だ。

 

 「逃がさねーよ、お前ら。」

気配の主の一人が言う。なんとなく、大男っぽい。

 「エルザとアンヌの仇だ。お前らには、報いを受けてもらう。」

 

 ラフタリアが踵を返し、剣を取りに向かう。尻尾が膨らんでいる。幻影魔法で隠れるのだろう。いい判断だ。

 それにしても、仇って、何だ?異世界(こちら)へ来て、何人か殺しているから、心当たりが無い訳ではないが、特定が出来ない。

 

 剣を取ったラフタリアが見えなくなる。

 同時に、俺は首根っこを掴まれて、持ち上げられた。

 「よう、久しぶりだな、盾の魔法使い。でも、抵抗は無駄だぜ。てめえに打ち込んだ矢には、麻痺と魔法無効化の呪いを仕込んである。」

魔法無効化の呪い!?そんなものあるのか?俺は焦った。しかし、何だかおかしい。

 

 男の腰に、小さな斧が幾つか見えた。そうか、思い出した。山中で三勇者から逃げ出した後、遭遇した冒険者だ。確か、キイチロウと言ったか。水蒸気爆発に巻き込んだはずだが、生きていたのか…。

 

 「だから、あの狸女が俺たちに犯されるのを、黙って見物してな。」

大男は下卑た笑いを浮かべた。俺の全身が熱くなる。そんなこと、させるか!

 俺は地面に放り出される。相変わらず、全身がしびれて、指一本動かせない。

 と、俺の首にナイフが突きつけられる。誰かが、俺に馬乗りになって、俺の頭を持ち上げている。ナイフを突きつけている手は、義手だ。

 「あん時は、世話になったわね。この腕の恨み、忘れていないわ。」

こいつは、あの時、俺が利き腕をぶった切ったスカウトか。

 

 大男が叫ぶ。

 「おい、狸女!出て来い。さもないと、こいつを殺すぞ!」

俺も叫ぶ。

 「ラフタリア、逃げろ!」

 「黙んな!」

敵スカウトが、俺の髪を掴んで頭を引っ張り、ナイフに力を籠める。しびれていて分からないが、たぶん、切れて、血が出ているだろう。

 

 その時、武器と武器が打ち合う金属音が聞こえた。ラフタリアが、大男に斬りかかったのだ。馬鹿!何故逃げない。あの大男には、お前では勝てない!

 

 斧と剣が打ち合う音が聞こえるが、ラフタリアの姿は見えない。幻影魔法を駆使して戦っているのだろう。そこへ、ごろつき風の男二人が加わる。ラフタリアは包囲された形だ。

 大男が渾身の一撃を振るった。ラフタリアの短い悲鳴と共に、彼女の剣が飛ばされる。魔法が途切れ、彼女が姿を現す。右手を押さえている。

 

 大男が言う。

 「ここから、ショータイムだ。様子を撮っておいて、盾の糞野郎に送ってやるぜ。ティーファ!」

 「あいよ。」

敵スカウトが答え、俺から立ち上がり、懐から魔法の水晶を取り出す。これから起こる事を、水晶に記録して、尚文に送るつもりだ。くそっ!

 「お前もしっかり見ておくんだぜ、魔法使い。」

敵スカウトが俺の頭の角度を調整し、ラフタリアの姿が良く見えるよう固定する。そして二、三歩歩いて立ち止まる。カメラアングルを考えたのだろう。

 

 半裸のラフタリアは、下卑た男3人に囲まれて、絶体絶命だ。

 俺は、頭に血が上っていた。同時に、ずっと、ある違和感も感じていた。魔力が制限されている感覚が無いのだ。ひょっとしたら…。

 

 大男が、ラフタリアの腕を掴んで宙吊りにする。俺は魔法を放ってみた。

 「ロックアタックXI!」

虚空から巨大な岩塊が現れ、大男の脳天に命中する。鐘を鳴らしたような音が辺りに響き、男がラフタリアを放した。そして、頭を押さえてふらふらと迷い出す。

 

 やっぱりだ。矢の呪いは、()()()()()()()()()()なのだ。理の違う俺の魔法には当てはまらない。俺は続けて魔法を放つ。

 「サイコアタックXI!」

 「サイコアタックXI!」

多分、助っ人と思われるごろつき二人が、相次いで狂気状態に陥った。

 

 「貴様!」

敵スカウトが振り向き、水晶を放り出してナイフを握る。可哀そうだが、禍根を残す訳にはいかないだろう…。

 「ロックレーザーVII!」

石柱が脆弱な彼女の体を貫いた。彼女は血を吐き、絶命する。

 

 「ラフタリア、大丈夫か!」

俺は叫んだ。

 「大丈夫です。カツヒコ様は?」

ラフタリアの問いに、俺は返答しなかった。大男が、声に反応して、歩き出したからだ。

 大男は、目や耳から血を噴き出している。それにしても、ロックアタックXIを食らって、生きているなんて頑丈すぎる。俺はとどめを刺す。

 「ファイアーレーザーXI!」 

 「ロックレーザーXI!」

巨大な炎柱と岩柱が大男の背中を相次いで貫き、大きな穴を開けた。大男は、どうと倒れる。

 

 「カツヒコ様!」

ラフタリアが走って来る。

 「ラフタリア、俺は麻痺の矢を食らって、動けない。手が痛いだろうが、あそこで狂気状態になっている男たちを、ロープで拘束するんだ。」

ラフタリアは、心配そうに、俺を見る。

 「カツヒコ様、矢がかなり深く刺さっています。大丈夫ですか。」

 「幸いと言うか、体がしびれて、痛みを感じない。多分、大丈夫だろう。男達の処理をしてから、矢を抜いてくれ。」

 「分かりました。」

 

 ラフタリアは再び走り、放り出してあったバックパックからロープを取り出すと、ケタケタと騒いでいる男達の方へ向かった。そうして、彼らを剣で殴り倒して失神させる。その後、彼女は男たちをロープで縛った。

 その間、俺は蜂に刺されて麻痺した芋虫のごとく、地面にただ転がっていた。

 

 そこへ、バックパックを持ったラフタリアが戻って来る。

 「カツヒコ様、これから矢を抜きます。矢じりが深く刺さっているので、傷口をナイフで広げます。痛いでしょうが、我慢して下さい。」

 「ちょっと待て、ラフタリア。ナイフを見せろ。」

俺は言った。ラフタリアは、ナイフを俺の顔の前にかざす。

 「そのまま持ってろ。今から消毒する。」

そういって、俺は魔法を発動させる。

 「ファイアーウォールIV!」

ナイフの刃の部分に炎が纏わりつく。ラフタリアは、一瞬驚いて腕をピクリと動かしたが、そのままナイフを保持した。やがて、鉄が焼ける匂いが漂って来る。俺は魔法を解除した。

 

 「いいぞ。そいつで傷口を切開してくれ。」

俺は言った。

 「行きますよ。」

とラフタリア。

 次の瞬間、ジュッと言う音と共に、鈍い痛みと、肉の焼ける臭いが伝わって来た。そうして、矢が引き抜かれる。

 途端に、ものすごい激痛が襲って来て、俺は悲鳴を上げた。痛みに七転八倒する。俺は泣き叫んだ。

 

 「大人しくして下さい!」

ラフタリアが、もがく俺を押さえ込む。細腕にしては、力がある。

 「今から、ヒール丸薬を傷口に入れ、包帯をします。」

ラフタリアは、俺を押さえながら、処置をする。俺は、激しい痛みにただただ泣いた。

 

 ラフタリアが、包帯を縛る。その後、俺をぎゅっと抱きしめた。

 「終わりましたよ。よく頑張りましたね。」

ラフタリアの柔らかい体の感触と、温かい体温に、心が落ち着いて行く。彼女の仄かな匂いに包まれて、俺は泣き止んだ。

 

 そのまま、一分程経ったろうか。ラフタリアは体を放した。

 「他の手当てもしましょうね。」

そう言って、俺の首の傷にヒール丸薬を擦り込み、包帯をした。同じように、左手の火傷も手当てする。

 

 しばらくして、俺は落ち着いたので、ラフタリアの右手を見てみる。手首が赤く腫れている。打撲か捻挫であろう。

 ラフタリアには、一本だけ持っていた、ヒーリングポーションを飲ませる。治癒魔法があれば、貴重品を使わずに済むのだが、回復役のいないパーティーの悲しさである。

 

 そのまま5分程すると、痛みが和らいで来た。ヒール丸薬が効いて来たのだろう。

 俺は木の枝に吊るしてある俺とラフタリアの服を乾かすべく、魔法を発動させた。

 熱源として、木の下にファイアーウォールを立て、その上に小さくウィンドストームを起こし、熱風を服に当てる。

 

 「なぜ逃げなかったんだ、ラフタリア。」

俺はひらひらと揺れる服を見ながら、訊いた。彼女の性格上、逃げなかったのは分かるが、判断としては間違っている。それは、正ておかなければならない。

 「魔法無効化の矢と言うのが聞こえました。無抵抗のカツヒコ様を置いて逃げる事は、出来ません。」

ラフタリアは、俺の目を見て言う。

 「しかし、どうして、魔法が使えたのです?」

 「俺の魔法は、特別製ってことさ。」

俺は彼女の問いに答えた。

 「だが、それが無くても、お前の判断は、今回は間違いだ。それは言っておかなければ、ならない。下手をしていたら、二人とも殺されていたところだ。お前がきちんと逃げていれば、犠牲は一人で済む。」

俺は、ラフタリアの目を見返して、諭すように、言った。

 

 「なぜ、そんなことを言うんです。」

ラフタリアが言う。

 「貴方は、私の大切な仲間です。そうして、幼い私を、ナオフミ様と共に育ててくれた、恩人です。そんな人を、見捨てられますか?」

俺を見上げるラフタリアの目は、少し潤んでいる。俺は答える。

 「それでも、今回は逃げるべきだった。でないと、俺が尚文に恨まれる。そうして…」

俺はラフタリアを見つめる。

 「何より、俺が嫌だ。お前を守れないと言うのはな。でも…。」

俺はラフタリアから目を逸らす。

 「助けに来てくれて、うれしかった。ありがとう。」

本音が出てしまった。これでは、説教にならない。

 「カツヒコ様…。」

 濡れたラフタリアの瞳が、淡く光った。

 

 「そろそろ服が乾く頃だ。お前も、いつまでも下着姿は、嫌だろう。」

俺は、魔法を解除しながら、言った。

 ラフタリアが、枝の上の服を外し、手早く着込む。俺のローブを投げてくれたので、上から羽織った。ラフタリアが、防具を付ける。

 

 それから俺たちは、敵パーティーの持ち物を物色した。

 大男の斧は、業物だろうが、重くて持てないので捨て置くことにした。

 ならず者たちの剣は、大したものではなかったので、これも破棄。

 敵スカウトは、小型のクロスボウを持っていた。結構な珍品である。こいつで、俺に矢を打ち込んだらしい。そうして、呪いの矢と思われるものが4つ残っていた。

 

 また、彼女の懐には、小型の望遠鏡と思われるものがあった。

 勘が働いたので、覗いてみる。すると、幾ばくか拡大された景色が映ったが、何だか、ところどころ光っている。ちなみに、ラフタリアを見てみると、後光が差したかのように、全身が光って見える。

 彼女に渡して俺を見てもらうと、俺がまばゆく光って見えると言う。

 思いついて、ラフタリアに幻影魔法で姿を消してもらい、見てみると、彼女の輪郭が輝いて見え、居場所が丸わかりだ。

 これで解った。この望遠鏡は、魔力を見ることの出来るものなのだ。奴ら、これを使い、俺たちの魔力を追跡して来たに違いない。

 

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